礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

歪められた日本を本来の姿に還元すべき時代が来た

2017-05-29 01:22:12 | コラムと名言

◎歪められた日本を本来の姿に還元すべき時代が来た

 林逸郎弁護士の「血涙以つて守るべきは陛下の赤子の命なり」という文章を紹介している。本日は、その三回目(最後)で、昨日、紹介した部分に続く部分を紹介する(二五ページの途中から二七ページの途中まで)。

  法を守るに非ずして法を生かせ
 昔三島から江戸に来てゐた孝行な息子があつた。親の急病の為め、急いで帰つて来る途中、箱根の関所にかゝつた。御承知の通り当時は手札と申しまして鑑札がなければ関所が通れない。此の孝行者は慌てた為に手札を忘れてしまつた。如何に親の死目〈シニメ〉に会ひたいからと関守〈セキモリ〉に嘆願しても頑として聴かない。仕方なく此の孝行者は、泣く泣く江戸に向かつて引返さうと致しました時、大いに怒つて之を呼付けた。不届者奴〈フトドキモノメ〉、汝は三島より参りし者にあらずや、と言つて之を三島へ落して〔逃がして〕しまつたのであります。之を私共は法を生したる〈ナシタル〉者にあらずして、法を生かしたる者なりと信ずるのであります。今日の事態は最早法律を守るとか何とか云ふ小さなことを考へてゐる時ではなく、法律を生かしますと同時に、日本全体をも生かさなければならぬ時であります。
  国民より一日早く立つた五十二名
 此の海軍の十名の青年将校は固より〈モトヨリ〉、或は佐郷屋留雄〈サゴヤ・トメオ〉君、或は血盟団の井上日召〈イノウエ・ニッショウ〉君、或は五、一五事件の民間側の諸君、神兵隊、是等の人達まで五拾二名の方が犠牲になつて居ります。而して之をば非常時に起つた事件だと云ふ人がある。是は私共と一寸〈チョット〉意見が違ふやうであります。非常などと云ふのは、政友会や民政党で来たとか来ないとか言つて議論して居りますが、是は何日の何時に来て、何日の何時に去ると云ふものではありませぬ。非常時などと云ふものは政治家が自分の政策に行詰つた時に、誤魔化しに使ふ言葉であつて、立派な日本人が使ふことばではない。是は実に卑怯未練な言葉であります。今日は非常時だといつて、又元の政党政治時代に帰りませぬ。政党、特権階級、財閥の為めに歪められて来ました日本が、日本本来の姿に還元すべき時代が来たのであります。今日までの日本と。今日以後の日本とはまるで違うのであつて、恰も〈アタカモ〉徳川幕府から天皇御親政の明治時代に変りました如く、政党政治に威圧されて来ました日本が、天皇御親政の日本の姿に帰ることであります。即ち五十二名の有志諸君が立たれましたのは、吾々より唯〈タダ〉一日早く立たれたのであります。

 箱根の関守は、手札を忘れた孝行者のために、法を枉げて関所を通過させた。実際にあった話かどうかは知らないが、一種の「美談」である。
 林逸郎は、なぜ、この「美談」を引いたのか。浜口雄幸首相を銃撃した佐郷屋留雄、血盟団の指導者・井上日召、五・一五事件の関係者ら五二名の行為は、法で裁くべきではない、と言おうとしているのである。林は、彼らの行為は、歪められた日本を、日本本来の姿に還元するためのものであったのであり、これは是認しなくてはならない、と言おうとしているのである。
 林は、文中で、彼ら五二名を「犠牲」として捉えている。彼らのテロル、彼らのクーデター未遂によって非業の死を遂げた被害者には目もくれずに、検挙された加害者のほうを「犠牲」として捉えている。弁護士とは思えないセンスだと言わざるを得ない。
 それにしても、あまりにも過激な発言である。
 念のために、国会図書館発行の『発禁図書目録 1945年以前』(一九八〇)で確認したところ、一九三三年(昭和八)九月二五日発行の林逸郎・菊地武夫の『血涙以つて守るべきは陛下の赤子の命なり 精神的更生と軍備充実』(日本講演会)は、同年一〇月一九日付で、発禁になっていた(安寧秩序妨害)。
 しかし、講演そのものは、同年九月二九日におこなわれたらしい。当時の雰囲気が垣間見える貴重な史料と言えるだろう(九月二九日におこなわれた講演の速記録が、九月二五日付で発行されているが、その事情は不明)。
「血涙以つて守るべきは陛下の赤子の命なり」という文章の紹介は、ここまでとし、明日は、いったん、話題を変える。ただし、林逸郎という人物については、近いうちに、再度、論じてみたいと思っている。

*このブログの人気記事 2017・5・29(9位にやや珍しいものが入っています)

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