礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

満洲の習慣調査を通じ民意を立法に反映させる

2018-02-06 01:36:21 | コラムと名言

◎満洲の習慣調査を通じ民意を立法に反映させる

 当ブログ、昨年一二月一三日、および一四日のコラムで、戦中の満洲国に、親族相続法を「口語化」しようとする動きがあったことを紹介した。
 その後、書棚を整理していたところ、前野茂著『満洲国司法建設回想記』(非売品、一九八五)という本が出てきた。著者は、満洲国司法部次長、満洲国文教部次長、東京簡易裁判所判事などを務めた法曹家である。
 久しぶりに開いてみると、たしかに親族相続法の口語化についても触れている。千種達夫〈チクサ・タツオ〉の名前も出てくる。というより、親属継承法に関わる記述は(ここでは、「親族相続法」でなく、「親属継承法」と表記されている)、千種達夫の「原稿」に依拠しているようであった。
 この千種の原稿は未見なので、のちに参照することにし、まず本日は、同書第九章「司法部次長時代」の第二節「司法記念日の設定と親属継承法」を紹介してみたい。

 (二)司法記念日の設定と親属継承法
 司法部次長に就任しても格別新しいことを考える必要もなく、前からの引き継ぎ事項を遂行するだけという時期がかなり長く続いた。そうこうしているうちに、一九四一年〔昭和一六〕七月一日を迎えることになった。この日は中央法衙が完成して五周年に当たるので、大々的な記念式典を同日同法衙で行い、皇帝の臨御を仰いで勅語をいただき司法の尊厳を天下に宣布した。そしてこの日を司法記念日と定め、毎年その日になると新聞・ラジオで司法の意義・制度を宣伝することにした。
 引き継ぎ事項の主なものは、親属継承法の立案と法院・検察庁の設置廃合、なかんずく変則的司法機関の改組問題であるが、それを述べる前に満洲国の国内事情を述べる必要があると思う。
【中略】
 そこで、いよいよ親属継承法問題について話を始めることにしよう。他の主要司法法規は全部法院組織法施行までに公布施行されたので、司法部では残された親属継承法立案参事官として東京地裁判事千種達夫君を一九三八年〔昭和一三〕九月招聘し、朱広文参事官とともにその起草を担任せしめ、立法顧問として東大教授穂積重遠〈ホヅミ・シゲトオ〉、東北大学教授中川善之助両氏に委嘱した。(以下は千種君の原稿に基づいて記述する――満蒙同胞援護会発行「満洲国史各論」司法編 四〇三~四〇六頁)
 一九三九年六月一日以来、立案のための委員会で立案の大綱と慣習調査の方針を諮り〈ハカリ〉、これに基づいて立法方針と立法の要綱作成にとりかかった。そこでまず慣習調査について述べることにする。親属継承法は民族の風俗習慣、倫理道徳、信仰とも密接な関係にあるので、その立法に当たっては、慣習を調査する必要がある。しかも満洲には各種の民族があるため、各民族の慣習の異同を明らかにするのでなければ、これらの民族に通ずる統一法典を制定することができるか否かわからなかったために始めたのである。それについて第一に調査項目の作成にとりかかった。
 調査項目は、日満系委員の完全な協力の下に調査しては改め、改めては調査をし、一九三九年三月から翌年十月まで七回にわたり調査項目を改めた。項目作成要領は次の通りである。
(イ)骨組みを旧律と大理院の判例におき、これが一般に行われているかどうか。
(ロ)男女平等の原則を打ちたてた革新的立法である民国〔中華民国〕の民法が施行されて十年余、これがいくらかでも社会に浸透しているか、古い習慣がすたれて、どのような新しい習慣が生まれつつあるか。
(ハ)他の比族からすれば弊風であると考えられるものも、その民族にとっては美徳であると考えられている点も多いので、その習慣のよって立つ社会的背景を明らかにし、改正についての国民の意見を徴する。
(ニ)満洲には議会が開設されていないので習慣調査を通じて、民意を立法に反映させる。
(ホ)調査の結果を強いて法律概念に入れたり、主観をまじえたりすることなく、調査の結果をありのままの姿で記述する。【以下、次回】

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