礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

家族の共同性と社会の共同性を媒介するもの

2017-04-18 04:28:15 | コラムと名言

◎家族の共同性と社会の共同性を媒介するもの

 昨日の続きである。
 片岡啓治は、『幻想における生』(イザラ書房、一九七〇)所収の「6 『共同幻想論』批判」において、吉本隆明のいう「幻想」の三つの位相は、相互の流動性と変容の力動をもたず、「レンガのように」定型化されていると批判した。さらに、「共同幻想」と「対幻想」の力動的関係は、「逆立」といったあいまいな比喩的表現で尽くされうるものではないとも述べた。
 では、その問題に対する、片岡自身の考え方は、どのようなものだったのか。以下、一九五~一九七ページを引用する。

 私の考えによれば、この問題は次のようにとかれねばならない。
 無節操な(〈性の衝動〉に由来する)性欲を獲得した人間は、同じく〈性の衝動〉に由来する〈欠乏〉に迫られなければ、原理的には己れの性対偶における対象以外の他者を必要としない。人間と人間のなまな関係すなわち男と女との対偶が、性器的体制により一人の男と一人の女の一対一対偶の排他的関係としてしかありえないからであり、もし快楽が非持統的でなくて無限であり、かつ〈欠乏〉の衝迫がなければ、その対偶は完全に自己完結的に自閉されたままで他者に開かれる必然性をもたない。それは事実的には、〈死〉である。しかし、現実には快楽は非持続的であって、その快楽を生むその同じ〈生の衝動〉が〈欠乏〉をもって、生命体としての人間にせまる。ために、性対偶は自閉的に完結されることはできず、そして〈労働〉にむかって開かれねばならない。すなわち、〈欠乏〉に迫られた〈労働〉の必要によってのみ、一なる性対偶と他なる性対偶とは〈関係〉のなかにはいる。一方では性器的体制による一対一対偶による排他的関係は、自然過程として人間と人間の基底的関係をうむとともに、他者をこの対偶から排除し非快楽的位置におくことによって価値の序列をうみ〈近親相姦〉の〈禁制〉化の基礎となる。この〈近親相姦〉の〈禁制〉は、〈家〉または〈家族〉の基礎となるとともに、それを媒介として〈幻想の共同性〉の基礎ともなることはたしかなのであるが、さて、現実的には一の〈家族〉と一の〈家族〉とは無媒介にあるいは〈幻想の関係〉のなかで〈関係〉にはいるわけではない。〈性対偶〉の観点からするかぎり、一の〈性対偶〉と一の〈性対偶〉は〈関係〉に入るべき必然性をもたず、相互排他的であり相互否定的である。にもかかわらず、現実的にこの〈性対偶〉と〈性対偶〉とを相互の〈関係〉のなかに入らしめるものがあるとすれば、〈労働〉をおいてはない。
 人間と人間との関係がもっとも具体的かつ基底的には、一人の男という具体的な個体と一人の女という具体的な個体の〈性の関係〉をおいてありえないとするなら、〈家族〉の共同性はいきなり〈社会〉の共同性へと、たとえば〈遠隔対称性〉によって〈幻想〉の関係のなかで接続されるものではなく、やはり当然、具体的な〈性対偶〉と〈性対偶〉の〈関係〉を媒介としてのみ、〈家族〉の共同性と〈社会〉の共同性は〈関係〉に入りうるはずである。
 すなわち、「幻想対の共同性」は「幻想性自体の内部」でのみ「破られ」うるものではなく、吉本氏が「……幻想領域を扱うときには、幻想領域を幻想領域の内部構造として扱う場合には、下部構造、経済的な範疇というものは大体しりぞけることができる」といっている言葉に反して、「幻想対の共同性が……〈対〉としての性格を破られ」るには、現実的には〈労働の関係〉を必ずや媒介としなければならず、それをへてのみ、「幻想対の共同性」は「社会の共同性」と〈関係〉のなかに入りえ、「家族集団の集落が社会的共同体をむすぶ」ということがありうる。
 こうして、各〈性対偶の幻想対〉が相互排他的であり相互否定的であるという〈関係〉が基底にあればこそ、そして〈性対偶〉の否定性として〈労働〉の原則が個々の〈性対偶〉を貫ぬく共同のエトスとして働き、そのエトスに添って〈共同幻想〉がむすばれるのであればこそ、〈家〉または〈家族〉の共同性と〈社会〉の共同性は対立しあうのであり、それは常に「人間存在の個体的具象性と共同的な抽象性との対立に還元される」というように一般性として位置づけることではすまないのである。【以下、次回】

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