礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

ムー大陸は我が神代ではミヨイ国と称した

2017-08-01 05:54:14 | コラムと名言

◎ムー大陸は我が神代ではミヨイ国と称した

 先日、古書展で、何気なく、『南洋諸島の古代文化』という本を手に取った。背表紙に、「ゼ・チャーチワード」とある。ジェイムス・チャーチワード(James Churchward)の「ムー大陸」論の抄訳であった。一九四二年(昭和一七)一〇月の初版で、岡倉書房発行、手に取ったのは、その再版(一九四三年二月)であった。
 戦中に、「ムー大陸」の本が出版されていること自体に驚いたわけだが、それ以上に驚いたのは、訳者の仲木貞一〈ナカギ・テイイチ〉による「緒言」の内容であった。チャーチワードの「ムー大陸」論が、「八紘一宇の精神」に従って、見事に再解釈されていたのである。とにかく、本日は、その緒言の全文を紹介してみよう。

  緖  言
 この書は、米国の陸軍大佐ゼームス・チャーチワードの“The Lost Continent of Mu” “The Children of Mu”(1931)の抄訳である。尚この他に同著者は、”The Sacred Symbols
of Mu”と云ふ書をも出してゐるが、共に皆今から約一萬二千年以前に太平洋中に陥没したムー大陸に関する五十年間に亘る硏究調査を発表したものである。
 現在、全世界の人類が、血みどろの戦争をしてゐる今日、かゝる太古に海中に没した陸地の事等をとやかく云つて、それが何の役に立つのか、と滑稽にすら思はれる人があるかも知れない。然し、今日我々の歴史に知られてゐない太古の文化を調べることは、やがてこれから打建てられやうとする新しい世界文化の建設に、何等かの新しい暗示と参考とを供することゝ確信するが故に、敢てこの仕事を為した訳である。
 先般東京営林局の講堂に於て、目下来朝中の独逸〈ドイツ〉の考古学者フォン・ワルデック博士は南米古代文化の講演中に於いて、このムー大陸と世界古代文化との関係に就いての重大意義を力説してゐた。
 即ち世界人類の起源がこのムー大陸にあるとするならば、世界の文化は、同じくこの大陸が発祥地だからである。而して、このムー大陸は太古に於て我が日本に属してゐた一大島国であつたと云ふ伝説を我等が持つことに於て、このムー大陸は、我々と深い関係を持つことゝなるのである。この大陸は一萬二千年の昔に陥没しても、その残骸である南洋諸島は、今度新たに大東亜共栄圏の傘下に属して、我日本帝国の指揮を仰ぐと云ふ意味に於て、その曽ての母体であつたムー大陸に関する研究は、益々我々に必要となつて来たのである。
 我国の伝説や記録にもある通り、太古の文化は、凡て〈スベテ〉機械的、物質的、弁証法的なものでなく、凡ては精神的な、物心両体を統合したる霊的のものであつた。所で、物質文明に行詰つた今日の世界は、如何なる状況を呈してゐるのか? 英米勢力の没落は、一面その事を正直に告白してゐるものである。
 然しながら、欧米の学者にも流石に具眼者はゐる。電子の破壊で世界的の名誉を博した或科学者は、物質の本源は霊であり、霊波の振動にありと覚つて、霊及び霊波に関する日本古来の研究をわざわざ日本人の所に聞きに来たと云ふことを、新帰朝の或学者から聞いた。この種の例話は、最近頻りに〈シキリニ〉聞かされる所である。日本に於ても亦最近心霊学に関する研究が鬱然として盛大になりつゝあることは、故なきことゝは云へぬだらう。
 アメリカに長く居住してゐた人が、アメリカ・インディアンその他の米国の原住民が、日本語を語り、日本の神代文字に類する文字を使用してゐることを報告してゐる。南洋の各島々に、日本の古代語の残つてゐるのに不審を抱く人も尠くないのである。――これを我国古来の神話伝説に徴するならば、此等の事柄は最も当然の事となつて来るのである。即ち、我〈ワガ〉神代に於て米国は、ヒナタエビロス、ヒウケエビロスと称し、ムー大陸はミヨイ国及びタミアライ国と称して、いづれも我が神々の統治下にあつた国々なのである。八紘一宇の大御心を持つて、其等の民草を愛撫なされた名残りが、今日に伝はつてゐると見てよからう。
 チャーチワードは、世界最初の人類が、世界最初の物心一如の文化を誇つてゐたそのムー帝国の最優秀なる種族のマヤ族の本流は、我が日本に伝はつてゐると述べてゐる。そして、このマヤ族の分流が、全世界に亘つて、今日の文明を築き上げる基を為したことを、長い年月をかけて調べ上げてゐるのである。それは、我国の伝説神話と丁度逆な行き方をしてゐるのであるが、これは、チャーチワードその人が、日本神代史に就いての研究が至らなかつた結果だと思つて、甚だ遺憾に思はれる次第である。
 明治二十年〔一八八七〕に、明治新政府の元老院議官海江田〔信義〕子爵の一行は、憲法取調べの為澳太利〈オーストリア〉の憲法学者スタイン博士に面接した時、彼はゲルマン民族に古来伝はつてゐるルネ文字〔ルーン文字〕なる物を示して、それが日本の古代文字に類似してゐる事を述べて、日本民族の太古に於ける欧羅巴〈ヨーロッパ〉との交流に就いて一言を為したことは、同子爵の帰朝報告書に明記してあることである。青森県八戸海岸及び十和田湖附近の石炭層火山灰の下から発掘される古代の器物に依つて、米国の銀シャツ党の領首で天蓋【カタルピス】説主唱者のウイリアム・ペレーは、更に新学説を築き上げつゝあると云ふ。支那大陸に皇軍の進駐に依つて、支那の土中からは、支那文字以前の不思議なる象形文字が骨片と共に幾多発掘されつゝある。マンモス其他前世紀動物の遺骨が、日本の各所から発掘されつゝある。又日本の地質は、世界最古の物であることを、地質学者に依つて報告されつゝある。
 而して、「日本書紀」中に、神武天皇が大和橿原〈カシワラ〉に於て御即位遊ばされんとする前に、天孫御降臨以來日本の国は一百七十九萬二千四百七十余歳の歴史をけみしてゐると仰せられた御言葉が、今更の如く我々の心に響くのである。肇国〈チョウコク〉の歴史は実に古い。世界最古の物である。一萬二千年前に海中に没入したムー帝国の歴史は、僅かに二十萬年位とチャーチワードは述べてゐるのに比べて、如何に我国の歴史は、悠久高遠なのであらうか! 而して、その歴史の中に流れ来つた惟神〈カムナガラ〉の精神、皇道中心の思想は、遂に大東亜建設の機運に迄我々を導き来つた。今や八紘一宇の精神をもつて全世界を指導すべき時に当つて、我々は物心一如の霊的生活をしてゐた我国の太古を一応振返つて見る必要があるのである。
 チヤーチワードの研究に対して、我国に伝はる伝説を、対照的に掲げる事の重要さを十分に知りながら、其を差控へねばならぬことは、遺憾此上無き〈コノウエナキ〉ことである。然し、ラフカディオ・ハーンが九州某旧家の神代記録を読むことに依つて、小泉八雲と改名し、出雲に帰化したと云ふことは、我々に何を暗示してゐるだらうか? 又独逸の学者が、我が神代文化を実地踏査せんとしてゐることは、何を物語るか? 神国日本の偉大なる太古の姿がクローズ・アップされた時、それは世界の驚きとなるであらう………
 原書借覧の便宜を与へられた、大政翼賛会調査部長藤澤親雄〈チカオ〉氏の御好意を、深く感謝する。   訳 者

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