住職のひとりごと

広島県福山市神辺町にある備後國分寺から配信する
住職のひとりごと
幅広く仏教について考える

人生とは恩返しである

2022年05月08日 12時56分36秒 | 仏教に関する様々なお話
人生とは恩返しである



知り合いのお寺さんが亡くなられた。九年前にここ國分寺の先代名誉住職が亡くなった時に葬儀で弔辞を読んでくださった方だ。本山で若きとき、ともに仕事をされた親しい関係で、祭壇に向かって「僧正さーん」と大きな声で呼びかけられて、語りかけるように話をされてから本山から送られた弔辞を読んでくださった。享年七十四とのことなので、当時は六十五歳くらいだったと思われる。実は私もそろそろその歳に近づきつつある・・・。

特段病気であったわけでもなかったそうで、夜中亡くなられるまで普通に過ごされていたという。死亡診断書には死因不詳と書き込まれていたと聞く。なぜ亡くなられてしまったのか。みんな不思議に思われていたが、葬儀の際にそんなことを伺いながら、同じくらいの歳のお寺さんたちと、私たちもいつそうなるかわからない、明日は我が身と、後悔しないよう、会いたい人には会っておかなければいけないなというような話をして帰ってきた。

それでなくてもコロナだ、戦争だと落ち着かない世の中だけに、明日何があるのかわからない不安の中に生きている。すこし前にこのブログで「四苦八苦をやわらげるために」でも取り上げたように、アメリカには救命士という制度があって、事故や災害などによって余命幾ばくかもない人の所に駆けつけていろいろと最後のケアをして看取る人たちがいるが、その一人の方が死の直前、人が最後に思うことには三つあるといわれ、そのはじめに後悔ということを挙げていた。

言わないでよいことを言ってしまったり、間違ってしてしまったことに謝りを言うことももちろんだが、世話になったのに十分なお礼もしていなかったり、恩返しもしていないことがたくさんあることに気づかされる。それらを一つ一つ機会ある時を待っていたらそれらを済ませる前に命が切れてしまうかもしれない。そう思うと、できることからすぐにでもしておかねばならないと思えた。

その後ゴールデンウィーク中、毎日境内の草取りに励んだ。昔雑草を煩悩に例えて、煩悩即菩提という仏教語を解釈したことがある。雑草一つ生えない砂漠のような土地には作物はならない。砂漠に作物を育てようとするにはまず雑草のようなものから植栽して徐々に土を育てなくてはいけないと教えられたことがある。雑草が生えるような土地だからこそ作物も成長する。つまり煩悩があるから悟り・菩提もあると言いたかったのである。

煩悩がある人間だからこそ、迷ってみたり、悩んでみたり、喜んだり、怒ったり。後悔することもあるけれども、感謝する気持ちも生まれてくる。善悪の見きわめにより、いかようにも歩める人間だからこそ、慈しみの心によって心浄め、行いを正して、悟りを目指すことが可能となる。煩悩と菩提は不即不離の関係になるという。

そんなことを思い出し、我が煩悩のように雑草ばかりがはびこる境内を掃除していて、この雑草のように煩悩はいかにも簡単そうに繁茂するけれども植えた樹木はなかなか大きくならないように、正しいこと、よいこと、修行になること、心静まるような行というのは、行い難く進歩させるのが難しいものだなどと思い雑草一つ一つを左右の手で抜いていた。そして、この時節には毎年草くさくさで暑い中大変なことではあるけれども、こういう仕事があるからこそ、これだけ広いところに住まい、不自由なく生活をさせていただけているのだと逆に有り難く思った次第であるが、その時ふと、「人生とは恩返しである」という言葉が頭に降ってきた。

今ここにこうしてあるために、人間として生まれ、育ててくれた父母はじめ多くの人たちの助けを得て成長し、冒頭に述べたお寺様も含め、数えきれないほどの多くの方々にお世話になり、そのおかげで今あることを思う時、今あること、そしてこの恵みに感謝して、日々勤めること、なすべきことをすること。大変なことばかりの人生ではあるけれども、めげずに周りの人たちに助けられながらなんとか頑張る。だからこそやる意味があり価値がある。人生とはそのためにこそあると思えたのである。そして、過去のご厚意や施しに感謝の思いを述べておくことも必要であろう。私にはことのほか、そうしなければならない人が沢山おられるように思える。早速取り掛からねばならない。明日は我が身、とにかく一日一日、一刻一刻を無駄にしないよう努めたいと思う。



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