おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

不毛地帯

2020-03-03 09:14:43 | 映画
「不毛地帯」 1976年 日本


監督 山本薩夫
出演 仲代達矢 丹波哲郎 山形勲
   神山繁 仲谷昇 滝田裕介
   山口崇 石浜朗 日下武史
   山本圭 北大路欣也 田宮二郎
   大滝秀治 内田朝雄 小沢栄太郎
   永井智雄 高橋悦史 八千草薫
   藤村志保 秋吉久美子

ストーリー
近畿商事社長・大門一三(山形勲)は、元陸軍中佐・壱岐正(仲代達矢)を、嘱託として社に迎え入れた。
総合商社の上位にランクされる近畿商事は、総予算一兆円を越すといわれる二次防主力戦闘機選定をめぐって、自社の推すラッキード社のF104で、東京商事の推すグラント社のスーバードラゴンF11、五井物産の推すコンバー社F106、丸藤商事の推すサウズロップS156を相手に、血みどろの商戦を展開していた。
大門は壱岐を同行して渡米したが、それは壱岐を防衛部長・川又空将補(丹波哲郎)と逢わせるために大門が仕組んだものだった。
壱岐と川又は、陸士、陸大を通じての親友であり、終戦の満州で関東軍参謀中佐だった川又は壱岐に一命を救われたこともあり、そのかわり川又は、壱岐が戦後11年間の抑留生活を送っている間、壱岐家の家族--妻の佳子(八千草薫)、直子(秋吉久美子)、誠(亀田秀紀)--の面倒をみてやっていたのだった。
ついに、二次防の主力戦闘機は、近畿商事と東京商事の凄絶な闘いとなった。
すでに東京商事は鮫島航空機部長(田宮二郎)が中心になり、政界に巨額の実弾攻撃を仕掛けていた。
久松経企庁長官(大滝秀治)が、山城防衛庁長官(内田朝雄)と貝塚官房長(小沢栄太郎)の動きを釘付けにしている間に、壱技は、三島幹事長(杉田俊也)と大川政調会長を味方に引き入れた。
数日後、グラント社から流れた政治資金が、横浜の銀行で、大蔵省の機動捜査を受けた。
壱岐はグラント社の極秘書類である価格見積書を入手すべく、元防衛庁職員だった小出(日下武史)の線から、防衛庁防衛課計画班長・芦田(小松方正)を買収、スーバードラゴンF11の価格見積書を入手した。
そんな時、F104墜落のニュースが飛び込んだが、来日していたラッキード社のブラウン社長は、パイロットの操縦ミスと弁明、持参した大統領添書を総理に手渡したところ、添書には、ラッキード社が正式決定すれば、山積する日米諸問題を考慮することが約束されていた。


寸評
航空機の売買を巡る汚職事件としては、旅客機の受注をめぐって1976年に明るみに出たロッキード事件や戦闘機売買に関する1978年のダグラス・グラマン事件などが思い当たる。
僕はキャスティングからダグラス・グラマン事件を想像したが、原作が週刊誌に連載されていた時期を考えると話は原作者である山崎豊子氏の予見だったのかもしれない。
アメリカの証券取引委員会がグラマン社が自社の早期警戒機売込みのため、日本の政府高官である岸信介、福田赳夫、中曽根康弘、松野頼三らに代理店の日商岩井を経由して不正資金を渡したことを告発したことに端を発したのがダグラス・グラマン事件である。
ロッキード事件は、航空メーカー「ロッキード社」の航空機受注をめぐり、およそ30億円もの工作資金が日本政財界にばらまかれたことが1976年に明るみになり、当時衆議院議員だった田中角栄元首相を含め複数の政治家が逮捕されるという戦後最大の汚職事件である。
映画に登場する総理大臣は、どこか岸信介を想像させる風貌だ。
主人公の壱岐正元帝国陸軍中佐は伊藤忠商事の元会長瀬島龍三がモデルと思われるが、原作者の山崎豊子氏は複数人のイメージを重ね合わせたものと断っている。

壱岐は11年に及ぶシベリア抑留生活を余儀なくされるが、生死の境目をさまよって帰国を果たしたと言うイメージは感じ取れない。
その事を通じて川又との戦友としての強い絆が結ばれたと思うのだが、題名の不毛地帯の一つであるシベリア抑留が通り一辺倒な描き方になっており、それならいっそシベリア抑留部分を省いた方が良かったのではと思う。
関東軍参謀が一般人を見捨てて自分の家族を優先的に帰国させたというエピソードが盛り込まれているが、その事に関する壱岐の贖罪は全く描かれていない。
僕は原作を読んでいないので、この壱岐の描き方は原作者山崎の関東軍に対する見方なのか、監督山本薩夫の意図なのかは分からない。
山崎豊子や山本薩夫は関東軍の責任と行動(特に無条件降伏時)を一体どう見ていたのだろう。

壱岐は防衛庁を敬遠し民間商社に就職する。
二次防主力戦闘機選定問題に関与していくうちに、壱岐は変貌していくのだが、その過程における壱岐の変化動機が僕には感じとれなかった。
社会派監督として山本薩夫は「白い巨塔」や「華麗なる一族」という重厚な作品を送り出しているが、どうもこの「不毛地帯」では両作品ほどの厚みを僕は感じ取れないのだ。
壱岐が仕事にのめり込んでいき家族に対して変貌していく過程がないので、彼が妻に対してとる態度が突然すぎるように見えて僕は違和感を感じた。
ラストで壱岐が退職願を出すのは予想できるが、大門社長はその退職願を破り捨てている。
瀬島隆三氏と同様、壱岐は近畿商事に戻って社長まで上り詰めるのだろうか。
だとすれば、近畿商事は伊藤忠だな。
キャストは適材適所でその雰囲気を出しているので、さすがは名優たちと感心させられる。
オールスター映画の醍醐味だ。


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2 コメント

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「不毛地帯」について (風早真希)
2023-06-08 15:46:41
現在の日本映画で、ほとんど製作されなくなった社会派映画。
かつては、山本薩夫監督や、熊井啓監督など、数多くの気骨のある映画監督がいたものでしたが、現在の日本映画の衰退、凋落傾向の中、そのような気骨のある映画監督が全くいなくなりましたね。

今回、感想を書かれている、山本薩夫監督の「不毛地帯」は、そんな社会派映画の1本ですね。

この東宝映画「不毛地帯」は、昭和34年当時、二次防の第一次FX選定をめぐるロッキード対グラマンの"黒い商戦"を素材にした山崎豊子の原作の映画化作品ですね。

この映画は、その相当部分が主人公の元大本営参謀であった、壱岐正(仲代達矢)のシベリア抑留11年の描写に当てられています。
そして、この主人公の壱岐正のモデルは、元伊藤忠相談役の瀬島龍三氏であったのは言うまでもありません。

「白い巨塔」「華麗なる一族」に続くこの山崎豊子の原作は、高度経済成長下の熾烈な経済競争で荒廃してしまった"日本の精神的不毛地帯"と、厳しい自然と、全く自由を奪われた強制収容所という"シベリアの不毛地帯"を重ね合わせ、この二つの不毛地帯を、幼年学校以来、軍人精神をたたきこまれた主人公の壱岐正が、如何に生きていくか、その"人間的苦悩"に焦点を絞って描いている小説だと思います。

この映画の監督は社会派の作品を得意とする山本薩夫。
「戦争と人間」三部作、「華麗なる一族」「金環蝕」とその作風はある意味、一貫している監督です。

原作ではシベリアでの飢えと拷問の監獄、それに続く悲惨な収容所生活に多くのページを割いており、ソルジェニーツィンの「収容所群島」を連想させますが、この映画では、シベリアの部分はほとんどカットされており、ソ連内務省の取り調べも、天皇の戦争責任にポイントをおくためのものになっているように思います。

また、安保闘争をこの映画と切り離せない社会的背景とみて、原作にはないのを山本監督は意識的かつ重点的に付け加えています。
更に、自衛隊反対の自己の主張を壱岐の娘、直子(秋吉久美子)の口から繰り返し語らせているのです。

そして、当時、社会の関心が集中していた"ロッキード事件"を意識して、その徹底糾明のためのキャンペーン映画として作られており、山本監督は、それを抉るために彼の"政治的立場"に沿って、人間関係を明快に整理しているようにも思います。

原作者の山崎豊子は、「作者としては、どこまでも主人公、壱岐正が、その黒い翼の商戦の中で如何に苦悩し、傷つき、血を流したか、主人公の人間像、心の襞を克明に映像化してほしかった。この点、山本監督は、イデオロギー的な立場で、主人公を結論づけ、描いておられる。そこが小説と映画との根本的な相違であるといえる」と強い不満を語っていましたが、もっともな事だと思います。

山本監督は、「『金環蝕』も『不毛地帯』も、そのストーリーこそ違うものの、いずれも、本質的には日本の保守政治の構造が生んだ事件であり、今回のロッキード事件とその点で共通していると言える。私が『不毛地帯』を撮るにあたり、こうした保守政治の体質にいかに迫るかが、私にとって大きな課題となった」と、この映画「不毛地帯」の製作意図を語っており、このようにこの映画が、"政治的な意図"を持った映画である事を、我々映画を観る者は、よく認識しておく必要があると思います。

当時のロッキード事件というものと関連させて、なるほどと思わせる場面が多く、迫力もあり、映画的に面白く撮っているだけに、我々観る者が映像と現実をそのままゴッチャにしてしまう危険性もはらんでいるようにも思います。

ただ、山本監督は、「私は、映画はわかりやすく、面白いものでなければいけないと、常々考えている。健全な娯楽性の中に、その機能を生かせば、今度のような、いわば政治の陰の部分まで描き出せる」とも語っており、三時間という長さを全く退屈させない腕前はさすがで、その政治的な思想性は別にしても、これだけの社会派ドラマを撮れる監督が、現在の日本映画界に全くいなくなった現状を考えると、本当に凄い映画監督だったんだなとあらためて痛感させられます。

シベリア抑留の苛酷な体験もいつか薄れ、新鋭戦闘機に魅せられて、いつの間にか熾烈な商戦の渦中に巻き込まれ、作戦以上の策略を尽した結果が、心ならずも戦友の川又空将補(丹波哲郎)を死に追い込み、家族からも心が離反されてゆく、"旧職業軍人の業"といったものが切ない哀しみを持って、胸にしみてきます。

そして、自衛隊に入った旧軍人制服組の、警察出身で政治的な貝塚官房長(小沢栄太郎)に対する憎しみも非常にうまく描かれていたと思います。
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社会派映画 (館長)
2023-06-09 08:36:34
確かに昨今の邦画は小ぶりな作品が多くて、秀作に出会うことはあっても、「ああ、映画を見たなあ~」という気持ちを持って映画館を出る作品が少なくなってしまっていて淋しい気がします。
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