「BIUTIFUL ビューティフル」 2010年 スペイン / メキシコ
監督 アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
出演 ハビエル・バルデム マリセル・アルバレス
エドゥアルド・フェルナンデス ディアリァトゥ・ダフ
チェン・ツァイシェン アナー・ボウチャイブ
ギレルモ・エストレヤ ルオ・チン
ストーリー
スペイン・バルセロナ。
この大都市の片隅で、厳しい現実と日々対峙して生きているウスバルは、離婚した情緒不安定で薬物中毒の妻を支えながら、2人の幼い子供たちと暮らしている。
決して裕福とはいえず、生活のためにあらゆる仕事を請け負っていたウスバルは、ときには麻薬取引、中国人移民への不法労働の手配など違法なことにも手を染めて日々の糧を得ていた。
しかし、争いごとの絶えない日々のなか、ウスバルはしばしば罪の意識を覚えていた。
ところがある日、彼は末期ガンと診断され、余命はわずか2ヵ月と告げられる。
ウスバルは家族に打ち明けることもできず、死の恐怖と闘いながらも、残された時間を家族の愛を取り戻すために生きることを決意する。
死の恐怖にも増して、何よりも遺される子どもたちの今後が、苦しみとして重くのしかかってくるウスバルだったが…。
寸評
非常にリアル感のある映画で、ドキュメンタリータッチともいえる演出が主人公ウスバルの苦悩を描きだす。
非合法営業を続ける黒人たちを警察が追い散らしながら逮捕するシーンなどはニュース映画を見るような迫力があった。
最初の子供達との食事シーンでのやりとりから、父親が子供を叱責するシーンまでの流れは、生活に余裕がなく父親であるウスバルが毎日イラついているのだと、自然に感じさせる演出だ。
そして、その後のおねしょにかかわる会話のやりとりを見せられると、この父子には強い愛の絆が存在しているのだということも感じさせられる。
何気ない数少ないシーンの積み重ねで全体の状況把握を迫る演出は上手いと感じさせる。
主人公が死の宣告を受けるシチュエーションは数々あるが、この作品では悲劇性を強調するでもなく、また希望や未来を描くでもなく、それでいて死を恐れる心は存在する姿を生々しく描いて、極めて現実的な話に思えて、とてもドラマを見ているという感覚にはなれなかった。
感情の起伏を内に秘めながら、微妙な心理の変化を表現するハビエル・バルデムの演技は素晴らしいの一言。
そして、時としてやさしい母親であり、時として子供を虐待するような薬物中毒の妻の存在もストーリーを重厚にし、演じたマリセル・アルバレスの貢献も大。
ウスバルは不法滞在者の人材派遣などで金を稼いでいて、警官にも賄賂を渡している犯罪者なのだが決して悪徳ではない。
むしろ移民たちのことを思いやる気持ちを持った善人的なところもある。
しかし、犯罪を犯していることには違いはないので、自分が死んだら一体誰が子供達の面倒をみるのかの思いは切実で、演出のリアリティさがその切実感を観客である我々に同化させる。
これだけのリアリティを持っている中で、異質なのがウスバルに死者の声を聞く能力があることで、これが父親を幻想の中に見る効果の一翼を担っている。
冒頭とラストの美しい森のシーンを強調する役目も担っていたと思うが、決して見終わった時に明るくなれる映画ではない。
僕などはむしろ絶望を感じてしまったくらいだ。
一体、あの子供達はどうなってしまうのだろう・・・。
同行者がいればひと悶着ありそうなエンディングは、形はどうあれ映画に余韻と問題提起を残し、この映画は面白いと思わせた。
「BEAUTIFUL」が「BIUTIFUL」になったエピソードの使い方なども巧みだが、父から受け継いだ指輪のエピソードもいい。
本篇を取り巻く中でなによりいいのは音響と音楽だった。
これだけの重い映画でありながら2時間半を長く感じさせなかった演出に感嘆した。
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