「麗しのサブリナ」 1954年 アメリカ
監督 ビリー・ワイルダー
出演 オードリー・ヘプバーン ハンフリー・ボガート
ウィリアム・ホールデン ジョン・ウィリアムズ
フランシス・X・ブッシュマン マーサ・ハイヤー
マルセル・ダリオ ウォルター・ハンプデン
ストーリー
富豪ララビー家のお抱え運転手の娘サブリナは、邸の次男坊デイヴィッドにほのかな思いを寄せていた。
しかし父は娘に叶わぬ恋を諦めさせようと、彼女をパリの料理学校へやる。
それから2年、サブリナは一分のすきのないパリ・スタイルを身につけて帰ってきた。
女好きのデイヴィッドは美しくなったサブリナにたちまち熱を上げ、自分と財閥タイスン家の令嬢エリザベスとの婚約披露パーティにサブリナを招待し、婚約者をそっちのけにサブリナとばかり踊った。
デイヴィッドの兄で謹厳な事業家ライナスは、このままではまずいとデイヴィッドをシャンペン・グラスの上に座らせて怪我をさせ、彼が動けぬうちにサブリナを再びパリに送ろうと企てる。
不粋のライナスにとって、サブリナとつきあうことは骨の折れる仕事だったが、計画はうまくいき、サブリナの心は徐々にライナスに傾く。
一緒にパリへ行くことになって喜ぶサブリナだが、ライナスは船室は2つとっておいて、いざとなって自分は乗船しないつもりだった。
サブリナはそのことを知って深く悲しみ、すべてを諦めてパリへ行く決心をする。
ライナスもまた自責の念にかられ、いつの間にか自分が本当にサブリナに恋していることに気づく。
サブリナ出帆の日、ララビー会社では重役会議が開かれていた。
ライナスはここでデイヴィッドとサブリナの結婚を発表するつもりだったが、怪我が治って現れたデイヴィッドは、ライナスとサブリナが結婚するという新聞記事を見せる。
そしてパトカーとタグボートを用意しているからサブリナの乗る船に急げ、と兄に言う。
すべてはサブリナとライナスの気持ちを察したデイヴィッドの計らいだった・・・。
寸評
「ローマの休日」に続いて可愛いオードリー・ヘップバーンが見られることが一番で、ビリー・ワイルダーがユーモアを交えて肩の凝らないおとぎ話に仕上げている。
折れてしまいそうな細身のヘップバーンが着こなすファッションが素晴らしく、オードリーが可愛さを振りまいていた絶頂期の作品だと思う。
スポーティなパンツ・ルックはこの作品以後サブリナ・パンツと呼ばれ、その呼び名は今になっても残っている。
当のサブリナ・パンツは、サブリナがライナスの居る社長室を訪れ、フランス仕込みの料理を作ろうとするシーンでわずかに披露されただけである。
それなのに細い体にぴったりとフィットしたパンツにその名を残したのだから、彼女のスタイルがいかに決まっていて恰好よかったかということだ。
サブリナは大富豪一家のお抱え運転手の娘なのだが、登場した時から一家との身分の違いを感じさせない優雅さを持っている。
渡仏前と帰国後のファッションとたたずまいの違いで、毛虫が蝶に変身していたことを表したかったのだろうが、オードリーが自然に発する天性の雰囲気はそんなことを表現することすら拒んでしまっている。
どんな格好をしていようがオードリーは可愛くてエレガンスなのだ。
彼女の可愛らしさを「ローマの休日」以上に前面に出そうとした作品なので、中身は濃くもなく深みもない。
サブリナがデイヴィッドからライナスに変身していく過程などは、はたして描かれていたのかと思うくらいのもので、サブリナのデイヴィッドへの気持ちってそんなに軽いものだったのかと思ってしまう。
せめて子供の頃にスケート場で後ろから支えてくれてキスをしてくれたのが、サブリナの記憶違いでライナスだったぐらいのエピソードは欲しかったところである。
女にだらしないけど陽気な弟のウィリアム・ホールデンから、実直で堅物そうなハンフリー・ボガートにサブリナの気持ちが移っていく様子が簡単に描かれていることが、この作品に明るさをもたらしているし、ロマンチックなショートストーリとして成功させているのだと思う。
サブリナは同じ使用人仲間から可愛がられている。
ララビー家の人々も良さそうな人たちで、こんな環境なら運転手の娘でもいいかなと思ってしまうし、僕が使用人の一員であってもサブリナを可愛がるだろう。
サブリナが帰ってきた時の出迎え方とか、パーティでサブリナを応援する様子などは実に微笑ましいものである。
おとぎ話的であり、貧しい育ちの娘の玉の輿物語としても十分に堪能できる。
そのあたりにおけるビリー・ワイルダーの演出は手慣れたものである。
そしてキャスティングであるが、オードリーの相手男性はなぜか相当年上である。
ライナスは「もしも10歳若ければ・・・」と言っているが、ハンフリーボガードはこの時、実年齢は50も半ばだ。
10歳若くったって年齢差はある。
若い男優を相手役に選ぶと現実過ぎて、おとぎ話でなくなってしまうためなのだろうか。
グレゴリー・ペック、ゲーリー・クーパー、フレッド・アステアなど、共演者は皆50代半ばの男優ばかりなのだ。
オードリーは若い女性のあこがれであり、おじ様たちのマスコットだったのかもしれない。
オードリーがこの映画の中で履いたサブリナパンツが大流行し、この華麗な衣裳、豪華な共演者など、ロマンティック・コメディの傑作たる要素を全て持った夢のような素敵な作品だと思います。
恐らく、日本人が最も愛した女優だと信じて疑わないオードリー・ヘプバーン。
スレンダーで、気品があって、おしゃれで、生身の肉体をまるで感じさせないような、透き通ったような美しさに輝いていました。
前作の「ローマの休日」の王女役でブレークしたオードリーが、一転して、庶民の娘サブリナを演じる。
しかも、「ローマの休日」でのグレゴリー・ペック演じる新聞記者との身分違いのロマンスとは対照的に、大金持ちのドラ息子デイビッド(ウィリアム・ホールデン)に、"月に手を伸ばすように"片思いをする役なんですね。
デイビッドに相手にされずに傷ついたサブリナは、ニューヨークを離れ、パリの料理学校に入学する。
そして、2年後に帰国したサブリナは、まるでパリ・モードから抜け出したような美女に、華麗に変身して戻ってくるのです。
果たして、この後、めでたく"シンデレラ・ストーリー"は成就するのか? -----、それとも? -----。
更に、デイビッドの兄で堅物のライナス(ハンフリー・ボガート)も登場して、物語は二転三転していくことに-------。
名匠ビリー・ワイルダー監督の、のびのびと軽やかな演出が、実に小気味いい。
ハードボイルドなイメージが強い、我らがボギーことハンフリー・ボガートが見せる意外なユーモア。
そして、ウィリアム・ホールデンの体を張ったドタバタ演技の面白さ。
この兄弟の父親役のウォルター・ハンプデンが、クローゼットの中で葉巻を吸う場面など、随所に笑いが仕掛けられていて、あらためてワイルダー監督のうまさに唸らされます。
お金持ちのいい気なお話だと、反撥を感じないのは、時代や社会性などと無縁なところで、このドラマが成立しているせいだろう。
美男美女の夢物語を観て、浮世の悩みをしばし忘れるのも、我々が"究極の逃避である映画を観る"という行為の効用なのかも知れません。
それにしても、パリへの留学の前と後でのオードリーの華麗なる変身は、実に見事ですね。
この映画がきっかけで大流行したサブリナパンツをはじめ、素敵なファッションを眺めるだけでも楽しい作品ですね。
日本人にとってヘプバーンと言えばオードリーなのでしょうが、キャサリン・ヘプバーンも忘れられません。