おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ある愛の詩

2018-11-10 10:55:30 | 映画
フランシス・レイの訃報を聞いて思い出す映画の1本。

「ある愛の詩」 1970年 アメリカ


監督 アーサー・ヒラー
出演 ライアン・オニール アリ・マッグロー
   レイ・ミランド ジョン・マーリー
   キャサリン・バルフォー ラッセル・ナイプ
   トミー・リー・ジョーンズ ウォーカー・ダニエルズ

ストーリー
オリバーはニューヨークのセントラル・パーク・スケート場の観覧席で1人想いに沈んでいた。
彼は若い弁護士で、少し前に医者から、妻のジェニーに死期が迫っていると聞かされたばかりだった。
初めてジェニーに会ったのは大学の図書館だった。
オリバーは高名な良家の4世で、アイス・ホッケーだけが趣味の世間知らず、ジェニーはイタリア移民の菓子屋の娘で、バロック音楽好きという共通点のない2人だったが、あまりの身分の差が、かえって2人をひきつけた。
オリバーがジェニーのハープシコードの演奏を聴きにいって、モーツァルトやバッハの名を口にするようになって、ふと気がつくと2人はもう恋の虜になっていた。
ある日、ジェニーは突然、フランスで勉強したいと言い出した。
彼女は今の幸福が束の間のものであり、実らないであろう恋の悲しみから逃げようと考えたのだ。
ロード・アイランド出の貧しい娘と富豪の息子では、あまりに身分が違いすぎるのだ。
しかし、オリバーは問題にせず、そして結婚を申し込んだ。
オリバーは両親にジェニーを会わせたが、彼と父との間には深いミゾがあった。
母は息子と夫との間に入ってとりなそうとするが、オリバーは父を軽蔑しきり、父も彼の身勝手さをなじるため、うまくゆかず、父の、送金を中止するという脅しも蹴ってしまう。
2人はロード・アイランドにいるジェニーの父に会いに行ったが、父は2人を歓迎しながらも前途を心配した。
そして2人は結婚し、生活は貧しかったが、愛し合う彼らは幸福だった。
やがて、オリバーが優秀な成績で卒業し、2人はニューヨークのアパートを借り、オリバーは法律事務所へ勤めることになった。
そんな新しい生活が始まったばかりのところ医者からジェニーの病状を聞かされた・・・。

寸評
一方は名家で富豪の出身で、もう一方は貧しい家の子という身分的違いがありながらも恋に落ちる。
周囲の反対を押し切り結婚したが、やがて一方が不治の病で亡くなってしまうというベタな恋愛ものである。
男女が入れ替わったり、若干のオプションがあったりするが、そのモチーフはよく描かれる内容だ。
本作は奇をてらったような演出がなく正攻法で描いていることで、当時の殺伐とした世の中にあって、この純愛物語は人々の心を打ったのではないかと思うのだが、今見ても安心して見ることが出来る。

オリバーとジェニーは図書館で出会い、その後の交流が手際よく描かれ二人の性格描写が手短に知らされる。
誰もが経験した、あるいは経験したいと思ったような二人の無邪気な関係を、ある者は郷愁を感じながら、ある者はあこがれをもって見ることが出来る。
雪が積もったスケートリンクで戯れるオリバーとジェニーの姿に思わず笑みがこぼれてしまう。
あんな風に楽しんだなあとか、あんなふうに楽しみたかったなあといった感覚が湧いてくる。
ケンカして家を飛び出していったジェニーが見つからず戻ってきたオリバーに“鍵がないの”と涙を浮かべて笑いかけるシーンなどは、男の僕には抱きしめたくなるような可愛さを感じさせた。
兎に角ジェニーは非の打ち所がないと言っても過言でないほどのいい女性だ。
明るく聡明で、彼を愛し献身的でもあり、そんなジェニーをオリバーも誠心誠意愛し抜いている。

そんな平穏な物語に影を落としているのが、オリバーと彼の父親との確執である。
父親は息子を愛しているが、名門ゆえのお仕着せにオリバーは反発している。
対比的に描かれるのが、ジェニーと彼女の父親の関係で、彼女は父親をフィルと名前で呼ぶような間柄で、親子の信頼とお互いの愛情を感じさせる存在である。
しかもこの父親は、オリバーが親子断絶になっているのは良くないと、その仲を取り持つような態度も見せるような良識を持ち合わせているいい父親として描かれている。
この図式も単純なものなのだが、くどくど描いていないのがいい。

暗さのない作品で、ロースクール時代の苦境はあまり描かれず、上辺を通り一辺倒な描き方でスルーしている。
エリート街道も羨ましいし、楽し気な新婚生活は憧れさえ持たさせる描き方である。
そこで映画としては転換を見せ、ジェニーの病が明らかとなる。
散々明るさを振りまいてきたジェニーなので、病床の彼女は絶望感を見せない。
アリ・マッグローの健康的な容姿が悲壮感を弱めてしまっている。
激やせして悲壮感を出すまでには至っていないのだが、これは意図したものかアリ・マッグローの努力不足によるものかは不明だ。
最後に再び「愛とはけっして後悔しないもの」との名セリフが登場し、この映画を締めくくる。
お涙頂戴を強要するでもなく、純愛物を約束通り締めくくりながら終わるが、この自然さが中身がないにもかかわらず、作品を純愛物の名作として存在させている理由ではないだろうか。
もちろん、フランシス・レイの音楽が大いに寄与していることは言うまでもない。