ご存知!清水の次郎長シリーズの第8話だが、今回は森の石松の物語。
「次郎長三国志 第八部 海道一の暴れん坊」 1954年度 日本
監督 マキノ雅弘
出演 森繁久彌 小泉博 志村喬 小堀明男
河津清三郎 田崎潤 森健二 田中春男
澤村國太郎 山本廉 越路吹雪 青山京子
川合玉江 水島道太郎
ストーリー
清水一家は次郎長の女房お蝶と豚松の法事の日を取り仕切っている。
百姓姿の身受山鎌太郎(志村喬)が受付に五両置いたのを石松(森繁久彌)は二十五両と本堂に張り出した。
さて読経の声もたけなわ、死んだ豚松の母親(馬野都留子)や許婚お静(北川町子)が来て泣きわめく。
鎌太郎のかん言もなく次郎長は深く心打たれていた。
法事を終えた次郎長は愛刀を讃岐の金比羅様へ納める事になり、選ばれた石松は一同心ずくしの八両二分を懐に旅の空へ出た。
途中、知り合った浜松の政五郎(水島道太郎)にすっかりノロけられた石松は金比羅様に刀を納めると、そのまま色街に足を向けて、とある一軒の店へ入った。
夕顔(川合玉江)というその女の濡れた瞳に惚れた石松は八両二分をはたいて暫く逗留、別れ際には手紙迄貰って讃岐を去った。
近江で立寄った身受山鎌太郎は先の二十五両を石松に渡して義理を果し、石松の落した夕顔の手紙に同情して、夕顔を身受して石松の女房にする事を約した。
その頃、盆踊りが始まっていた小松村では、都鳥の常吉(佐伯秀男)と梅太郎兄弟が、博打の借金を取り立てを理由に、七五郎(山本廉)の家を訪ねていたが本当の目的は、石松が立ち寄っていないかと探りに来たのだ。
都田村の吉兵衛(上田吉二郎)は石松暗殺を助けると布橋一家に請け負って20両を受け取っていた。
七五郎の家では、訪ねてきた石松が、自分が金を持っているので、それで借金を返してくれと申し出た。
石松は、林の中を進んでいたが、そこで待ち伏せていた面をかぶった集団に囲まれ命を落とす。
石松の死を知った次郎長一家が東海道を西に急ぐ頃、清水へ向う二人、それは鎌太郎と身受けされた夕顔であった。
寸評
森繁久彌演ずる森の石松が、次郎長の刀を奉納するため讃岐の金比羅に出かけ、その帰りに、都田村の吉兵衛に騙されて死ぬまでを描いている。
女に持てない石松が、薄幸の美人遊女夕顔と出会うドラマが丁寧に描かれているので、後半の悲劇性が強まって、悲しいまでの恋物語が胸を打つ。
この回の見所は、何と言っても、身受山の鎌太郎を演じている志村喬の存在感だ。
鎌太郎親分は百姓姿でひょひょうと現れるので、志村喬がよくやる役柄をイメージしてしまう。
法事の席で豚松の母親が「お前は参列している親分衆に参ってもらいたいから死んだのか」と泣き叫んだことで親分衆の不評かったとしょげかえっている次郎長一家の子分を鎌太郎親分が叱る場面がある。
この時のドスの効いた志村喬のタンカは随分と迫力があった。
近江の親分らしく違和感のない関西弁で子分たちを叱るシーンは胸に迫り、先ずは観客を感動させる。
石松が鎌太郎親分を訪ね、そこでの金のやり取り、夕顔の手紙を巡るやりとりは一人娘おみの(青山京子)が加わって人情味があふれるいい場面となっている。
夕顔をどうしていいか分からない石松に説教し、夕顔がいないながらも借り祝言をあげるまでの描き方もなかなか堂に入ったものでテンポも良い。
ここでは森繁久彌の森の石松もかすんでしまう、志村喬の身受山の鎌太郎親分である。
名前の通り、鎌太郎親分は夕顔を身請けする役目を申し出て終わるこのパートの締めくくりは小気味よい。
さてその夕顔だが、彼女は薄幸の女性である。
夕顔を演じた川合玉江の美しさは、人柄も飾り気のない素朴で優しい女性でありながらも幸せ薄い女性を絵にかいたようなもので、白黒画面で観ても、その美貌は輝いている。
夕顔は風呂に入っている石松の着物の片袖がないことに気付く。
昨夜夕顔を巡って男と争った時に破れたようである。
翌朝婆さんは石松の着物の片袖を道で拾い上げ、それを庭で洗濯をしていた夕顔に手渡す。
夕顔は石松の袖を繕いながら、「どうせ、うちらは、山鹿の猿やけん…」と寂しそうに呟くのだが、この一連で夕顔が石松に思いを寄せたことを示していたと思うのだが、ちょっとわかりにくい描き方だった。
初めて男に思いを寄せる夕顔の気持ちの変化をもう少し上手く処理できたような気がする。
最後の盛り上がりが小松村の七五郎の借金を巡って石松が襲われる場面である。
都田村の吉兵衛一家の連中は顔が知れてはまずいので祭りの面をかぶっている。
その面をかぶった男たちの顔だけが次々と画面を横切り、石松が襲撃される緊張感を高めていく。
この様な緊迫感が出る演出はこのシリーズで初めてだ。
ラストには、半死半生で七五郎の家の側まで戻って来た石松が思わず木に手を伸ばし、そこに咲いていた夕顔の花をもぎ取るようにしてその場にしゃがみ込んでしまうことで石松の死を感じさせ、そして身請けされて花嫁姿になって馬の背で揺られる嬉しそうな夕顔が映るという万感胸に迫る何ともいいシーンがある。
尚、作中で出会った浜松の政五郎が後の小政らしい。
「次郎長三国志 第八部 海道一の暴れん坊」 1954年度 日本
監督 マキノ雅弘
出演 森繁久彌 小泉博 志村喬 小堀明男
河津清三郎 田崎潤 森健二 田中春男
澤村國太郎 山本廉 越路吹雪 青山京子
川合玉江 水島道太郎
ストーリー
清水一家は次郎長の女房お蝶と豚松の法事の日を取り仕切っている。
百姓姿の身受山鎌太郎(志村喬)が受付に五両置いたのを石松(森繁久彌)は二十五両と本堂に張り出した。
さて読経の声もたけなわ、死んだ豚松の母親(馬野都留子)や許婚お静(北川町子)が来て泣きわめく。
鎌太郎のかん言もなく次郎長は深く心打たれていた。
法事を終えた次郎長は愛刀を讃岐の金比羅様へ納める事になり、選ばれた石松は一同心ずくしの八両二分を懐に旅の空へ出た。
途中、知り合った浜松の政五郎(水島道太郎)にすっかりノロけられた石松は金比羅様に刀を納めると、そのまま色街に足を向けて、とある一軒の店へ入った。
夕顔(川合玉江)というその女の濡れた瞳に惚れた石松は八両二分をはたいて暫く逗留、別れ際には手紙迄貰って讃岐を去った。
近江で立寄った身受山鎌太郎は先の二十五両を石松に渡して義理を果し、石松の落した夕顔の手紙に同情して、夕顔を身受して石松の女房にする事を約した。
その頃、盆踊りが始まっていた小松村では、都鳥の常吉(佐伯秀男)と梅太郎兄弟が、博打の借金を取り立てを理由に、七五郎(山本廉)の家を訪ねていたが本当の目的は、石松が立ち寄っていないかと探りに来たのだ。
都田村の吉兵衛(上田吉二郎)は石松暗殺を助けると布橋一家に請け負って20両を受け取っていた。
七五郎の家では、訪ねてきた石松が、自分が金を持っているので、それで借金を返してくれと申し出た。
石松は、林の中を進んでいたが、そこで待ち伏せていた面をかぶった集団に囲まれ命を落とす。
石松の死を知った次郎長一家が東海道を西に急ぐ頃、清水へ向う二人、それは鎌太郎と身受けされた夕顔であった。
寸評
森繁久彌演ずる森の石松が、次郎長の刀を奉納するため讃岐の金比羅に出かけ、その帰りに、都田村の吉兵衛に騙されて死ぬまでを描いている。
女に持てない石松が、薄幸の美人遊女夕顔と出会うドラマが丁寧に描かれているので、後半の悲劇性が強まって、悲しいまでの恋物語が胸を打つ。
この回の見所は、何と言っても、身受山の鎌太郎を演じている志村喬の存在感だ。
鎌太郎親分は百姓姿でひょひょうと現れるので、志村喬がよくやる役柄をイメージしてしまう。
法事の席で豚松の母親が「お前は参列している親分衆に参ってもらいたいから死んだのか」と泣き叫んだことで親分衆の不評かったとしょげかえっている次郎長一家の子分を鎌太郎親分が叱る場面がある。
この時のドスの効いた志村喬のタンカは随分と迫力があった。
近江の親分らしく違和感のない関西弁で子分たちを叱るシーンは胸に迫り、先ずは観客を感動させる。
石松が鎌太郎親分を訪ね、そこでの金のやり取り、夕顔の手紙を巡るやりとりは一人娘おみの(青山京子)が加わって人情味があふれるいい場面となっている。
夕顔をどうしていいか分からない石松に説教し、夕顔がいないながらも借り祝言をあげるまでの描き方もなかなか堂に入ったものでテンポも良い。
ここでは森繁久彌の森の石松もかすんでしまう、志村喬の身受山の鎌太郎親分である。
名前の通り、鎌太郎親分は夕顔を身請けする役目を申し出て終わるこのパートの締めくくりは小気味よい。
さてその夕顔だが、彼女は薄幸の女性である。
夕顔を演じた川合玉江の美しさは、人柄も飾り気のない素朴で優しい女性でありながらも幸せ薄い女性を絵にかいたようなもので、白黒画面で観ても、その美貌は輝いている。
夕顔は風呂に入っている石松の着物の片袖がないことに気付く。
昨夜夕顔を巡って男と争った時に破れたようである。
翌朝婆さんは石松の着物の片袖を道で拾い上げ、それを庭で洗濯をしていた夕顔に手渡す。
夕顔は石松の袖を繕いながら、「どうせ、うちらは、山鹿の猿やけん…」と寂しそうに呟くのだが、この一連で夕顔が石松に思いを寄せたことを示していたと思うのだが、ちょっとわかりにくい描き方だった。
初めて男に思いを寄せる夕顔の気持ちの変化をもう少し上手く処理できたような気がする。
最後の盛り上がりが小松村の七五郎の借金を巡って石松が襲われる場面である。
都田村の吉兵衛一家の連中は顔が知れてはまずいので祭りの面をかぶっている。
その面をかぶった男たちの顔だけが次々と画面を横切り、石松が襲撃される緊張感を高めていく。
この様な緊迫感が出る演出はこのシリーズで初めてだ。
ラストには、半死半生で七五郎の家の側まで戻って来た石松が思わず木に手を伸ばし、そこに咲いていた夕顔の花をもぎ取るようにしてその場にしゃがみ込んでしまうことで石松の死を感じさせ、そして身請けされて花嫁姿になって馬の背で揺られる嬉しそうな夕顔が映るという万感胸に迫る何ともいいシーンがある。
尚、作中で出会った浜松の政五郎が後の小政らしい。