おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ビューティフル・デイ

2018-06-07 08:50:23 | 映画
「ビューティフル・デイ」 2017年 イギリス


監督 リン・ラムジー
出演 ホアキン・フェニックス  ジュディス・ロバーツ
   エカテリーナ・サムソノフ ジョン・ドーマン
   アレックス・マネット   ダンテ・ペレイラ=オルソン
   アレッサンドロ・ニヴォラ

ストーリー
行方不明者の捜索を請け負うスペシャリストのジョーは、人身売買や性犯罪の闇に囚われた少女たちを何人も救ってきた。
彼はその報酬で、年老いた母親と静かに暮らしている。
ジョーは海兵隊員として派遣された砂漠の戦場や、FBI潜入捜査官時代に目の当たりにした凄惨な犯罪現場の残像、そして父親の理不尽な虐待にさらされた少年時代のトラウマに苦しんでいた。
ある日、新たな仕事の依頼が舞い込む。
選挙キャンペーン中で警察沙汰を避けたい州上院議員のアルバート・ヴォットが、裏社会の売春組織から十代の娘ニーナを取り戻してほしいという。
ジョーは売春が行われているビルに潜入し、用心棒を叩きのめしてニーナを救出するが、彼女は虚ろな目で表情一つ変えない。
深夜3時、ニーナを連れて行った場末のホテルのテレビで、ここで落ち合う予定だったヴォット議員が高層ビルから飛び降り自殺したことを知る。
その直後、二人組の制服警官がホテルの受付係の男を射殺し、無理やりニーナを連れ去っていく。
窮地を脱したジョーは、ヴォット議員からの依頼を仲介したマクリアリーのオフィスを訪ねるが、彼は何者かに切り刻まれて死んでいた。
嫌な予感に駆られて自宅に戻ると、2階で母親が銃殺されていた。
ジョーは1階にとどまっていた二人の殺し屋に銃弾を浴びせると、ニーナがウィリアムズ州知事のもとにいることを突き止める。
ニーナはウィリアムズのお気に入りで、ヴォットは日頃から娘を政界の権力者に貢いでいたのだった。
ジョーは喪服に着替え、母親を葬るために森の奥の美しい湖に向かう。
生きる気力を失った彼は母の亡骸を抱えて入水するが、ニーナの幻影に引き戻される。
ジョーは一連の事件の黒幕であるウィリアムズを尾行し、ニーナが監禁されている郊外の豪邸へハンマー片手に踏み込んでいく。

寸評
それが狙いなのだろうが、観客にすごく想像力を求める作品だ。
映画を構成するものとして映像や音楽があり、それらは視覚、聴覚という五感に訴える役割を担っている。
もう一方でストーリーという大きな要素があるのだが、この作品ではその要素を重要視していなくて、映像と音楽を通して観客に物語を想像させるような作りをしている。
歳を取った所為で僕の理解力が衰えてきたのかもしれないのだが、僕は必死で映画を追い続ける必要があった。
90分という上映時間でよかったと思う。
もうあと30分もあれば僕は体力的に持たなかったかもしれない。
もっとも、120分で描けば物語を補完する部分が出てきて、締まりのない作品になってしまっていたかもしれない。

この作品は一応犯罪サスペンスの形をとってはいるが、事件の謎解きをメインとはしていない。
冒頭で数字をカウントダウンする声、「猫背は嫌いだ、背筋を伸ばせ」という声、少年の姿、呼吸ができないように頭からビニール袋をかぶせられた人物という風に謎めいたシーンが続き、犯罪サスペンスの始まりを予兆させたのだが、その後の展開はまったくそんな風には進んでいかない。
主人公の過去らしきフラッシュバックやイメージショットが度々挟み込まれるが、詳しい説明がないので観客は想像するしかない。
最小限のセリフで、ジョーの周辺に起きる出来事を鮮烈な映像で見せていく。
ジョーはニーナを助けるために殺人を繰り返していくが、行為に及ぶ前段階と事後は描かれるが殺害の瞬間は描かれることはない。
映像は殺された後の血まみれの死体を見せるだけで、観客は残虐な殺人シーンを想像することになる。
ジョーとニーナがモーテルの部屋で父親であるヴォット議員を待っていると、テレビのニュースで「ヴォット議員が自殺した」との速報が流れるのだが、議員はなぜ自殺したのかはわからない。
直後に警官たちが部屋に乱入してきてニーナを連れ去っていったのだが、直前の行為などからこの警官たちは悪徳警官なのだと推測することになる。
もちろんこの警官たちの悪事が明らかにされることはない。
ラストに向かってサスペンスとして話が一気に進むが、セリフが少ないので気を抜いて見ていると何が起きているのか分からなくなってしまうような描き方だ。
ジョーはニーナの救出を依頼したマクリアリーの惨殺死体を見つける。
そのことで仕事を仲介してくれたエンジェルに危険が及ぶことを察知したが、彼を通じてジョーが狙われ、母親が事件に巻き込まれてしまったという展開なのだが、その間の経緯が映像だけで示されるから理解するのに時間がかかる。

ジョーとニーナが絡む場面はそんなにないのだが、最後になって二人の心の通い合いがくっきりと浮かび上がってくる。
ニーナの救出に向かったジョーは次々と護衛の者たちを倒していく。
そして例のごとく殺された後の親玉の死体を映し出す。
ニーナの食事場面が映し出されると真相が明らかになり、トラウマを背負った者同士の魂の共鳴が鳴り響く瞬間となる。
最後の驚くべきシーンでは、僕はもしかしたらこれはジョーが見ていた悪夢だったのではないかとの疑いを持ったくらいだ。
想像することに慣れきってしまって、とんでもない妄想をも引き起こす作品である。