一昨日、9月22日は J. R. R. トールキン教授の作品に登場するホビット、
ビルボ・バギンズ氏とフロド・バギンズ氏のお誕生日でした。
二日遅れではありますが、お誕生日おめでとうございます♪
*~*~*~*~*~*~*~*~*
今年いちばん楽しみにしていた新作映画「トールキン 旅のはじまり」が、
夏の終わりに劇場公開となりました。
初鑑賞は、公開日の8月30日(金)。
翌31日(土)に2回目を、公開2週目に入った9月6日(金)には3回目を鑑賞し、
FOXサーチライト・マガジン vol.15にあたる劇場プログラムも読んでから、
こちらの感想を書きはじめ、時間がかかりましたが、
ようやく書き終えることができましたのでアップします。
*~*~*~*
映画の幕開けは、第一次世界大戦で最大の戦闘が繰り広げられた「ソンムの戦い」の場面。
塹壕熱を発症しながらも、T. C. B. S. の仲間で親友のジェフリー・バッチ・スミスの消息を求めて
戦地を彷徨う若きトールキンが、「母との最期の日々」「後見人のフランシス・モーガン神父」
「孤児となってからのトールキン兄弟が暮らしたフォークナー夫人の家」
「キング・エドワード校で T. C. B. S. を結成したロバート・キルター・ギルソン、スミス、
クリストファー・ワイズマンと過ごした学生時代のこと」「恩師であるジョセフ・ライト教授との出会い」、
そして「妻エディス・ブラットと紡いできた思い出」を、回想する形でストーリーが進みます。
初回鑑賞時に抱いた印象は、トールキン教授の前半生の折々に、
教授が後に創造するミドルアースの象徴的な諸々を絡めてコラージュした、
'2時間弱のイメージフィルム' だな、というものでした。
少年期から青年期の出来事と、第一次世界大戦での従軍を経て家庭を持ち、
後世に名を残すことになる代表作の一本が誕生する瞬間を、本編111分の尺で語り、更には、
その作品世界の印象的なモチーフに繋がるようなビジュアルまでを併せて織り込もうとすれば、
ある程度、駆け足な展開になるのは仕方がないとは思います。
しかし、トールキン教授や教授作品のファン、もしくは伝記の既読者でなければ、
(あるいは、ファンであり、伝記を読了している状態であっても)
話の流れがよく解らないのでは? と首を傾げたくなる箇所が目につくこと、
一方で、あの時代に生きて戦場へ行った '誰かの' 物語ではなく、
'J. R. R. トールキンの' ストーリーなのだと本編から伝わるインパクトが、
残念ながら薄かったように思えることは、エピソードを羅列するだけの散漫な脚本と、
ストーリーテリングの主軸の牽引力に欠けた編集という、映画作品としての弱さを感じます。
かなり辛口な書き方をしていますが、
トールキン教授も教授の作品も好きだからこそ、書くべきことは書いておきます。
トールキン役の二人の俳優は、主演の ニコラス・ホルト君 も、
少年期を演じた ハリー・ギルビー君 も、とても丁寧に繊細に役作りをしていたし、
映し出される '画' は彩り美しく、全編通して、非常に綺麗な映像に仕立て上げられているのは特長的で、
私自身、この映画で楽しんでいる面も多いだけに、実に勿体無いことだと言わざるを得ません。
「指輪物語」に思い入れがある者としてグッときたのは、戦場での従卒の献身的な働きぶりでした。
「指輪物語」に登場するホビットの庭師、サムワイズ・ギャムジーのキャラクター造形に、
トールキン教授が従軍時に出会った従卒たちの姿を反映していることは有名ですが、
本作で、軍士官のトールキンに仕える従卒サムの場面を見ていたら、'Mr. Frodo!' という声が頭の中に響き、
原作の「指輪物語」を読みたくなったし、ピーター・ジャクソン監督 の映画を見返したくなりました。
「トールキン 旅のはじまり」に見られるミドルアースに連なるビジュアルイメージが、
ピーター・ジャクソン監督の手掛けた映画シリーズに重なるのは、大変面白いです。
ピーター・ジャクソン監督はトールキン作品を映画化する際、コンセプトアート・デザイナーとして、
トールキン教授のミドルアースを題材にしたイラストで有名な、アラン・リー氏 と ジョン・ハウ氏 を起用しており、
教授の作品ファンで、お二方の描くイラストも好きな人は多いだけに、ある意味、当然なのかもしれませんが、
一人の作家が創り上げた世界からインスピレーションを受けて派生したイラスト作品が、
同じ物語をベースにした映画シリーズに多大な影響を与え、今度は、元の世界の生みの親である作家の伝記映画にも、
その影響が連鎖し、循環していく状況には、とても興味を覚えます。
映画「トールキン 旅のはじまり」のメガホンを取った ドメ・カルコスキ監督 は、
今年の3月に開催された WonderCon in Anaheim 2019 の場で、次のように話していました。
"This started when I was 12 and I planned the script right then when I read The Lord of the Rings.
It was the first time I entered that world of Middle-earth, and then that led to me reading The Hobbit,
and The Silmarillion at a more adult age. In early 2017 I was sent the script and it actually featured
his life. It was a dream of mine to make The Lord of Rings movies, but I missed that opportunity."
( via ign.com )
同監督の他作品は見ていないため、この監督特有の作風や特色などは把握しておらず、臆測の域を出ませんが、
本作が、作家の前半生を語るというより、作家の有名作品を彼の若き日に重ねてビジュアル化した印象を
与えるように感じるのは、この辺りが原因でしょうか。
戦場でのシーン。熱に冒されたトールキンが目にする幻は、
子どもの頃より親しんだ北欧神話に由来するドラゴンが焔を吐き、馬上の騎士が闘う姿ですが、
いつしか、冥王の影が現れるように描かれます( 一瞬、バルログに見えるようにも、私には思えます... )。
また、本編ラストカットに続き、
第一次世界大戦で T. C. B. S. のメンバーが辿った運命とその後が字幕で紹介されると、
スクリーンには T. C. B. S. の4人と、木漏れ日のなかで踊るエディスのシルエットが浮かび、
ドラゴンと騎士のイメージを経て登場するのは ―― 。
「ガンダルフ」「グワイヒア率いる大鷲の一党」「ゴラム」「シェロブ」「モルドールの地」
そして「小高い丘の上に佇む4人」の、影姿でした。
初見でこれらのビジュアルを目にした時の気持ちは、正直複雑で、実にあざといと思ったし、
同時に、「指輪物語」の原作や映画ファンの急所を突いてくることに感心もしました。
特に、最後に映し出される4人のシルエットは、もちろんホビットのフロド、サム、メリー、ピピンですが、
次いで、現実には叶うことのなかった、戦場から揃って帰還した T. C. B. S. の姿にもイメージが繋がっていくようで、
本作を評価できないながらも、見限ることもせずにリピート鑑賞をしている要因のひとつは、恐らくこれです。
評価することも、見限ることも、できない。
何度も鑑賞し、いろいろ考えて、それでも結局、
映画「トールキン 旅のはじまり」は、私の中で、ここに戻って来てしまうのです。
本作は '捨てることのできない' という意味において、マゾムのようだと思っています。
*~*~*~*
さて、東京での公開劇場のメインシアターだった TOHOシネマズ日比谷は 9月19日(木)で上映終了。
シネ・リーブル池袋 と kino cinema 立川高島屋 S.C.館 では、もう少し上映が続くので、また見に行く予定です。
何故なら、'the Eagle and Child' の台詞 を、まだちゃんと聞き取れていないので(笑)
そして、購入を迷っていた 'Tolkien : Maker of Middle-earth' を買うことに決めました。
「トールキン展( 公式サイト・動画 )」は、以前、こちら を読んでとても気になり、
でも、現地に行くことはできないから、現物は見られないけれど、やはり図録だけでも手元に置きたいな、と。
ジェフリー・バッチ・スミスの手紙は、伝記本 でも、「トールキン 旅のはじまり」でも触れられています。
また、トールキン教授が序文を書いた彼の詩集 'A Spring Harvest' は、現在でも入手可能 です。
++ '19年9月27日追記 ++
池袋と立川ともに1回ずつ足を運び、計5回鑑賞したところで、
ファーストランでの上映が終了しました。
件の台詞は、'the Eagle and Child' の名こそ聴き取れましたが、
前後のヒアリングが微妙なため、円盤発売時には是非英語字幕を付けて欲しいです。
(付かなくても、発売されたら買いますが・苦笑)
名画座等での再上映や、ソフト発売関連の情報が出てくるまでは、
伝記本の再読と、無事に購入することができた 'Tolkien : Maker of Middle-earth' に
目を通したりしつつ、過ごしたいと思います。
*~*~*~*~*~*~*~*~*
映画 『トールキン 旅のはじまり』
◇原題:Tolkien
◇関連サイト:公式サイト ( 日本版 )、IMDb ( 関連ページ )
※海外でのプロモーション関連の情報を、こちら にまとめてあります。
◇鑑賞日:2019.8.30. 他 映画館にて
ビルボ・バギンズ氏とフロド・バギンズ氏のお誕生日でした。
二日遅れではありますが、お誕生日おめでとうございます♪
*~*~*~*~*~*~*~*~*
今年いちばん楽しみにしていた新作映画「トールキン 旅のはじまり」が、
夏の終わりに劇場公開となりました。
初鑑賞は、公開日の8月30日(金)。
翌31日(土)に2回目を、公開2週目に入った9月6日(金)には3回目を鑑賞し、
FOXサーチライト・マガジン vol.15にあたる劇場プログラムも読んでから、
こちらの感想を書きはじめ、時間がかかりましたが、
ようやく書き終えることができましたのでアップします。
*~*~*~*
映画の幕開けは、第一次世界大戦で最大の戦闘が繰り広げられた「ソンムの戦い」の場面。
塹壕熱を発症しながらも、T. C. B. S. の仲間で親友のジェフリー・バッチ・スミスの消息を求めて
戦地を彷徨う若きトールキンが、「母との最期の日々」「後見人のフランシス・モーガン神父」
「孤児となってからのトールキン兄弟が暮らしたフォークナー夫人の家」
「キング・エドワード校で T. C. B. S. を結成したロバート・キルター・ギルソン、スミス、
クリストファー・ワイズマンと過ごした学生時代のこと」「恩師であるジョセフ・ライト教授との出会い」、
そして「妻エディス・ブラットと紡いできた思い出」を、回想する形でストーリーが進みます。
初回鑑賞時に抱いた印象は、トールキン教授の前半生の折々に、
教授が後に創造するミドルアースの象徴的な諸々を絡めてコラージュした、
'2時間弱のイメージフィルム' だな、というものでした。
少年期から青年期の出来事と、第一次世界大戦での従軍を経て家庭を持ち、
後世に名を残すことになる代表作の一本が誕生する瞬間を、本編111分の尺で語り、更には、
その作品世界の印象的なモチーフに繋がるようなビジュアルまでを併せて織り込もうとすれば、
ある程度、駆け足な展開になるのは仕方がないとは思います。
しかし、トールキン教授や教授作品のファン、もしくは伝記の既読者でなければ、
(あるいは、ファンであり、伝記を読了している状態であっても)
話の流れがよく解らないのでは? と首を傾げたくなる箇所が目につくこと、
一方で、あの時代に生きて戦場へ行った '誰かの' 物語ではなく、
'J. R. R. トールキンの' ストーリーなのだと本編から伝わるインパクトが、
残念ながら薄かったように思えることは、エピソードを羅列するだけの散漫な脚本と、
ストーリーテリングの主軸の牽引力に欠けた編集という、映画作品としての弱さを感じます。
かなり辛口な書き方をしていますが、
トールキン教授も教授の作品も好きだからこそ、書くべきことは書いておきます。
トールキン役の二人の俳優は、主演の ニコラス・ホルト君 も、
少年期を演じた ハリー・ギルビー君 も、とても丁寧に繊細に役作りをしていたし、
映し出される '画' は彩り美しく、全編通して、非常に綺麗な映像に仕立て上げられているのは特長的で、
私自身、この映画で楽しんでいる面も多いだけに、実に勿体無いことだと言わざるを得ません。
「指輪物語」に思い入れがある者としてグッときたのは、戦場での従卒の献身的な働きぶりでした。
「指輪物語」に登場するホビットの庭師、サムワイズ・ギャムジーのキャラクター造形に、
トールキン教授が従軍時に出会った従卒たちの姿を反映していることは有名ですが、
本作で、軍士官のトールキンに仕える従卒サムの場面を見ていたら、'Mr. Frodo!' という声が頭の中に響き、
原作の「指輪物語」を読みたくなったし、ピーター・ジャクソン監督 の映画を見返したくなりました。
「トールキン 旅のはじまり」に見られるミドルアースに連なるビジュアルイメージが、
ピーター・ジャクソン監督の手掛けた映画シリーズに重なるのは、大変面白いです。
ピーター・ジャクソン監督はトールキン作品を映画化する際、コンセプトアート・デザイナーとして、
トールキン教授のミドルアースを題材にしたイラストで有名な、アラン・リー氏 と ジョン・ハウ氏 を起用しており、
教授の作品ファンで、お二方の描くイラストも好きな人は多いだけに、ある意味、当然なのかもしれませんが、
一人の作家が創り上げた世界からインスピレーションを受けて派生したイラスト作品が、
同じ物語をベースにした映画シリーズに多大な影響を与え、今度は、元の世界の生みの親である作家の伝記映画にも、
その影響が連鎖し、循環していく状況には、とても興味を覚えます。
映画「トールキン 旅のはじまり」のメガホンを取った ドメ・カルコスキ監督 は、
今年の3月に開催された WonderCon in Anaheim 2019 の場で、次のように話していました。
"This started when I was 12 and I planned the script right then when I read The Lord of the Rings.
It was the first time I entered that world of Middle-earth, and then that led to me reading The Hobbit,
and The Silmarillion at a more adult age. In early 2017 I was sent the script and it actually featured
his life. It was a dream of mine to make The Lord of Rings movies, but I missed that opportunity."
( via ign.com )
同監督の他作品は見ていないため、この監督特有の作風や特色などは把握しておらず、臆測の域を出ませんが、
本作が、作家の前半生を語るというより、作家の有名作品を彼の若き日に重ねてビジュアル化した印象を
与えるように感じるのは、この辺りが原因でしょうか。
戦場でのシーン。熱に冒されたトールキンが目にする幻は、
子どもの頃より親しんだ北欧神話に由来するドラゴンが焔を吐き、馬上の騎士が闘う姿ですが、
いつしか、冥王の影が現れるように描かれます( 一瞬、バルログに見えるようにも、私には思えます... )。
また、本編ラストカットに続き、
第一次世界大戦で T. C. B. S. のメンバーが辿った運命とその後が字幕で紹介されると、
スクリーンには T. C. B. S. の4人と、木漏れ日のなかで踊るエディスのシルエットが浮かび、
ドラゴンと騎士のイメージを経て登場するのは ―― 。
「ガンダルフ」「グワイヒア率いる大鷲の一党」「ゴラム」「シェロブ」「モルドールの地」
そして「小高い丘の上に佇む4人」の、影姿でした。
初見でこれらのビジュアルを目にした時の気持ちは、正直複雑で、実にあざといと思ったし、
同時に、「指輪物語」の原作や映画ファンの急所を突いてくることに感心もしました。
特に、最後に映し出される4人のシルエットは、もちろんホビットのフロド、サム、メリー、ピピンですが、
次いで、現実には叶うことのなかった、戦場から揃って帰還した T. C. B. S. の姿にもイメージが繋がっていくようで、
本作を評価できないながらも、見限ることもせずにリピート鑑賞をしている要因のひとつは、恐らくこれです。
評価することも、見限ることも、できない。
何度も鑑賞し、いろいろ考えて、それでも結局、
映画「トールキン 旅のはじまり」は、私の中で、ここに戻って来てしまうのです。
本作は '捨てることのできない' という意味において、マゾムのようだと思っています。
*~*~*~*
さて、東京での公開劇場のメインシアターだった TOHOシネマズ日比谷は 9月19日(木)で上映終了。
シネ・リーブル池袋 と kino cinema 立川高島屋 S.C.館 では、もう少し上映が続くので、また見に行く予定です。
何故なら、'the Eagle and Child' の台詞 を、まだちゃんと聞き取れていないので(笑)
そして、購入を迷っていた 'Tolkien : Maker of Middle-earth' を買うことに決めました。
「トールキン展( 公式サイト・動画 )」は、以前、こちら を読んでとても気になり、
でも、現地に行くことはできないから、現物は見られないけれど、やはり図録だけでも手元に置きたいな、と。
ジェフリー・バッチ・スミスの手紙は、伝記本 でも、「トールキン 旅のはじまり」でも触れられています。
また、トールキン教授が序文を書いた彼の詩集 'A Spring Harvest' は、現在でも入手可能 です。
++ '19年9月27日追記 ++
池袋と立川ともに1回ずつ足を運び、計5回鑑賞したところで、
ファーストランでの上映が終了しました。
件の台詞は、'the Eagle and Child' の名こそ聴き取れましたが、
前後のヒアリングが微妙なため、円盤発売時には是非英語字幕を付けて欲しいです。
(付かなくても、発売されたら買いますが・苦笑)
名画座等での再上映や、ソフト発売関連の情報が出てくるまでは、
伝記本の再読と、無事に購入することができた 'Tolkien : Maker of Middle-earth' に
目を通したりしつつ、過ごしたいと思います。
*~*~*~*~*~*~*~*~*
映画 『トールキン 旅のはじまり』
◇原題:Tolkien
◇関連サイト:公式サイト ( 日本版 )、IMDb ( 関連ページ )
※海外でのプロモーション関連の情報を、こちら にまとめてあります。
◇鑑賞日:2019.8.30. 他 映画館にて