ささやんの天邪鬼 座右の迷言

世にはばかる名言をまな板にのせて、迷言を吐くエッセイ風のブログです。

囚人のジレンマを斬る

2018-01-04 21:21:34 | 日記
ブログのネタを探すため、何か面白い話題はないかとネットの森を渉猟して
いると、いろいろな情報がころがっている。面白いニュースもあれば、期待
外れの報道もある。今日見かけたニュースのタイトル《囚人のジレンマ実験、
懲罰が報復を生む環境を解明 北海道大学》(大学ジャーナルONLINE)は、
面白そうだと思ったのだが、中身を読んでみると、肩透かしを食らった気が
して、少なからずがっかりした。拍子抜けして、しばらくはブログを書く気
にもならなかった。

このニュースのタイトルが私の興味をそそったのは、ゲーム理論の代表的な
モデルである「囚人のジレンマ」が、ニュースの話題に取りあげられていた
からである。いささか手垢がついた感のある「囚人のジレンマ」問題だが、
わざわざネット・ニュースの話題として取りあげられるからには、よほど面
白い発見があったに違いない。そう思ったのである。

実際、この記事を読み進むと、この研究は「北海道大学が米国、イタリア、
中国など5カ国の大学と進めた『囚人のジレンマ』に関する国際共同研究」
であるとか、「研究成果は米国科学アカデミー紀要にオンライン掲載され
た」といった文言が目についた。

しかし、この研究の中身はどういうものかというと、これが実にくだらない
代物である。ゲーム理論の代表的モデルとしての「囚人のジレンマ」とは、
(このニュース記事の表現を流用すれば)「互いに協力する方がよい結果に
なると分かっていても、協力しない者が利益を得る状況になると互いに協力
しなくなる(のはなぜか)という(問題に関する)理論」である。ゲーム理
論はこの社会的問題を、数学的なアプローチを用いて解明しようとする点に
特徴があり、またそれが醍醐味でもあるのだが、このニュース記事が取りあ
げた北海道大学の共同研究はといえば、225人の被験者を実験材料にした
実証実験の成果報告以外の何ものでもないのである。これでは、「三角形の
内角の和は2直角である。これを証明せよ」という問題に、「225人の被
験者のうち、大部分がそう答えました」と回答するに等しい。これでは「解
答」ではなく、「回答」である。

この「国際共同研究」の英文サマリーがネットで手に入る。私は英語が得意
ではないし、やる気をなくしてしまっていたので、これをメールで(年賀状
の返事がてら)友人に送ってみた。この友人(omg05さん)は、英語が得意
で、ゲーム理論のエキスパートでもある。以下、英文のサマリー原文と、そ
れに対する友人の日本語訳を掲載する。

The evolution of cooperation has a formative role in human societies―
civilized life on Earth would be impossible without cooperation.
However, it is unclear why cooperation would evolve in the first place
because Darwinian selection favors selfish individuals. After struggling
with this problem for >150 y, recent scientific breakthroughs have
uncovered multiple cooperation-promoting mechanisms. We build on
these breakthroughs by examining whether two widely known
cooperation-promoting mechanisms―network reciprocity and costly
punishment―create synergies in a social dilemma experiment. While
network reciprocity fulfilled its expected role, costly punishment proved
to be surprisingly ineffective in promoting cooperation. This
ineffectiveness suggests that the rational response to punishment
assumed in theoretical studies is overly stylized and needs reexamining.

協力の発展は人類社会において形成的役割を担っています。地球上の文明生
活は協力なしでは不可能です。 しかし、ダーウィンの自然選択が利己的な個
人に有利に働くので、そもそもなぜ協力が生成するのか明瞭ではありません。
150年以上にわたってこの問題に苦しんだ後、最近の科学的なブレークス
ルーが、複数の協力促進メカニズムを明らかにしました。 私たちはそれら
のブレークスルーを補強したいと思います。社会的ジレンマ実験において、
ネットワーク相互主義(network reciprocity)と厳しい処罰(costly
punishment)という、広く知られた2つの協力促進メカニズムが相乗効果
を創出するかどうかを調べることによって。 (私たちの実験の結果)ネッ
トワーク相互主義が期待された役割を果たした一方、厳罰は協力を促進する
上で驚くほど効果的でないことが判明しました。 この非効率性は、理論的
研究で仮定された罰に対する合理的な対応(the rational response to
punishment)が過度に様式化されたもので、再検討が必要であることを示
唆しています。

う~ん、ますます分からん。北大の実証実験の研究成果は、ホントにゲーム
理論の進展を「補強する」(build on)ものになっているのだろうか。

omg05さん、訳出ありがとうございました。できればこの北大の研究成果に
ついて、専門家のご感想を伺いたいと思います。本ブログにコメントをいた
だければ幸いです。
コメント (2)
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