ささやんの天邪鬼 座右の迷言

世にはばかる名言をまな板にのせて、迷言を吐くエッセイ風のブログです。

正義、善悪、クーデター

2016-07-22 15:10:32 | 日記
〈正義〉や善悪は唯一ではない。絶対でもない。それがおかれた
状況や、見方によって変わるのが〈正義〉であり、善悪である。
このほどトルコで軍事クーデターが起こったが、この事件がその
ことをよく物語っている。

この事件は、基本的な構図からいえば、次のように要約できるだ
ろう。トルコ軍の一部勢力が、民主的な手続きで選ばれた現政権
を、武力で転覆させようとした企てである、と。

この構図で見る限り、【トルコ政府=善、軍事勢力=悪】という
ことになる。民主的な手続きで選ばれた政権は、そのことによっ
て正統性を持ち、〈正義〉を体現している。これを非民主的な手
段で転覆させようとする企ては到底許されない、非難されるべき
行為だということになる。

だが、この軍事クーデターがなぜ起こったのかを考えてみなけれ
ばならない。見逃せないのは、それが、(反政府デモの弾圧や言
論規制といった)エルドアン現政権の、その強権的統治姿勢に対
する反発の意味を持っていることである。この面から見る限りで
は、【トルコ政府=悪、軍事勢力=善】ということになって、
【善悪】は完全に逆転する。

このクーデターは失敗に終わったが、これを受けてエルドアン現
政権が用いた事後処理の手法も、欧米諸国の反発を呼び、批判の
的になっている。関係者の拘束や解任によって、対立勢力を一掃
しようとするエルドアン現政権の、その強権的な非人道的手法に
対して、国際社会は共感を示さないどころか、逆に懸念を深めて
いる。

それではエルドアン政権のそうした強権的姿勢に、欧米の国際社
会が懸念を示すのは、なぜなのか。それは、エルドアン現政権の
そうした統治姿勢が、トルコの政治状況を不安定なものにしかね
ないからである。

押さえておく必要があるのは、欧米諸国にとってのトルコの存在意
義である。そこのところを、毎日の社説はうまくまとめている。
「欧米はじめ国際社会にとって、過激派組織「イスラム国」(IS)
の封じ込めや、欧州へ流入するシリア難民問題への対応で、トルコ
の安定と協力は欠かせない。」
(7月22日付《トルコ非常事態 強権の拡大が目に余る》)

つまり、欧米諸国にとって「安定したトルコ」は、自国の安全保
障にとって必要不可欠な【善】なる存在であり、したがってトル
コ現政権の強権的統治体質は、これまでトルコの安定化に寄与し
た限りでは、【善】なるものだった。
しかし、情勢は変わり、他ならぬこの統治体質が、トルコの不
安定化の原因になっている。そういう現状では、現政権はもは
や【悪】なる存在でしかない、ということなのである。

ただし、である。我々は、トルコ現政権にまつわるこの【善、悪】
の評価が、あくまでも欧米諸国から見たものだという点に注意しな
ければならない。
欧米諸国が封じ込めようとする過激組織IS(「イスラム国」)から
見れば、この評価は逆転し、トルコの不安定化の原因になる現政権
の強権的体質は、自分たちに好都合な【善】なるものだということ
になるだろう。

すべてはトルコの政情と、それに対して現政権がどう作用するか
に懸かっている。もうしばらくはトルコの政情を見守り、そこか
ら来る【善悪】の帰趨に気を配る必要がありそうだ。
コメント
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