9月下旬の平日の夜、ミウは、この「月夜野」に越してきて、「朝日ヘルパー」に就職した日に出席した、歓迎会の席を思い出していた。
皆、笑顔で歓迎してくれた。所長の竹島を始めとした同僚達・・・元ヤンの咲田も、その席には出席していた。
ミウの横には、世話焼き好きの豊島テルコが座り、一緒にビールを飲んでいた。
その時のシーンが頭に蘇る・・・。
「しかし、姫ちゃんも、よくもまあ、この街にやってきたもんだねえ」
と、テルコは話している。
「え?どういうことですか?」
と、ミウは思わず質問する。
「この街は・・・皆、19歳になると、都会にあこがれて出て行ってしまう街だからだ」
と、テルコは事も無げに言う。
「過疎という程じゃねえが・・・19歳から上の大人の男も、女も・・・皆、都会に行っちまうから、ジジババか、18歳までの子供しか残ってねえ」
と、テルコは言う。
「だから・・・出会いなんか、ねーぞ。まあ、農家の息子って手がねえではねえが・・・農家の息子も結構な歳寄りになっちまってるからな」
と、テルコは言う。
「俺にも娘がいるんだが・・・東京さ出てって・・・それ以来帰ってこねえ」
と、テルコは少し寂しそうに言う。
「孫もいるんだが・・・爺ちゃんも歳だから、近くに住めって、言ったって、言うこと聞かねえ・・・あいつら月夜野に戻ってくる気もねえみたいだ」
と、テルコは寂しそうに言う。
「どこでも、そうだ・・・だから、おらも働いてるってことだ。家にいたって仕方ねーし、少しでもゼニコ稼いだ方がええがらな」
と、テルコは言う。
「それが月夜野の真実だ。ジジババと子供の街だ・・・だから、この街で、出会いなんて考えても、無駄だからな」
と、テルコは言った。
「わたし、そういうのが、嫌で・・・男性と出会いたくなくて、この街に逃げてきたんです・・・」
と、ミウはポツリと言った。
「ほんとか、それ、お前」
その時、それまで静かにビールを飲んでいた咲田ヨウコが怒りの表情を顕にしながら、静かに聞いてくる。
「うん」
と、ミウがコクリと頷くと、ヨウコは、強い目でミウを見つめ、それから、下を向いて、また、ビールを飲み続けた。
「ヨウコも何かワケありみてえだ。あんなに美しい子が、この「月夜野」にいるなんて、おがしいからな」
と、テルコは小さな声で、ミウに告げた。
その時以来、ヨウコはミウに冷たくあたるようになった。
「だからよ、この街には、希望なんて、ねえんだ」
と、テルコは言う。
「「月夜野」なんて、へたに風流な名前がついてるもんでえ、勘違いして引っ越ししてくる奴もいるが・・・半年と持たねえ・・・皆、出てっちまう」
と、テルコは少しビールに酔いながら言葉にする。
「早くいえば、夢がねえ。そういう街だど。この「月夜野」って街は・・・それでも、我慢できるが?姫ちゃんよ」
と、テルコは言う。寂しそうに・・・。
「そういう街だから・・・引っ越してきたんです。わたし・・・」
と言ってミウは笑顔になった。でも、涙で少し笑顔がゆがんだ。
ヨウコはその歪んだミウの笑顔を静かに見ていた。
「夢の無い街かあ・・・」
と、ミウは、白ワインを飲みながら、そういう言葉にしていた。
「確かに・・・今まで働いてきて、若い男性に会ったことがないもんな、この街では・・・」
と、ミウは言葉にする。
「出会うのは、老人と子供ばかり・・・」
と、ミウは感慨深く、言葉にする。
「わたし、早くこの街を出たいの・・・」
仕事で知り合いになった農家の島田さんの高校生の娘「アキちゃん」が言葉にしていた。
「わたし、農家なんて継ぐ気ないし、東京でOLをやりながら、素敵な王子様を探すんだ」
と、目をハートマークにしながら言葉にしたアキちゃんの言葉を思い出す。
「だって、女性のしあわせは、出会う男性によって決まるでしょ?」
と、アキちゃんは話してくれた。
「そうね。そういうものよね・・・」
と、ミウは大人びて頷く。
「でも・・・なんでミウさんは、独り身で、この街にいるんですか?」
と、アキちゃんは不思議そうに聞く。
「え、それは・・・仕事がこの街にあるから・・・かな?」
と、ミウはしどろもどろになって答える。
「失礼かもしれないけど・・・介護士って、東京でも出来る仕事なんじゃないですか?」
と、アキは鋭く質問してくる。
「まあ、そうね・・・だとすれば・・・この街の自然が好きなのね、わたし・・・」
と、ミウは言う。
「この街の自然ですか?」
と、アキは不思議そうな顔をする。
「大人になるとわかるわ・・・東京の街なんかより、「月夜野」の自然の方がいいって思える日が・・・大人になると来るの・・・そういう時が・・・」
と、ミウは言う。
「ふーん・・・わたし、子供なんでしょうね。東京の方が全然好きだし、東京で、素敵な男性に出会って、お嫁さんになるのが、夢ですから・・・」
と、アキは言った。
「わたしも、あなたくらいの頃は、そう思っていたわ。そういう夢を持っていた・・・懐かしいわ」
と、ミウは言う。
「でも・・・自然こそが、わたし達にやさしくしてくれるのよ・・・」
と、ミウが言う。
「「月夜野」の自然・・・あなたも、この「月夜野」の街の語源になった、夜の月を見たことなあい?秋から冬は特に美しいって言うじゃない、「月夜野」の月は・・・」
と、ミウは言う。
「あー、わたし、そんなに注意して、月見てなかったかも?」
と、アキちゃんは言ってくれる。
「今度、一度、注意して、月、見てごらん。それはそれは美しいから」
と、ミウが言うと、
「わかりました。今度、注意深く、「月夜野」の月を見てみます」
と、素直なアキは笑顔で、言ってくれた。
「それに・・・」
と、ミウは言いよどむ・・・。
「人生って、そうそう、うまくいかない時もあるから・・・それも覚えておいて」
と、ミウが言うと、アキは少し不思議そうな顔をしてから、コクリと頷き、走っていった。
「しかし、姫ちゃんはなぜ、うちみたいな事務所で働くことを希望したんだ?」
と、所長の竹島と二人きりになった時、さらりと聞かれたことを思い出したミウだった。
「それは・・・わたし、おじいちゃん、おばあちゃん子だったので・・・そういう方をサポートしたいと長く思っていたので・・・」
と、ミウは言葉にした。
「ふうーん・・・殊勝な女性だなあ、姫ちゃんは・・・今どき、珍しいよ、そういう女性は・・・」
と、人のよい竹島は、笑顔で頷く。
「ただ・・・介護士の仕事は、こう言うとあれだが、全身を相手に密着させることだって普通にあるんだよ。それ耐えられる?」
と、竹島は確認する。
「だ・・・大丈夫です」
と、ミウは言葉にする。
「まあ、こう言うとあれなんだが・・・老人だって、男だからねー。わざと身体を押し付けてくる不心得な男性もたくさん、いるんだ」
と、竹島は言葉にする。
「と言うか、むしろ、姫ちゃんみたいな美しい女性だったら・・・下半身をわざと押し付けてくる男性だって、出てくる事だって、あるよ」
と、竹島は真面目な顔して言う。
「それでも、耐えられるかね?」
と、竹島は真面目な顔で聞いてくる。
「大丈夫です。仕事だと割り切れれば・・・それだって、仕事のうちでしょう?そう思えれば、わたしは、頑張れます」
と、ミウは笑顔で返す。
「そうか・・・まあ、それと姫ちゃんは、身体が小さいから・・・ちょっと大変かもしれんがな。肉体労働だし」
と、竹島が心配すると、
「いいんです。それ・・・それだから、いいんです」
と、ミウは強い口調で言う。
「え、どういうこと?」
と、竹島は聞く。
「私、親孝行しているつもりで、全力でやりたいんです。親孝行出来ていないから、だからこそ、親孝行の代わりに、自分を痛めつけたいんです」
と、ミウは強い口調で、竹島を見つめながら、言った。
「そうか・・・姫ちゃんは、強いんだな」
と、竹島は満足そう言った。
ミウは少しはにかみながら、笑顔になった。
「わたし・・・他の人の前では・・・いい子ぶりっ子しちゃうんだ・・・いつの間にか・・・」
と、ウィスキーの水割りを飲みながら、ミウは言葉にした。
「本音を隠して・・・他人によく思われたいって、わたし思ってるんだ・・・でも、それって、当たり前のことよね?」
と、ミウは自分に問いかける。
「だって、やさしくされたいもの・・・よく思われたいもの・・・それはいけないことなの?」
と、ミウは自分に言う・・・。
「いい子ぶりっ子・・・かあ・・・なんか、それもいやだな」
と、ミウはつぶやく・・・。
「でも・・・この街に・・・夢が無いのは・・・正直、つらいな」
と、ミウはつぶやく。
「せめて、出会いが・・・男性との出会いさえ、あれば・・・少しは違うのに・・・」
と、ミウは言葉にする。
「だめね、わたし・・・それ、諦めたから、この街に来たはずなのに・・・」
と、ミウは言う。
「でも・・・でも、男性との出会いを諦めたくない・・・やっぱり、わたしは・・・おんななんだわ・・・」
と、ミウは言葉にしていた。
そんな夜が明けた・・・次の日の朝の8時・・・日曜日の朝は気持ちのいい時間が流れていた。
ミウは朝ごはんを準備していた。
「オムレツを焼いて・・・と、サラダも出来たし、お新香も用意して・・」
と、ミウは楽しげに働いている。
「ふー。準備出来たわ・・・いただきます、と・・・」
と、ミウは少し嬉しそうに朝ごはんを食べだす。
「日曜日の朝は、さすがに気分がいいわね・・・今日は休みだし」
と、ミウは言葉にする。
「と言ったって、何の予定もないけどね・・・」
と、ミウは苦笑いしながら、朝ごはんを食べている。
「まあ、いいわ・・・買い物はしてあるから、一日家にいて、楽しめばいいし・・・のんびりしよう。たまの休みくらい・・・」
と、ミウは少しだけ笑顔でつぶやいている。
「ほんと、2週間ぶりかしら・・・休みが取れるなんて・・・」
と、ミウは白いごはんを口に入れながら、のんびりとした表情をしている。
食事を終えたミウは、パソコンを立ち上げ、ネットをやり始める。
「休みの朝、気持ちよい時間、どこまでも、歩いていきたい。わたしを待っている誰かのいる、そちらの方向へ」
ミウはいつものように、思いついた詩を自分のブログに書き込んだ。それだけで彼女は自分が何者かになれているような気がしていた。
「よし、アップ、っと。まあ、誰からもコメント貰えないけど・・・いいの。思ったことを言葉にするだけで、スッキリするから」
と、ミウが言葉にすると、少し間を置いて、ミウの携帯が鳴り始めた。
(つづく)
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皆、笑顔で歓迎してくれた。所長の竹島を始めとした同僚達・・・元ヤンの咲田も、その席には出席していた。
ミウの横には、世話焼き好きの豊島テルコが座り、一緒にビールを飲んでいた。
その時のシーンが頭に蘇る・・・。
「しかし、姫ちゃんも、よくもまあ、この街にやってきたもんだねえ」
と、テルコは話している。
「え?どういうことですか?」
と、ミウは思わず質問する。
「この街は・・・皆、19歳になると、都会にあこがれて出て行ってしまう街だからだ」
と、テルコは事も無げに言う。
「過疎という程じゃねえが・・・19歳から上の大人の男も、女も・・・皆、都会に行っちまうから、ジジババか、18歳までの子供しか残ってねえ」
と、テルコは言う。
「だから・・・出会いなんか、ねーぞ。まあ、農家の息子って手がねえではねえが・・・農家の息子も結構な歳寄りになっちまってるからな」
と、テルコは言う。
「俺にも娘がいるんだが・・・東京さ出てって・・・それ以来帰ってこねえ」
と、テルコは少し寂しそうに言う。
「孫もいるんだが・・・爺ちゃんも歳だから、近くに住めって、言ったって、言うこと聞かねえ・・・あいつら月夜野に戻ってくる気もねえみたいだ」
と、テルコは寂しそうに言う。
「どこでも、そうだ・・・だから、おらも働いてるってことだ。家にいたって仕方ねーし、少しでもゼニコ稼いだ方がええがらな」
と、テルコは言う。
「それが月夜野の真実だ。ジジババと子供の街だ・・・だから、この街で、出会いなんて考えても、無駄だからな」
と、テルコは言った。
「わたし、そういうのが、嫌で・・・男性と出会いたくなくて、この街に逃げてきたんです・・・」
と、ミウはポツリと言った。
「ほんとか、それ、お前」
その時、それまで静かにビールを飲んでいた咲田ヨウコが怒りの表情を顕にしながら、静かに聞いてくる。
「うん」
と、ミウがコクリと頷くと、ヨウコは、強い目でミウを見つめ、それから、下を向いて、また、ビールを飲み続けた。
「ヨウコも何かワケありみてえだ。あんなに美しい子が、この「月夜野」にいるなんて、おがしいからな」
と、テルコは小さな声で、ミウに告げた。
その時以来、ヨウコはミウに冷たくあたるようになった。
「だからよ、この街には、希望なんて、ねえんだ」
と、テルコは言う。
「「月夜野」なんて、へたに風流な名前がついてるもんでえ、勘違いして引っ越ししてくる奴もいるが・・・半年と持たねえ・・・皆、出てっちまう」
と、テルコは少しビールに酔いながら言葉にする。
「早くいえば、夢がねえ。そういう街だど。この「月夜野」って街は・・・それでも、我慢できるが?姫ちゃんよ」
と、テルコは言う。寂しそうに・・・。
「そういう街だから・・・引っ越してきたんです。わたし・・・」
と言ってミウは笑顔になった。でも、涙で少し笑顔がゆがんだ。
ヨウコはその歪んだミウの笑顔を静かに見ていた。
「夢の無い街かあ・・・」
と、ミウは、白ワインを飲みながら、そういう言葉にしていた。
「確かに・・・今まで働いてきて、若い男性に会ったことがないもんな、この街では・・・」
と、ミウは言葉にする。
「出会うのは、老人と子供ばかり・・・」
と、ミウは感慨深く、言葉にする。
「わたし、早くこの街を出たいの・・・」
仕事で知り合いになった農家の島田さんの高校生の娘「アキちゃん」が言葉にしていた。
「わたし、農家なんて継ぐ気ないし、東京でOLをやりながら、素敵な王子様を探すんだ」
と、目をハートマークにしながら言葉にしたアキちゃんの言葉を思い出す。
「だって、女性のしあわせは、出会う男性によって決まるでしょ?」
と、アキちゃんは話してくれた。
「そうね。そういうものよね・・・」
と、ミウは大人びて頷く。
「でも・・・なんでミウさんは、独り身で、この街にいるんですか?」
と、アキちゃんは不思議そうに聞く。
「え、それは・・・仕事がこの街にあるから・・・かな?」
と、ミウはしどろもどろになって答える。
「失礼かもしれないけど・・・介護士って、東京でも出来る仕事なんじゃないですか?」
と、アキは鋭く質問してくる。
「まあ、そうね・・・だとすれば・・・この街の自然が好きなのね、わたし・・・」
と、ミウは言う。
「この街の自然ですか?」
と、アキは不思議そうな顔をする。
「大人になるとわかるわ・・・東京の街なんかより、「月夜野」の自然の方がいいって思える日が・・・大人になると来るの・・・そういう時が・・・」
と、ミウは言う。
「ふーん・・・わたし、子供なんでしょうね。東京の方が全然好きだし、東京で、素敵な男性に出会って、お嫁さんになるのが、夢ですから・・・」
と、アキは言った。
「わたしも、あなたくらいの頃は、そう思っていたわ。そういう夢を持っていた・・・懐かしいわ」
と、ミウは言う。
「でも・・・自然こそが、わたし達にやさしくしてくれるのよ・・・」
と、ミウが言う。
「「月夜野」の自然・・・あなたも、この「月夜野」の街の語源になった、夜の月を見たことなあい?秋から冬は特に美しいって言うじゃない、「月夜野」の月は・・・」
と、ミウは言う。
「あー、わたし、そんなに注意して、月見てなかったかも?」
と、アキちゃんは言ってくれる。
「今度、一度、注意して、月、見てごらん。それはそれは美しいから」
と、ミウが言うと、
「わかりました。今度、注意深く、「月夜野」の月を見てみます」
と、素直なアキは笑顔で、言ってくれた。
「それに・・・」
と、ミウは言いよどむ・・・。
「人生って、そうそう、うまくいかない時もあるから・・・それも覚えておいて」
と、ミウが言うと、アキは少し不思議そうな顔をしてから、コクリと頷き、走っていった。
「しかし、姫ちゃんはなぜ、うちみたいな事務所で働くことを希望したんだ?」
と、所長の竹島と二人きりになった時、さらりと聞かれたことを思い出したミウだった。
「それは・・・わたし、おじいちゃん、おばあちゃん子だったので・・・そういう方をサポートしたいと長く思っていたので・・・」
と、ミウは言葉にした。
「ふうーん・・・殊勝な女性だなあ、姫ちゃんは・・・今どき、珍しいよ、そういう女性は・・・」
と、人のよい竹島は、笑顔で頷く。
「ただ・・・介護士の仕事は、こう言うとあれだが、全身を相手に密着させることだって普通にあるんだよ。それ耐えられる?」
と、竹島は確認する。
「だ・・・大丈夫です」
と、ミウは言葉にする。
「まあ、こう言うとあれなんだが・・・老人だって、男だからねー。わざと身体を押し付けてくる不心得な男性もたくさん、いるんだ」
と、竹島は言葉にする。
「と言うか、むしろ、姫ちゃんみたいな美しい女性だったら・・・下半身をわざと押し付けてくる男性だって、出てくる事だって、あるよ」
と、竹島は真面目な顔して言う。
「それでも、耐えられるかね?」
と、竹島は真面目な顔で聞いてくる。
「大丈夫です。仕事だと割り切れれば・・・それだって、仕事のうちでしょう?そう思えれば、わたしは、頑張れます」
と、ミウは笑顔で返す。
「そうか・・・まあ、それと姫ちゃんは、身体が小さいから・・・ちょっと大変かもしれんがな。肉体労働だし」
と、竹島が心配すると、
「いいんです。それ・・・それだから、いいんです」
と、ミウは強い口調で言う。
「え、どういうこと?」
と、竹島は聞く。
「私、親孝行しているつもりで、全力でやりたいんです。親孝行出来ていないから、だからこそ、親孝行の代わりに、自分を痛めつけたいんです」
と、ミウは強い口調で、竹島を見つめながら、言った。
「そうか・・・姫ちゃんは、強いんだな」
と、竹島は満足そう言った。
ミウは少しはにかみながら、笑顔になった。
「わたし・・・他の人の前では・・・いい子ぶりっ子しちゃうんだ・・・いつの間にか・・・」
と、ウィスキーの水割りを飲みながら、ミウは言葉にした。
「本音を隠して・・・他人によく思われたいって、わたし思ってるんだ・・・でも、それって、当たり前のことよね?」
と、ミウは自分に問いかける。
「だって、やさしくされたいもの・・・よく思われたいもの・・・それはいけないことなの?」
と、ミウは自分に言う・・・。
「いい子ぶりっ子・・・かあ・・・なんか、それもいやだな」
と、ミウはつぶやく・・・。
「でも・・・この街に・・・夢が無いのは・・・正直、つらいな」
と、ミウはつぶやく。
「せめて、出会いが・・・男性との出会いさえ、あれば・・・少しは違うのに・・・」
と、ミウは言葉にする。
「だめね、わたし・・・それ、諦めたから、この街に来たはずなのに・・・」
と、ミウは言う。
「でも・・・でも、男性との出会いを諦めたくない・・・やっぱり、わたしは・・・おんななんだわ・・・」
と、ミウは言葉にしていた。
そんな夜が明けた・・・次の日の朝の8時・・・日曜日の朝は気持ちのいい時間が流れていた。
ミウは朝ごはんを準備していた。
「オムレツを焼いて・・・と、サラダも出来たし、お新香も用意して・・」
と、ミウは楽しげに働いている。
「ふー。準備出来たわ・・・いただきます、と・・・」
と、ミウは少し嬉しそうに朝ごはんを食べだす。
「日曜日の朝は、さすがに気分がいいわね・・・今日は休みだし」
と、ミウは言葉にする。
「と言ったって、何の予定もないけどね・・・」
と、ミウは苦笑いしながら、朝ごはんを食べている。
「まあ、いいわ・・・買い物はしてあるから、一日家にいて、楽しめばいいし・・・のんびりしよう。たまの休みくらい・・・」
と、ミウは少しだけ笑顔でつぶやいている。
「ほんと、2週間ぶりかしら・・・休みが取れるなんて・・・」
と、ミウは白いごはんを口に入れながら、のんびりとした表情をしている。
食事を終えたミウは、パソコンを立ち上げ、ネットをやり始める。
「休みの朝、気持ちよい時間、どこまでも、歩いていきたい。わたしを待っている誰かのいる、そちらの方向へ」
ミウはいつものように、思いついた詩を自分のブログに書き込んだ。それだけで彼女は自分が何者かになれているような気がしていた。
「よし、アップ、っと。まあ、誰からもコメント貰えないけど・・・いいの。思ったことを言葉にするだけで、スッキリするから」
と、ミウが言葉にすると、少し間を置いて、ミウの携帯が鳴り始めた。
(つづく)
→主要登場人物へ
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