雪と聡美は大学を出た後、ショッピングモールへとやって来た。
二人して雑貨などをブラブラと見て回る。
「ポケットカイロ?」「ボタン押すと暖かくなるんだってー」
ひとしきり見て回り歩き疲れた二人は、カフェで一息つくことにした。
「試験全部終わったの?」「うん」
「いいなーあたし明日教養が一つ残ってる」
「そんな難しくないんでしょ?ちゃちゃっと勉強しとけば大丈夫じゃない?」
「うう〜もう勉強したくない‥」
「あれ?てか明日大丈夫なの?お父さんの病院行くんでしょ?」
「大丈夫。午前中試験受けてからすぐ帰るし!」「良かった」
雪がそう相槌を打つと、突然聡美はギンと目を見開いてこう口にした。
「問題は太一よ!」
「軍隊に行く男に何をあげたら良いかって話よ!」
「良いものあげてもどうせ持って行けないもんねぇ」
「てか急展開すぎて考える余裕もないのよ!いくら見送る覚悟はしてるって言ってもさぁ、
煮え切らない関係続けてる間に軍隊行くこと言っとけっつー話よ!」
「太一は自分の話しないからねぇ‥一人で解決しちゃって」
雪が軽く笑いながらそう言うと、それが聡美のゲキリンに触れた。
「それが寂しいんじゃないそれが!」
「雪もそうだけど太一もそうよ!
どうしてあたしの周りは全部一人で解決しようとする子ばっかかなぁ?!」
「なんでいきなり私に矛先が‥」
あの日聡美から言われた言葉が、鮮明に脳裏に蘇る。
「アンタはいつもそう!必要な場面で黙ってばかりいて!」
「あーもーマジでどうしよ〜検索してみよ」
物事を深く考え過ぎるくせに、それを口に出すことをひどく躊躇う。
それが雪の性分だが、それは彼に関しても言えることだった。
突然来校した先輩と一緒に授業を受けた時のこと。
先輩は前方の席に座った柳瀬健太の背中をじっと睨んでいた。
隣に座っていた雪が、いくら見つめても気付かない。
光を宿さぬその瞳には、領域を犯したターゲットの背中が映っている。
彼が考えていることは、聞かなくても分かる気がした。
いやどうせ聞いたところで、はぐらかされるだけだっただろう。
先輩が健太先輩に対して腹を立てるのは理解出来るけど、
やっぱり私の知らないところで事を進めていたんだな
どうして何も言ってくれなかったのと言えないのは、
私だって静香さんと勉強していたことを黙っていたからだ。
そう。私に彼を責める権利はない。
私は先輩がこういった行動に出る度、おかしいと言って怒っていたけれど、
結局私だって黙っていたことがあった。
以前聡美のお父さんが倒れた時、病院でこんなことを彼と話し合った。
「私も努力します。お互いに嫌なことがあったとしても全部忘れて」
「これからは失望することや不満に思うことがあれば、すぐに話し合って‥
私も、先輩も」
これから付き合って行く上での二人の約束事。
あの時彼は、それに笑顔で頷いた。
「ああ」
なのに。
何なんだろう、今の私達の状況は。まるでメビウスの輪のように繰り返す
相手の為という免罪符を掲げ口を噤み、自分の中で結論を下して事を進める。
彼も、そしていつしか彼女も。
それはまるで連鎖だった。
あたかもメビウスの輪のような。
「もー知らない!」
太一へのプレゼントの検索を諦めた聡美は、そう言って雪に笑い掛ける。
「雪!冬休みどっか遊びに行こう!ペンション借りてさ!女子旅しちゃおうよ!」
「うん、いいね」
あの日壊れるかと思った聡美との関係は、今も続いている。
仲直りの時本音を語ったお陰で、絆はより強固なものになった。
そのきっかけをくれたのは彼だった。
けれどその彼とはずっと、問題は平行線だ‥。
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<メビウスの輪>でした。
似たもの同士故に繰り返してしまう負の連鎖‥。
そしてやっぱり健太を睨んでトントンしてた時の先輩、雪ちゃん見てたんですね。
そんな先輩も受け入れると言ってあげて欲しいですね。もう逃げないよと。
この二人は圧倒的に話すべき言葉が足りない‥。
細かいクラブとしては、先輩の後ろに回した手が塗り忘れ!
次回は<逆進>です。
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