それは疎ましくて仕方がなかった、一年前の彼女の声。
「おはようございます、先輩」


その無理矢理な挨拶が、淳の神経を逆撫でする。
彼女もまた自身を侵害する大多数の人々と同じだと、始めはそう思っていた。

普遍だと思っていた日常に、ある時変数が生じた。

彼女との出会いは、淳にこんな真理を実感させた。
この世界には予測出来ないことが起こり得るのだ、ということを。

そっけない挨拶を繰り返す内、次第に彼女の反応は変化して行った。
彼女はその鋭敏さで淳の本質を見抜き、嘲笑い、背を向ける。

彼女が気になってしょうがなかった。
気付いたことは、
向き合った彼女の瞳に映る自分は、彼女と同じ表情をしているということ。

あれは学園祭準備で二人きりになった夜。
遠くで鳴る雷鳴と雨の音を聞きながら、彼女が抱える孤独を知った。

掴まれたのは指先だけじゃない。
あの時心も掴まれたのだ。

君に関わるといつも

彼女との接し方をガラリと変えたのは、この春のことだった。
「一緒に飯でも食いに行かない?」「へっ?!」

ゆっくりと、逃げられないように。
「おはよう」「はい?!私ですか?!」

計算通りに、囲い込む。
「お、おはようございます‥」

しかし次第に、その変数は大きくなっていった。

亮と彼女が手を繋いで走り去る写真を見た時、胸が騒いで仕方がなかった。
夏の夜に、彼女を繋ぎ止める為に講じた策。
「俺と付き合わない?」

打って出る度に変数は誤差となるが、どうしてもゼロにはならなかった。
「いつかあの子があんたに背を向ける日が来るさ‥クククク‥」

それでも全ては想定の範囲内で収まったし、二人の関係は順調に育っていた。
かつて彼女に掛けた魔法の言葉を、彼女自身が口にするようになるまでに。
「笑顔でいて下さい。私と一緒に」

たとえどんな変数が発生したとしても、
その後は自分の思い通りに出来ると思っていたけど

彼女と乗った地下鉄の中で、淳は自ら思いを語った。
「どうしてもっと前からこう出来なかったんだろう。最初からもっと優しく出来てたら‥」

それと同じ気持ちを、亮が口にし釘を差した。
「少なくとも今後悔してることがあんなら、今後ダメージの前で同じことはすんな」

変数は、その後悔を軸にして値を変化させ始める。

だんだんと、彼女が皆を見る目が変わって行った。
敵は誰か、利用出来る者は居るか、どうすればさざ波に侵害されずに居られるかー‥。

「健太先輩も直美さんも私の望み通りになって、少し怖い気もするんですけど‥」

「正直、嬉しいんです」

彼らは互いを映す鏡だった。
「やられっぱなしはもう嫌だから‥」

二人は互いに影響を及ぼし合い、その影響はさざ波のように互いに打ち寄せる。
「今は前よりもっと、先輩のことが理解出来る気がします」


こんなことになるなんて思いもしなかった。

そしてその変数は自分が作り出したのだと、どうして気づかなかったんだろう。

いつか彼女の中に見た自身の面影が、いつしか彼女自身を捕って喰おうとしていた。
頭の中で、以前父が口にした言葉が反響する。
「世の中全てが、お前の思い通りになる訳ではない」


変数は、突然予想もつかない値をつけてやって来る。
その手の中に掌握していたはずの計算式は、いつのまにか狂っていた。

淳は今暗闇の中に居た。
求める答えの手掛かりはなく、変数はだんだんと大きくなるー‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<狂った計算式>でした。
皆さま明けましておめでとうござます
今年もよろしくお願い致します
さて、新年早々淳の回でしたが‥。
自分(ブラック淳)に似てくる雪を見てあれほどの衝撃を受けていたのは、それが全くの予想外だったからだったのですね。
雪と関わる中で自分が変わるとは思ってなかったように、自分に関わることで雪が変わることも全く考えていなかったと。
今までブラック淳は自分を侵害する全ての人を駆逐してきましたからね
こんなに深く人と関わることは初めてだから、そういう人間の心理が分からなかったんですねぇ。
そして父の言葉
「もう受け入れなければいけない。大人なのだから。
世の中全てが、お前の意のままになるわけではないということを」
を心から実感する流れとなるのか。。なるほど‥。
こうなると保健室での淳の言葉「君を理解出来るのは俺しかいない」というのが
根底から崩れて来ますよね。雪はやがて淳の手を必要としなくとも生きていけるようになる‥。
恐怖でしょうねぇ。だんだんと淳が人間らしくなってきましたね。
ていうか今回の感想長っ(笑)
次回は<満足感と閉塞感>です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は文章が途中で切れ、
半角記号、ハングルなどは化けてしまうので、極力使われないようお願いします!
人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ
引き続きキャラ人気投票も行っています〜!
「おはようございます、先輩」


その無理矢理な挨拶が、淳の神経を逆撫でする。
彼女もまた自身を侵害する大多数の人々と同じだと、始めはそう思っていた。

普遍だと思っていた日常に、ある時変数が生じた。

彼女との出会いは、淳にこんな真理を実感させた。
この世界には予測出来ないことが起こり得るのだ、ということを。

そっけない挨拶を繰り返す内、次第に彼女の反応は変化して行った。
彼女はその鋭敏さで淳の本質を見抜き、嘲笑い、背を向ける。



彼女が気になってしょうがなかった。
気付いたことは、
向き合った彼女の瞳に映る自分は、彼女と同じ表情をしているということ。

あれは学園祭準備で二人きりになった夜。
遠くで鳴る雷鳴と雨の音を聞きながら、彼女が抱える孤独を知った。

掴まれたのは指先だけじゃない。
あの時心も掴まれたのだ。

君に関わるといつも

彼女との接し方をガラリと変えたのは、この春のことだった。
「一緒に飯でも食いに行かない?」「へっ?!」

ゆっくりと、逃げられないように。
「おはよう」「はい?!私ですか?!」

計算通りに、囲い込む。
「お、おはようございます‥」

しかし次第に、その変数は大きくなっていった。

亮と彼女が手を繋いで走り去る写真を見た時、胸が騒いで仕方がなかった。
夏の夜に、彼女を繋ぎ止める為に講じた策。
「俺と付き合わない?」

打って出る度に変数は誤差となるが、どうしてもゼロにはならなかった。
「いつかあの子があんたに背を向ける日が来るさ‥クククク‥」

それでも全ては想定の範囲内で収まったし、二人の関係は順調に育っていた。
かつて彼女に掛けた魔法の言葉を、彼女自身が口にするようになるまでに。
「笑顔でいて下さい。私と一緒に」

たとえどんな変数が発生したとしても、
その後は自分の思い通りに出来ると思っていたけど

彼女と乗った地下鉄の中で、淳は自ら思いを語った。
「どうしてもっと前からこう出来なかったんだろう。最初からもっと優しく出来てたら‥」

それと同じ気持ちを、亮が口にし釘を差した。
「少なくとも今後悔してることがあんなら、今後ダメージの前で同じことはすんな」

変数は、その後悔を軸にして値を変化させ始める。

だんだんと、彼女が皆を見る目が変わって行った。
敵は誰か、利用出来る者は居るか、どうすればさざ波に侵害されずに居られるかー‥。

「健太先輩も直美さんも私の望み通りになって、少し怖い気もするんですけど‥」

「正直、嬉しいんです」

彼らは互いを映す鏡だった。
「やられっぱなしはもう嫌だから‥」

二人は互いに影響を及ぼし合い、その影響はさざ波のように互いに打ち寄せる。
「今は前よりもっと、先輩のことが理解出来る気がします」


こんなことになるなんて思いもしなかった。

そしてその変数は自分が作り出したのだと、どうして気づかなかったんだろう。

いつか彼女の中に見た自身の面影が、いつしか彼女自身を捕って喰おうとしていた。
頭の中で、以前父が口にした言葉が反響する。
「世の中全てが、お前の思い通りになる訳ではない」


変数は、突然予想もつかない値をつけてやって来る。
その手の中に掌握していたはずの計算式は、いつのまにか狂っていた。

淳は今暗闇の中に居た。
求める答えの手掛かりはなく、変数はだんだんと大きくなるー‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<狂った計算式>でした。


今年もよろしくお願い致します

さて、新年早々淳の回でしたが‥。
自分(ブラック淳)に似てくる雪を見てあれほどの衝撃を受けていたのは、それが全くの予想外だったからだったのですね。
雪と関わる中で自分が変わるとは思ってなかったように、自分に関わることで雪が変わることも全く考えていなかったと。
今までブラック淳は自分を侵害する全ての人を駆逐してきましたからね

こんなに深く人と関わることは初めてだから、そういう人間の心理が分からなかったんですねぇ。
そして父の言葉
「もう受け入れなければいけない。大人なのだから。
世の中全てが、お前の意のままになるわけではないということを」
を心から実感する流れとなるのか。。なるほど‥。
こうなると保健室での淳の言葉「君を理解出来るのは俺しかいない」というのが
根底から崩れて来ますよね。雪はやがて淳の手を必要としなくとも生きていけるようになる‥。
恐怖でしょうねぇ。だんだんと淳が人間らしくなってきましたね。
ていうか今回の感想長っ(笑)
次回は<満足感と閉塞感>です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は文章が途中で切れ、
半角記号、ハングルなどは化けてしまうので、極力使われないようお願いします!
人気ブログランキングに参加しました


