その頃大学では、うっかり美大に足を運んだ河村静香が眉をひそめて立っていた。
「何なの‥こっちに来ちゃったじゃない。赤山に会いに来たはずなのに‥」
目の前には佐藤広隆と小西恵がいる。
二人はふらつく静香に駆け寄った。
「君、酒飲んでるのか?!」
「静香さん、うちらの発表さっき終わったとこなんですよ!」
「どうして来なかったんですか?」
恵は残酷なまでに純粋な目をしながらそう聞いて来た。
静香の胸中が不快にざわめく。
「そりゃ‥」
恵が肩に掛けている絵画入れが、まるで嘲笑うかのように静香を刺激する。
”お前には無理なんだ”と。
瞬間、カッと火がついたかのような怒りが静香の身体を駆け抜けた。
「あたしがここの学生じゃなくてモグリだからだろっ‥!このクソがっ‥!」
そう叫びながら静香は手を振り上げた。
凄まじい打撃音が辺りに響くー‥。
バシッ‥!!!
ハッ
突然現実に引き戻された静香の目の前に、
小西恵が大きな目を見開いて立っていた。
先程見た光景は幻だった。
その頬を叩いてはいないし、佐藤も止めに入ったりはしていない。
突然キョトンとした静香を見て、二人は不思議そうに首を傾げる。
「どうした?」「大丈夫ですか?」
バッ
静香は何も言わず、勢い良く二人に背を向けた。
佐藤と恵はその静香の行動を前に、ただ疑問符を浮かべ立ち尽くす。
陽の当たる場所へと踏み出したはずが、いつの間にかまた暗く細い道に迷い込んでいた。
静香はふらつく足取りで、そのまま美大を一人去る‥。
既にネオンが灯り始めたビルの群衆を、傾いで落ちて行く冬の陽が斜めに照らす。
雪は地下鉄に乗りながら、先輩と通話していた。
「はい、試験は良く出来た‥わけじゃないですけど、頑張りましたよ。ははっ」
「もう冬休みだし、家庭教師のバイトを一つしようかなって。はい」
電話先の先輩はまだ会社にいるらしい。
「今日も遅くまで仕事ですか?
インターン生に厳しい会社ですよね〜。一体誰の会社だか。あはは」
「はい。早く会いたいです。うん。私も」
二人は恋人同士の挨拶を交わし、電話を切った。
「うん、うん、先輩も」
地下鉄の揺れに身を任せながら、雪は一人ぼんやりと空を見つめていた。
いつか芽生えた違和感の芽のことを、ほんの少しだけ思い出しながら‥。
青田淳は通話が終わった後の携帯電話を眺めながら、一人その場に佇んでいた。
今までと変わらない彼女とのやり取り。まるで時計の針を戻すかのような。
「青田君」
後ろから声が掛かり、振り返ると部長が立っていた。
「この間出してくれた企画書すごく良かったよ。初めてにしてはすごく良く書けていた」
部長は咳払いをしながらそう言って、肩を竦めてみせた。
どこかぎこちない様相だ。
淳は暫しそんな部長を見つめていたが、すぐにパッと笑顔を浮かべて礼を言う。
「ありがとうございます」
「まだまだ未熟者ですので、これからもご指導のほどよろしくお願いします」
「いや、止めてくれ」
「私の方こそ‥」
課の部長であるその男は、そう言って幾分畏まった。
それは単なるインターン生に対する態度としては、明らかにおかしいだろう。
淳はにっこりと笑顔を浮かべながら、父のあの言葉を再び思い出していた。
「世の中全てが、お前の思い通りになる訳ではない」
淳は時計の針を戻そうとしていた。
自分が今まで手にして来た物全てを駆使して、その父の言葉が誤りだということを証明してやると。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<逆進>でした。
静香‥それ幻ぃ〜〜!‥って本当に殴らなくてよかったです。黒雪が反撃に出るよ!
逆進、の題名の通り誰もが過去に引きずられている感じがする中、雪だけは前に進んでる気がして。
対比になってるんでしょうかね。
あと、以前も書きましたが韓国では電車内の通話は特にマナー違反ではないようです^^
ご心配なく‥!
次回は<二人の未来>です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は文章が途中で切れ、
半角記号、ハングルなどは化けてしまうので、極力使われないようお願いします!
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「何なの‥こっちに来ちゃったじゃない。赤山に会いに来たはずなのに‥」
目の前には佐藤広隆と小西恵がいる。
二人はふらつく静香に駆け寄った。
「君、酒飲んでるのか?!」
「静香さん、うちらの発表さっき終わったとこなんですよ!」
「どうして来なかったんですか?」
恵は残酷なまでに純粋な目をしながらそう聞いて来た。
静香の胸中が不快にざわめく。
「そりゃ‥」
恵が肩に掛けている絵画入れが、まるで嘲笑うかのように静香を刺激する。
”お前には無理なんだ”と。
瞬間、カッと火がついたかのような怒りが静香の身体を駆け抜けた。
「あたしがここの学生じゃなくてモグリだからだろっ‥!このクソがっ‥!」
そう叫びながら静香は手を振り上げた。
凄まじい打撃音が辺りに響くー‥。
バシッ‥!!!
ハッ
突然現実に引き戻された静香の目の前に、
小西恵が大きな目を見開いて立っていた。
先程見た光景は幻だった。
その頬を叩いてはいないし、佐藤も止めに入ったりはしていない。
突然キョトンとした静香を見て、二人は不思議そうに首を傾げる。
「どうした?」「大丈夫ですか?」
バッ
静香は何も言わず、勢い良く二人に背を向けた。
佐藤と恵はその静香の行動を前に、ただ疑問符を浮かべ立ち尽くす。
陽の当たる場所へと踏み出したはずが、いつの間にかまた暗く細い道に迷い込んでいた。
静香はふらつく足取りで、そのまま美大を一人去る‥。
既にネオンが灯り始めたビルの群衆を、傾いで落ちて行く冬の陽が斜めに照らす。
雪は地下鉄に乗りながら、先輩と通話していた。
「はい、試験は良く出来た‥わけじゃないですけど、頑張りましたよ。ははっ」
「もう冬休みだし、家庭教師のバイトを一つしようかなって。はい」
電話先の先輩はまだ会社にいるらしい。
「今日も遅くまで仕事ですか?
インターン生に厳しい会社ですよね〜。一体誰の会社だか。あはは」
「はい。早く会いたいです。うん。私も」
二人は恋人同士の挨拶を交わし、電話を切った。
「うん、うん、先輩も」
地下鉄の揺れに身を任せながら、雪は一人ぼんやりと空を見つめていた。
いつか芽生えた違和感の芽のことを、ほんの少しだけ思い出しながら‥。
青田淳は通話が終わった後の携帯電話を眺めながら、一人その場に佇んでいた。
今までと変わらない彼女とのやり取り。まるで時計の針を戻すかのような。
「青田君」
後ろから声が掛かり、振り返ると部長が立っていた。
「この間出してくれた企画書すごく良かったよ。初めてにしてはすごく良く書けていた」
部長は咳払いをしながらそう言って、肩を竦めてみせた。
どこかぎこちない様相だ。
淳は暫しそんな部長を見つめていたが、すぐにパッと笑顔を浮かべて礼を言う。
「ありがとうございます」
「まだまだ未熟者ですので、これからもご指導のほどよろしくお願いします」
「いや、止めてくれ」
「私の方こそ‥」
課の部長であるその男は、そう言って幾分畏まった。
それは単なるインターン生に対する態度としては、明らかにおかしいだろう。
淳はにっこりと笑顔を浮かべながら、父のあの言葉を再び思い出していた。
「世の中全てが、お前の思い通りになる訳ではない」
淳は時計の針を戻そうとしていた。
自分が今まで手にして来た物全てを駆使して、その父の言葉が誤りだということを証明してやると。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<逆進>でした。
静香‥それ幻ぃ〜〜!‥って本当に殴らなくてよかったです。黒雪が反撃に出るよ!
逆進、の題名の通り誰もが過去に引きずられている感じがする中、雪だけは前に進んでる気がして。
対比になってるんでしょうかね。
あと、以前も書きましたが韓国では電車内の通話は特にマナー違反ではないようです^^
ご心配なく‥!
次回は<二人の未来>です。
☆ご注意☆
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半角記号、ハングルなどは化けてしまうので、極力使われないようお願いします!
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ノーコメゼロ運動発動してみました。笑
事件のカラクリを聞いてモヤモヤしてても、「会いたいです」って恋人同士の会話(しかも電車内でw)楽しめるようになっちゃったんですねー。
以前の雪とは違うけど、前進している状態とも思えないというか。
雪ってもともと、自分を理解してもらうことに関してはどこか諦めて身を引くところがありましたもの。
淳のすべてを受け入れる覚悟をした雪は素敵だったけど、「先輩は先輩、私とは違う」っていう納得のしかたは諦念に似てますよな..。
てか、恵のワンピースのチェック柄が次の蓮との絡みシーンで忽然と消えてしまってるのが気になります。笑
久方ぶりにありがとうございます
しかも細かいクラブまで発動してるじゃないですか!
うわー恵のワンピース気付かなかった!さすがさかなさん‥恐ろしい子‥!
雪ちゃん、確かにあのカラクリを聞かされた後なのに何事も無かったかのように振る舞うようになりましたね‥。黒淳化の影響なのか諦念の成れの果てなのか‥。