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Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

心配の種

2016-11-20 01:00:00 | 雪3年4部(忠告と真実〜二人の休日)


雪の心の中は、凪いだ海のように穏やかだった。

目の前のことでいっぱいいっぱいだった以前の自分より、

ほんの少し周りに目を向けて気を配れるようになってきたと。

私は嬉しい



けれどそんな感情も、現実の前ではいとも簡単に崩れてしまうわけで‥。

嬉しかったのに‥










教養の授業にて、雪は早くもそんな自分の気持ちがガラガラと崩れて行くのを感じていた。

<グルワメンバー1> <メンバー2>

 

<教養グルワ課題3名欠席>

終わった‥!



元々やる気が無いメンバー達だと思ってはいたが、

メンバーの半数以上が授業にすら出て来ないという始末‥。

雪は祈るような気持ちで、グループトークにメッセージを書き込んだ。

今夜のグループトーク、絶対参加して下さいね。



頼む、と強く願ってみるものの、この絶望的な状況を前にしては諦めの方が優勢だ。

ぶっちゃけ‥期待はしてないけどさ‥



オワタ‥



雪の溜息が、夕暮れの空に溶けて行く。

重たい雲の下、そしてまた二時間掛けて、雪は帰路を辿って行った。



帰宅ラッシュの地下鉄でもみくちゃにされながら地元に帰り、お客さんで賑わう店へと顔を出す。

「来てくれたの」



コートを脱ぎエプロンを付け、もう一働きだ。

ふー



店では蓮も働いていた。

「こっち二人前〜」



威勢の良い声が店に響く。

どこかゴキゲンの弟を見て、雪は若干不思議に思った。



蓮の奴、最近テンション高くない?

やっと気持ちの整理がついたかな




雪の記憶にある蓮の姿といえば‥。

「姉ちゃん‥俺、これからどうすればいい?」「アメリカ戻んな」



大学を休学し帰国してからは、いつもグジグジと悩んでばかりだった蓮。

けれど今の彼は、以前のような明るさを取り戻していた。



ぐー



不意に空腹を覚えた蓮は、依然ハイテンションで姉に向かって話し掛ける。

「なぁ!姉ちゃん、なんか急にラーメン食べたくなんない?夜食夜食!」

「ラーメン?何時だと思ってんのよ しかも宴麺屋でラーメンてアンタ‥

「家帰ったら一緒に食おうぜ!シーフードたっぷりで、俺が作っちゃる!

夕飯も食べずに店に直行してくれたんだろ?」




雪は自分が見透かされたことに若干驚きながら、その蓮の言葉を聞いた。

彼は彼なりに頑張ろうと決め、周りのことにも気を配っている。

「ん、分かった!」



姉に頭を撫でられた蓮は、パッと明るい笑顔を浮かべてこう言った。

「姉ちゃん、そんなに俺のこと心配すんなって!

これから超本気で頑張るからさ!マジで!!」




「分かったよ」 勉強を?仕事を?



目的語の無い”頑張る”は雪を少し不安にさせたが、そこはなんだかんだいっても可愛い弟。

姉弟は麺屋の片隅で以前のようにじゃれ合った。

可愛がってくれよん オッケー



そんな姉弟を見て、これも以前のように母親からの喝が飛ぶ‥。

「アンタ達何やってんの!お客さん通れないよ!」





その日の夜。

雪はPCを前にしてこんなことを思っていた。

例え揉め事を起こすことがあったとしても、とりあえず弟だから可愛く見えてしまうというもので。

けどこの子達には、最後までそんな気持ちは持てそうにない。




顔を見せないグルワメンバーは、グループトークにも当然のように現れない件について。



グルワメンバーが登録してあるグループトークには閑古鳥が鳴き、

一方同期のグループトークには、ひっきりなしにゆりっぺからのメッセージが届く。

雪は白目になりながら、またしても押し寄せてくるさざ波に揺れている‥。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<心配の種>でした。

グルワ‥本当雪ちゃんはメンバーに恵まれない件について‥

蓮のことも心配でしょうがありませんね。。


次回は<最善の方法>です。


*思ったよりも記事執筆が進んでいるので、更新頻度を一日おきに戻しますね〜
次回は22日更新です☆

☆ご注意☆ 
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進化する周囲

2016-11-17 01:00:00 | 雪3年4部(忠告と真実〜二人の休日)
静香と別れてから登校した雪。

見上げてみると青空に、パタパタと鳥が舞っていた。



キャンパスでは味趣連こと伊吹聡美、福井太一、そして雪は今日も三人一緒である。

特に付き合い始めの聡美と太一は、見ているこちらが照れてしまうほど仲睦まじい。

「うわああー!」「www」「はいはい、楽しそうで何より」



僅かながらも関係は常に変化し続け、その小さなさざ波はいつか大波となって周囲を揺らす。

そしてこの人達の関係性も、雪がもたらした情報によって大きく変わろうとしていた。





一人キャンパス内を歩いていた糸井直美に、大きな怒声が掛かる。

「おい!!糸井!!!」



「待ちやがれ!!」



振り返った直美が目にしたのは、鬼のような形相で近付いて来る柳瀬健太だった。

「お前わざとやっただろ?!」



健太は直美のコートの襟を掴みながら、感情のままに食って掛かる。

「はい?いきなり何なんですか?!離して下さい!」

「お前電話もメールも無視しただろ?!

俺の卒業試験台無しにしやがって!身に覚えがあんだろうが!!」




健太は怒っていた。

”既出問題から出る”という糸井直美の情報を信じて受けた卒業試験が、散々な結果だったのである。



健太は直美に向かって吠えるように捲し立てた。

「テメー頭どうかしちゃってんじゃねーのか?!

俺の卒業試験、どうしてくれんだよ!あぁ?!どうすんのかって聞いてんだよ!」


「酷い言いようですけど、先輩こそどうかしちゃったんじゃないですか?

どういうつもりですか!?」


「どうしたもこうしたも、お前が言ったんだろ?!既出問題から出るって!」



「一つも出なかったじゃねーかよ!!」



怒り狂う健太。

しかし直美はそんな健太を前にしても微塵ほども動じずに、こう言ってのけたのだった。

「え?そんなこと言いましたっけ?」



「は?」



首を傾げる直美を前にして、ポカンと口を開ける健太。

直美は口角を上げながら、堂々とした面持ちで健太を見据え切り返す。

「何か証拠でも?」




”証拠がないから、あの人はあんなにも堂々としていられるんです”



雪の言葉が蘇る。

直美は健太の境遇を逆手に取り、見事証拠無き犯人に成り果せたー‥。






周囲の色々な出来事に、気配りが足りなかったことを後悔してた



いつも自分のことで精一杯で、周りに目を向ける余裕が無かったと、雪は後悔していた。

一番身近な人達にさえ、何もしてあげられなかったと。



そんなことを思いながら、今雪は彼らと一緒に居る。

「はっ‥はっ‥」



身長180オーバーの太一を背負って、聡美はゼーハーしながらも道を歩ききった。

「入隊前にやって欲しいってこと、全部してあげてるの‥ゼーゼー

「ふぅん」



雪は穏やかな笑みを浮かべながら二人を見ていたが、ふとこれからの予定を思い出して声を上げる。

「あ、私まだ教養残ってる」「あたしも!」「俺、聡美さんと一緒に行って勉強しマス」



「それじゃ今日はここでバイバイだね。じゃね、勉強頑張って!」

「うん!」「皆サン、来週の試験頑張りマショ!」

「みんなファイティーン!」



太一は聡美に凭れ掛かれながらポロリと涙を流し、聡美はそんな太一をしっかり支えている。

「試験終わったら沢山デートしましょうネ?それまでスキーはおあづけ‥

「はいはい」






こちらを見ている雪に気がついた聡美は、晴れやかな笑顔で手を振った。

「じゃあね〜」






吹っ切れたような強い笑顔。そんな聡美を見て、雪の心は温かくほぐれていく。

ほんの数日前まで、頬が乾く間も無いくらい泣き続けていたのに‥。

「そんなに悲しまないで、聡美」



「私と一緒に待ってたら、太一もすぐに帰って来るよ」



雪はそう言って、聡美の肩を優しく抱いた。

今自分に出来ることは、泣いてる聡美に寄り添うこと‥。



「ゆきぃ〜〜〜〜!うおおーーーん!



聡美は雪に抱きつきながら、本当に沢山の涙を流した。

そしてきっと太一の前では、笑っていようと決めたのだろう。



身を寄せ合って歩いて行く二人の背中を眺めながら、雪は心が満たされて行くのを感じていた。

今はもう少し周囲に目を向け、気を配ることが出来るようになって、



私は嬉しい。



目の前のことしか見えなくなった時、ふと立ち止まって一歩退く。

動いたのはたった一歩でも、視界が開けて景色が見える。

そして周囲を見回すと、自ずと自分がすべきことが見えて来るのだと雪は知った。



雪の心は凪いだ海のように穏やかだった。

周囲に伝わって行くさざ波の行方を、そう思いながら眺めている‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<進化する周囲>でした。

直美さんのしてやったり半笑い!

「証拠あるザマスか?」


清水香織のこの顔を思い出しますね〜


(何度見てもイラッとするな‥)

聡美と太一も良い感じにまとまりそうで、本当良かったです。

入隊する時の、太一の丸刈りが見たいな‥


最後の雪の微笑みは、自分がすべきことが分かって喜んでいる先輩と、

表情も心情もかぶりますね。

 

やはり黒淳化の進む雪ちゃんから目が離せない!


次回は<心配の種>です。


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弱味

2016-11-14 01:00:00 | 雪3年4部(忠告と真実〜二人の休日)


翌朝、けたたましく鳴り響く着信音で河村静香は目を覚ました。



が、しばらくは何が起こっているのか把握出来ないらしく、

静香はうつ伏せたままぼんやりと、ただその音を聞いている。



「????」



視界に入るその景色は自分の部屋に違いなかったが、どうやって帰って来たのかがまるで記憶になかった。

飲み過ぎたらしく、ガンガンと頭が痛い。

「????」



静香は何がなにやらよく分からなかったが、

とりあえず鳴り続ける携帯電話に手を伸ばした。

「何よ‥」

「麺屋赤山の隣の建物まで出て来て下さい。今すぐ」

「え?」



正体不明の人物からの突然の呼び出し。

静香は不機嫌な声で、声の主の正体に聞く。

「は?アンタ誰‥」

「私ですか?」



「青田先輩の彼女です」








どこか聞き覚えのあるそのセリフを耳にして、静香は大きく目を見開いた。

無言のままの静香に向かって、雪は冷静な声で話を続ける。

「出て来て下さい。今すぐに」「は?何言って‥」



どうして赤山雪がこんなにも強気な態度で出てくるのか、静香はにわかには信じられなかったが、

やがてふっと昨夜の記憶が蘇った。

「なによ‥大人でも大学生でもなく高校生よ?

父親に色々喋って何が悪いワケ?ぶっちゃけフラれた腹いせだけどぉ‥スッキリしたっつの‥」




今まで秘密にして来たその事実を、酔いにまかせて喋ってしまったのだ。

しかも運の悪いことに、顔を上げた先には赤山雪の姿があった‥。

「あ」



マズイ、そう思ったがもう遅かった。

「あ‥あ‥?」



静香の叫び声が、乱雑な部屋中に響き渡る‥。

「ああああっ?!」











静香への通告通り、雪は麺屋赤山の隣の建物の前に立っていた。

朝の空気は冷たく、雪はポケットに手を突っ込んだまま彼女を待つ。



やがて遠くから、走ってこちらへやってくる静香の姿が見えた。

「ちょっと!」



怒っているのは想定内。

雪は全てを見切っているかのような表情で、静香と相対する。



「このク◯女‥」



静香は怒りのあまりピクピクと青筋を立てながら、雪に向かって噛み付いた。

「マジでぶっ殺されたいの?誰に向かって命令してると思ってるワケ?!」

「後ろめたいことがなければ、帰って寝て頂いて結構ですけど。随分お疲れのようですし」



けれど雪は堂々としていた。むしろ静香に向かって攻撃の体勢だ。

「私も大学行かなきゃならないんで」



ジリジリと、静香の怒りメーターが上がっていく。

「このチビ‥」



「ナメてんの?!今まで大目に見てやってたからって、調子に乗りやがって‥」



ドスの利いた低い声で威嚇しながら、静香は雪の髪の毛を強く掴んだ。

今までだったら身が竦んでしまいそうな状況だが、雪は怯まず、彼女に向かって睨みを利かす。



静香は顔を近づけながら、更に威嚇を続けた。

「あたしこの間留置場行ったのよ。もう怖いものなんて何も無いの。

マジでアンタなんて潰してやれんのよ」




「今が絶好のチャンスとでも思ってんの?

雑魚が調子に乗ったところで何にもなんねーんだよ。

アンタに何が出来るっていうワケ?」




「あぁ?」



瞳孔の絞られた瞳が、今にも獲物を捕らえようと爛々と光っている。

今までどんな人間も、ここまで脅したら尻尾を巻いて逃げて行った。

きっともうすぐこの女だって逃げ出すと、そう静香は踏んでいたのだが‥。

バッ!



逃げ出すどころか強い力で手を振り払われ、思わず静香は目を見開いた。

「は?」「勉強して」



「はぁ?」



しかもよく分からないことを言われ、静香はもう一度聞き返したが、

雪から返って来た言葉はやはり変わらなかった。

「勉強して下さいよ」



ポカンと口を開ける静香に向かって、雪は至極冷静に言葉を続ける。

「電算会計。サボらず学校に通って勉強して、私にチェックさせて下さい」



「は‥?」

「でなければ昨日聞いた話、全部青田先輩にバラします」



次々と切られるカード。雪は休む間もなく通告を続ける。

「は?」「塾にも申し込みして下さい。通いながらそれも私に報告すること」



「以前通うと聞いた塾だって、どうせ行ってないんでしょう。

塾の費用がなければ国費支援を調べてみるか、バイトするか、自力でなんとかして下さい」




言うべきことは全て伝えた。

しかしまだ何も把握してない静香との間には、当然のように沈黙が落ちる。



しばらくしてから、静香が笑い出した。

「ぷはっ‥!ちょ‥アンタ何言ってんの?マジで脅迫してるつもり?」

「あなたがいつもやってることを真似してみただけです。そんなに面白かったですか?」



「そうやって笑い飛ばすなら、

今の私の話は聞き流して頂いて結構です」




「‥‥‥‥」



冗談だろうと思ったのに、雪は当然のような顔をしてそう返して来た。

ジワジワと、今自分は弱味を握られ、劣勢に追いやられているのだと静香は実感する。

「あ‥」



つまり雪が今言った条件を飲まない限り、昨日聞かれた話を淳にバラされるのだ。

それは冗談にならないほどマズイことだと、彼女の本能が警鐘を鳴らしていた。

「あの‥ちょっと待って?えっと‥雪ちゃん?あの‥」

「よく考えて下さい」



雪はそう言って一息置いてから、静香に向かってこう話し出した。

「あなたは、青田先輩は恐ろしくておかしな人だと言いましたよね。

幼い時から一緒だから、私なんて太刀打ち出来ない程深い関係なんだって。

だったらよく分かってるんじゃないですか?」




「河村氏を傷つけて、

さらに”恐ろしい青田先輩”をも傷つけたところで、」




「メリットなんて何も無いって‥」



「‥‥‥‥」



だんだんと頭が事の成り行きを理解して行く。

そして今雪が言ったことが正しく、彼女の動き次第で自分が追い詰められるだろうことを、

静香は予想して青くなった。

「言わないで欲しいんだけど‥」



「言わないでよ、ね?冗談じゃないわ‥言ったらマジでアンタのこと‥」

「だから、よく考えて下さい」



「分かりましたね?」



「学校、塾、私のチェックを受けること。嫌なら従わなくて良いですから」



そうキッパリと言い放って、雪は静香に背を向けた。



最後まで強制はされなかったが、自分が雪の望み通りに動かねばならないであろうことは、

自明だった。

「‥‥‥‥」



そしてそれは、静香とて予想出来るであろうことだったと、雪は思う。

私が運良く手に入れたこのチャンスを、100%利用することは予想出来ただろう




人はどのくらいの確率で、思った通りに動くのだろうか。

分かったことは、

それは弱味というチャンスを手に入れると、格段に確率が上がるというその事実ー‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<弱味>でした。

いつも静香を前にしてビクビクしていた雪ちゃんとは思えないほどの堂々さ!

そして電話にて発せられた

「青田先輩の彼女です」



は、勿論この静香に対する仕返しだっていう‥。



雪ちゃんの静香に対するセリフも、健太に対する制裁においての青田先輩と似ていますなぁ。

いや〜どんどん黒淳化する雪ちゃんから目が離せないですね。


次回は<進化する周囲>です。


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元凶

2016-11-11 01:00:00 | 雪3年4部(忠告と真実〜二人の休日)
雪は酩酊する静香を見下ろしながら、こう思っていた。

気になるのは、果たしてこの人がその後の私の反応を、どのように予想するかだ。



静香は、無言でその場に立つ雪とは裏腹に、佐藤の髪の毛を掴みながら大声で彼に絡んでいる。

「男なんていらねーんだよぉ!」「ちょっ‥違っ‥俺は‥俺は‥」



周りを巻き込み、傍若無人に振る舞う静香。

彼女のその振る舞いを見ながら雪は、数日前に目にした河村氏の横顔を思い出していた。



麺屋赤山の前の細い路地で、一人涙を流していた彼。

雪の心の中に、静謐だが熱い炎がチリチリと燃える。

この人のせいじゃないか



先ほど耳にした静香の言葉がリフレインした。

「チクったら、あの父親アイツに対する態度が目に見えて変わるのよ。

それがもう面白いったら‥」




事件の詳細を全て知っているわけじゃない。

けれど静香のその言葉によって、それまで雪が手に入れて来たあらゆる事項が繋がったことが分かる。



いつか先輩の家で聞いた、彼の語る彼女との関係性の話が蘇った。

「君には俺と静香の関係は理解し難いかもしれないけど‥」



「俺には兄弟もいなかったし、静香とは性格も話をするのも、

意外に一度もぶつかることが無くて、良い関係だったんだ。

それで俺にとって静香は、友達の姉以上の存在だった。

少なくとも、高校の時までは‥けど結局、胸の内は違ったんだよ」




昔のことを語る先輩の横顔は、

諦めたような、苛立っているような、全てに蓋をしてしまいたいような、

そんな表情ばかりだった。

「俺は何もかも気に入らない」



そして父親とのことを語る時、彼の瞳の中に感情が揺れた。

「まるでどこかから俺のことを見ていたかのように、それが間違っていると言うかのように。

そんなに俺はおかしく見えたのかな‥」




まるで小さな子供のような、彼の一面。



全てに恵まれ、何の問題も無いように見えるのに。



「雪ちゃん!」



彼の心には闇があった。

自身を侵害するものを、強制的に受け入れさせられた鬱憤が生んだ、深い闇が。

「正直留学でも何でも、二人ともどこかへ行って欲しいさ。

そう思うのは間違ってる?そんな人達が君の家に何年も住んでると考えてみて?

俺の考えは幼稚だろうか?」




彼らの過去についてまだあまり知らなかった頃、

先輩の話を聞いて、こう思ったことを覚えている。

ん‥先輩は正しいよね‥。成人したら誰だって自活する努力をすべきだし‥。

けど河村氏はともかく、そのお姉さんに相当問題があるような‥






その推測は正しかった。

全ての元凶は、彼女にあったのだ。


「あの‥」



「何か辛いことがあるなら‥話してくれよ」



テーブルに突っ伏す静香に向かって、佐藤は小さな声でそう切り出した。

「俺じゃ頼りにならないかもしれないけど‥」「あぁ?」



佐藤のその言葉に、不服そうな声を出しながら顔を上げる静香。

酔ってぼやける視界の先に、自身を見下ろす雪の姿がある。



「あれ?あれあれぇ?誰かと思えば‥淳の女‥」「ちょ‥静かに‥」



「ちょっと!」



静香は大きな声で、雪に向かって絡み始めた。

「ちょっと!アンタの男もあたしの弟も、あたしに害を与えるなんてもってのほかよ!でしょ?

‥まぁ亮はしょうがないにしても‥。とにかく!」




「誰もあたしを責める権利なんてないの。

亮も、アイツも、」




「アンタもね!」



呂律の回らない舌で噛み付く静香のその言葉を、雪は無言のままただ受け取っていた。

笑いながら潰れて行く彼女の周りで、佐藤と恵が困った顔をしている。

「あたしを責めていいのは、これまでな〜んにも悪いことしてこなかった奴だけよぉ?

分かったぁ?あぁ?」
「ちょ‥どうしたんだよ。止めろって」



静香はニヤニヤした笑みを浮かべながら、雪に向かってもう一度口を開く。

「アンタさぁ、淳がどんな奴なのか知ってんの?」



「あれはとんでもない狐野郎よぉ‥恐ろしい奴なんだから‥」



「マジでおかしな‥奴‥」







静香はクックと笑いながら、やがて突っ伏したまま眠ってしまった。

そんな彼女を前にして、佐藤は大きく溜息を吐く。

「はぁ‥」



理解出来ない彼女に対する苛立ちと、ようやく眠った安堵で、佐藤は少し饒舌だ。

「ただでさえ女性と話すのは苦手なのに‥特に彼女は気難しくて‥」

「あぁ‥」



「本当に申し訳ない。迷惑を掛けてしまって」

「大丈夫ですよ。私近所ですから送って行きます」

「助かるよ」



ザワザワとした喧騒の中で、静香は眠り続けた。

この先の展開を、未だ予想することも出来ずに‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<元凶>でした。

皆さま、お久しぶりです

出産の際は、メッセージありがとうございました とっても嬉しく拝読いたしました!

年子育児、大変っすね‥ 自分のキャパの足りなさを痛感する日々です。

河村姉弟のお母さんも大変だったんだろうな‥と彼らのママを尊敬したりして


さて今回は静香が事の元凶だったと知った雪が、

これまで聞いてきた先輩の話と辻褄を合わせている感じですね。

静香が口にした「アイツは恐ろしい奴よ」というセリフは、



一部での亮のセリフと同じです。



二人共淳の気持ちを理解せず、離れてしまったという象徴ですね。。

次回は<弱味>です。

今後は3日おきの更新になります〜^^よろしくです!

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