Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

互いを知るということ

2013-09-25 01:00:00 | 雪3年2部(遠藤に反撃~小さなデート)
雪と先輩は、二人並んで事務室へ向かう廊下を歩いていた。



雪は先ほど先輩と話したことについて考えていた。

脳裏に先輩の、呟くような声が反響する。

俺に対してはプレッシャーが半端無くて‥





彼と父親との関係について聞いた時、雪は意外なようなそうでないような、微妙な気持ちだった。

この人もああいうことを考えたりするんだなぁ‥



なんとなく、全てにおいて恵まれた男だというイメージがあった。

考えてみれば彼の境遇では、そういうプレッシャーがないわけがないだろう。

雪は先輩が一人の人間として、頑固な父を持つ子供として、自分と同じような悩みを抱えていることに、

幾分親近感を感じるような気がした。

思いがけない共通点を知ってしまったからには、前よりは少しだけ親しみを感じるような‥



先輩は雪の視線に気がつくと、ニッコリと微笑んだ。

「今日は二人して暗い話ばっかしちゃったな。

でも人にああいうこと打ち明けたの初めてだし、なんかスッキリしたよ。

人に家族の話とか一度もしたことないんだ」




先輩が紡ぐ言葉が、雪の心にしっくり収まるような気がした。

雪も家族の話を、友人にさえしたことが無かったと思い返しながら。



「話せて良かった。雪ちゃんの話も聞けたしね」



親しげにそう話す彼を見て、雪は少し頬が赤らむのを感じた。

それはよかった、と笑いながら雪は、その空気を変えようと幾分明るく振る舞う。



ここだけの話にしましょうと言いながら扉に手を掛けようとすると、

先に先輩の手がドアノブを掴んだ。



雪の背中越しに、彼の長い腕が回される。

キィッという音とともに、扉が開いた。



「どうぞお先に」



耳元で先輩の声がする。

雪は何が起こったのか分からず、思わず固まった。



お入り下さい~と先輩はおどけて先を促した。

雪は彼の行動に戸惑いっぱなしだ。



場を誤魔化すかのように笑う雪を、先輩は真っ直ぐ見つめて微笑んだ。



彼はドアのところに佇んでいる。

振り返った雪に向かって、ゆっくりと言葉を紡いだ。

「俺、雪ちゃんににまた少し近づけた気がする」



「勿論実際に解決出来るわけじゃないけど‥互いをもっと知ることが出来ただろう?」



「それだけでも充分だと思うな」



静かに言葉を続ける先輩を、雪は真っ直ぐ見つめていた。

彼は一瞬視線を下にそらし、自らの心の泉を覗くようにその波立ちを俯瞰する。



そして確かめるように「うん、」と言うと、もう一度雪の目を見て口を開いた。

「それだけで充分なんだ」



彼の瞳は静謐な泉のように澄んでいた。

雪はそんな彼を、不思議な気持ちで見つめている。







先輩はニッコリと微笑むと、「今日はこれで失礼するよ」とドアの前で佇みながら言った。



今日は雪の顔見がてら、お昼休憩に少し寄っただけらしい。

顔を見合わせる二人。

  

「元気出せよ」



先輩はそう言うと、ワシャワシャと雪の頭を撫でた。

(コンプレックスの髪の毛を触られた雪は、少しショックを受けていたが) 



雪に労いの言葉を掛けた後、先輩は去って行った。

お気をつけてと声をかけて、雪はその背中を見送った。










昼下がりの事務室は、外の気温に反してクーラーが効いてとても涼しく、そしてとても静かだ。

雪は、気温や音などの身体的な感覚や、心の揺らぎなどの精神的な感覚が、ゆっくりと元に戻って行くのを感じていた。

クリアになった脳内に思い浮かぶのは、先ほどの先輩の言葉だった。

互いをもっと知ることが出来ただろう?それだけでも充分だと思うな



俺もそうだよ



慰められるよりも、激励されるよりも、気持ちに寄り添ってもらうということが、何より心を癒やす時がある。

雪は心の中に小さな火が灯ったような、仄かな温かさを感じていた。




すると携帯が震え、見てみると聡美からメールが入っていた。

仕事は上手くいってる?無理してない?



雪は”うん、優しい人ばかりで‥”と文字を打ったが、途中で手を止めた。

同じようなメールを、ついこの間も打ったのを思い出す。

なんだかなぁ‥あれ以来ずっと気まずいままだし、同じ内容のやりとりばっかしてる気がする‥



今は夏休み中で、聡美には滅多に会えない。

誰かがどこかでアクションを起こさないと、雪はこのままずっとこんな関係が続くだけのように思えた。


すると鼓膜の奥が、彼の声を再生して震えた。


勿論実際に解決出来るわけじゃないけど‥互いをもっと知ることが出来ただろう?

それだけで充分なんだ











突然記憶の海が波立って、様々な場面が現れ始めた。

寄せては返す波のように、記憶は断続的に再生する。





秋学期最後の日の飲み会で、悩みを抱えた雪を心配そうに介抱してくれた聡美。

あんたまた他の問題で悩んでるんじゃない?

全く気付いてやれなかったけど、もしそうならホントにごめん




あの時聡美は、「何でも聞くから」と言ってくれたのに、黙っていたのは雪の方だ。


去年の夏休み、横山とのことで悩んでいた時太一と食事して、あの時彼はこう言った。

雪さん疲れでも溜まってるんスか?何か悩みでも?

  

彼なりに心配してくれたのに、本当のことを話さなかったのは雪の方だ。


そして夏休み前、聡美と言い争いになった時の記憶が蘇った。

下を向いた聡美が絞り出すように出した声が、今も脳裏に焼き付いている。

横山の件だってそう。あんな大事なこと‥。あたしは太一に後から聞いたのよ。

休み前のテストの時から変だったって!それなのに、あたしは何も知らなかった‥!








‥何も知らないはずだ。

話したことすら無かったのだから。



雪は自分が聡美に言ったことを思い返した。

あの時雪は期末のグループワーク発表が終わって、その散々な結果にイライラしていた。

私は今回の発表でD貰ったの!奨学金だって貰えなくなるかもしれないのに、

旅行の話なんてしてる場合じゃないの!




自分の気持ちにいっぱいいっぱいで、

「少しでもそれらしきことを言ってくれたら、あたしだってこんなに言わないのに!」

聡美がこう言った時だって、雪は彼女を責めるような口調で言葉を返した。

家の事情や奨学金のことは、私個人の問題でしょ?!

そんなこと口が重くて言えるわけないじゃない!言ったところで解決出来るわけでもないのに!




そう言ったら聡美は俯いた。

俯いて、そういうことを言っているんじゃないと、絞り出すように声を出した。

あんたは‥









私は‥



いつもそう、と聡美は言った。

思い返してみると、確かにいつもそうだった。

相手を慮るばかりに黙ってばかりいて、いつも自分の前に線を引いていた。

それが相手のためでもあると思っていた‥。



雪はギュッと拳を固めると、すぐさま携帯電話を手に取り、通話ボタンを押した。

着信メロディーの後聞こえてきたのは、少し躊躇った友人の声だった。

「あ、聡美?私」



週末にでも会えたらなぁと思って。

今週どう?

遅くてもいいからさ‥。




互いを知るということに、まだハッキリとした答えは出ない。

けれど鼓膜の奥で、「それだけで充分なんだ」という彼の声がする。


それに突き動かされるように、雪は目の前の線を飛び越えようと、めいっぱい助走をつけた‥。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<互いを知るということ>でした。

先輩が雪に扉を開けてあげるけど、自分は中にはいらず「それだけで充分なんだ」と言う場面は、

とても象徴的な感じがしました。心の扉的なところの。


そして以前コメント欄で「ジジ臭い」と言われていた「今日はこれでおいとまさせてもらうよ」という先輩のセリフは、

少し現代風に変えました‥(^^;)すいません。江戸っ子風にもしなくてすいません。。


次回は<彼の思惑>です。


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重なる二人

2013-09-24 01:00:00 | 雪3年2部(遠藤に反撃~小さなデート)
雪は立ち尽くした。



携帯電話からは、母親の沈んだ声が聞こえてくる。

雪は「分かった、すぐ行く」と言うと、すぐに実家へ帰る支度を始めた。




母親から聞かされたのは、父親の事業が倒産したという知らせだった。







翌日の事務補助のバイトには、当然身が入らなかった。

いつもは軽快に響くキーボードを弾く音も、今日は時たま長い沈黙を挟んだ。

  

遠藤も品川さんたちも、いつもとは違う彼女に違和感を感じていた。

彼女らの心配をよそに、雪は心ここにあらずの風情でモニターの前で放心している。



心の中を虚無感が支配する。



下を向いていた雪だが、ふと視線を上げた。

前の方から、自分の名前を呼ばれたからだった。



顔を上げると、先輩が雪の方を向いて立っていた。

いつもと違う彼女を前にして、先輩もまた違和感を感じていた。














お昼休み、外に出ると木々の間でセミが五月蝿いほど鳴いていた。

けれど雪の感覚は壁一枚隔てているように鈍く、それに気が付かないかのように沈黙して歩いた。

先輩が腕時計を見ると、時刻は十二時半であった。

「一時まであと三十分あるし、ちょっと休憩してこっか」



雪はぼんやりしたまま「はい‥」と答え、促されるまま先輩と並んでベンチに座った。

「クーラーきついから頭痛くなるよな。ちょっと休んでいこう」



引き続き雪は先輩の言葉にも、心ここにあらずな返答をするだけだ。

俯いた彼女の横で、先輩が優しく声を掛ける。

「何かあった?元気ないみたいだけど」



雪はそう言われてやっと、普段の自分らしくその心配を否定した。



誤魔化すように頭を掻きながら笑う雪に、先輩はゆっくりと言葉を選んで彼女に語りかける。

「あまり言いたくなければ無理にとは言わないけど、

それでも内に溜めとくより外に吐き出した方がいい時もあるよ」




前にも言っただろう?と先輩は言った。

以前の記憶が頭を掠める。

一人じゃないんだから、それくらい大丈夫だよ



あの時、行き詰っていた暗い道に光を差し込ませてくれたのは、彼の温かな眼差しだった。

雪は隣に座った彼を見つめる。



以前も今も、変わらず自分を見つめる彼の瞳の前で、心の扉が揺れる思いがした。

いつも問題をひとりで抱え込んできた雪を、先輩は柔らかく解き解していく。


「実は‥昨日実家に行ってきたんですけど‥」



雪は言いにくそうに口を開くと、父親の事業が倒産した旨を先輩に伝えた。

俯く雪の横で、先輩が大きく目を見開く。



乾いた笑いを立てる雪に何と言葉を掛けて良いのか分からず、彼は思わず口を噤んだ。

雪はそんな先輩を見て、大したことじゃありませんからと両手を広げて見せた。

「差し押さえの札を張られたりとかそういうのもなければ、

借金だって深刻なレベルでもないみたいですし‥」




それに料理が得意な母親が今度お店を始めることになったということを、雪は努めて明るく話した。

それを聞いて先輩はほっとした顔をしたが、雪の表情は依然として晴れない。

「うまくいくといいんですけどね‥。もう‥状況がこうなってしまった以上、

いい方向に考えようとはしてるんですけど‥」




昨日実家で対面した、項垂れた両親の姿が思い浮かんだ。

特に父親は、丸めた背中が一回り小さく見えた‥。


「お父さんはすごく落ち込んでるし‥。なんせ状況が状況だから‥それが何よりも心配で‥。

どうしても気持ちが落ちちゃって‥」




そう言って俯く彼女を、淳は何も言えずにただ見つめた。

夏空の下、二人の間に沈黙が流れる。



雪はそんな気まずい雰囲気を察して、あはははと声を上げて笑い始めた。

「私ってば何やってんだか~!無駄に周りまで暗い気持ちにさせるなんて~!どうかしてますよね~!」



先輩は雪を見て、そんなことないよと何度も首を横に振った。



「それで元気なかったんだね。雪ちゃんもそうだけど、お父さんもさぞ辛いだろうにな。

こういう時こそ前向きに乗りきるしかないんだろうけど、実際そうはいかないもんなぁ‥」




雪は困ったように頭を掻いて、融通の効かない父親について話し出した。

「うちのお父さんは頑固な上にプライドも高いから、立ち直るまで少し時間がかかりそうです」



昨日だって母親と一緒に何度も前向きな意見を出して励ました。

けれど取り付くしまもないほど落ち込んだ父親に、雪と母親は閉口するほかなかったのだ。

「こうなった以上少しでも楽に考えればいいものを‥。

そういう部分がもどかしくて、どう励ましていいのかも分からないんです」




雪が語る父親との話は、淳の心の縁取りに重なるように思えた。

彼女のことを思ってというだけではなく、淳はその縁取りをなぞるように心の扉を少し開ける。

「俺もそういう時があるよ」



先輩の一言に、雪は「本当ですか?」と身を乗り出した。

彼が自分自身のことについて話をするのを、雪は初めて聞いたのだ。



淳ははにかむような表情を浮かべてから、ゆっくりと自身と父親のことを語り出した。

「うちの父親は俺よりも断然大人で賢い人だけど、たまに融通が利かない時があるんだ」



自身の父親は、情が厚すぎて損をするタイプの人間だと淳は言った。

河村姉弟への支援だって、父親のそれは淳の考える程度を遥かに越えている。

淳はいつもそれをもどかしく感じていた。

「それを俺がいくらどう言おうが、父さんの歳くらいになればそれを覆すのは難しいみたいで」



雪はその言葉に、うんうんと何度も頷いた。

頑固一徹な父親を変えることほど難しいことは無いと、雪も常日頃から思っていたからだ。



淳の心の扉は、自身が思っているより幾分大きく開いているようだ。

「でも反対に、」と彼は言葉を続けた。

いつも父親から押さえつけられた肩が、疼くような気がする。

「俺に対してはプレッシャーが半端無くて‥」



幼い頃から厳しかった父の姿が、脳裏に浮かんでくる。

河村姉弟にはいつも甘いくせに、自分にだけ厳しい父親の姿が。

「特に押し付けたりとかそういうのはないんだけど、知らぬ間にそう感じる時があって」



「たまに息苦しくなる時があるんだ」




そう言って幾分俯いた彼を、雪は何も言わずにただ見つめた。

真昼の陽の下で、二人の間に沈黙が流れる。




その微妙な空気を察して、ハハハ‥と今度は淳が乾いた笑いを立てた。

「俺の方こそ暗い気持ちにさせちゃったみたいで‥」



そう言って頭を掻く彼を、そんなことないですと慌てて雪はフォローする。



そして「そういうの、少しは分かる気がします」と、

自身の父親も同じような面があることを認めると、今までの記憶が脳裏を掠めた。



死ぬほどの努力をして保持している”優等生”を、当たり前のように求めるその姿勢や、

弟と比べることで知らぬ間に与えているプレッシャー、そして失敗をした時にされたあの冷遇が、蘇ってくる。

頑張っても頑張っても、得られない愛情。努力しても努力しても、与えられない評価。

自身とあまりにも違う友人と父親との関係性を耳にする度に、心の奥をぎゅっと掴まれる感じがすること‥。





雪は小さく溜息を吐く。

「友達の話とか聞くと、変に比べちゃったりして気に病んでる自分がいるんです。

そんなことしたらいけないって分かってるのに‥」




考えても何にもならないことや、求めてもどうにもならないことが、雪の心を悩ませている。

そんな雪に対して、先輩は「俺もそうだよ」と声を掛けた。

雪はまた意外そうに彼の横顔を眺めた。

「多分誰しもがそうなんだと思う。敢えて他人と比較することで、自分を慰めたり、尚更憂鬱になったりね」



「間違いなく皆も、各自人知れない事情があるだろうに」








雪は何も言わず先輩の横顔を見つめていると、彼は雪の方を見て最後にニッコリと微笑んだ。



陽の光が映り込んだ先輩の瞳に、一筋の明かりが見えた気がした。

去年は漆黒の闇だったその瞳の中に、仄かで温かな一点の光明が。




そして二人は事務室へ向かって歩き出した。

セミの鳴き声が、二人の真上で騒がしく響鳴していた。

その五月蝿いほどの生命力を、雪は真昼の陽の下で感じていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<重なる二人>でした。

お父さんへの二人の気持ちが、重なって見えた回でしたね。

この二人はこういう話を沢山すべきなんですよね、心の中の、話すべき話を。

初めて人と人とで向き合った、雪と淳のお話のような気もします。


次回は<互いを知るということ>です。

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三人の幼馴染み(2)

2013-09-23 01:00:00 | 雪3年2部(遠藤に反撃~小さなデート)
「おい!!」



夕闇迫る夏空に、亮の大声がこだました。

車のキーを手にした淳の背中に、何度も待てよと声をかける。



そのしつこさに閉口し、淳は振り向き溜息を吐いた。

「なに?」



その人を見下したような視線と態度に、亮は頭に血が昇るのを感じた。

淳の方を指差し、憤慨を明らかにしながら近寄る。

「テメェ!!」



「オレはなぁ!テメーの目つき、言葉遣い、行動、顔、何から何まで気に食わねぇ!反吐が出そうだ!」



「一体何様のつもりだよ?!あぁん?!」



いつも上から目線で人の事を見下してくる彼を、亮はあらん限りに罵り続ける。

「世の中がいつまでもお前の思い通りになると思ったら‥」



そう言いながら右足を上げた。勢いをつけて、思い切り蹴る。

「大間違いなんだよっ!!」



衝撃で、車の前輪上の辺りが凹んだ。



淳はそれを見て、ポカンと口を開ける。



亮はニヤニヤしながら、ゆっくりと淳の出方を窺った。

「ムカつくだろ?腹ン中が煮えくり返りそうだろ?」



「でも残念だったな?テメェの親父さんはオレら姉弟がかわいくてしょうがねーんだとよ?!」



ヒャハハハ、と亮は笑いながら、その後もガンガンと淳の車を蹴り続けた。




ようやく亮の気が済んだ頃には、車はボロボロになってしまっていた。

それでも淳は沈黙を保ったままだ。亮が言葉を続ける。

「手を上げるわけにもいかないし~、問題になるのは尚ゴメンだし~」



亮の態度に、淳は再び溜息を吐く。

「かわいそうな子供達に同情してくれてるだけだってのに」と亮は両手を広げて見せた。



そして心の表面に、鋭い言葉のナイフを突きつけた。

「恵まれて育った一人息子が愛情惜しさにスネちゃって、器がちっせーのなんのってな?」



「あン?」



淳は言葉のナイフを向けられても、微動だにしなかった。

しかしその瞳の奥の深い闇は、亮の言葉が紡がれるたびに、徐々にその帳を下ろして行く。



ゆっくりと淳は、亮の方へ向き直った。

暗い瞳の奥は、吸い込まれそうな闇が広がっている。

「イイね~その顔」と亮が、その顔を見て唸るように言った。



そして淳に向かって顔を近づけると、「殴りてぇだろ?やり返してぇだろ?」とその気持を煽った。

「殴れよ。先に殴らせてやるよ。ほら」



「殴ってみろよ」



「なぁ?」



次の瞬間、予想だにしない方向から、亮の身体に衝撃が走った。

ガッ!






ぐああああ!!



亮の大きな呻き声が、夕焼けの空に響き渡った。

亮はスネを押さえ、ぴょんぴょんと飛びながら悶絶している。

「くあっ…!あっ…!こ…の野郎!いてぇじゃねーかっ…!汚い手使いやがってぇぇ!!」



突然の脛蹴りに抗議した亮に構わず、淳は「これは修理代を貰わない代わりだ」と淡々と言った。



当然亮は怒り顔だ。

卑怯な手で反撃してきたかと思えば、未だに上から目線で言葉を掛けてくるのだ。

しかし亮の反撃を待たずに、淳は言葉を続けた。

「それと、お前には俺がそう見えるのかも知れないけど、

俺にはお前ら姉弟の方がそう見えてならないけどな」




亮は一瞬何を言われたのか分からず、「は?」と言ってまだスネをさすっていた。

そして淳は冷静沈着に、言葉のナイフを返した。

最短距離を、躊躇わずに。

「あらゆる被害妄想に囚われて、現実のせい人のせいにして努力もせずに、人に縋り付いてばかり」



「情けない」







その容赦ない言葉に、亮は声を荒げた。

「んだと…?!」

「そんな捻くれてる暇があったら、もっと慎重に行動したらどうだ」



けれど淳は目を伏せると、ただ淡々と忠告にも似た苦言を繰り返す。

「俺が惜しんでるのは愛情じゃなくてお前らの相手をするための労力だ。何度も言っただろ?」

「なんだと?!」



亮は思わずカッとなったが、淳はそれに構わず車のドアに手を掛けた。

振り返りながら口を開く。

「それと、世の中全部俺の思い通りだって‥?」





淳の記憶の海を、いつもの風景が過っていく。



常に何かを期待して、下心を持って寄って来る人々。

金、成績、見栄、打算。

近付いて来る目的が透けるように見える。



顔の無い人々に囲まれて、毎日毎日疲弊する。

淳が望んでいるのはただ平穏に、静かに暮らすことだ。

物心ついたときからずっと、そう願い続けているのに。

     

どうでもいいもの、どうでもいい人は思い通りに動かせても、

本当に欲しいものは、いつも手に入らない。





「‥なめてんのか?」



見下すような視線の奥に、暗い炎が燻ぶっている。

「その歳になってもまだそんな考え方しか出来ないなんて、可哀想だな」

「はぁぁ?!」



怒る亮もそのままに、淳は車に乗り込んだ。

バタンとドアを閉めると、亮は「出てこいこの野郎!」と言って窓をガンガンと叩く。



やがて淳は運転席横の窓を開けると、淡々とこう言った。

「そもそも、そんなに俺が嫌なら始めからここへ来なければ良かっただろう?

全く表裏不同もいいとこだ」
「ひょ‥何て?」



亮は淳の言った”表裏不同”の意味が分からず、怒りマークの上に疑問符を浮かべた。

そんな亮を見ながら、「お前の姉貴はともかく」と淳は前置きをした後、一つ彼に忠告する。

「お前、これ以上俺の周りの人間に付きまとうなよ」



「はぁ?」



亮の疑問はそのままに、車はエンジンの唸りを上げ走り去っていった。



亮はその場に取り残されたまま、未だ先ほど淳の言った言葉の意味を図りかねていた。

周りの人間?つきまとう?



すると脳内に、あの女の姿が浮かび上がって来た。

顔を顰めながら、淳に言われたらしいことをそういえば口にしていた。

先輩はあなたのこと友達でも何でも無いって言ってましたけど?



淳は亮があの女に近付いたのを知っていた。

そして”友達でも何でもない”とあの女に説明したのだ。

その意図は‥。

「ハッ!」



亮は息を吐いて、ニヤリと口元に笑みを湛えた。

物事に深く執着しない淳が、わざわざ自分に警告して来たことに面白味を感じながら。

「気にしてやがんだな」



赤山雪に淳のことを怪しむよう働きかけた亮だが、淳の方にも何らかのプレッシャーを与えていたことに、亮はほくそ笑んだ。

淳の警告を受けて亮は、ますます復讐心が燃え上がるのを感じていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<三人の幼馴染み(2)>でした。

”表裏不同”というのは、韓国の四字熟語で「表と裏が異なること、言行が一致しないこと」という意味をもつものだそうです。

日本語版を読んだ時に、亮が「ひょ‥なに?」と言っているのに、その前の淳のセリフに「ひょ」なんてついてなくて、「???」だったんですよ。

解決出来て良かったです。(自己満の世界ですいません‥)

今回、淳の車がボロボロになってしまいましたね~。この車はプジョーだそうで。

修理費を請求されたら、亮の数ヶ月分の給料が‥(^^;)スネ蹴りで済んで良かったかもしれませんね。。

今回も、修正版の方で記事作成してます〜(2019年4月)


次回は<重なる二人>です。


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三人の幼馴染み(1)

2013-09-22 01:00:00 | 雪3年2部(遠藤に反撃~小さなデート)


直接二人が顔を合わせるのは、実に八年ぶりだった。

亮は淳の方へ向き直り、「よぉ」と声を掛けた。

「誰かと思えば‥おいおいマジで久しぶりだな」



亮は淳の顔を間近でジロジロと眺めながら、

「お前変わんねーな。なんだか嬉しくなっちまうなぁ!顔なんて高校のときのままだ。

スキンケアでもしてんのか?」
と皮肉っぽく言葉を掛けた。



立ち上がった亮は淳に近づき、彼の右肩に触れる。

「お前は?嬉しくねーのかよ?」



そう淳の耳元で囁いたが、淳は微動だにしなかった。

笑ってもくれねーのか?と亮は大仰な泣き真似をしたが、淳は完全無視で静香に声を掛ける。

「久しぶり」



続けられた言葉は素っ気ないものだった。

「なんだ、大したことなかったんだな。なんで俺を呼んだんだ?」



「来て損した」



自分に一瞥すらしない淳に対して、亮の胸が憎しみに焦げる。

静香は鼻にかかったような甘えた声を出し、首を傾げた。

「ええ~?だってお見舞いに来てくれたんでしょ?他に理由があるの?」



「見舞い?」と聞き直した淳に、静香は足を擦りながら説明した。

「ほらギブスまで嵌めてるのよ。超重症なんだから~」



淳は小首を傾げる。

「足にヒビいったくらいで大袈裟だよ。歩けないわけでもないだろうし」



冗談もほどほどにしたらどうだと、淳は呆れたように言った。

しかし静香はおちゃらけた様子で、「冗談じゃないも~ん」と唇を尖らせる。

「ほらこの顔見てよ!傷跡残ったらどーしよー?

後頭部だって腫れてるし、血も出ちゃったんだよー?見る?」




「遠慮しとく」と淳はその申し出を断った後、

「時間の無駄だからもう行く。余計な人数呼ぶなよな」と言い捨てた。



亮は冷淡すぎるほどの淳を、意外な面持ちで眺めていた。

記憶の中の二人は、多少の言い合いはあっても上手くやっていた筈だ。



静香は尚も甘えた声を出す。

「淳ちゃん、最近なんでそんなに冷たいのー?昔はあたしに何かあったら、

真っ先にすっ飛んできてくれたじゃーん」




なんでなんでと静香は身をくねらせて淳に聞いた。

「あたし何かした?」という質問に、淳は空を見つめてしばし黙っていたが、



彼女のわざとらしく同情を引くような態度に、辟易したように口を開いた。

「ほらな、やっぱり茶番だ。まさか何も知らずに聞いてるわけじゃないだろ?」



父親から何度も説教の電話がかかってくるのは、静香が変なことを吹き込んでいるからに違いなかった。

それをすっとぼけるような彼女の態度は、淳の気に障った。

「お前が病気をしようが怪我をしようが、もう俺には関係の無いことだ」



「今後口に気をつけろ」



亮は、淳のそのあまりにも冷たい言い方に当惑し、口を挟もうとした。

しかし淳は意に介さず抑揚無い口調で、静香に対しての不満を並べ始めた。

「ことあるごとに口ばかり先走って、尾ひれをつけてあることないことペラペラと

父さんに告げ口するのがそんなに楽しいか?」




淳の表情を見た静香はオクターブ高い声で、

「やだぁ~、未だにそんなこと根に持ってるワケ~?」と肩をすくめて見せた。



静香が青田会長に頻繁に連絡を取るのは、

「おじさんには娘が居ないから話し相手になれればいいなと思って」との意見だった。

淳の言及した”告げ口”には一切触れない静香の言葉を遮って、淳は「もういい」と背を向けた。

「お前と話してる時間が無駄だ」



「これ以上嫌われたくなければ、口に気をつけろ」と言って、淳はドアから出て行こうとした。

すると先程までくねくねと甘えた口調で淳の出方を窺っていた静香は、手のひらを返したかのような一言を発した。

「嫌だけど?」




今まで様子を見ていた亮は、驚きのあまり目ん玉が飛び出るかと思った。



淳はついに本性を現した彼女を、冷淡な目で眺めている。

「あたしの取り柄といえばこれくらいしか無いのに、やめるワケないじゃん?」



持って生まれた美貌と、減らず口が彼女の武器だ。

先のことなんて興味無い。今が良ければそれでいい。


そんな静香の言葉に亮は当惑し、淳は呆れ果てて溜息を吐いた。



静香は諭すように、ドアに向かって歩いていく淳に向かって言う。

「あんたの振る舞い一つで、皆が平和で居れんだよ?よーく考えてみてよ~。ね?」



キャハハ、と静香は淳の姿が見えなくなってからも笑っていた。


「状況が全く読めねぇ」と、亮は淳を追ってドアの外に出た。



「おい、淳!」






大声で呼び止めた亮に向かって、淳はゆっくりとそちらを向く。

見開かれた瞳に宿るその深い蒼を見て、亮は思わず息を飲んだ。



「………」



沈黙が二人の間に落ちる。

気まずくなった亮は、頭を掻きながら感じた違和感を口に出した。

「…いやお前ら、うまくやってたんじゃなかったのかよ…?」





だが淳は依然として何も答えない。亮は肩をすくめながら口を開いた。

「まぁ、アイツあの性格だしな。つーかただのバカ女だと思ってたけどよ、

思わぬ特技を発見したぜ」




「テメーを怒らせること。ギャッハッハッハ」

「新しい仕事ってのは、時間に融通の利くいい仕事みたいだな」



亮はそう言って腹を抱えたが、淳はまるで取り合わずそう聞いてみせた。

そして亮はその言葉を受けて、思わずニヤリと笑う。



社長に気に入られてるから問題無いんだと言う亮に、淳は「出世したもんだな」と素っ気なく言った。



それじゃこれで、と立ち去ろうとする淳に、

亮は尚も言葉を続ける。

「ああ、出世したさ。なんせスーツ着ての仕事だからな。前に比べたら超出世したっつの」



「あ、勿論蝶ネクタイは無しでな。つーか元々アレ好きじゃねーんだわ。

てかこんな話、テメーにはどうでもいいか?」




過去の傷をえぐるような発言をする亮に、淳は無表情で相対していた。



亮はニヤリと口角を歪めながら、蝶ネクタイを付ける仕草をする。



二人の脳裏に、タキシードを着て蝶ネクタイを付けていた頃の亮の姿が蘇った。




淳は亮の言わんとしていることを全て分かった上で、静かに口を開く。

「‥未だに俺のせいにするつもりなら、

リハビリ代を出してやるって言った時に姿を消した自分を省みるんだな」




他人ごとのようなその言い分に、亮は逆上した。

「リハビリしたら!」



「治るって保証でもあったのかよ?」



淳は表情を変えない。

亮は力の入らない拳を握りしめながら、沸々と湧いてくる怒りを鎮めながら、言葉を続けた。

「何がリハビリ代だよ。アメとムチのつもりか?

それに素直にその金受け取ってお前の顔色窺うくらいなら、死んだほうがまだマシだ」




それなら、と淳は口を開いた。

「それならはっきりさせよう。そんなに嫌なら、今すぐお前の姉貴を連れて消えるんだな」



それならばこれ以上関わることも無くなっていいじゃないか、と淳は冷静に言った。

亮はその物言いといけ好かない態度に腹を立て、「んだと、テメェ?!」と突っかかろうとした時だった。

「あたしははんた~い。消えるならあんた一人で消えてよね~」



話を聞いていたらしい静香が、病室から間延びした声でそう言った。

亮は話の腰を折られたのと、余計なことばかり言う姉に青筋を立て、病室に向かってがなった。



そんな姉弟のやりとりを見て、淳は溜息を吐きながら「全くおかしなもんだな」と呆れたように言った。

「河村教授は堅実で尊敬出来る人だったって聞いたけど、孫のお前らは似ても似つかない」



そしてドアから出て行く直前、独り言のような呟きを漏らした。

「‥にしても、やっぱり姉弟は姉弟なんだな」



それきりドアは閉じられた。

亮はその言葉の意味が飲み込めず、頭に疑問符を浮かべた。

「何を言ってやがんだ?姉弟が姉弟なくしてなんだってんだよ‥」



そんな亮のつぶやきに、静香は病室から「皮肉ってんのよ~」と言葉を返した。

それを聞いてようやく亮は意味を解した。このだらしのない、軽蔑すべき対象の姉と一緒くたにされたことに。


気がついたら走り出していた。

あの疎ましい後ろ姿の残像が、亮の目の前にちらついた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<三人の幼馴染み(1)>でした。

この回は韓国版の2部単行本が出版された際、大幅に修正された回なので、

日本語版のウェブの方と絵柄もコマ割りもかなり変わっています。

そして2018年から始まった再連載では韓国版はウェブでも修正版の方に変わったので、

こちらでも修正版のコマを使っての記事に直させてもらいました。

元の修正前の方が読みたい方は、ウェブ日本語版の方をご覧になって下さいね〜

(2019年4月 修正)

次回は<三人の幼馴染み(2)>です。

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見えてくるもの

2013-09-21 01:00:00 | 雪3年2部(遠藤に反撃~小さなデート)
青田先輩が事務室を出て行ってから、雪達は休憩時間に入った。

机にお菓子を広げ、ペチャクチャとお喋りは続く。



事務員と学生といっても、たいした歳の差もない女三人だ。話は恋バナにも及ぶ。

品川さんと木田さんが、「二人を見てるとじれったい。早く付き合っちゃえ」とからかってくる。



その度雪は否定するか固まるかするのだが、

それでも先輩は雪を頻繁に訪ねてくるので、それは二人を誤解させるのは十分だった。




そういえば、と品川さんが言い出した話は、雪の名前はなかなかインパクトがあるということから始まった。



だから前回の奨学金名簿で雪の名前が首席の欄に書かれていることにも、

彼女らはいち早く気付いたのだった。



雪が照れたように頭を掻くと、品川さんと木田さんは雪を褒めそやした。

「さすがね~!学年トップどころか経営学科のトップだなんて!」
  
「ほんとほんと!」「うちの学科は競争率もすごい高いのにねぇ」



加えて顔も可愛く頭の回転も早く仕事も効率的と、雪への賞賛は止まらない。

雪は思い切り赤面した。こんなにも褒められると逆に困ってしまう。



遠くの席から遠藤が睨んでいるが、雪はそれに気づかず弁明のような形を取った。

「そ、そんなことないですって。前期はたまたま運が良かっただけで‥」



成績だけ見れば、次席の青田先輩とは僅差である。

それに今回の雪の全体首席は、漁夫の利みたいなものだと雪は謙遜した。




それを聞いて品川さんが、青田先輩のレポート紛失時件のことを思い出した。

それで自分に全額奨学金が回ってきたのだと雪が言うと、遠くの席で遠藤がこちらを見て固まっていた。



ハッと雪達は口を噤んだ。

あのレポート紛失事件の担当者、及び紛失の過失を犯したのは、他でもない遠藤だったからだ。



話題を変えなくちゃ、と彼女らがヒソヒソ話をしていると、不意に遠藤が話し掛けてきた。

「‥青田のレポートが無くなったせいで、奨学金を貰ったのが、お前だと?」





赤山雪が座っている席は、元々遠藤が彼の恋人に用意しようとしていた席だった。

しかし予想外の青田淳からの推薦を受けて、結果彼女のものとなった。



そして業務が始まるやいなや、連日のように青田は彼女のところに通い詰めている。

またいつ脅迫されるんじゃないかと、怯える自分など気にもせずに‥。



雪は遠藤の言葉と表情の持つ真意が飲み込めず、疑問符を浮かべながら「はい‥」と答えた。



「‥!! お前‥!」



お前のせいで、と遠藤は言いそうになった。

しかし、すんでのところで言葉を飲み込んだ。ここには品川も木口も居る。



遠藤が、怒りを込めた表情で押し黙る。

木口さんはそれを見て「怒ってるみたい」と呟いたが、雪はその表情に怒りだけはない何かを感じた。



その後、さっさと働けと遠藤の怒号が事務室に飛んだ。

雪達は早急に自分の席へと戻って、仕事を続けたのだった。







その日の夕方。

病院の一室で、河村静香はベッドに座っていた。足にはギブスが巻かれている。



傍らには、河村亮の姿があった。

お見舞い品のりんごを、自ら齧りながら座っている。



静香は意気消沈していた。

いつも自分の身体を過剰なほど労っているのに、なぜかいつもつまらないことでケガをしたり病気をしたり‥。

静香は呪われているのかもしれないと怖がったが、亮はそれを一蹴し、無遠慮にも姉のりんごを齧り続けた。

「しっかし風呂場でスライディングとかマジウケんだけど。そのマヌケな姿拝んでやりたかったぜ~」



しかも加えてゲラゲラと腹を抱え笑い転げる亮に、静香は青筋を立てた。



すると病室のドアが、カチャリと開いた。静香がそちらを窺い見る。

ドアを背にしている亮はそのことに気づかず、静香に向かって言葉を続けた。

「とにかく変なことばっか言ってねぇで、少しはしっかりしろよな。

何の為に目ん玉くっつけてやがんだよ。オレが居なかったら病院にも行けなかったんだぜ?」




加えて「お前の身体は丈夫だから心配すんな。石頭だから脳震盪起こさずに済んだんだ」と話を続けたのだが、

静香はそれには答えず、ドアの方を向いて声を上げた。

「あ、淳ちゃ~ん!来てくれたの?」



静香の言葉に、亮は目を見開いた。

「なんでこんな遅かったの~」



亮は、背中に淳の存在を感じた。


そして淳も、亮の背中を見ていた。口を噤んだまま。




静香は甘えた口調で、淳に自分のケガを報告する。

その鼻にかかった声を聞きながら、亮はゆっくりと振り向いた。





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<見えてくるもの>でした。

韓国語での雪の名前は「ホン ソル」と言って、韓国の名前としては姓と名で二文字は珍しく、インパクトがあるそうです。

作者さんが耳に残る名前がイイと思って付けたそうですよ。

日本版の「赤山雪」も結構インパクトありますよね。「青田淳」と合わせてカラフルだし‥。ww


次回は<三人の幼馴染み(1)>です。



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