週末の午後、雪は部屋に手持ちの服を並べて悩んでいた。
あれがいいか、それともこれか、カジュアル系がいいのか、フェミニンでいくか‥。
しかし見事にスカートが無いことに気が付き愕然とし、
愕然とした自分に対して青くなった。
今日の夕方、青田先輩と映画を観に行くのだ。
課題のためとはいえど、やはり男性と二人で映画館に出向くということに雪はソワソワしていた。
デートではない。決してデートなどではないが、気にしなすぎるのも逆に失礼。
雪はいつも爆発寸前の髪の毛を整えて行くことにした。
雪の髪は天然パーマで、セットしないと真っ直ぐにならないのだ。
結局一時間近くかけて整えられた髪の毛は、キレイにストレートになった。
これでなんとか格好がつく。
彼の隣りに並ぶのに、少しは相応しいだろうか。
雪の脳裏に、彼の横顔が浮かんだ。
彼は今年に入ってからというもの、とても良くしてくれている‥。
雪は鏡に映る自分の真っ直ぐな髪の毛を見て、
こんなことをする余裕すらなかった去年のことを、ぼんやり思い出した。
あの頃はストーカーまがいの横山からのストレスで、完全に気が立っていた‥。
髪の毛のうねりのように、その運命も大きく湾曲した去年。
信じられるものなど何も無かった。
泣き言を言える相手も、弱音を吐ける場所でさえ。
自身を取り巻くしがらみから、雪はたった一人で戦ってきた‥。
時計を見ると、すでに出かける時間を少し過ぎていた。
早く出なきゃと、雪がカーディガンを手に取ると、
さっきまで真っ直ぐだった髪の毛はボサボサと元に戻っていった‥。
そのままサンダルをつっかけ、駅までの道を歩く。
考え事は、色々あった去年のこと、その頃の青田先輩のこと‥。
去年の今頃は、今年こうして彼と映画に行くなんて考えもしなかった。
結局、彼が大きく変わったということなのか、それとも雪が彼を誤解していただけなのか‥。
雪は頭をぐしゃぐしゃと掻いて、余計なことは考えないようにしようと決めた。
同じ頃、公園のベンチで河村亮は横になっていた。
その様子を見て、女子高生たちがピーチクパーチク騒いでいる。
足長い、カッコイイ、という声に混じって、「イケメンホームレス」という言葉が聞こえてくると、
亮は起き上がって文句を言った。
しかし次の瞬間目の前に食べ物をぶら下げられた亮は、女子高生と和解することに決めた‥。
亮は女子高生の持っていた寿司にがっついた。
亮と並んで座った彼女たちは、キャイキャイ騒いだ。
亮と写メを撮ったり、仕事を探してると言う亮にウケたりと、彼女たちは若さ特有の自由奔放さで彼に接した。
「お前らB高生?」と亮は彼女らの制服を見て声を掛けた。
◯◯先生ってまだ居るのかと聞くと、女子高生は去年その先生は他校に異動になったと答えた。
「え?でもなんで知ってるんですか?」
亮は答える。
「俺もB高出てんだよ」
‥ウケた。今日一でウケた。
冗談言わないで下さいよとお腹まで押さえて笑っている。
よもや彼女らも思わなかったのだろう。
良家子女の集まるB高に、こんなホームレスみたいな男が属していたなんて。
彼女らは亮に別れを告げると、また来た道を戻って行った。
亮は小さくなっていく後ろ姿を見ながら、苦い記憶を思い出していた‥。
フラッシュバックのように蘇ってくる、あの長い廊下。
傷だらけの体、踏みにじられた未来、後悔しても消せない過去。
そして、あいつの後ろ姿‥。
昨日のことのように蘇る記憶は、亮を縛り続けている。
彼は最後の寿司を食べ終えると、ベンチから立ち上がった。
職探しの前に、会わなくてはならない人間が居る。
たった一人の肉親の元へ、亮はそのまま向かって行った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<それぞれの準備>でした!
束の間の雪のストレートヘアでしたね‥。
次回は<映画の前に(1)>です!
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あれがいいか、それともこれか、カジュアル系がいいのか、フェミニンでいくか‥。
しかし見事にスカートが無いことに気が付き愕然とし、
愕然とした自分に対して青くなった。
今日の夕方、青田先輩と映画を観に行くのだ。
課題のためとはいえど、やはり男性と二人で映画館に出向くということに雪はソワソワしていた。
デートではない。決してデートなどではないが、気にしなすぎるのも逆に失礼。
雪はいつも爆発寸前の髪の毛を整えて行くことにした。
雪の髪は天然パーマで、セットしないと真っ直ぐにならないのだ。
結局一時間近くかけて整えられた髪の毛は、キレイにストレートになった。
これでなんとか格好がつく。
彼の隣りに並ぶのに、少しは相応しいだろうか。
雪の脳裏に、彼の横顔が浮かんだ。
彼は今年に入ってからというもの、とても良くしてくれている‥。
雪は鏡に映る自分の真っ直ぐな髪の毛を見て、
こんなことをする余裕すらなかった去年のことを、ぼんやり思い出した。
あの頃はストーカーまがいの横山からのストレスで、完全に気が立っていた‥。
髪の毛のうねりのように、その運命も大きく湾曲した去年。
信じられるものなど何も無かった。
泣き言を言える相手も、弱音を吐ける場所でさえ。
自身を取り巻くしがらみから、雪はたった一人で戦ってきた‥。
時計を見ると、すでに出かける時間を少し過ぎていた。
早く出なきゃと、雪がカーディガンを手に取ると、
さっきまで真っ直ぐだった髪の毛はボサボサと元に戻っていった‥。
そのままサンダルをつっかけ、駅までの道を歩く。
考え事は、色々あった去年のこと、その頃の青田先輩のこと‥。
去年の今頃は、今年こうして彼と映画に行くなんて考えもしなかった。
結局、彼が大きく変わったということなのか、それとも雪が彼を誤解していただけなのか‥。
雪は頭をぐしゃぐしゃと掻いて、余計なことは考えないようにしようと決めた。
同じ頃、公園のベンチで河村亮は横になっていた。
その様子を見て、女子高生たちがピーチクパーチク騒いでいる。
足長い、カッコイイ、という声に混じって、「イケメンホームレス」という言葉が聞こえてくると、
亮は起き上がって文句を言った。
しかし次の瞬間目の前に食べ物をぶら下げられた亮は、女子高生と和解することに決めた‥。
亮は女子高生の持っていた寿司にがっついた。
亮と並んで座った彼女たちは、キャイキャイ騒いだ。
亮と写メを撮ったり、仕事を探してると言う亮にウケたりと、彼女たちは若さ特有の自由奔放さで彼に接した。
「お前らB高生?」と亮は彼女らの制服を見て声を掛けた。
◯◯先生ってまだ居るのかと聞くと、女子高生は去年その先生は他校に異動になったと答えた。
「え?でもなんで知ってるんですか?」
亮は答える。
「俺もB高出てんだよ」
‥ウケた。今日一でウケた。
冗談言わないで下さいよとお腹まで押さえて笑っている。
よもや彼女らも思わなかったのだろう。
良家子女の集まるB高に、こんなホームレスみたいな男が属していたなんて。
彼女らは亮に別れを告げると、また来た道を戻って行った。
亮は小さくなっていく後ろ姿を見ながら、苦い記憶を思い出していた‥。
フラッシュバックのように蘇ってくる、あの長い廊下。
傷だらけの体、踏みにじられた未来、後悔しても消せない過去。
そして、あいつの後ろ姿‥。
昨日のことのように蘇る記憶は、亮を縛り続けている。
彼は最後の寿司を食べ終えると、ベンチから立ち上がった。
職探しの前に、会わなくてはならない人間が居る。
たった一人の肉親の元へ、亮はそのまま向かって行った。
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<それぞれの準備>でした!
束の間の雪のストレートヘアでしたね‥。
次回は<映画の前に(1)>です!
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