夏休みに入っても、雪の心は休まることがなかった。
今日も6階に住むおばさんが、雪の家へとプレゼントを持って来た。
「また雪ちゃん宛のプレゼントが間違って家に届いたの」
度々どうもスミマセン、と雪は頭を下げる。
母親とおばさんは、若い子たちはいいわね~なんて笑いながら、ほのぼの談笑しているが、
雪にとってはそれどころではない。
部屋には、これまで届いたプレゼントがダンボールに突っ込んで置いてあった。
ふいに携帯電話が鳴る。
着信画面には”横山翔”
雪は携帯を引っ掴んで取った。
「あんたねぇ!!プレゼント送ってくるなって何回言わせれば気が済むわけ?!
片付けるのも一苦労だっつーの!ハッキリ言って迷惑だから!」
横山が喋り出す前に、キレた雪は感情のままに喋った。しかし電話の向こうの横山は悪びれず、
「そんな怒んなって。もっと高いもん買ってやりゃいいんだろ?
今度一緒にショッピングしに‥」
そこまで言った所で、雪は電話を切った。
ついでに横山を着信拒否にして、携帯をベッドに投げつける。
雪は横山のターゲットが自分に移ったことに完全に気がついてしまった。
自分としたことが、あの時に慰めたからこんなことに‥。
雪の後悔の叫びは赤山家にこだました‥。
雪は夏休みに通う予定の、塾の受付に来ていた。
科目は電算会計で、試験に受かればMOS資格も取得出来る。
人は思ったより少なく、集中して通うには良さそうだ。
塾代はどうにか自力でまかなえたが、銀行の残高は空っぽになった‥。
そんなことをぼんやり考えながら、雪は受付の列に並んでいた。
「お前も申し込みに来たのか?」
雪はギクリとした。
いつの間にか横山が後ろに並んでいたのだ。
「横山?!どうしてあんたがここにいるの?!」
横山は、俺も塾の申し込みに来たに決まってんじゃ~んとヘラヘラ笑った。
どうしてこの街の塾に通うんだという雪の質問に横山は答えず、
代わりに「あ、そうだ。お前んち6階じゃなかったんだな」
と言った。
4階なのにどうして今まで言ってくれなかったのかと。
横山は昨日の夜それをチェックして知ったと。
夜道が危ないという理由で雪の素行を監視していたと。
雪は逃げた。
ここから、雪の逃亡生活が始まった。
夏休み、家の近くを歩いていると、決まって声を掛けられた。
度々友達に会いに来ているという横山だが、
それが誰でどこに住んでいるのか聞いたことがない。
聞いたとしても、
「ははは~そんなのどーでもよくねー?」
そうはぐらかすだけだった。
横山は雪の持つ荷物を持ってやろうと手を差し出すが、雪は結構だとその手を跳ね除けた。
「‥最近冷たくなったな。電話しても出ないし、メールだって返してくれないし‥。
俺、何かした? 俺だけ好きみたいじゃん」
憂いを帯びたその表情と言葉‥。
!
雪は固まった。
一体いつからカップルになったというのだ。
さも当然のように付き合っている間柄のような会話をする横山に、雪は激昂し、いい加減にしないと警察を呼ぶとまで言った。
横山は微動だにしない。
警察という文句が聞いてビビったのかと思った雪に反して、横山はこう言った。
「証拠でもあるのか?俺がお前に脅迫の言葉なり行動をしたという証拠があるのか?」
雪は、開いた口が塞がらなかった。
尚も横山は続ける。
「俺は心からお前のためにと思って努力してるのに、お前は怒ってばっかだし、
しまいには警察を呼ぶだなんて‥。最近ちょっとおかしいぞ?特に意味は無いんだよな?
何か気に入らないことがあるなら、すぐ言えよな」
雪は、言葉の通じないモンスターを前にしているような気になった。
何度やめてと言っても、迷惑だと伝えても、
言葉が通じないのだ。
思い込んでいる想いが強すぎて、雪の言葉は横山の心には届かない。
なんとかしなければ、
そう思って胸が苦しくなった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<雪>その代償(4)へ続きます。
今日も6階に住むおばさんが、雪の家へとプレゼントを持って来た。
「また雪ちゃん宛のプレゼントが間違って家に届いたの」
度々どうもスミマセン、と雪は頭を下げる。
母親とおばさんは、若い子たちはいいわね~なんて笑いながら、ほのぼの談笑しているが、
雪にとってはそれどころではない。
部屋には、これまで届いたプレゼントがダンボールに突っ込んで置いてあった。
ふいに携帯電話が鳴る。
着信画面には”横山翔”
雪は携帯を引っ掴んで取った。
「あんたねぇ!!プレゼント送ってくるなって何回言わせれば気が済むわけ?!
片付けるのも一苦労だっつーの!ハッキリ言って迷惑だから!」
横山が喋り出す前に、キレた雪は感情のままに喋った。しかし電話の向こうの横山は悪びれず、
「そんな怒んなって。もっと高いもん買ってやりゃいいんだろ?
今度一緒にショッピングしに‥」
そこまで言った所で、雪は電話を切った。
ついでに横山を着信拒否にして、携帯をベッドに投げつける。
雪は横山のターゲットが自分に移ったことに完全に気がついてしまった。
自分としたことが、あの時に慰めたからこんなことに‥。
雪の後悔の叫びは赤山家にこだました‥。
雪は夏休みに通う予定の、塾の受付に来ていた。
科目は電算会計で、試験に受かればMOS資格も取得出来る。
人は思ったより少なく、集中して通うには良さそうだ。
塾代はどうにか自力でまかなえたが、銀行の残高は空っぽになった‥。
そんなことをぼんやり考えながら、雪は受付の列に並んでいた。
「お前も申し込みに来たのか?」
雪はギクリとした。
いつの間にか横山が後ろに並んでいたのだ。
「横山?!どうしてあんたがここにいるの?!」
横山は、俺も塾の申し込みに来たに決まってんじゃ~んとヘラヘラ笑った。
どうしてこの街の塾に通うんだという雪の質問に横山は答えず、
代わりに「あ、そうだ。お前んち6階じゃなかったんだな」
と言った。
4階なのにどうして今まで言ってくれなかったのかと。
横山は昨日の夜それをチェックして知ったと。
夜道が危ないという理由で雪の素行を監視していたと。
雪は逃げた。
ここから、雪の逃亡生活が始まった。
夏休み、家の近くを歩いていると、決まって声を掛けられた。
度々友達に会いに来ているという横山だが、
それが誰でどこに住んでいるのか聞いたことがない。
聞いたとしても、
「ははは~そんなのどーでもよくねー?」
そうはぐらかすだけだった。
横山は雪の持つ荷物を持ってやろうと手を差し出すが、雪は結構だとその手を跳ね除けた。
「‥最近冷たくなったな。電話しても出ないし、メールだって返してくれないし‥。
俺、何かした? 俺だけ好きみたいじゃん」
憂いを帯びたその表情と言葉‥。
!
雪は固まった。
一体いつからカップルになったというのだ。
さも当然のように付き合っている間柄のような会話をする横山に、雪は激昂し、いい加減にしないと警察を呼ぶとまで言った。
横山は微動だにしない。
警察という文句が聞いてビビったのかと思った雪に反して、横山はこう言った。
「証拠でもあるのか?俺がお前に脅迫の言葉なり行動をしたという証拠があるのか?」
雪は、開いた口が塞がらなかった。
尚も横山は続ける。
「俺は心からお前のためにと思って努力してるのに、お前は怒ってばっかだし、
しまいには警察を呼ぶだなんて‥。最近ちょっとおかしいぞ?特に意味は無いんだよな?
何か気に入らないことがあるなら、すぐ言えよな」
雪は、言葉の通じないモンスターを前にしているような気になった。
何度やめてと言っても、迷惑だと伝えても、
言葉が通じないのだ。
思い込んでいる想いが強すぎて、雪の言葉は横山の心には届かない。
なんとかしなければ、
そう思って胸が苦しくなった。
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<雪>その代償(4)へ続きます。