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Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

<雪と淳>図星

2015-08-27 01:00:00 | 雪2年(学祭準備~学祭)

「‥‥‥‥」



本格的な広報の仕事はこれからだというのに、あれよあれよという間にメンバーは去って行った。

雪は青田淳の背中を睨みながら、心の中で毒づいた。

そうですか私が手伝わざるを得ない状況ですか
それに仕事はポスター貼りだけだとお思いですかこれどうするよマジで‥




机の上に置いてある大量のポスターやステッカー。

足あとのステッカーには、”経営BAR”と書いてある。



その量を見て雪は、まぁ‥出来ない量ではないかな‥と思った。

二人でやるならポスターなりステッカーなり、

手分けしてやれば小一時間で終わるかもしれない。



その時、青田淳がふらりと歩き出した。

どこへ行くんだろうと雪がその背中を視線で追うと、彼は突然靴を脱ぎ、

店のソファに身を横たえたのだ。

ドサッ



その想定外すぎる振る舞いに、思わず雪は目を丸くする。

「?!!」



呆気に取られる雪。

そして淳は雪の方を振り向くことなく、気怠そうにこう言ったのだった。

「帰ったら?」



「え?」



「裏口の方から帰れば。そっちにはさっきの子達いないから」



手で裏口の方向を指し、青田淳は雪を家に帰そうとする。

雪は意味が分からずに、残された広報の仕事を指して聞いた。

「‥これはどうするんです?」

「俺がやればいいさ」



そう言うなり、淳はソファの肘置きの部分に頭を深く凭れ掛けさせた。

雪は沈黙の中で、彼の後頭部ばかりを凝視している。



何なの?それどういう意図で言ってんの?

てか私ここ最近ずっと振り回されてピエロ状態なんですけど‥。一体何なの???




彼の思惑はまるで読めない。

目に入って来るのは無言の背中、そして皆に囲まれ、光を浴びる姿ばかり‥。



影から見る光は、時に眩しく、時に妬ましい。

そんな彼の姿を見る度、胸の中に溜まった感情が刺激される。

‥アンタは勝ち組だもんね



イライラが加速する。

雪は荷物とジャケットを掴むと、入り口に向かって歩き出した。

そうよ、一人で全部やればいい。帰ってやる



店を出て行こうとする雪の視界に入ってくる、大量のポスターとステッカー。

青田淳は一人でそれらを大学の周りに貼り、店へと続く道路にステッカーを貼っていかなくてはいけないだろう。



雪はその量を見て、一人でやるには結構な仕事であろうということを感じた。

しかも本来これは広報の仕事で、設営チームの統括者である青田淳には全く関係の無い仕事だ‥。



チクリと、良心が痛む。

雪は踏み出した足を止め、その場で一人立ち止まる。



‥本当に、ここで仕事を投げ出して帰っていいのだろうか?

後々青田淳に対して、引け目を感じることにはならないだろうか‥?



プルプルと身体を震わせた葛藤の末、結局雪は心を決めた。

くるりと店の方へと向き直ると、机の上に鞄を置く。

ドサッ!



髪の毛を掴み、イライラに耐えながら彼に向かってこう言った。

「この足跡ステッカーだけ貼って行きます‥」



淳は雪の言葉を聞いた後、軽く息を吐いた。

閉じた目を開けることなく、気怠そうに口を開く。

「昨日から顔色良くないだろ。行かなくていいよ」



「え?」



聞き返す雪に答えることなく、淳は呟くようにこう続けた。

「やったからって誰も見てないって」








その淳の言葉を耳にして、雪の思考は一旦フリーズした。

そして徐々にその意味を理解するにしたがって、感情がうねりを上げるのを感じる。



”やったからって誰も見てない”

そう彼は口にした。

その意味を解きほぐして行くと、彼の言わんとするその結論が見えてくる。



つまり全て無駄なのだと‥そう彼は言ったのだ。

皆に囲まれ勝ち組の位置に立つ彼が、ピエロのような負け組の自分に、そう言ったのだ。



彼は向こうを向いたまま、涼しげにただ目を閉じている。

燃えたぎる雪の心の中など知る由もないと言わんばかりに。



ぐっと歯を食い縛った。

積もり積もった悪感情が、突かれた図星を契機に、爆発して溢れ出す‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪と淳>図星 でした。



ソファに寝転ぶ時に、きちんと靴を脱ぐ先輩に育ちの良さ(?)を垣間見ます‥。靴下白なのな‥。


けど先輩、雪を気遣って「帰ったら」と言ってるんだろうけど、全然伝わってない‥

却って雪のコンプレックスを刺激する結果になってしまうというすれ違い‥もどかしいですね~


次回は<雪と淳>不快 です。


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<雪と淳>去りゆくメンバー

2015-08-25 01:00:00 | 雪2年(学祭準備~学祭)
「‥‥‥‥」

 

作業を続けながらも、雪の頭の中はハテナでいっぱいだった。

思い浮かぶのは、先程青田淳から言われたあの言葉‥。

「昨日のことだけど、わざとじゃないから」




「‥‥‥‥」



雪は壁にポスターを貼り付けながらこう思った。

アイツ‥おかしくなっちゃった‥?何の話か全然分かんない‥



”昨日のこと”が一体何のことなのか、”わざとじゃない”とは何を指して言ったのか、

雪には何一つピンとくる出来事が思い浮かばなかった。

首を傾げ続ける雪であったが、次の瞬間目を剥くことになる。

「俺もう帰るわ!」「!」



不機嫌を引き摺る健太は、イライラした空気を纏いながらそう言った。

健太のその言葉に驚いた雪は、慌てて立ち上がる。

「これ終わらせてからポスター貼りですよ?

健太先輩広報チームですよね?」




しかし健太は携帯に目を落としながら、どこかソワソワしている体だ。

「設営手伝ってやっただろ?

広報の仕事なら来なかった奴らにやらせろっつーの!

なんで俺だけ大変な思いしなきゃなんねーんだよ!ムカつくわー」




聞く耳を持たない健太に、雪はなんとか説得を試みる。

「条件は私も同じですよ!これから本格的な広報チームの仕事がー‥」

「ったくよぉ!



健太はツカツカと雪の方へ歩み寄ると、彼女の額に人差し指を突きつけこう言った。

「俺はやるだけやったっつの!アフター‥いや約束もあるってのに、

いつまで居なきゃいけねーんだよ!」




「悔しけりゃお前も帰るか、バックレた奴らに連絡つけるんだな!」



開いた口が塞がらない。

学祭準備の話し合いの時点から、健太は携帯片手に女の子とのデートしか頭に無かったことを思い出す。



唯一の広報部員を、このまま行かせるわけにはいかない。

雪は統括者である青田淳の方を振り返った。



しかし彼は二人の方を見ようともせず、そのまま行ってしまった。

雪は言葉にならない声を上げながら、目を丸くする。

説得しないの?帰らせるの?



健太は「分かったか?」と言ってその場に佇んでいる。

雪は青田淳の背中をじっと見つめていた。

この騒ぎが聞こえてないわけないのに‥。



そんな雪と、健太は馴れ馴れしく肩を組んだ。

甘い口調で彼女を誘う。

「じゃなきゃ一緒に逃避行‥」「嫌です」

「そうか。んじゃ俺は帰る」



そう言って、健太は帰って行った。

その巨体が店を去るのを、皆非難めいた視線を送りながらも黙認する。



雪は煮え切らない気持ちを噛み殺しながら、健太が去るのをじっと見ていた。

これでこの場に居る広報チームは自分一人だけということになる‥。(厳密に言うと設営チームなのだが‥)







健太が帰った後、糸井直美は苦々しい顔を露わにしていた。

出来上がったポスターを持って、彼女は雪にこう話し掛ける。

「ねぇこれ、大学の周りで配ればいいの?」

「はい」



「それじゃ雪ちゃん、これはあたし達が帰る時に駅方面で配っとくから、

雪ちゃんにはポスターと案内ステッカー貼って行ってくれる?」




雪は思わず「えぇ?」と声を上げた。

出来るだけ冷静に、当初の計画を口にする。

「あの‥ポスターは皆で貼りましょうよ。ビラは二人一組で配って‥」

「ごめんけどあたし達にも約束があるの。広報チームの子らが来なかったからって、

その仕事まで請け負えないよ」


「そうだよ!この時間に来れないなら、明日早朝に来て貼ればいいじゃん!」



直美も、その友人も、積もった不満がどんどん口をついて出る。

雪は来なかった広報チームメンバーの矢面に立たされることとなった。

「ビラ作ってあげただけでも感謝してほしいくらいよ」「そ‥そうだけど‥でも‥てかなんで私に怒るの‥

「だからどうして私達がしなきゃいけないの?ムカツクわー」



タジタジと言葉に詰まる雪。

すると後ろから、聞き覚えのある声が掛かった。

「それじゃポスターは俺と雪ちゃんで貼っとくよ。みんなおつかれな」

 

青田淳はニッコリと笑いながらー‥いや、ニッコリとした顔を作りながら、皆に労いの言葉を掛けた。

雪はそんな虚飾の表情から目が離せず、思わずヒッと息を飲む。

「皆約束あるんだろ?設営の仕事してくれてありがとうな」

「ホントですよー」「こればっかりに時間割いてもいられないわよ、まったくー」



青田淳は虚飾の笑顔で、思ってもいないことを口にする。

雪はその違和感を感じて、怪訝な表情で彼を見ていた。

「てか忙しいのは先輩も同じじゃないですか。バックレた子達にさせればいいのに」

「そうですよ、先輩も帰りましょーよ」

「それは出来ないよ」



しかしその一言を口にした時の彼は、少し毛色の違う雰囲気を醸し出した。

長い前髪で、どんな目をしてそう言ったかは分からなかったが。

「青田君たら~」



直美が淳の名を呼ぶ。雪は彼から目を逸らし、下を向いた。

「気にしないでもう帰っていいよ。

俺らで仕上げしてくから」




青田淳はそう口にした後、雪の方を向いた。上辺の笑顔と言葉を掛ける。

「もしかして雪ちゃんも今日約束があったりした?」「!」



突然自分にその話題が振られたので、雪は一瞬言葉に詰まる。

「あ‥それは‥」



その続きを口にしようとすると、自分の方をじっと見つめる直美達の視線に気づいた。

今嘘でもつこうものなら、一瞬でボロが出てしまいそうな感じ‥。



そして結局、こうなった。

「無いです」「じゃ、大丈夫だね」



その雪の言葉を聞いて、直美達は安心したように頷いた。

それじゃ大丈夫そうだね

うん、一緒にやるみたいだし



帰り支度を済ませ、彼女達は店を後にする。

「それじゃあたし達はここで失礼しますね」「先輩また明日~」

「うん。ビラ配りお願いして悪いね」「はーい先輩もー」



去りゆくメンバー。

雪は虚しくそれを見送る。



そして店には誰も(青田淳以外)いなくなった‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪と淳>去りゆくメンバー でした。



健太の言う「アフター」というのは‥同伴??

健太とデートとか‥物好きもいるものですね(ヒドイ)


直美は安定の保身キャラですね‥残念‥


次回は<雪と淳>図星 です。

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<雪と淳>不機嫌

2015-08-23 01:00:00 | 雪2年(学祭準備~学祭)
「はぁ?!誰が来れねーって?!

おい!準備万端でも誰も来なかったらどうにもなんねぇだろうがよ!!」




店に健太の怒号が響く。その凄い剣幕に、周りの人間は黙り込んだ。

「俺と赤山しかいねーじゃんか!広報が!皆どっか痛ぇだのバイトがあるだの‥

マジけしからんっつの!ソッコー来いよ!?」




雪が「実は私設営チームなんです‥」と呟いてみたところで、健太は聞いちゃいない。

絶望の中で聡美(風邪で病院なう)と太一(バイトなう)にメールしてみるも、

その返事は雪の助けにはならなかった。

聡美:あの人どーしたんだろーね?

あたし今注射の順番待ってるとこー


太一:バイト代わってくれる人いないんスよ‥TT



‥これは本気で広報チームのピンチかもしれない。

すると皆に向かって青田淳が口を開いた。

「落ち着いて下さい。

とりあえず設営チームの仕事は昨日ほとんど終わって、余裕がありますからー‥」




「皆で一緒にここの仕上げをしてから、広報の仕事もやりましょう」

「んなバカな!!」



その淳の提案に、健太が待ったを掛けた。

健太は雪の肩を揺さぶりながら、自己主張を続ける。

「俺ら以外の奴らも連れて来てやらせろよ!

マジありえねーって!俺と赤山だけが~!」




雪はもう一度「いやだから‥私は違‥」と言ってみたが、やはり健太は聞いちゃいない。

淳はそんな健太の主張に対し、苛立ちを隠し切れない表情で説得を試みる。

「‥とにかくこんな状況ですから、

とりあえず全員で早く仕上げてしまいましょう」




そう締め括った淳に、健太は「ったくよぉ!と不満たらたらだった。

淳が「それじゃ始めよう」と声を掛けても、プリプリと怒っている。







そして掃除が始まったのだが、健太の不機嫌が移ったのか、皆どこかピリピリしていた。

雪はモップ片手に、その空気を感じ取る。

うわ‥この雰囲気どうするよ‥



本当のところ、義務ではない学祭の準備に時間を取られることは、どこか損をしていると皆思っているのだろう。

しかしやらないわけにはいかない、それを雪はちゃんと分かっていた。



やらなきゃいけないなら、さっさと終わらせてしまおう。

雪はそう決めると、作業する人々の間を縫ってモップを掛けていく。

 

机を動かす人、ナプキンを並べる人、皆それぞれの作業をこなしていた。

雪は皆の邪魔にならぬよう、開いた床を見つけては掃除する。



不意に、身体に違和感を感じるようになった。

意識が、徐々にぼやけて行くような気がするのだ。

目がシバシバして来て、雪は何度も瞬きする。






はぁ、と深く息を吐くと、随分と熱い吐息が口から漏れた。

心なしか地面が揺れているような気がする。

暑くない‥?なんか熱ありそう‥



顔が熱くて、頭がぼんやりする。

雪はニットキャップを取ると、一度上を向いて深呼吸した。



熱い。

目の前がクラクラして、背中に変な汗が伝う。



もう切り上げて帰った方が良いかもしれない。

雪はそう思い、周りを見回した。



もうほとんど作業は終盤だ。

大体全部終わったかな‥



そう思いながら歩き出そうとしたその時、

モップに足を取られた。



ぐらりと目の前が揺れ、身体のバランスが崩れる。

冷やっとした感覚が全身に走った。

「あっ‥」



転ぶ。

そう思った時だった。


ガシッ



地面に膝をつくかと思ったその時、ふわりと身体が宙に浮いた。

大きな手が、雪のパーカーのフードを掴んでいる。



雪は目を丸くしたまま、そろりと後ろを振り返った。



しかし彼と目が合うより先に、グイッとフードを引っ張られ、

雪は前傾姿勢から直立の姿勢にされた。



改めて、彼の方を振り返る。




「あ‥」



見上げると、彼も雪の方をじっと見ていた。

雪はその視線を逸らすことが出来ぬまま、礼を口にする。

「あ‥ありがとうございま‥」



しかし言い切る前に、淳の方が視線を逸らした。

不機嫌な横顔。



雪は変な気分になった。

さっきからこの人‥感情がダダ漏れ‥特に私の前では‥

本当に具合悪いのか?


「昨日のことだけど」



そして淳は雪に向かって、ぶっきらぼうにこう言った。

「わざとじゃないから」



その言葉に、思わず雪は「え?」と聞き返した。

けれど彼はそれ以上口にすることなく、さっさと歩いて行ってしまった。



何のことだか全然分からない。

思わず雪は首を傾げる‥。

「えぇ?」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪と淳>不機嫌 でした。

健太の人間の小ささ‥いちいちイライラしてしまいます‥。


そして転びかける雪のパーカーを掴む、先輩のタイミングの良さ‥。

きっとずっとチラチラ見てたんでしょうね~ 

中学生男子か! 笑


次回は<雪と淳>去りゆくメンバー です。

この学祭準備編はなんのひねりもないタイトルが多くなってしまいました‥すいません‥(@@;)

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<雪と淳>過信

2015-08-21 01:00:00 | 雪2年(学祭準備~学祭)
あの時もそうだった。

影響を受け止めきれずに、感情がガチガチに閉じ込められて‥




学祭準備の設営チームとして働いて来た雪を待っていたのは、雑然とした実家のリビングだった。

床には様々なものが散らかっている。

「あ‥お母さん同窓会か‥」



母が不在‥ということは、ここは自分がやるしかない。

雪はコートを脱ぎ、髪の毛を結ぶと、早速部屋の片付けを始めた。



しかしなんだか既視感である。

さっきも同じようなことしたような‥??



設営チームでも掃除して、そして休もうと思って帰って来た家でもまた掃除‥。

雪は首を傾げつつ、片付いた床に掃除機を掛けた。



すると不意にドアが開き、父親が部屋に入って来た。

雪は掃除機のスイッチを切ると、父の元へと歩み寄る。

「あ、お父さん。おかえり」「あぁ」

 

入室して来た時の父の表情から、仕事が上手く行ってない顔だな、と雪は感じ取った。

父はどことなく不機嫌そうに、リビングを見回す。

「お、掃除したのか?わしが出てく時はとっ散らかってたが

「うん」



片付けたことに父が気づいてくれたので、雪は嬉しくなり、口調が弾んだ。

「ついでにリビングも今‥」

「この際蓮の部屋もやりなさい。ゴミ溜めみたいになってただろう」



しかし父は雪の方を見ることなく、背を向けて娘に指示を出す。

「いくら部屋の主が不在だとしてもな」

「う、うん‥しようとしたんだけど‥」



雪がそう言った時、再び腹部に痛みが走った。

ズキン、と内蔵に響く鈍い痛み。



しかし父はそんな娘の様子に気づかずに、その気遣いを長男にばかり向ける。

「それにほら‥ビタミンCかなんかも送ってやれ。

勉強が大変で、自分の身体に構う余裕もなかなか持てんかもしれんからな。

なんと言っても身体が資本だ」




散々押し付けられるその重圧。それを再び父は娘に向けた。

雪はしっかりしているからと、父が持ち続けるその過信を。

「お前は姉さんなんだから、プレゼントとして送ってやんなさい」

「はい‥」



お腹が痛い。その重さを感じれば感じるほど。

「そうするね‥」



けれど雪はその痛みを逃さずに、そのまま自分の中に抱え込んだ。

ズキズキズキズキと、鈍い痛みがいつまでもお腹の中に響く。

敏感になってる時は、些細なことにも過剰に反応する。

大丈夫。こんなことは慣れっこじゃないか。




‥と、思っていた



心と身体は繋がっているはずなのに、時に心は身体の限界を超えて物事を受け入れてしまう。

そしてこの時の雪も、実はもうとっくに限界点を超えていたー‥。





しかしそうとは気づかない雪は、今日も真面目に授業を受け、きっちりとノートを取っていた。

それでもどこか心は浮ついて、そんな自分を意識的に正す。



ふと、周りを見回してみた。

目に入ってくるのは、授業中だというのにおしゃべりをする学生達、

いつもより空席が目立つ教室内、ふざけあって落書きを楽しむ女学生達‥。



雪は鋭い観察眼でそれを考察する。

明日学祭だから、皆ソワソワしてるな。

でも来週は小テスト‥




そう思い、雪は一層教授の話に耳を傾けた。

だから気付かなかったのだ。

離れた席に座る彼が、いつもよりぼんやりしていることに。



青田淳は優れない表情で、ふぅと息を吐いた。

目の下に翳る隈。



けれど誰もそれに気づく者はいない。

淡々と授業は進んで行く。









授業が終わり、皆教室を後にした。

経営学科の皆を引き連れて、柳瀬健太がテンション高く声を上げる。

「終わったー!空講の奴ら、先に行ってよーぜ!」「はい」



淳が笑顔で返事をし、健太に続いて学生達はバーへと向かう。

「俺らも早く準備手伝いにいこーぜ!

早くやりゃ早く終る!俺ってば今日授業ない日だったけど、先輩だから大学来てやったんだぜぇ!」




「ポスターって店にあんの?」



雪は皆のガヤガヤに紛れて、行くか行かまいか迷っていた。

もしかしたら行かなくてもいいかも‥と天秤が傾く中、青田淳が振り返りこう聞いて来た。

「行かないの?」

 

まるで心の中を見透かされたかのようなタイミング。

結局雪は帰ることが出来ずに、皆の後に付いていくしかなくなった。

「‥‥‥」



下を向いて歩く雪。すると不意に前方から声を掛けられた。

「友達は?」「え?」



淳の質問に思わずビクッとする雪。

何を聞かれているのか一瞬分からなかったが、聡美と太一のことだということを察して、

おずおずと答えを口にする。

「あ‥二人共連続講義とアルバイトがあるとかで‥しかも風邪で‥

「ふーん」

 

淳は適当な相槌を打つと、すぐに雪から顔を背けた。

そんな彼のリアクションを見て、頭の中がまたゴチャゴチャと考え出す。

?何だ‥?どうしてまたわざわざ話し掛けて来るんだ‥?

二人が来ない不満を私にぶつけてるってこと?てかあの二人ワザと休んでるわけじゃないから!




彼の言動一つ一つに振り回されて、その言葉の意味を深読みして‥。

なにしろ青田淳という人間は、何を考えているのか全く読めない。

彼に関わると、頭の中がノイズでいっぱいだ。



モヤモヤと考え込む雪。

彼女の方を振り返った淳は、そんな雪を見て疑問符を浮かべた。

どうしていつも彼女は、あんなにも敏感に反応するんだろう‥。






雪を気にする淳と、何も気にしないようにしてその後ろを歩く雪。

二人の距離は、こんなにもまだ離れている‥。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪と淳>過信 でした。

さて再び過去に戻ってまいりました。

今の状態から考えると、本当この頃の赤山家は表面的なやりとりばっかりしてる気がしますよね~。

二時間強掛けて大学から帰って来て掃除する娘に労りの言葉もない‥お父さん‥(T T)


さて次回は<雪と淳>不機嫌 です。


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<雪と淳>平行線

2015-08-17 01:00:00 | 雪2年(学祭準備~学祭)
大体の作業を終わらせた淳は、カウンターの中に座って足を組んでいた。

店全体の仕上がりをチェックしつつも、意識のアンテナは彼女に反応している。

「あ、聡美?」



淳の耳は否応なく、通話する彼女の声を拾う。

「そうなの?大丈夫?それじゃ太一は?」



淳の目に映る彼女は、いつも横顔か後ろ姿だ。

そしてそんな雪の姿を目にする度、心の中がなぜだか騒がしい。



すると、そんな淳に向かって柳が声を掛けて来た。

「おい、なんかゾクゾクしねぇ?」



クシュン、とくしゃみをする柳。

「インフルエンザとか科で流行ってんじゃね?

よりによって今かよ~もうすぐ学祭だっつーに‥大丈夫かね?」


「なんとかなるよ」



淳は柳に背中を向けたままそう返した。

柳は頭を掻きながら、ブツブツと不満を口にして去って行く。

「残りのヤツらは今日出てこねーだろーなー‥」



柳と会話を交わしても尚、淳の意識は、ずっと雪に注がれたままだった。

何度も目にした、あの疎ましい後ろ姿。



彼女は決して振り返らない。自分の方を見もしない。



つい先日も、こんな風に彼女を見つめていた。

頭の中に、柳の声が反響する。

お前らソックリだな?



世界で一番遠いと思っていた彼女と自分が似ていると、柳はそう淳に言ったのだった。



あの時はその柳の言葉を、バカバカしい、と一蹴した。

けれど気が付くといつも、視線は彼女を追っている。



まるで惹きつけられるかのように、意識が侵されて行く。

そこに現れた、もう一人の自分に。



鼓膜の裏で、カチャリと何かが開く音が聞こえる。

沈んだ色を帯びた彼女の瞳に、既視感を覚える‥。







あの時胸に芽生えたあの感情は、一体何だったのだろう。

未だその正体が掴めずに、淳は彼女の後ろ姿を見つめ続けている。



彼女は決して振り向かない。

どんなに視線を送っても、どんなに策略を巡らせて、接触しようとしても尚。



どうしてだろう。

モノクロの世界の中で、彼女だけが色づいて見えるのはー‥。








設営の仕事も八割方終わり、皆仕上げの作業に入っていた。

雪もナプキンを畳む仕事を終え、椅子を引いて立ち上がる。

もうほぼほぼ終わりそうかな?何か他にやること‥



そう思いながらキョロキョロと辺りを見回していた雪だが、

ふとカウンターの向こうで座っている彼が目に留まった。



先ほどまでの忙しそうな姿とは違い、彼はどこかぼんやりとしながらそこに座っていた。

長い前髪のせいで、その表情は窺えない。



すると淳はゆっくりと席を立った。

そして柳楓や他の学科生の元へと歩いて行く。

「大体出来上がったから、皆そろそろ帰ろうか」「あ、そう?」

「あぁ、もうほぼほぼ終わりだな」



雪は、先ほど自分が心の中で思っていたことと同じセリフを口にする淳の事を、

どこか面白くなさそうな顔でじっと見ていた。

「あたしたちも帰りましょう」「うん‥」



後輩に促され、帰り支度を始める雪。

それでも意識のアンテナは、淳の方を向いている。



おつかれ、と口にする彼の顔は、どこかいつもと違って見えた。

雪は彼の横顔を凝視しながら、その異変を感じ取る。

どっか具合悪いのか?さっきちょっと表情が‥



んー‥私もコンディション良いわけじゃないしな‥

またお腹痛くなってきたし‥




考えれば考える程、よく分からなくなってくる。加えて今は、自分自身の体調も芳しくない。

もう帰って寝よ‥



結局雪と淳の視線は交差することなく、二人はそのまま出入口へと歩いて行った。

大分離れたところで、彼は振り返って彼女のことを見ていたけれど。



この当時のことを、一年後の彼女はこう回想している。

すれ違った私達の接点を、あの時私は知らなかった。

でもたとえ知っていたとしても、何かが変わっていただろうか。





この時二人の関係は、まだ平行線を辿っていた。

しかしその二本の線はジワジワと、その間隔を狭めていく‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪と淳>平行線 でした。

3部0話のプロローグは、なんとこの学祭準備前だということが発覚‥!

整理すると、(淳皆の前で雪の案を公開処刑)→(3部0話プロローグ)→(ペンを拾う(テンボル))→(三田スグルの件)→(学祭準備←いまここ)

という感じなんですかね‥?

てっきりあのプロローグが淳が雪に接触しようとした最たる出来事なのかと思っていたら‥

これからもっと何かあるのか‥?気になりますな‥!


さて次回は少しの間現在に戻ります。

<繋がり>です。

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