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Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

<雪と淳>シンクロ

2015-08-15 01:00:00 | 雪2年(学祭準備~学祭)
結局、半数以下の学生しか残らなかった。

その中には雪の姿もある。



特に仲の良い子も居ない為、雪は一人でそこに佇んでいた。

そんな雪に気づいた柳が、明るく声を掛ける。

「お、赤山ちゃん残ってんだ。サクッと終わらして帰ろうなー?」

「ハイ」



雪はそう返事をして、チラと周りを窺ってみる。

「‥‥‥‥」



やはり親しい人は居ない。

気まずい思いをしながらも、雪はこう思った。

私も帰りゃ良かったのに‥なぜか残ってしまった‥セルフお人好しバカ?



まぁ、私に出来ること全部やっちゃった方が気が楽だわ



去年居酒屋を借りて店をやったのは、このメンバーの中で自分だけだ。

その責任感が、雪をここにとどまらせたのだ。

「赤山先輩、一緒にやりましょ。何をやればいいですか?」「うーんと‥」



感じの良い後輩が雪に声を掛けて来た。

先程のキノコ頭始め、騒がしいメンバーがいなくなってむしろ気が楽になった、と雪は思う。

雪はその後輩と共に、早速仕事に取り掛かることにした。

まずはナプキンを折っておくか‥



前もってナプキンを折っておけば、客が来た時にサッと出せて重宝だ。

雪はナプキンが積まれてある机に向かって一歩踏み出す。

「私が持ってくるね」



そう言ってその箱に手を伸ばした時だった。

雪の手に、同時に伸びてきた大きな手が触れる。



ハタ、と目を見開いたまま身体が固まった。

隣に居る青田淳も、全く同じ表情で固まる。



そして二人は同時に、ビクッと弾かれたように身体を離した。

雪も淳も、驚きを隠せない。



雪は苦々しい表情のまま、彼をじっと見た。心の中は気まずい思いでいっぱいだ。

「‥‥‥」



淳も雪のことをじっと見ながらも、何も言わない。

雪はその沈黙に耐え切れず、自ら口を開いた。

「あ‥」



「これは私が‥」



そう言ってナプキンの入った箱を後輩の元に持って行く。

淳は何も言わずに、そのまま彼女に背を向けて歩いて行った。



なんだか変な気分だ。

モヤモヤとした気持ちを持て余しながら、暫し後輩と共にナプキンを畳む。



すると、とあることに気がついた。

「あ」



あのガラス棚‥

バーのお酒が入ってるから、開かないようにしなくっちゃ




学祭で使うものと、この店所有のものをきちんと分けないとトラブルの元になる。

雪はキョロキョロと周りを見回した。

それでもアレは見栄えが良いから隠さずに‥



そして目当ての物を見つけた雪は、真っ直ぐにそこへ歩いて行って手を伸ばした。

ビニールを‥



すると再び、トン、と手が触れた。

二人は顔を上げて、二度目のシチュエーションに目を見開く。



驚く二人。

すると次第に、淳の表情が曇って行った。

雪はそんな彼の顔を見て、あんぐりと口を開ける。



淳は雪の手からビニールを取り去ると、くるりと背を向けてぶっきらぼうにこう言った。

「俺がやるよ」



そっけない態度。

そんな彼に、ムカムカと怒りを覚える雪。

何なの?何で行動被るのよ?!

私がやろうとしてること知った上でのコレ?

そんでもってなんでアンタがムカついてんのよ?




ただの偶然なのに、なぜムカつかれなきゃいけないんだろう。

憤るあまり、彼の後ろ姿をつい目で追ってしまう。



それでも以前のように、悪感情ばかりを向けられている感じはしなかった。

雪は彼の背中を眺めながら、モヤモヤと一人考え出す。

アイツ、今日なんか‥全体的に謎なんですけど



なんか悪いモンでも食べたのか?



雪はナプキンを畳みながら、自分に対する彼の態度を思い返した。

ここ数日というもの‥なんか‥態度が曖昧というかなんというか‥



浮かんで来るのは、つい先日のことだ。

鞄の中身をぶち撒けた時、彼がペンを拾ってくれた。

何を考えているのかは、相変わらず分かんないけど



以前、書類を蹴られたことがある手前、どうして親切にもペンを拾ってくれたのか‥

さっぱり分からないのだ。

気まぐれ?私にムカついてたのが‥ほとぼり冷めたってこと?



ダランと垂れるだけのナプキンが、折ればキッチリと形を成すように、

雪に対する彼の気持ちも、折り合いがついてきたということなのか‥?



あの青田淳が‥?



あのプライドの高い俺様野郎が、果たしてそんなに簡単に折れるだろうか。

ちっとも進まないナプキンを折る作業を前にして、雪は一人首を傾げる。




淳はガラス棚にビニールを貼る作業の間中、胸中がモヤモヤしてしょうがなかった。

要らぬことを考え過ぎて、なんだか頭痛までしてくる始末だ。



ずっと赤山雪のことを考えていた。

自分自身のことながら、わけが分からない。



なぜ彼女と行動が被ってしまうのか、どうしてそんな彼女のことを考えて自分は頭を悩ましているのか。

ダメだダメだと自身に言い聞かせながら、淳は頭を横に振った。






ふと気になって、彼女の方をチラと見た。

するとそこには、自分と全く同じ動きをしている雪が居る。



「アイツに限って‥んなわけない」と言いながら、雪もまた頭をフリフリしているのであった。

そんなまさかのシンクロに、淳は呆れて口を開ける。



「は!」



バカバカしいと言わんばかりに、そう言い捨てて背を向けた。

世界で一番遠いと思っていた彼女と、なぜだか一番近いと思える現状を前にして‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪と淳>シンクロ でした。

互いのことが嫌いだと思ってはいても、なぜだか考えていることがシンクロしてしまう、という二人。

淳がどうして雪のことを「同族」と思うようになるのか、そこへの過程が描かれているのかな?と思います。


次回は<雪と淳>平行線 です。


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<雪と淳>空回り

2015-08-13 01:00:00 | 雪2年(学祭準備~学祭)
賑やかな店内からこっそりと出てきた淳は、誰も居ない非常階段に一人腰掛けた。

いつもの”青田先輩”の仮面を外し、飾らない自分で息を吐く。



小さく「疲れたな‥」と呟きながら、髪の毛をぐしゃぐしゃと掻いた。

重苦しい気持ちが、胸を塞いで気分を暗くさせる。



頭の中に、つい先日柳楓と交わした会話が甦った。

「赤山ちゃんと仲直りする気あんの?」「分かってるよ」



柳に言われたからではなく、淳は自分から謝ろうと思っていた。

何と言っても、始めは皆の前で彼女の意見を否定したくせに、結局彼女の案を採用することにしたのだ。



事実を客観的に見れば見るほど、自分のすべきことは明らかだ。

他の面は嫌いでも、あのことに関しては事を荒立てずに和解すべきだろう。

互いに気まずい感情を持ち続けるのも良くないし




だから淳は計画したのだ。赤山雪に謝るための算段を。

ちょっと呼び出して‥



まず、大量の段ボールを前に困っている彼女に、「手伝うよ」と手を差し伸べる。

彼女は困惑顔をしながらも、「はい」と頷くしかないだろう。

拒めないのは分かってる



彼女では手の届かない高い所に軽々と箱を乗せながら、こう切り出せば良いだろう。

あの日俺、変に反応し過ぎちゃったよな。事が大きくなるかと思ってしまって。

悪かったと思ってるし、もう気を遣わないでくれると嬉しいな




いつも通り、頼れる”青田先輩”として彼女にも接すれば良いじゃないか。

今日は手伝ってくれてありがとう。

広報チームに行きたいなら、行ってくれても構わないよ




彼女は戸惑いながらも、「ハイ」と返事をするだろう。

これが淳の考えた算段だった。

こんな風になるだろう?明らかじゃないか



けれど。

どうして赤山雪という人間は、自分の想定から大きく外れて行くんだろう。



たった一人で、誰にも助けを求めずに、指を痛めながら。

ようやくこっちを向いたと思ったら、





結局、そっぽを向かれた。

結果として自分は、”キツイ仕事を言いつけた横暴な先輩”だ。



こんなはずじゃなかった。

こんなことになるなら、もっとシンプルに行けばよかった。

いや、わざわざこっちのチームに呼ばなくても‥学校で話せば良かったじゃないか



「ちょっといい?」とただ話し掛ければ良かった。

こんな小細工なんてしなくても。

どうして‥



浮かんで来るのは、不機嫌な横顔。

声を掛けようとしたら驚いて倒れて、それきりこちらを見ようともしない。



自分ばかりが彼女を見ていた。彼女に向けて、カマをかけるような物言いまでして。

「設営チームの人は手を挙げて。俺はこっちに携わることになるけどー‥

それじゃ広報チームは‥」


 

当たり前のように、自分が居ない方のチームに手を挙げる雪。

その存在はいちいち癇に障り、淳は苛ついた。



どうにかして彼女を設営チームに呼び込めないものか。

加速した苛つきは、普段は冷静な自分を、想定外な行動へと駆り出す。



そして淳は深く息を吐いてから、こう口にしたのだった。

「広報から一人設営チームに来ない?

そうすると人数が釣り合うんだけど」




今考えると、なんて苦しい言い訳だろう。

一人移動させたところで、大して変わり無いだろうに‥。

俺ってばどうして‥



自分らしくもない。

それでも、胸に広がるこの苦々しい気持ちに嘘はつけない。



彼女と和解しようとすればするほど空回る。

けれどこんな風に考え込むのは、余計自分らしくない。



淳は気持ちを切り替え、非常階段を後にする。

ずっと悩んでたってしょうがないだろ



そして淳はいつもの”青田先輩”の仮面を被ると、店内に戻って作業を続けたのだった。






大分設営の方も進み、皆それぞれの手を休め始めた。

雪の周りで、学科生達が大量にあった段ボールの行方について話している。

「食器とかが入った段ボールがいっぱいあったハズなんだけど、全部どこ行った?」

「えー?いつ着いたの?それ知らなかったんだけど」

「誰か知らんが整理までしてくれて、マジGJだな!」



彼らの後ろで、雪がハハハと乾いた笑いを立てていた。全部私一人でやったんですよ、と言ってしまいたい。

そして彼らは続いて、こんなことを言い始めた。

「やーでももう一通り片付いた感じだよな。掃除も終わったし!」



雪の頭にハテナが浮かぶ。

皆あたかも全て終わったかのように帰り支度を始めているからだ。

「帰ろー!あーマジ大変だった」「おつかれしたー」「みんなおつかれ!」「あーもー熱出そー」

えっ?これから始まるんじゃないの??



ゾロゾロと出て行こうとする皆に、堪らず雪は声を掛けた。

「あの、ちょっと待って!今日やっとかなきゃいけないことは沢山残ってるはずだよね?

これで終わりじゃないよ、私が前やったときはー‥」




そんな雪の言葉に、キノコ頭があからさまに顔を顰めた。

雪の方に向き直り、ふてくされながらこう返す。

「あくまで自主参加じゃないんですかぁ?」



しかしキノコ頭は青田淳の姿が見えると、すぐさま態度を変えてこう続けた。

「あたしなんて今日用事あって来れないはずだったんですけどぉ、

わざわざ来たんですよぉ?」




そんな彼女の姿を見て、瞬時に雪は悟った。

こういうタイプには何も言っても無駄だ、と。

「そっか。それじゃね、バイバイ」



笑顔を飾って、適当に別れの挨拶を交わす雪。

すると彼女と似たような笑顔を飾った人が、皆に向かって手を振っていた。

「それじゃな。皆おつかれさま。気をつけて帰ってな」



皆を送り出すその横顔を見て、雪は思った。

あの人も諦めたのか‥?



青田淳の顔は、笑っているようで笑ってない。

しかしそれに気づかないキノコ頭は、わざとらしく咳をしながら淳にしなだれかかった。

「あ‥なんだか寒気が‥」



それを見て、驚きのあまり目が飛び出す雪。

ダメ!危険だよ!



機嫌の悪い青田淳に近づくとどうなるか。

そんなこと、この身を持って分かってる。

これからは気をつけろよ



あのブラック淳が現れるかもしれないのだ。

雪は咄嗟にキノコ頭へと手を伸ばし、彼女の肩をぐっと掴んだ。

今度はキノコ頭の目が飛び出す。



間一髪セーフ‥。冷や汗ダラダラである。

「早く帰って、薬飲んで休みなねっ?」

「あ‥ハイ‥」



キノコ頭は不満たらたらな顔をしながら、雪に向かってペッペッとツバを吐き掛けた。

しかしやっぱり、青田淳の前ではナヨナヨだ。

「残って仕事しましょうかぁ?」「ううん、早く帰んなよ」



青田淳はそう言って、帰りたがっている人達を送り出した。雪はゲッソリして、その場に立ち尽くしている。

「仕上げ手伝ってくれる人は、ちょっと残ってくれる?」

「さようなら~」 「じゃあなー」



淳がそう言うと、残る人は残り、帰る人は帰って行った。

そして雪は律儀にも、その場に残ったのだった‥。


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<雪と淳>空回り でした。

淳先輩、完全な空回りです‥

しかしこんな風に頭を悩ませる先輩を見ると、人間らしいなと少し微笑ましかったり‥。

でも雪の立場になったら大変な仕事押し付けられて、たまったもんじゃないなと思ったり‥。

そしてキノコ頭‥はよ帰れ!


次回は<<雪と淳>シンクロ>です。


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<雪と淳>想定外

2015-08-11 01:00:00 | 雪2年(学祭準備~学祭)


青田淳は忙しく動き回っていた。

設営チームの責任者である立場から、皆に指示を出し質問を受ける。



しかし心の中では、ずっと彼女のことを気にしていた。

先ほど、大量の段ボールを整理するよう仕事を言いつけたのだ。

「君はキッチンの方やってくれる?そこの箱に材料が入ってるから、倉庫に運んでくれ」



明らかに彼女は困惑していたが、それは想定内だった。

淳は戸惑う雪の姿を探して、店内に視線を走らせる。



しかし倉庫で作業中なのか、そこに彼女の姿は無かった。

ふぅん、と小さく息を吐く淳。





そして淳は再び作業に戻った。

だんだんと出来上がっていく内装。皆淳のアドバイスを聞き、また彼に助けを求める。



そこでの仕事に終わりが見えたので、淳はその場を離れた。

「もういいかな?」



良い頃合いだ。

淳は足早に倉庫の方へと歩いて行く。



すると大量の段ボールが積んであった場所はすっかり片付いて、

すでに箱は残り一個となっていた。

 

驚きのあまり目を見開く淳。

そして残りの一個に手を伸ばそうとした矢先、倉庫の方で何かが床に落ちる音がした。





そっと近付いて中を窺うと、そこには痛そうに手を庇う雪の姿があった。

重い段ボールを持ち上げきれず、落とした拍子に指を痛めたらしい。

 

いたたた‥と暫し呻いていた雪だが、不意にドアの所に佇んでいる淳に気がついた。

目を丸くしてこちらを見つめる彼を見て、雪は眉をひそめて視線を逸らす。

  

ヒリヒリと痛む指先に、雪は息を吹きかけて痛みを逃していた。

小さく細い彼女の指が、黒く汚れている。



それを目にした淳は、反射的に手を伸ばした。

痛むであろう彼女の手を取ろうと、身体を屈める。






しかしふと我に返った。ここで手を取るのは違うだろ、と。

淳は屈んでいた姿勢を正し、伸ばしていた手を引っ込める。



と同時に、しゃがんでいた雪も立ち上がった。

気まずい空気が二人を包む。



淳が倉庫の中を見回してみると、そこはきちんと片付いていた。

箱の中身は選別され、カテゴリーごとに棚に収納されている。



思い出せる限り、この棚には何も乗っていなかったはずだ。

倉庫内も、もっと雑然としていたと思ったのだが‥。



淳は雪の方を振り返りながら、もしやと思い聞いてみた。

「これ‥全部‥?」「いえ、外に一つ残ってます」

「いや、そうじゃなくて一人で‥」



雪はそれには答えず、彼に背を向けて黙々と作業を続けた。

淳は信じられない思いで、そんな彼女の背中を凝視する。



想定していた計画が、だんだんと破綻して行く。

淳は倉庫の外へと走り、そこに残っていた最後の段ボールに手を伸ばした。

 

ある程度の重さを予想して持ち上げると、それは予想に反してすごく軽かった。

簡単に顔の高さまで持ち上げられ、淳は少し拍子抜けする。

 

それを持って再び倉庫に入ると、雪は無表情のままこう言った。

「あ、それで最後です。手伝って頂いてありがとうございました」

 

雪はそっけなく淳から箱を受け取ると、早速中身を開けて整理した。

どうやら箱の中身はタオルだったらしい(軽いわけだ)



作業を続ける雪の後ろで、淳は驚きを隠せず立ち尽くしていた。

今の状況は、完全に彼の想定外なのである。



苦々しい気持ちまでもが、胸の中に広がり始めた。

淳は廊下に出ると、その大量の段ボールを担当していた同期を見つけ声を掛ける。

「ちょっと!」



「段ボールの中身、軽い物しかないって言ってたよな?

食材とか発泡スチロールの容器とか、そんな物ばっかりだったんだよな?」


「あ、食材は明日到着するんだ。鍋と台所道具が先に来たから、それを置いてたんだよね。

また明日残りの作業もしなきゃってこと、お前に話すのウッカリ忘れてたわー」




淳の脳裏に、先ほど彼女に言いつけた自分の言葉が蘇る。

「全部軽いからさ。

皆も忙しいし、とりあえず一人でやっておいて」




事情を知らなかったとはいえ、実質的に嘘を吐いたことになってしまった。

淳は咄嗟に踵を返す。

「あ‥」「先輩!」



しかしその一歩を踏み出す前に、別の後輩に捕まった。

後輩は強気な態度で淳にこう迫る。

「テーブルの配置見てくれるんでしたよね?手伝って下さい!」



淳はその場に立ち止まり、倉庫に居る雪を窺った。

彼女は一人で黙々と作業を続けている。誰にも助けを求めず、たった一人で。

 

助けを求めてくる後輩と、淳から背を向け一人で作業する雪と。

どちらへ向かえばいいのかなんて自明だった。

分かり切ってる‥。



淳は笑みを浮かべると、後輩の方へと踏み出した。

「分かった」



けれどなぜだろう、足が進まないのは。

こんなにも一歩が重く感じられる。



想定外の出来事が、彼をその枠から外し、理性と感情を四方八方に引っ張って行く。

思い通りにならない現実が、計画が、そして彼女が、淳の頭を悩ませる‥。




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<雪と淳>想定外 でした。

淳‥やっちまったなぁ~の回でした。

雪を気にしない素振りをしつつ、気になりまくってる淳が読者的には微笑ましいですね。

(雪ちゃんには何一つ伝わってないけど‥)


次回は<<雪と淳>空回り>です。


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<雪と淳>後ろ姿

2015-08-09 01:00:00 | 雪2年(学祭準備~学祭)


雪は既に後悔し始めていた。

この大量にある段ボールを、一人きりで運ぶことを受け入れてしまったことに。

「‥‥‥」



しばしへたり込み、結論が出た。

これだけの仕事を一人でこなすのは無理だ、と。

雪は倉庫から店内に戻り、皆に向かって呼びかける。

「ちょっと誰か‥」



しかし誰もその声に反応する人はいなかった。

誰もが忙しそうに作業している。



雪は再び呼び掛けようとしたが、店の一部で何かが壊れる音がし、それは掻き消された。

「うわっ!全部壊す気かよ!気をつけろ!」「何このコップー?どこのよ?」



ザワザワと騒がしい店内。

あの男の後ろ姿が、目の前にあった。

「あ‥」



その背中に向かって声を掛ける。

「あ、あの‥!」



しかし彼は振り向かなかった。

何かを話す学生の話を聞いているのか、まるで雪に気がつかない。

「あのー‥」



「すいません‥」



青田淳は隣に居る学生と何かを話し合っていた。

雪の声は、段々と小さくなって行く。

「あの‥」



「‥‥‥」



そしてそのまま、彼は歩いて行ってしまった。

ポツンと一人立ち尽くす雪に、全く気が付かないまま。



雪の視線は彼の後ろ姿を追って動いた。

彼は責任者という立場からか、どの場所にも顔を出し、話をして回っている。

 

見えるのはただ、彼の後ろ姿だけだ。

雪は首の後に手を掛けながら、喉まで出ていた言葉を引っ込めた。

一人でやるか‥



そして雪は、再び倉庫に戻った。

助けを呼びに来た彼女の行動に気づいた者は、誰一人として居なかった。





段ボールを運び、中を開けて、選別する。

その地味で大変な作業を、雪は一人で黙々とこなす。



重いのは箱だけではなかった。

なぜだか心の中まで、重苦しい塊を飲み込んだかのように沈んでいる。



雪は思い描く自分のイメージと実際とが、あまりに違うことを思って凹んでいた。

無視するって決めたじゃん‥。

これからはアイツのこと無視するんじゃないの?マジで私ってアホバカマヌケ‥




雪の脳内で、思い描く理想の自分が青田淳に向かって啖呵を切っている。

「先輩?軽いって言っておきながら、話が違うじゃないですか。手伝いに来て下さいよ。

先輩が言いつけた仕事でしょ?」




こんな風に言えば良かったのだ。

事実なんだから。



けれど実際は‥

「あ、あの‥」



しどろもどろ。

あまりにかけ離れた理想の自分のイメージと現実。

雪の心の中が、暗く沈んで行く。



どこか煮え切らない思いが、胸の中に充満している。

青田淳に関わると、こんな気持ちが常に付きまとう。

なんか騙されたような気がしなくもないけど‥。

まぁ‥重い物が混じることもあるか‥




嫌がらせでこの仕事を押し付けたのか、それともただの偶然なのか。どちらなのかは分からない。

けれど後者だとしても、彼に対する感情がプラスに変わるわけじゃない。

てか仕事言いつけたんなら自分が来て手伝うとか、

手伝いに人を寄越すとか‥ねぇ?




頭の中で文句を言って、心の中で毒づいて。

あの復学してすぐ開かれた飲み会の席で初めて彼を見た時と同じような感情が、再び雪の胸を掠める。

私だけこんな一人ぼっちで‥自分は人に囲まれて‥



アウェー感漂うあの飲み会の席での雪と、皆にもてはやされていた彼。

それは今も変わらないのだろう。そんなことを、改めて思い知らされる。



そして、先ほど忙しく動き回る彼を見て思った。

先日の自分の予想は当たっていると。

青田はお人好しバカ確定



しかし、それは彼だけに言えることだろうか?

こうして誰にも助けを乞わず一人で苦労している自分が、

お人好しバカでないと果たして言い切れるのかー‥。



雪は入り口に背を向けて、黙々と一人段ボールを運んだ。

彼女のことを気に掛けて、倉庫に入ってくる人は居ない。

分かってる。本当に忙しいってことも。分かってるけど‥



胸にポッカリと穴が開いた気分だ。

そこから手を差し伸べてくれる人なんて居ない。

思い浮かぶのは、背を向けた彼の後ろ姿ばかりー‥。





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<雪と淳>後ろ姿 でした。

結局助けてと言えないまま、一人で苦労を背負い込むことになってしまった雪ちゃん。

誰か仲の良い人が一人でも居たら違ってたんでしょうが‥もどかしいですね。


次回は<<雪と淳>想定外>です。

*作者さんのブログにて、

「当初予定していた話数を上回った為、チーズインザトラップは4部構成になりました。

また4部に入る際、お知らせ致します」とのこと!

まだ結構続きそうですね!!嬉しいです‥!



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<雪と淳>言い渡された仕事

2015-08-07 01:00:00 | 雪2年(学祭準備~学祭)


雪は相変わらず仕事を求めてウロウロしていた。

親しくはないが、とりあえず二年生達と一緒に仕事をしようかと思案する。

すると、後方からこんな会話が聞こえて来た。

「あれ?これポスター?広報チームが置いてったの?」



振り返ってみると、机の上に積まれたポスターを前に、男子学生二人が頭を悩ませている。

「広報が貼らなきゃいかんのにここに置いてってどーすんだよ。誰か連絡して!」

「連絡つかねーわ。皆移動中なんじゃね?」「何だよ、もう一回連絡してみって」

  

雪の心はにわかに騒ぎ始め、キョロキョロと周りを見回す。

「ポスターがカナメなのによー」「あ、ステージ裏すげー汚いからもう一回モップかけて」

「今手空いてる子いない?」



行くべきか行かぬべきか、雪は少し迷った。そして結論が出る。

重そうだけど‥運ぼうかな



雪は思い切って、彼らに声を掛けようとした。

「あの‥」「ちょっと」



雪が声を出すと同時に、後ろから呼び止められた。

聞き覚えのある低い声。






青田淳だった。

誰も雪のことを気に留めない中で、彼だけがこちらを向いて立っている。

そして淳は雪と目が合うやいなや、彼女に仕事を言いつけて来た。

「君はキッチンの方やってくれる?」



雪は一瞬「え?」と聞き返したが、すぐにその内容を理解して頷いた。

「は、はい!」「そこの箱に材料が入ってるから、倉庫に運んでくれ」



淳は振り返りもせずに、その長い足でスタスタと歩いて行ってしまう。

雪が必死に彼の後をついていくと、そこには大量の段ボールが積まれていた。

 

箱、箱、箱‥。まるで段ボール山脈である。

その仕事量に雪があんぐりと口を開けているにも関わらず、淳は平然とその仕事をやっておくよう言い渡した。

「俺達が購入した物以外は使えないから、その選別もよろしく」

「は、はぁ‥。ぜ、全部キッチンの倉庫に‥てか私一人で‥?」

「皆も忙しいから。とりあえず一人でやっておいて」「あ‥」



淳は動揺する雪に向かって、最後にこう言った。

「全部軽いから」



そして彼は、雪に背を向けて行ってしまった。

雪がその背中を目で追うと、もう違う仕事の指示を出している。

「これどこに貼ります?」「うちの学科のことが書いてあるから、入り口に‥」







予想外だった。まさかあの男が、自分から話し掛けてくるとは。

雪はとりあえず、一番近くにあった段ボールを持ってみる。

「あ、ホントだ」

 

ラクラク持ち上げられてしまうほど、軽い。雪は信じられない気持ちだった。

なに‥マジで‥?アイツが私に‥



右往左往している自分を見るに見かねて、簡単な仕事を割り振ってくれたということなのだろうか?

あの男がそんなことをするとはにわかには信じられないが、言い渡された仕事は明らかに簡単だ‥。



難しいことは置いておいて、とりあえず雪はウキウキ気分で段ボールを運び始めた。

とにかくやることが出来てラッキー!しかもこんな簡単な‥



そう思い、次の段ボールに手を伸ばした時だった。



グキッ!



‥え?



まるで持ち上がらない。

雪は段ボールに手を掛けた姿勢のまま、頭の中がハテナでいっぱいになる。

軽いんじゃ‥???



とりあえず持ち上げるのは諦めて、箱を開けてみた。

その中には、ぎっしりと重そうな物が入っている。

金属類↓



‥こりゃ持ち上がらないハズだわ‥。

雪は石のようなその箱を前に、絶句した。



周りを見回してみるも、皆忙しそうに作業している。

気軽に声を掛けられそうな親しい人もいない。



それでも自分が言いつけられた仕事だ。責任は自分にある。

とりあえず誰かやってくるまでは、一人で踏ん張ろうと雪は決める。

食品もあるし、とにかく早めにやっちゃおう。

なんとか一人でも出来るハズ‥




そして雪は、作業に取り掛かり始めた。

重たい箱は思ったよりも沢山ある。



あまりの重量に、ブルブルと手と足が震えた。

持ち上がらない箱は、精一杯の力で押した。



まだ手がけたのはたったの三箱だが、すでに力尽きようとしている。

雪はハァハァと肩で息をしながら、言い渡された仕事を前に、途方に暮れる‥。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪と淳>言い渡された仕事 でした。

淳が雪を呼び止めるタイミングがなんとも‥。

雪がもう少し早くポスターに気づいていたら、仕事言いつけられずに済んだであろうに‥!

このへんの間の悪さに、占い師さんに予言された悪運の影響を感じます。。


次回は<<雪と淳>後ろ姿>です。

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