ヒマローグ

毎日の新聞記事からわが国の教育にまつわる思いを綴る。

実戦不足

2023-03-31 08:38:52 | 我が国の教育行政と学校の抱える問題

「能力維持の難しさ」3月25日
 『世界は広い いってらっしゃい』という見出しの記事が掲載されました。『生まれ育った離島の小中学校で9年間、ただ一人の在校生だった』少女が卒業式を迎えたことについての記事です。その中に気になる記述がありました。
 『中学の先生は5人。授業では「生徒役」の先生もいて教室で章乃さん(ただ一人の在校生だった少女)と意見を交わした』という記述です。普通、ただ一人の卒業生の旅立ちといえば、その生徒の今までの生活やこれからのことに関心が向くと思いますが、私はひねくれているので、関心をもったのは、離島の学校の教員たちについてでした。
 中学生と言えば生意気盛りで学級経営は骨が折れます。いじめや不登校、非行といった生活指導面の問題への対応も理論だけではうまくいきません。授業は講義型で進めるのであれば生徒数はあまり関係ありませんが、問題解決型の授業で討論を取り入れるとなると、一人の生徒相手では、経験を積むことはできません。
 つまり、この離島の中学校で、章乃さん一人を指導してきた教員たちは、教員として必要な能力や技能を向上させることができない状態で3年間を過ごしてきたことになります。今、向上させることができないと書きましたが、より正確に言えば、維持することすら難しいということだと思います。
 私は教員時代に、新採指導教員として1年間、その後教員研究生として都立教育研究所に派遣されて1年間、計2年間教壇を離れていたことがあります。その後復帰しましたが、初めの数カ月は、なかなか勘が戻らず苦労した経験があります。教員にとって、実際に大勢の子供がいる学級で日々授業をし、子供を叱り、褒め、一人一人の子供への理解を深めて人間関係を構築し、一方で学級全体の30数人を集団として動かすといった経験を通してしか実践的な能力を鍛えることはできないのです。
 厳しい言い方になりますが、一人の子供だけを相手に過ごす日々は、教員にとってはマイナスの側面の方が圧倒的に大きいのです。一人の子供を深く知るとか、濃密な人間関係を築くといった経験は貴重だという考え方もあるかもしれませんが、そのわずかなプラスでは補えないほどマイナスが大きいのです。
 拙著「教員改革」でも述べたことですが、私が教委で担当してきた「指導力不足教員研修」の対象となった教員は、健康学園で小規模の学級を担任したり、TTで主体的立場での授業をしてこなかったりと、実戦不足の者が少なくありませんでした。教職は職人芸なのであり、経験に勝る自己研鑽はありません。
 文科省は、こうした少人数指導しか経験できない教員の資質向上策について、各教委任せにせず、研究と検討を深化させるべきだと考えます。

 

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