「学校の働き者」6月18日
『軋む英国EU離脱国民投票 移民、広がる不安』という見出しの特集記事が掲載されました。英国がEUを離脱した場合、現在英国に居住し働いている我々はどうなるのか、という不安を抱く移民の心情や立場に焦点を当てた記事です。
その中に、『元ビル建設作業員のビル・トーマスさんは安い賃金で働く移民に職を奪われたことがある。「賃金だけでなく、雇い主に気に入られようと時間外も働くので、英国人労働者にしわ寄せが来る」と強い口調で語った』という記述がありました。私は英国のEU離脱問題について自分なりの意見がありますが、それはここでは触れません。ただ、このトーマス氏の言葉から、学校の講師問題を連想したのです。
以前もこのブログで紹介しましたが、教員が産休等で不在となったとき、産休講師を雇います。その際には、講師の労働組合に加入している方を優先的に採用するという決まりがあります。そして採用された講師には、一定の時間数の授業だけが割り当てられ、それ以外の仕事をさせてはいけないことになっています。
つまり、授業終了のチャイムが鳴った瞬間、講師は教員ではなくなるのです。教室内で子供同士がつかみ合いのけんかをして血を流していても、仲裁に入ってはいけないのです。集団で虐めに遭い泣きじゃくっている子供がいても、事情を聞くことさえしてはいけないのです。極端な話、窓から飛び降りて自殺しようとしている子供を制止してもいけないのです。もちろん、その結果が重大事故につながっても、講師は一切責任を負うことはありません。
なぜこんなことになっているかというと、そこには英国が悩む移民問題と同じ構造があるのです。つまり、「雇い主(校長)に気に入られようと時間外も働く(子供のもめ事に対応する)ので、英国人労働者(他の講師)にしわ寄せが来る」という事態が発生することを、講師たち自身が恐れているということです。確かに、校長からすれば、授業だけでなく、休み時間や放課後、清掃や給食の時間まで子供と共にあって指導してくれる講師がいれば、そういう人を雇いたいと思うのは当然です。そしてそうした「サービス」を認めれば、期間雇用という弱い立場の講師たちは、果てしなく「サービス」を求められ、授業だけという建前のまま低賃金で、過剰労働を強いられることになってしまいます。
そうした事態を防ぐために、強い労働組合が存在するのです。しかし、そうした組合の存在は、一方で子供や保護者にとっては、学校にいても頼れる担任はいないという不利益を生む原因ともなっています。もちろん、講師にも本人が希望するのであれば授業以外の勤務を求めてもよいこととし、その分は適正な賃金を支払うことにすればすべて解決するのですが、それは新たな財政負担、究極的には税を負担する市民の負担が増すということになり、なかなか理解が得られないのです。そして、いくら教委が注意しても、校長等が「教員採用試験を受ける本人が、勉強になるからやらせてくれと言っている」という理屈で法令違反の時間外労働を黙認しているという事件が後を絶たなかったのです。
移民受け入れ問題は、我が国では大きな問題とはなりません。しかし、底部においては、安い賃金でも働かずにはいられない人々とそうした人から職を守りたい人々という利害相反問題という共通項があるのです。英国やEU諸国が安い労働力に支えられているという事実から目を背けることができないように、我が国の学校教育、とりわけ学級担任制の小学校が、低賃金で働く講師によって支えられているという現実についてきちんと向き合うことが必要です。