今日は昨日の続きで鍼の刺し方について書きたいと思います。
昨日も書きましたが、ドラマでの鍼の刺し方と現代の日本の
鍼の刺し方には大きな違いがあるのです。
「チャングムの誓い」を見られて、「あんな風には刺さなかったぞ」
と思われた方も少なからずいらっしゃると思います。

ドラマでは写真のような状態から「ブスッ」と鍼を刺します。
その「ブスッ」と刺す最初の一撃を「切皮(せっぴ)」といいます。
この切皮が鍼治療の一連の流れの中で最も痛いのです。
ドラマの中でも、上の写真でも何気なく刺しているように見えますが、
じつはなるべく痛くないようにとの工夫が隠されています。
写真の鍼を持っていないほうの手を「押手(おしで)」といいます。
その押手の親指と人差し指とで鍼を刺す部分の皮膚が
ピンッと張るように皮膚を突っ張らせているのです。
皮膚が緩んだ状態よりも、張った状態のほうが痛くないのです。
ドラマでも押手の形が違いますが、同じような工夫が見られます。
この切皮の時の痛みをいかに少なくするかが、昔からの課題
だったようで、江戸時代に杉山和一という人が管鍼法という方法を
編み出しました。そしてそれは現在でも日本の刺鍼法の主流です。

写真は日本の鍼と鍼管(しんかん)と呼ばれる器具です。
鍼管よりも鍼の方が長いのがお分かりだと思いますが、
そこがミソなのです。

鍼を鍼管の中に入れます。これを挿管(そうかん)といいますが、
僕たちプロはひとつ上の写真の鍼と鍼管がバラバラの状態から
右手だけで鍼を鍼管に挿管し、上の写真の状態にもって行きます。
これを片手挿管法といって技術がいるので、見せ所なのですが、
未だかつて誰からも「すごいねぇ」と誉められたことはありません。
ちなみに患者さんは大体がうつ伏せのことが多いので、
この技を患者さんが見ることはないのですけどね。
この鍼管を皮膚に押さえつけることによって、鍼を刺す部分の
皮膚をピンッと張らせることが出来ます。しかもツボを捉えやすいので、
まさに一石二鳥の方法だったわけです。
あとは鍼管から出ている柄の部分を指で叩けば、
鍼は皮膚に刺さります。この方が痛みはずっと少ないのです。
日本の鍼と中国の鍼の柄の違いはここに理由があったのです。
鍼の柄を叩くことによって切皮が非常に楽になりました。

これが鍼が刺さった状態です。ドラマでは鍼を抜くと患者の状態が
がらっと変わったりしますが、実際はあんなことは経験したことが
ありません(単に腕が悪いだけかもしれませんが)。

現在ではこのような使い捨ての鍼が主流になってきています。
このタイプのものですと鍼は最初から鍼管に入っています。
ちなみにこの商品は韓国製ですから、現在では韓国の鍼も
日本と同じような管鍼法が使われているのかもしれません。