ぼくらの日記絵・絵心伝心 

日々の出来事や心境を絵日記風に伝えるジャーナリズム。下手な絵を媒介に、落ち着いて、考え、語ることが目的です。

早野龍五さんに学ぶ

2024年05月08日 | 日記

          マーガレット

 私は自然科学に全く疎い。

 おそらく多くの人たちも同様だろう。高校の物理の時間など授業に出てもほとんど理解できず、居眠りしていたと思う。ただ自然科学者の書いたものは、面白い。例えば、ファラデー「ローソクの科学」、中谷宇吉郎「雪の結晶」などを思えば良い。

 ここに、紹介する早野龍五先生は世界的に名を馳せた東大の物理学者である。その博士の物理の話ではなく、科学者が日常の中でなにができるのかを述べた書物で、『「科学的」は武器になる』(新潮文庫)という書物が感動的である。

 早野先生は2011年の東北大震災の原発事故について科学者として早くから関心を寄せ、福島に出向いて、独自の活動をしている。持ち前の知見から、各所から意見やコメントを求められ、一時は政府の機関に招聘されたこともあった、という。しかしそれらは全て断って、今、科学者がすべきことはなんなのか、その役割を追い求めていった。その活動の一端が本書に書かれている。一節をそのまま、引用しよう。

「科学的には無意味でも、社会的には意味があるというものがある。それがベビースキャンです。実際に計測をして、初めて納得できるということは多いのです。これは、2015年以降、約1000万俵中、基準値超えゼロが続いているお米の全量全袋検査にしても同様だったと思います。

 科学的には必要のないベビースキャンは、コミュニケーションの道具であり、社会を円滑に回すためのツールです。子どもを検査に連れてくる親御さんが何に不安を感じているかを、これをきっかけに問診の中で聞くことができるようになりました。

「水道水は使ってもいいですか?」

「お米はどうでしょうか」

「離乳食は、母乳は安心ですか?」

 それにちゃんとお医者さんが答えると、大きな安心材料になります。もしもこの機械がなかったら、そうしたコミュニケーションのチャンスがなかったかもしれません。科学的な正しさだけが全てではない。これは、科学の世界にいる人たちほど知っておくなければならない原則です。」

   *ベビースキャン・・・乳幼児の放射線量を測る機械。乳幼児の線量が大きいと問題になっていた折、早野さんたちは乳幼児を対象として実際の線量を計測し、親御さんたちの不安に答えるために製作した装置

 

 福島の原発事故は思い返すだけでもゾッとするような様々なデマ、誤報が飛び交いました。東京には住めないといって沖縄に移転した人もいたくらいです。そんな状況の中で、科学者としてなにをすべきか、早野さんの答えが上記のような認識です。雑然としたデータではなく、精緻な器具できちんとしたデータを集積し、誤報や不安に立ち向かうこと、これが科学者の社会的使命だというのです。

 難しい物理の話は分かりませんが、科学者とはどういう活動をしている人なのか、理解できる本です。【彬】

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