2020/03/04
日本が格差社会といわれて久しいですが、上級国民という言葉は、昨年の池袋の高齢者暴走事故で耳にするようになりました。聞きなれない言葉で、どうしてこんな言葉を使うのかしらと思っていました。
『上級国民/下級国民』橘玲著 (小学館新書2019年8月発行)を読みました。 とてもおもしろく興味深かったです。
この本は、2019年4月13日、東京大学で行われた日本生物地理学会の市民シンポジウムの講演「リベラル化する世界の分断」を元に加筆修正したものです。
PART1の「下級国民の誕生」の一部は「令和の「言ってはいけない」不都合な真実」として、月刊『文藝春秋』2019年6月号に掲載したものです。
3つの大きな章からなっています。
□PART1 : 「下級国民」の誕生
バブル崩壊後の日本でどのようにして下級国民が生まれたか。大企業、正社員を守るための非正規雇用政策で、若い男性や女性がその対象となった。
□PART2: 「モテ」と「非モテ」の分断
ゆたかな社会における幸福とは、究極的には愛情空間が満たされること。上級国民は持てる=モテる、下級国民は持てない=非モテ(性愛と共同体(会社)から排除されアイデンティティを失った人々)に分断。
□PART3:世界を揺るがす「上級/下級」の分断
世界中で「主流派(マジョリティ)」の分断が進んでいる。すべての社会が「知識社会化・リベラル化・グローバル化」の圧力を受けており、そこから膨大な数の人々がこぼれ落ちていく。この人々はマジョリティのアンダークラスで、下級国民意識を持っている。
アメリカのトランプ大統領選出、イギリスのEU離脱、フランスの黄色ベストデモは、下級国民による上級国民への抗議行動。
興味を引いたところを抜き書きしたり、または覚書として自分なりにまとめました。
P21 日本のサラリーマンは世界(主要先進国)で一番仕事が嫌いで会社を憎んでいるが、世界で一番長時間労働をしており、それにもかかわらず世界で一番労働生産性が低い。(数字データあり)
日本的雇用(年功序列・終身雇用)が日本人を不幸にした元凶である。バブル崩壊→リストラ→小泉政権の雇用破壊、非正規急増。若者の雇用を破壊することで中高年の雇用が守られた。
p66 マスコミも含め日本の企業や官庁、労働組合などを支配しているのは「日本人、男性、中高年、有名大学卒、正社員」という属性を持つ〝おっさん"で、彼らが日本社会の正規メンバーです。そんな〝おっさん"の生活(正社員共同体)を守るためには「外国人、女性、若者、非大卒、非正規」のようなマイノリティー(下級国民)の権利などはどうなってもいいのです。
平成が「団塊の世代の雇用(正社員の既得権)守るための30年だったとするならば、令和の前半は「団塊の世代の年金を守る」ための20年になる以外ありません。
PART3 p168 前近代的な身分社会では、相手の身分を知るだけでどうふるまえばいいかわかった。自由な社会では相手の外見だけではわからない、やっかいさがある。
身分のなくなった社会では、自分は何者か、自分探しが始まる。自己を正しく把握・管理することが重要になってくる。社会から個人へと視点が変わる再帰的近代は自己責任を核にしている。リベラルとは自己実現、自己責任の社会 リスクを自分で引き受けること。
p212 ヤフコメ民は何に怒っているのか
ヤフコメとは、ヤフーニュースにコメントする投稿者。文化人類学者の木村忠正氏の分析によれば、コメント投稿を動機づけるものは、理不尽、正義感、マスコミへの批判的態度である。
彼らは「気持ち」という名詞が「悪い」という名詞と強く結びついていることから、「ヤフコメ」は、何かに対して「気持ち悪さ」を感じていることを表出する傾向がある。
p214 生活保護、ベビーカー、少年法(未成年の保護)、LGBT、沖縄、中韓、障がい者、など少数者への批判的視線・非寛容で、マイノリティの人権についての主張を弱者利権、障がい者ビジネスと見なし、権利や賠償を勝ち取る行為としてとらえている。
p223 ヒトは長い進化の過程でさまざまな能力を獲得してきましたが、産業革命以降の知識社会とは、その中で論理・数学的能力と言語運用能力を持つ者が富と名声を独占する人類史上極めて異常な社会です。遺伝子はとうていこんな急激な変化に対応できませんから、「とてつもなくゆたかで自由な社会」からこぼれ落ちていく人たちが出てくるのは避けられないことです。
知識社会とは定義上、高い知能を持つ者が大きな優位性を持つ社会です。知識社会における経済格差とは、「知能の格差」の別の名前でしかありません。
現代はきわめて高い知能をもつ人材がイノベーションを起こし、莫大な富や権力を握る社会です。善し悪しは別として、ずば抜けた知能の持ち主に富が集中する「知識社会化」が、現代の潮流です。
P236
未来にどのように生き延びていけばいいのか、今後のトレンドは2つに分かれていく。
ひとつは、高度化する知識社会に最適化した人的資本を形成する戦略。
もうひとつは、フェイスブックやツィッター、インスタグラムなどで多くのフォロワーを集め、その評判資本をマネタイズしていく戦略で、インフルエンサーやユーチューバーなどがその典型。
高度化する知識社会では、テクノロジーが提供するプラットフォームを利用して、会社組織に所属することなくフリーエージェントとして自由な働き方をすることが可能になった。
知識経済と評判経済は一体となって進化し、地球を覆う巨大な経済圏を形成しつつあるのです。
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橘さんは進化論、進化心理学の観点を持って物事を捉えています。人間はどのようにできているのか、世の中の仕組みはどのようになっているのか、たくさんのデータを使って説明しています。
新しい言葉=新しい潮流に、ほぉ~という感じでしたね。