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なぜ人はエイリアンに誘拐されたと思うのか スーザン・クランシー

 本書を読む前に表紙の裏に書かれた原題をみて、原題が「HOW…」となっているのに気づいた。日本語の題名は「なぜ…」となっているが、これは意識的な誤訳といっても良いだろう。「いかにして…」とか「どのようなプロセスで…」というよりも「なぜ…?」という方が不思議そうで面白そうな感じがするからだ。また「HOW…?」ならば「宇宙人による拉致」を事実とする考えを100%否定する感じになるが、「WHY…?」ならば事実である可能性を必ずしも排除しない感じになる気がする。本書は、理屈でない現象に対する白黒をはっきりさせずに書き連ねたドキュメントではなく、「宇宙人による拉致」を100%信じない科学者による「いかにして人は体験しなかったことを記憶するのか」を考察した科学書に近いものである。この事実を事前に知って読むか、知らずに読むかで、読む方の心構えも随分違うものになるはずだ。そう考えるとこの意識的な誤訳は少し罪作りなような気がする。もちろんそれで本書の面白さが減じるようなことはない。むしろ、「そんなことを真剣に考えている学者がいる」という事実に直面し、これは別の意味での「トンデモ本」なのかもしれないと思わされたりする。
 それから、本書の原題では「誘拐」の部分に「キッドナッピング:KIDNAPPING」という単語が使われているが、本文では冒頭から「アブダクション:ABDUCTION」という表現が使われている。ニュアンス的にはアブダクションの方が学術用語っぽい気がする。また「宇宙人による拉致」を特にその筋の専門家は「エイリアン・アブダクション」と呼ぶらしい。原文を見ていないので、もしかすると翻訳者が本文中の「KIDNAPPING」という単語を「アブダクション」と訳した可能性がないとも言えないが、通常そんなことはしないだろう。そうだとすると、この使い分けは、著者自身によるものということになる。題名なので平易な単語を使ったと言えばそれまでだが、原書の出版社のできるだけ売れるようにという配慮の可能性もある。本書の題名は、日米出版社合作の傑作と言えるだろう。
 題名のことだけで随分書いてしまったが、内容も大変面白い。人がどうしてあり得ないことを信じてしまうのか、完全に解明されたとは言い難い結論だが、推察されるそのメカニズムが実に面白く書かれている。最後のところの宗教論、アメリカ現代社会論にまで踏み込んだ記述にも納得性があって素晴らしい。(「なぜ人はエイリアンに誘拐されたと思うのか」スーザン・クランシー、文春文庫)
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