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コルシア書店の仲間たち 須賀敦子

作者の本はこれで5冊目になる。これまでに読んだ4冊は、登場人物もかなり重なっているし、語られているエピソードも前に読んだような気がするものが多いので、なんだか堂々巡りしているような感覚にとらわれる。それでいて読んでいると全く新しい内容のようで大変不思議である。そうしたなかで、この本はこれまでに出てきたエピソードが登場人物別に語られているので、ちょうど織物の横糸のような感じでこれまで読んだ本の内容を整理することができる。しかし、それでも十分に整理はしきれないし、堂々巡りのようでいて新しい内容のように思えるという不思議な感覚は相変わらずだ。
 1つ気になるのは、作者のミラノ滞在中の最大の出来事は間違いなく「夫の死」であるはずなのだが、5冊の中にはそれを正面から記述した文章がほとんど見あたらないことだ。この出来事に対しては、意識的に言葉を少なくし、ほとんどは「夫が死んで1年ほどたった時…」とか「夫が死ぬ1年ほど前…」といったようにある出来事の時期を明確にするだけの表現にとどまっている。なにかキリストの死をもって紀元前・紀元後に分けているような感じだ。(「コルシア書店の仲間たち」須賀敦子、文春文庫)
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