建築・環境計画研究室 (山田あすか)

東京電機大学未来科学部建築学科

利用縁とは何か?

2019-09-04 18:13:28 | 雑記

研究協議会プレゼについての補足です。

 

ただ同じ地域に住んでいるだけで,地縁は生まれない。でも同じ道を通っていれば,顔見知りになって挨拶をしたりするようになったりします。

私は,子供達を保育園に送迎する道すがら,植木鉢などを道に面してオープンに置いて,水やりをしたり手入れをしているご婦人と顔見知りになりました。ガレージスペースで魚や植物を育てているご家族と知り合いになりました。子供達も話しかけますし,いつしかそれらの関係は普通になっていました。これは従来の言い方で,「ああ,私にも“地縁”ができたのだな」と思っていました。

子供達が保育園を卒園し,小学校に入ると,その道は通らなくなりました。今でも時々,たまに顔をあわせることがあると(そちらの方が犬の散歩をしていたり,こちらが出かけるときにいつもと違う道として,送迎で使っていた道を通ることがあると,ごくたまにお目にかかります),懐かしさとともにお話をしたりもします。

「懐かしい」

私にとっては,そのご縁はもう次のフェーズに移っている=一旦終わったものなのだと気づきます。

お互いに同じ地域に住み続けていても,「終わる(フェーズが移行する)」ご縁がある。そういうことなんですね。地縁ならば,変わりも終わりもしないはずです。

だから,「ああ,私たちにとって,私たちの関係は,あの道・を使う・ことによって生じていた,ひとときのご縁だったのだな。」とわかりました。利用縁という概念を思いついてから,その関係性を,そのように呼べるのだと理解しました。

 

利用縁の概念を説明し,ぜひ流行らせたいんだと言ったところ,阪大の松原茂樹先生が「利用縁は地縁を結び直しますね」とおっしゃいました。なるほどと合点がいきました。

先に挙げた,保育園の送迎の道でのご縁は,従来確かに地縁とも呼べるものでした。でもそこに「利用」があったから,生じた地縁であるわけです。利用する=シェアすることは,地縁を結びます。例えば神社やお寺,公園,地域施設は,近くに住む人の縁を結び直すことができるでしょう(利用縁による地縁)。

でもそれは近くだという意味の地域でなくても結ばれ得ます。ネットを介して,あるいは人づてで(ある地域に転居して住んでいる親を訪ねてくる子供だとか,逆とか,または知人にゆかりのあるところだとか)利用することになった場所や建物,仕組みによって,利用縁が生じる(=広域利用縁?それはまだなんと呼べばいいのかわからない)こともあるでしょう。

 

また,利用縁,利用縁コミュニティは,「結果として生じる」ものと理解することが大事だと思っています。

関わりを作る,コミュニティをつくる,関係性それ自体を(外部の専門家が)設計の対象とすることは,これからのニーズや地域運営の実態にそぐわないと考えます。

例えていうなら,関わり(互助)を期待して,人々を強制的に結婚させることは多くの場合不幸を生みます。お見合いもいいのですが,現代的にやるなら合コンの設定でしょう。もちろん,合コンにも工夫が必要です。

・誰に声をかけるのか(利用者の想定)

・参加者のことをよく知り(利用者のニーズ,利用者像の把握)

・お互いにキーとなる話題を振り(興味関心が発露・喚起される状況)

・集まりやすいところに素敵なお店を予約したり(アクセシビリティに配慮した場所・拠点の設定)

あるいは

・BBQなどの共同作業の機会(活動や状況)

を設けるなど・・場所・状況・仕組みをつくる ことで,関係性が生まれやすくすることはできると思います。

建築・都市の専門家のデザインの対象は,アフォーダンス(環境と生物の間に生じる関係として引き出される行為)ではなく,シグニフィア(アフォードするもの・要素)である,とも言えると思います。

アフォーダンスは,生物のモード(お腹が空いているとか,隠れたいと思っているとか)によっても異なるもので,モードに応じた価値が見出されるセッティングがデザインされることをお手伝いしたいなと思います。

と,そこまでが協議会でのお話だったのですが,帰りながら,モードを変えるようなデザインがあり得るかどうかということも,考えました。うーむ,どうだろう。それは実現としてはともかく,まずは思考実験として面白いと思う。うーむ。

 

 

アフォーダンスとシグニフィアについては,こちらを。

誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論 単行本 – 2015/4/23
D. A. ノーマン (著), 岡本明 (翻訳), 安村通晃 (翻訳), 伊賀聡一郎 (翻訳), & 1 その他

生物のモードについては,こちらを。

生物から見た世界 (岩波文庫) 文庫 – 2005/6/16
ユクスキュル (著), クリサート (著), Jakob von Uexk¨ull (原著), & 2 その他

 
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