建築・環境計画研究室 (山田あすか)

東京電機大学未来科学部建築学科

2019建築学会大会・建築計画部門研究協議会プレゼ「利用縁コミュニティを生む拠点のつくり方」1/2

2019-09-04 13:37:43 | 【雑感・寄稿文他】建築・都市・環境探訪

 (この記事に使用している図・文章の無断転載はご遠慮ください。通常ルールに則った引用・参照はもちろん大歓迎です。引用の際のreferenceは,「2019年度日本建築学会大会(北陸)建築計画部門研究協議会資料」としてください)

昨日,人口縮減社会におけるコミュニティとパブリックの新しいかたち ー2030年の地域施設の姿とはー で主題解説しました。

資料にないことも織り交ぜてお話ししたのと,資料がもう売り切れてしまっていたということもあり(大会終了後,しばらくするとデジタルアーカイブスでご覧いただけるそうです),また昨日共有できたキーワードに「オープン化」「情報発信」もありましたので,こちらに昨日のプレゼンに寄稿内容をミックスして,記事としてアップいたします。

・青い文字:資料集の寄稿内容です(掲載にあたり,若干の文言の修正をしている箇所があります=文章量調整でカットした箇所の補足や,読みやすさのための改行など)

・黒い文字:プレゼンテーションの時に追加したお話や,掲載にあたっての補足,関連する事柄への言及等です。

 

 

【主旨】 主旨説明:小篠隆生先生(北海道大学) 以下引用・・・・・・・・

急激な人口減少や少子高齢化により、15・30・45年後には地域公共施設の統廃合が大きく進んでいく。また、多様な価値観やライフスタイルの変化によって、地域公共施設や地域社会におけるパブリック自体の意味も大きく変化してきた。そのために、地域での各種施設の役割や機能を根本的に再検討する必要があることは、論を待たない。
 このような背景や問題意識のもと、過去5年間にわたり、「地域施設計画研究シンポジウム」のパネルディスカッションにおいて、人口縮減社会における地域公共施設の課題を議論し、
 ・高機能化から多用途化へ
 ・集約化や非施設化
 ・利用圏域の複雑な重なり合い
 ・融合化=施設機能の再構成
 ・ネットワーク化
 ・エリアマネジメント
というキーワードが見えてきた。地域施設に関するテーマは、大きく分野を超え、従来型の計画手法を超えた視点の必要性が生まれている。
 本研究協議会では、上記の視点を踏まえつつ、建築計画の関係各分野に止まらず、都市計画、建築社会システムからの視点も交えて、この新たな視点について多面的に論じる。そして、地域公共施設に関する新たな計画の方向性を「施設」から「事業を行う拠点」というパースペクティブを元に、それを支える計画論のあり方を展望したい。

引用終わり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

解体と再編の時代,「使う」がつなぐコミュニティ
An Era of Demolition and Restructuring, Communities Connected by " Use "

【要旨】施設が建物と事業に解体され,多様な事業や事業と建築の組み合わせとして再編されている。こうした場所やサービスの利用という共通性によって生じる関係性「利用縁」は,地縁や血縁を超えて互助の歯車の基軸の一つとなり,また地縁が結ばれなおす要素ともなる。利用縁が形成されるための要素として,「オープン性」「混在性」「異なること」「日常生活における蓋然性」があり,最も重要なのはそこに「ただ居る」ことができることである。これからの地域施設が担う役割の一つには,このような利用縁コミュニティが複層に渡って形成されていくため多様なグループが利用できること,また機能や場所をきっかけとしてグループが生まれること,を支援できる拠点性が期待される。

 

 


0.はじめに
コミュニティ,パブリック,地域(公共)施設のあり方の変容とこれからのあり様を,「施設から事業拠点へ」「つくるから使うへ」「血縁・地縁から利用縁へ」の3つの変化に着目して,整理する。これらは,地域に必要な機能や支援をいかに提供するか,地域とそこで暮らす人々にとっての価値をいかに捉えるか,そして今とこれからの時代ならではの地域施設の魅力や役割,の視点で着目される変化である。

 

今回のお題は,地域施設小委員会が幹事となって実施している協議会ということもあり,「地域(公共)施設のあり方」です。

地域施設を中心に置くと,それについて議論する目的は地域施設の「維持」にあると考えられます。維持を前提にしなければ,縮減(数や立地の適正化:アジャストメント)もあり方の変化も必要ありません。

地域施設を,なぜ維持したい,すべきだという前提に立っているかというと,それが「地域や,社会・生活の基盤としての役割を担っている」「担うべきだ」という思想によります。

そして,地域施設の維持には何が必要か,というと,①財政基盤の整備を含む,ハードとしての拠点の統合や再編,②利用者がいること=利用者の視点での現代的意味・評価・ニーズに対応していること,③担い手がいること=(主体となる)担い手を育てること,であると考えます。

今回,主題解説者を含む,協議会幹事団の事前のミーティングで, 「公共の施設(施設を公が整備する目的も含む),公共の立場(トップダウン,行政の側から見た規模・立地・内容のアジャストメントや求められる変化)」 と 「コミュニティ的視点(コミュニティ施設としての意味,ユーザーにとっての価値やコミュニティが求める変化など)」 ,ないしそれらのハイブリッドと,どの立場からの話題提供かを明言した上で,話をする,ということになっていました。

上の図中の△はそれを受けてのもので,私は今回はコミュニティ≒利用者の立場での話題提供を行います。

 

1.施設から事業と事業拠点へ


1)ノーマライゼーション,“建物・機能パッケージ”の解体

この数十年の地域施設,特に福祉施設における生活施設の計画は,ノーマライゼーションや個の尊重の価値観からの脱一斉処遇/大舎制,脱コロニー(隔離),「施設」の住まい化・地域化,などの大きな動きのなかにあった(図1)。介護保険の施行による「措置からサービスの選択へ」の移行や,民家等の既存建物を改修したグループホームや宅老所[i][ii],全室個室・ユニット型の新型特養を含め,外山義が提唱した「自宅でない在宅」[iii]の概念は,我が国の高齢者の生活環境を大きく変えた。介護保険の施行や,廃校舎等の社会資本としての空き家・空き建物の利活用への関心の高まりを背景に,「建築と機能のパッケージ(≒施設)の解体」という概念も同じ頃に聞かれ始めた[iv]

その後,施設設備における“建物と機能は一対一対応”,“一建物一用途”の原則も変化していく。ここでいうグループホームの正式名称は「認知症対応型共同生活介護」であり,宅老所の取り組みを元に2005年の介護保険法改正によって制度化された「小規模多機能型居宅介護」も,例えば「特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)」のように施設としての整備という旧来のあり方に拠っていない。特に小規模多機能は,“施設の居室の役割を住み慣れた家が,施設の廊下の役割を地域の道路が担う”と説明され[v][vi],障碍者の生活環境についても,同様に小規模化・生活の重視という流れがある。



[i]井上英晴, 賀戸一郎:宅老所「よりあい」の挑戦 −住みなれた街のもうひとつの家(OP叢書),ミネルヴァ書房,1997.07

[ii]下村恵美子,谷川俊太郎:九八歳の妊娠 −宅老所よりあい物語,雲母書房,2001.11

[iii]外山義:自宅でない在宅 −高齢者の生活空間論,医学書院,2003.07

[iv]西野達也,石井敏,小菅瑠香:多摩ニュータウンの廃校となった小学校を活用した地域福祉施設の提案【最優秀賞】,日本医療福祉建築協会主催デザインシャレット,2001.11

[v]日本医療福祉建築協会:小規模多機能サービス拠点の計画 −目指すべき方向性と考え方,2006.09

[vi]井上由起子:いえとまちのなかで老い衰える―これからの高齢者居住そのシステムと器のかたち,中央法規,2006.05

 

 

2)地域資源の活用によるまちと福祉の融合

また,東京都認証保育所や家庭的保育事業(保育ママ)など小規模保育拠点は,敷地内に屋外遊戯場を確保できないことでの保育の質の保障への懸念はあるものの,「施設」への囲い込みによる福祉事業から地域資源のネットワーク的利用の拠点型保育への移行により,地域でこどもが育つことが改めて可視化される契機となっている[i][ii][iii]。そして,これらの拠点型保育は,多くの場合新築ではなく既存建物の利活用による。その際,提供したい福祉サービスとその量に応じて,適切なアプローチをもった,使える床としての既存建物ないし空間が選択されている。近年では地域資源を活用する学童保育の拠点[iv]や福祉のまちづくり学会での活動,「まち保育」[v]の概念の提唱など,保育をきっかけとしたまちづくりについても関心が集まっている。

これは,空き家を活用した高齢者福祉事業拠点や障碍者福祉事業拠点の開設などでも同様で,施設の解体[1],事業主導化[2]に伴ってその実施の場としての地域の資源が見いだされ,福祉と日常の生活が再び近づく契機となっている。

既存建物の活用のため,多くの地域では利用率などに課題もありつつ,空き家バンクや移住・住み替え支援など中古不動産の流通の促進への施策や取り組みが多数行われている。既存の建物を「使う」事業拠点展開は,地域的ニーズの量や分布の変動のなかで,土地取得から始まる新築よりも比較的早く・安価に対応できる。



[1]「既存の大規模施設の(改築等を契機とした,小規模施設ないし事業拠点への)解体」という意味に限らず,そもそも新規開設しようとしたときに大規模にはつくれないように(社会的に)誘導されている状況を含む。例えば病院,特別養護老人ホーム,障碍者施設,保育所等の医療・福祉施設全般における傾向として理解される。

[2]施設整備に拠らず,事業オリエンテッドで拠点が形成されるようになること



[i]山田あすか,佐藤栄治,讃岐亮:小規模保育拠点の保育者による子育て環境としての都市環境評価に関する研究 −0~2歳児を保有する世田谷区・家庭保育福祉員と京都市・昼間里親を対象として,都市計画論文集,44.3巻,pp.175-180,2009.10

[ii]小林陽,山田あすか:東京都家庭福祉員制度での拠点内の環境づくりと都市環境の利用・評価に関する研究。日本建築学会計画系論文集,第77巻第681号,pp.2507-2516,2012.11

[iii]山田あすか:東京都内の種別が異なる小規模保育拠点における都市環境の利用・評価に関する研究,日本建築学会計画系論文集,第81巻第723号,pp.1069-1078,2016.05

[iv]塚田由佳里,小伊藤亜希子:民家等を利用した学童保育所にみる「拠点性」の利点と成立条件:-大阪市の事例調査より-,日本建築学会計画系論文集第74巻第645号,pp.2319-2328,2009.11

[v]三輪律江,尾木まり,稲垣景子:まち保育のススメ −おさんぽ・多世代交流・地域交流・防災・まちづくり,萌文社,2017.05

 

なお,既存建物の利活用や転用が当たり前であるヨーロッパ諸国での近年の例では[i],病院もその用途を終えた,または入院日数のさらなる削減などで必要な面積が縮小された時の転用可能性を考慮して建築されている(図3に例示)[ii]。我が国における一般的な認識では,機能に特化し専用の建築物としてつくる必要があると考えられる施設種別のなかでも,病院は最もその特性を考慮されるべきだとの認識は共有されていると考えられ,その差は大きい。なぜそのような転用前提の病院施設整備が可能かというと,病棟部門と中央診療部門を別の機能をもつゾーンとして独立的に捉え,病棟部門は順次縮小していくことが可能なようにゾーニングし独立動線を付置,ただし中央診療部門は当面縮小はしないが機器類の更新が比較的短時間で起こる前提のもとにつくられる,などの,これもまたある種「機能の解体」によって説明される現象と言える[1]。そして,病院としての役割を終えた建物やその部分は,住宅や商業空間として,まちに還元されるように計画されている。



[1]日本では入院期間がOECD各国の数値に対して突出して高いが,各国制度では「慢性期医療(生活を主体とした,医療看護が付加的に組み込まれる時期)」と「急性期医療」を完全に分離し,慢性期医療の場を病院から外に出す(Special nursing home,Patient hotel,帰宅後の訪問看護・診療・通院など)ことが徹底されてきた。



[i]森一彦,加藤悠介,松原茂樹,他:福祉転用による建築・地域のリノベーション −成功事例で読み解く企画・設計・運営,学芸出版社,2018.03

[ii]日本医療福祉建築協会,海外医療福祉建築研修2017報告書,2010.03

 

3)解体と再編の時代に
 施設が事業と建築に別れたことで,事業や複数事業の組み合わせの展開速度も,事業と建築,複数事業の組み合わせの可能性も増していく(図2)。施設はしばしば,建物+事業1+事業2・・などの複合要素によって成立している。例えば多くの特別養護老人ホームは入所型サービス+通所型サービス(デイサービス)+ショートステイ+介護相談,の要素を有する。これらの要素が一旦解体され,グループホームやサテライト・ユニット,ショートステイの専門施設,単独デイサービスや小規模多機能など,それぞれ異なる事業所が立ち現れている,と理解できる。あるいは,病院は入院人数の削減のために少数の病院と,多数のクリニックに解体される方向にある。

逆に,解体された事業,あるいは従来異なるものとして存在してきた事業が複合化することで,新たな価値や利便性,課題解決を得ている場合もある。例えば複合型高齢者施設,クリニックモール,小規模多機能,認定こども園(保育所機能+幼稚園機能+子育て支援機能),中高一貫校,認知症カフェをもつ特養,などが挙げられる。機能・事業が一旦解体されることで,異なる事業との連携がしやすくなる。例えば,クリニックのある有料老人ホーム,小規模多機能をもつサービス付き高齢者向け住宅,保育機能をもつ病院やオフィス,学童保育と就学前保育,など,枚挙にいとまがない。「解体」によらず,また必ずしも物理的一体性を持たず,もともとあった機能をネットワークに載せることで,統合的機能を持つ事例もある。例えば少し離れた幼稚園と保育所の連携型認定こども園,空き家を宿泊室として地域のカフェやレストランで構成される分散型ホテル(Alberghi Diffusi,イタリア)やまちホテル,集落を利用した滞在施設(図4として例示),集合住宅の住戸をバラバラに改修してフロントを別に設ける分散型サービス付き高齢者向け住宅,空き家が増えた郊外の戸建て住宅地の住宅を居室と見立てる見なしサービス付き高齢者向け住宅,などである。これら,解体と再編(統合・複合)は各地域の実情や利用者のニーズ,事業者のビジネスプランに呼応して,同時に起こる。また公的な動きとして,「共生型サービス」では,介護保険または障害者福祉のいずれかの指定を受けた事業所がもう一方の制度での指定を受けやすくなる[i]



[i]厚生労働:共生型サービス,< http://www.mhlw.go.jp/file/05-

Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000170288.pdf >,社保審-介護給付費分科会第142回(H29.7.5),参照2018.6.26

 

(事例:須賀川市民交流センターtette。公民館・地域交流・子育て支援センターの機能を【融合】している点が特徴。例えば調理室の横に料理関係の本を置く,スタジオに隣接して音楽の本の棚を設けるなど,活動スペースに隣接して本のある空間が設けられ,それら活動と情報が近しく存在している。)

(事例:幼保複合施設での交流場面の事例 は,ご利用者様の写真集なのでカット)

 

2.つくるから使うへ

1)利用による事業,利用者が集まると事業になる

 1.の変化は総じて,「機能+そのための建築」パッケージである施設の【整備】から,事業とそれを行える場所の【利用】へ,そして建築と事業,複数事業の組み合わせによる再編,と理解できる。

この先には,複数の事業で相乗りして利用する場所・設備,公共施設の時間/空間的部分利用による事業,などの拡大・展開が有り得る。

 

実際に,NPO活動など「事業」に対して助成や委託があり,活動場所は団体がそれぞれに状況に応じて確保することは一般的である。また現在では,例えば高齢者通所介護(事業)の入浴サービスには自前の入浴設備が必要だが,将来的には小規模サービスなどで,地域の公共浴場を活用することは可能だろうか。時間で利用/ゾーニング/混在など様々な運用形態が有り得る。あるいは,障がい対応した,自宅ではない個人宅の浴室を借りての入浴介助サービスの可能性は? 訪問入浴サービスの運用の拡がりの可能性を考えていくと,「訪問」と「通所」というサービス区分もいずれ緩やかに融合していく可能性があるかもしれない。

(内観写真をカット。「訪問介護」を利用される方の居室に,「居室にバスタブを持ち込み,同じフロアにある浴室からお湯をホースでひいて,訪問入浴を実施している」様子について。シュールにも見えるのですが,現場ではそのような工夫によって,現行制度下で必要な介護を実現している。新しい事業+その実施場所の組み合わせで運用をしようとしていくと,制度の想定していない状況が生じ,齟齬が生じ得ます。)

 

通所支援が担うある程度の介護の効率的提供や利用者相互の交流などの刺激の創出の視点でも,そこに「利用者=ケアを必要とする人が集まり」「ケアを提供するための場所や設備があること」が重要なのであって,そこが「デイサービスセンター(通所施設)である」必要はない。そして,人が集まっていることはそれ自体がポテンシャルであり,個人宅への訪問よりもケアを提供する効率の意味では有利となる。例えばご近所のAさんの家でも,自治会館でも,商店のイートインスペースにでも集まって,そこにケアスタッフがやって来る 。そのように,ケアの前提となる場所は施設から事業者提供型の(固定の)拠点や利用者宅へとの拡がりに加えて,人の集まる場所というよりテンポラリで利用者群主導型の拠点が加わっていくだろう。

(文字数上限の関係で,別記事に移行します。こちらの思考実験も読んでいただけたら嬉しいです)

 

2)「使う」の相乗り:基盤としてのシェア性

人が集まること,物が集まる,動線が集まることは大きなポテンシャルである。過疎化が進む地方都市でも新しく総合病院が建てばそこには循環バス等がめぐり,自家用車を利用できない患者も集まることで,病院の前には薬局やスーパーなどの「門前町」ができる。コンビニが撤退する(出店できない)生活密度・購買力密度の地域でも外来者が来る/通り過がりに立ち寄ることで道の駅の経営が成り立つ。道の駅に生活用品が置かれ,地域住民の売り買いの場を兼ねる。このような現象は各地でみられる。住民向け/外来者向けという従来は別であった事業の区分は融け,事業はお互いに利用を相乗り=場所や機会や集客力をシェアすることで,リスクを分散し,ニーズを調整し,安定化を図る。または,同じ持ち出しでより質の高い設備や場所を使えるようになる。これはシェアハウス,コワーキングスペース,AirbnbやUberなどの各種シェアリングエコノミーなど,シェア全般に当てはまる。そして,これからの地域公共施設のあり方を考える時,地域施設がもつ公共性の基盤は,広く薄く,人々が(必要に応じて)その建物や機能をシェアすることそのものであると気付く。

また,建築の長寿命化,加速するニーズの変化により,一度つくられた建物は,公/民の別によらず,次の用途で,あるいは次の利用者が使い継ぎ,利用されていく。これは,時間によるシェアとも言える。どのような物件であろうとも,この建物は時間を超えていく,と思うとき,それは個人の手には完全に乗り切らない,ある種の公共性を帯びる。

 

3)シェアの可能性を増す:混在という価値

さまざまな「使う」が相乗りする環境を考えると,それは多様な要素,例えば事業や利用者の属性が存在する状況が想定される。何をシェアするのか,誰とシェアするのか,それが多様であるほど,新たな展開が期待できる。それは,ある部分で施設を施設たらしめてきた「立地≒利用者の居住地・勤務地(最近隣選択,地縁)」や「属性別整備」「明確な用途」からの脱却を意味する。例えば先の例で,地域公共施設を観光客が利用しても一向に構わない。交流人口や関係人口が定住人口に変わる/加わる地域の活力の指標と理解されるに至ったように,むしろ地域の維持の観点から歓迎される。そして外来者の存在は,地域の利用者の意識をゲストからホスト側に変え,主体性や誇りを醸成する[1]

既存の枠組みを超えた混在を実現させることが,多様なシェアの有り様に繋がる。例えば,著名な先進的事例である三草二木西圓寺やシェア金沢では,多様な人々による細かい編み目のような支え合いの仕組みをつくるためには“ごちゃまぜ”であることが必要だとしている(図5)。ここでは,福祉を必要とするか否かで利用者を分けたりはしない。カフェ,レストラン,温泉,駄菓子屋,周辺の農作物や地元名物などの物販,フィットネス,集会・自治など多様な機能を内包しつつ,高齢者居住や高齢者支援,障碍児者への支援,児童への支援などの拠点となる地域の拠点施設やエリアを構築している。



[1]「運営者」ではなく利用者≒外来者としてその場所を使う地域住民でも,より“外”から来た人に対しては,その場にある種の責任や優先意識をもつ者として振る舞い,ホスト性が喚起される。

シェア金沢 はこちら。三草二木西圓寺 はこちら。

 

 

例えば,縮退の中での“こども施設”の再編と圏域を例とすると,(従来の)異種機能はまず利用者の属性の類似性によって融合していく(図6)[i]。さらに,利用者の属性を超えていくことでお題とされた“こども施設”の枠組みを超えて,例えば高齢者やこども,障碍者など支援が必要である(サポート資源を共有できる)ことによる機能統合が起こる。いわゆる共生型ケアの拠点がこれにあたる。さらに,福祉の用途かどうかも問わない,そこが地域の拠点性=人が集まるというポテンシャルをもった,地域の互助・共助の拠点としての「地域施設」に再統合されていく。統合的拠点には,当然の帰結として利用者や目的の混在が起こる。

 



[i]山田あすか:人口縮減社会における「こども施設」の機能と圏域の再編,日本建築学会第34回地域施設計画研究シンポジウム パネルディスカッション:人口縮減社会のおける地域公共施設の課題「地域公共施設の圏域をどう変えるか」,pp.17-20,2016.07.21

 

十分に多様な人々,多様な価値観,多様なニーズによって構築される環境では,同じ場所に居ても,その目的や様態はそれぞれ異なることが自然である。これまでの変化を,寄宿舎食堂で同じ料理を一斉に食べていた状態からレストランで各自好きなものを注文できるようになった,と例える。すると,これからのさらなる変化は,フードコートで各自が自分の食べたい物がある店で,予算に応じて好みのものを自分の腹具合に合わせて選んで調達し(あるいは,運んでもらって),テーブルを共にする状況に例えられる。それはテーブルを共にする人々のうち,ある人には介助は不要で,ある人には食事介助が必要なのでその時だけ支援者が居る,またある人は移動にだけ補助が欲しいので同じ方向に移動する人に介助を依頼してここに集まった(シェアリング・ウェルフェア),という状況であるかもしれない[1]。ほぼ同じ機能を提供し・受け取る施設(施設)はもちろんすぐになくならないが,機能を提供する拠点(フードコート内の店)と提供される機能を個々人が受け取り楽しむ場所(フードコート内飲食スペース,テイクアウト,各種介助)の組み合わせは増えていくだろう。「混ぜるな危険」から「混ぜれば魅力」への価値観の転換は,大きな転機である。



[1]フードコートにはしばしば子連れ家族がいる。当然の光景として,「テーブルを共にする人」に,食事介助を受ける人,その必要がない人,食事をもってくることができる人,できない人(しない人)がいる。こうしたフードコート的サービス提供は,そのような多様性を受容する。場所を選ぶ,水を汲む,食事を注文してテーブルに運ぶ,テーブルを整える,こうした一連のプロセスを「利用者の主体性」に委ねることで,自由と多様性が実現されることは興味深い。レストランは店の人が取り仕切り,客に快適性を与えるが自由度の低い空間(店の設えや運営は,客を選ぶ),そしてフードコートは利用者自らが快適さをつくる,利用者の空間である(利用者はそこで自分が自分の望む食事をできるかを判断し,その場所を選ぶ)。

 

  

4)混在がもたらす「偶然の出会い性」こそが場の価値

 わざわざ映画館に行かなくても映画はオンラインで観られる。欲しいものはネットショップで頼めば自宅に届く。遠くまで時間やお金をかけて出かけなくても,趣味のコツはYouTubeで調べられるし,近場や自宅でVRやARを活用したスポーツも可能だ。このような時代に,「あえて」物理的な店に買い物に行くには,趣味活動に出かけてもらうには,どのような要素が必要か。

ひとつには,自分のこれまでの経験や価値観による検索・推薦の枠を超えた偶然の出会い性がより重要になる。欲しいとすら思ったことがないもの,会いたいと思ったこともない人との出会い,思いがけない経験,そういった(評価者個々人の)既存の枠組みを超越するものやことが価値をもつ。

また,建築計画やサイン計画では従来「わかりやすさ」が重視され,ゾーニングや適切なサインのあり方が研究・提唱されてきたが,もはやあらゆる施設でわかりやすさだけが魅力とは言えない。わかりにくさ,複雑さ,迷いがあること,も既存の枠組の超越を生じうる。例えばヴィレッジ・ヴァンガード,ドン・キホーテ,本以外のものとのコラボレーションに積極的なTSUTAYAなどが典型的な例としてあげられる。

そこには混在と出会いによる新鮮さがあり,欲しいと思えるものが見つかる場を演出する。「機能別」に特化してつくられてきた施設にはない価値といえる。一方,まちには多様性と出会いが必要だという指摘はジェイン・ジェイコブズ(1961)からある。その意味では,施設の機能複合化はまち性の獲得とも言えるかもしれない。

 

3.「使う」がつくる「利用縁」


公助が縮小し,自助の限界が自明であるなかで,人々の互助・共助の関係性を再構築すること,その重要性を再認識することが重要だという価値観が共有されつつある。一方で,地縁,血縁,性別,人種,出自のように自分では選べない要素によって,人はその生き方や期待される態度を決められるべきではない。という考え方が浸透している。こうした社会状況を踏まえた,これからの互助・共助の共同体=コミュニティの姿として,筆者は場所や機能/サービスを媒介とし,それらの利用という共通項 によって生み出される関係性を「利用縁」と呼ぶ。利用縁によって生じるネットワーク的関係性は「利用縁コミュニティ」と呼べる。 

 

利用縁コミュニティは,参加と離脱,そのタイミングは自由で,参加の度合いも人それぞれ異なる。コミュニティのメンバーは興味関心や必要な支援,お気に入りの場所などなんらかの「共通項」によってゆるやかに関係する。例えば,なんとなく顔見知りのカフェの常連,朝夕の送迎時にすれ違う程度の保育所の保護者同士,図書館の勉強スペースを利用する顔見知り,施設のボランティアメンバー,子育て支援の互助アプリの利用など,例えばその程度の関係から,サークルやサロンなど共通の趣味や目的で集まる人々も居る。

人々は多くの利用縁コミュニティに属し,それらを状況に応じて使い分け,生活に合わせて自然に移り変わっていく。自由で選択的で,個々人の自己決定の集積がゆるやかに形作る流動性の高いコミュニティである。「互助」の拡大が求められる現在,政府が進めようとしている地域包括ケア,共生型ケアも,互助の働きを前提としている。「自己選択的であること」を前提に「互助」が期待される社会において,利用縁コミュニティは「互助」の歯車の軸となりうる。そのためにも,偶然の可能性に満ちた,多様な機能や利用者が混在し,多様な人々の偶然の出会いのなかでお互いの繋がりが自然に形成されていく拠点としての地域施設の役割は大きい。

(記事の文字数上限の関係で,別ページでの補足:利用縁とは何か?)

 

4.利用縁を拡げる

 利用縁が形成され,また形成が促進される条件として,「利用」を生じさせる「シェア性」と,利用の拡がりに寄与する「混在性」に加えて,「オープン性」と「特徴があること」「生活における蓋然性」が挙げられる。そして,そこが選択的に使われる,人を惹きつけるために最も大切なのはまずはただそこに「居」られること,である。 

1)ただそこに居られること,「居る」から始まる

そこに居られること,滞在可能性は,とてもシンプルだがそれを土壌とした発展が期待できる。多様な滞留・滞在空間を設えた駅ナカ,休憩場所が点在するショッピングモールやデパート,滞在型図書館や書店,市民の居場所としての公園など,滞在可能性をホスピタリティの向上材料とし,利用の促進を図る例は多い。そこが多様な人々の多様な滞在の場所となることで,偶然の出会い性も増す。

建築家・渡辺武信は,居心地がよい,とは「ただ居る」ことができるかでどうかである,として,住まいの居心地は“どこか(there)ではないここ(here)性”にあると説明した[i]。居心地よい居場所があることは,その空間を生活の一部に昇華させる。先ほどのフードコートの例えに重ねれば,ここで食べようと思える場所がサービス提供の土台である。外からサービスを持っても来られる,まずはただ滞在のために居心地の良い場所,多様な滞在が誘発されるきっかけが埋め込まれた場所,利用するサービスによってカスタマイズ可能な場所,といったコンセプトは現代的なニーズに即した「物理的な場所」の一つの趨勢であろう。



[i]渡辺武信:住まい方の思想 –私の場をいかにつくるか,中公新書,1983.08

 

記事の文字数上限を突破してしまいました。  2/2に続きます。 2/2は,利用縁コミュニティを生む,拠点のつくり方を書いています。

 

 

 

 


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