俺たちが小学生のころだった。
ライオンは「百獣の王」と言われ、
子供たちには、「すごいヤツ」と思われていた。
手塚治虫のマンガの
「ジャングル大帝」
でも、そのように扱われていた。
ところが、そのうち、評価は変わった。
ライオンは「かよわいシマウマを食べる不埒な猛獣」
という扱いを受け始めた。
テレビの動物ドキュメンタリーでも、
シマウマを狩るシーンが、
ライオンの残酷性を助長した。
ライオンばかりではない。
トラやオオカミも、
シカやウサギを食べる「悪いヤツ」のような評価を受け始めた。
世の中はちょうど、
福祉の時代に入り、
身障者への思いやりが叫ばれ始めた。
バリヤフリーのような言葉も、
さかんに言われ始めた。
そして実際、世の中は、そのように動き、
街の道路は、盲目者が歩けるようになっているし、
電車もバスも、車椅子でも乗れるようになっている。
駅には、車椅子専用のエレベーターもある。
むろん、この動きは正しい。
しかしライオンが、「悪いヤツ」というのは、
ものすごく間違っている。
もしライオンがいなければ、
シマウマが増えすぎ、
そのうち草を食いつくし、
シマウマは全滅するだろう。
また・・・
弱った病気のシマウマも食べるので、
シマウマが伝染病などで、
全滅するのも防いでいる。
実際、そのようなことは起こった。
ある島で、オオカミの退治をしたところ、
ヤギが増えすぎ、
その島のヤギは、食べ物を食べつくし、
全滅したわけだ。
つまりライオンやオオカミは、
シマウマやヤギの生存には、
絶対に必要な存在なわけだ。
そして、もうひとつ、とても重要なことがある。
それは「狩られ、食べられること」は、
シマウマにとっても、
そんな苦痛ではないということだ。
生き物の体はうまくできている。
「小さな怪我」は痛いが、
逆に「大きな怪我」は、
痛くないようになっている。
戦争中に、爆弾で腕がなくなっても、
気づかなかった・・・という話は、よくある話だ。
つまりライオンの「シマウマ狩り」は、
一見、残酷なように見えるが、
シマウマにとっても、
そんな苦痛ではないし、
逆に長生きして、
病気で苦しんだり、
足腰や歯が弱り、飢えて死ぬよりも、
よっぽど、楽な死に方と言えるだろう。
以上が、ライオンとシマウマの物語の真実だ。
しかし、この真実は、
小学校では教えられていない。
せいぜい、
「ライオンに食べられるシマウマは、不運だが、
しかたがない」
・・・のような教え方をされている。
これはアカン。
きちんと真実を教えないと、
子供たちは、間違った宇宙論を持つことになる。
たとえば「弱肉強食」と「社会保障」の関係を、
うまく理解できないようになる。
実は、俺自身、
以上の真実を、完全に理解したのは、
20歳過ぎてからだったように思う。
それまでは、「シマウマはかわいそう」
という間違った考えを持っていたと思う。
だから「社会保障」についても、
「弱者を助ける、とても正しいこと」という間違った観念をずっと持っていた。
話は変わるが、
俺は医学関係者として、
生活習慣病で苦しむ患者を、
同情する反面、
「こいつら、自業自得」とも思っている。
「医療費、全額、自分では払え」という気持ちもある。
なぜなら、生活習慣病のほとんどは、
自らの不摂生によって、
引き起こされた病気だからだ。
あまつさえ、
そういう人たちは、
60歳を超えると、
さまざまな合併症にも悩まされる。
また「要介護」の状態にもなる。
それも全部、健康保険で、
負担される。
俺のように、
普段から健康に気をつけている者は、
ボッタクリされているようなもんだ。
俺がまず「糖尿病患者」の医療費5割負担を提案する理由がそこにある。
1型糖尿病は、個人の責任を超えているので、仕様がないが、
2型は、ほとんどは個人の責任だ。
どうしてこれを皆が負担しなくちゃいけないんだろう?
いつも、そう思っている。
そしてまた俺が「安楽死制度」を勧める理由がそこにある。
どう考えても、余命6ケ月以内・・・という患者は、
本人や家族の同意により、
安楽死をしてもいいと思う。
長生きすることだけが善とは思えない。
苦しんで死ぬことは、
霊界に行ってもいいことはない。
あっさり安楽死をして、
また、新しい来世で、がんばればいいではないか。
命を奪うライオンが悪いのではない。
命を奪われることによって、
シマウマは結果的に、
種を保存しているわけだ。
人はいつか死ぬ。
どうせなら、その死は、安らかなものであってほしい。
今、安楽死は、オランダなど一部の国で行なわれているし、
日本でも、森鴎外の「高瀬舟」を初め、
何度も議論されているが、
苦痛なく安楽死できるシクミを、
皆が考えてもいい時期と思う。