「父とわたし」は数年前に書き置いたものです。私は小学校5年までは田舎で過ごした後、都会へ引っ越しをしました。父とわたし達姉妹がどのように過ごしたのかを、私の子供達へ残すつもりで書き記したエッセイです。
カジカ(かえる)
夏休みになると、父はカジカとりに行きました。私を連れてバスに乗って、細い小川まで行きました。木が周りを囲んでいる、小さくて水のきれいな川でした。夏なのに、とても涼しい所だったと記憶しています。
なぜ父が、私を連れて行くのか聞いた事があります。私はその頃口笛を吹くのが得意で、カジカの鳴き声をまねるのが得意だったこともあり、カジカの鳴きまねを吹くとカジカが逃げないからと父は言いました。ですから、父が小川に入る前から、私に口笛を絶えず吹いているように言いました。
岩をそっと持ち上げたり、足でがさごそやったりして、やっと2匹のカジカを捕まえました。
帰りのバスの中では、穴あきのビニール袋の中のカエルは、乗客からも声を掛けられるほど珍しがられました。
家にはカジカを入れる専用のものまでありました。下は陶器製で上は細かい金網で出来ていて、小さな木のドアが付いていました。
カジカを飼うと私の仕事が増えるのです。なんと、「ハエを生きたまま、つかまえてきなさい。」とね。
ビニール袋を手にして、私は近所の農家の庭先に、ハエがいないか、確かめると玉ねぎがござの上に置かれて干してあり、その上にハエが沢山飛んでいました。そこで、父から教えられた通りに、「ごめんください。ハエを取らせてください。」と農家の開け放たれた玄関から家の中に声をかけると、農家のおばさんが出てきて、「OOちゃんどーしたの?ハエなんか何にするの?ハエトリ紙についているのを、持ってかえるのかい?」
「生きていないとだめなの。」「なににするの?」
「カジカのえさにするんだよ。」「生きてるハエは難しいよ。とれるかね?」
「あそこの玉ねぎのとこの、ハエください。つかまえるから。」
「いいよいいよ、持って行きな。」
了解を得て、ハエをビニール袋に入れこんだ。玉ねぎに夢中になっているハエは3匹もとれたのでした。
「ありがとーね。おばさーん」「いつでも、おいでー」
そうして帰ってから、小さな木のドアをあけて、ビニールの口をいれて、ハエを中に押し出すと、カジカは、すぐに喜んで飛びつきぱくりとハエを口にしたのです。そして美味しそうにごくりと呑み込みました。
父が家にいる時は、ハエが飛んでくると、父は自分の手を膨らませるようにして、上手に飛んでいるハエを捕まえて、カジカにやっていました。家の中のハエもそうして、カジカの餌となっていったのです。
カジカは、日陰におき、水のきれいなところに住むので、毎日井戸水をかけてやります。すると、他のカエルとは違う、とてもきれいな鳴き声が聞こえてきます。
友達が来て、「カジカがいるよ。」というと、皆物珍しく見入っていました。
カジカの鳴き声