1学年だより「紺野ぶるま(2)」
これをやらないと自分が自分でなくなる――。
そんな思いを抱けるものに出会えたなら、幸せだ。
「私、お笑いがないと消えちゃう」と思ったとき、ぶるまさんの覚悟は決まった。
~ お笑いを始めたてのころ、深夜の居酒屋バイトの帰りに、始発の駅のホームで大学生が目の前で吐いた吐潟物に足を滑らせ転んだことがあった。気にいってたコートはぐちゃぐちゃで膝も痛い。仲間たちと去って行くその人を見て、「これ絶対笑いのネタにしよう!」と決めた自分が、他人のゲロまみれなのにこの世で一番の幸せ者に思えたことを思い出した。
「食えるようならなければ生きるため」。俳句を詠むようにそう思った。きっとコントでも結果を出せば、昼も夜もテレビに出られる。「決勝に行きたい」ではなく、「決勝に行く」と言うようになったのはこのときからだ。
決勝でネタをやる必然性を感じると、気持ちだけでなく、取る行動が変わるから面白い。
落とされる理由になりうる要素を潔く排除できて、やるべきネタが自然と見えてくる。
ゴールデン帯のテレビだからもちろん行きすぎた下ネタとかはダメ、最初のボケまでの尺がなるべく短いもの、シュールなネタは相当知名度がないとやらせてもらえない、フリップは受けやすいぶん、3倍以上受けないと落とされるから、よほどやりたいネタがない限り避けたほうがいい。当たり前なことなのになぜか守ってこなかった条件を、自分にきちんと課せるようになる。 ~
目標が変わると、見える世界が変わる。
本気で勉強を始めてみると、自分以上にやっている人間がいかにたくさんいるのか見えてくるように。けがをすると、怪我をしている人に気づけるように。
2017年のR1大会で、見事、決勝に進出する。
ゆりやんレトリィバァ、ブルゾンちえみ、横澤夏子ら女性芸人が台頭し、サンシャイン池崎が準優勝、アキラ100%が優勝した年だ。
それでも紺野ぶるまさんの中には、失敗したという意識が残った。
決勝進出を目標にしていたことだ。「決勝で優勝する!」までの意識がなかった。
優勝を目指す……いや、それでも足りない、「R1、3年連続優勝! バカ売れ!」と設定し、それを人に言いふらすくらいでないと、本当にトップには立てないのだとわかった。
何事も、目標は高く設定した方がいい。そうしてはじめて、現実的な目標も見えてくる。
当然のことだが、高い目標に到達するには困難がつきまとう。
Aランクに達するための努力と、さらに上のSランクに達するための努力は質がことなる。
早いうちからAを目指していると、BもしくはCまでしかいかない。
SSやSを目指してがんばるからこそ、なんとかAには行けるという例は多い。
受験の場合も、だいたいそんな風になる。