「犬猿」
だらしないけどけんかは強い兄役の新井浩文とまじめな窪田正孝という兄弟。美人でグラマラスなのに性格がいい加減で不器用、でも昔からちやほやされてきた筧美和子さんと、しっかり者の姉役をニッテェ江上敬子という姉妹。
見た目も性格も正反対な兄弟姉妹が、四角関係のようにからみあい、それぞれがケンカしあい、ときに歩み寄るも、やっぱりケンカになり、血のつながりがなければほおっておけることでも、近くに居すぎるから許せないというという人間模様が実にほどよいテンポ感で描かれる。すべてのセリフも、一つ一つのシーンも、リズム感も、どこにもよどむところがなくて、4人がリアルな兄弟姉妹に見えてくる。描かれているのは、大事件やサスペンスでなく日常の一コマにすぎないのに、すべてが魅力的になる。「非の打ち所がない」とは、こういう作品のことだろうか。
4人がけんかし続ける映画と言えば、ジョディ・フォスターやケイト・ウィンスレットの「おとなのけんか」という名作があるが、それをしのぐ日本の名作誕生と思った。
役者さんとしてとくに期待してなかった筧三輪子さんが魅力的だった(ほかの三人の芸達者ぶりは予想通り)。思えば吉田恵輔監督作品といえば、素敵な女優さんの素敵度がいつも発揮されていた。「純喫茶磯部」の仲里依紗さん、「さんかく」の小野恵令奈さん(Please Come Back!)、「麦子さんと」の堀北真希さん(Please Come Ba~ck!)、「ばしゃ馬さんとビッグマウス」の麻生久美子さん … 。
「レオン」
リュックベンソンの「レオン」とは真逆の作品。会社社長の竹中直人と、派遣社員の知英(元KARA)さんが、交通事故で中身が入れ替わってしまうお話。入れ替わり者はそれこそ山のようにある。個人的には「転校生」「君の名は」に勝るとも劣らない楽しさだった。なんといっても知英さんのコメディエンヌぶりがつきぬけていていい。知英さんのCD「好きな人がいること」は定演二部の開演前BGMにつかった。「5分前にもどれたらどうする?」という曲だ。開演前BGMは、本編の内容とつながるような曲を毎年選んでいるが、気づいてはもらってないかもしれないけど、自分ではエラいなあと思う。
「ちはやふる」
ほんとうによくできてた。シリーズ3作品のうちの最高峰。日本の青春映画の歴史に残る作品。昔の自分の生き写しの新田真剣祐くんもいい味だしてるし、松岡茉優さんのカルタ女王を演じる冷たさと、ユルキャラおたくの日常とのギャップがよかった。
「万引き家族」
その松岡茉優さんが、すごすぎて「絶望」するしかないと評するのが安藤サクラさんだ。なるほどなぁ。伊奈学園さんの演奏会にいき、開演直前の基礎合奏をきいたときの絶望感を思い出して、納得してしまった。あまりにすごくて絶望を感じるしかない自分がそこにいるのだと。でもね、松岡茉優さんだからこそ、そこまで感じることができるのだろうとも思う。
拘置所に入れられて、弁護士と接見するシーンでの安藤さんのお芝居などは、この1シーンだけで1800円惜しくない。
この役は、主演女優賞の対象となるのだろうか。対象になりさえすれば、もう選ばざるを得ないよね。一昨年の「100円の恋」もそうだったように。だから、もう彼女は殿堂入りでいいと思う。さすがにこのレベルになると血筋とか持って生まれたものと言いたくなる。
「焼肉ドラゴン」
「三丁目の夕日」より少しあとの時代設定。万博で日本が沸き返る頃、大阪は伊丹空港のすぐそばにある在日の人たちの住む集落が強制撤去されるまでの数年間を描く。以前、アメリカの野球映画を観て、黒人差別が題材だったが、それが1960年代と知り、え? そんな最近の話かと驚いたことがある。万博って、自分のなかではついこの間の出来事だ。今はなき祖父母に連れられて出かけていった小学生時代を思い出す。太陽の塔が小さく見えるぐらいのところに住んでいた祖父の弟(おおおじ?)の家に泊まった。そのすぐ近くには、こんな暮らしもあったのだ。真木よう子、井上真央、桜庭ななみの三姉妹は、「海街」の四姉妹にまけない仕事ぶりだった。