二人とも農家で、親達は田んぼや山に行ったら夕方まで帰って来ません。
家も隣同士でした。あれは、小学校にあがる前の年のことです。
少しませていた私はこの子と仲が良かった。もっと仲良くなりたかった。
そこで「お医者さんごっこ」をしよう、そうしようと思ったのです。
この子の家に、何気なく近づいて行った。やあってな感じで、ふらっと。
ちょうど庭で遊んでいたので、こっちこっちをして物陰へ来い来いした。
ひで子ちゃんは頭のいい子でした。みんな、お見通しでした。
てるちゃん 「あっ、ひで子ちゃん、あのね」
ひで子ちゃん「うん、なあに?」
てるちゃん 「おしてほしいこと、あんの、あれって、どうなってんの?」
ひで子ちゃん「あれって、あのこと?」
てるちゃん 「そう、そうだけど、だめだよね」
ひで子ちゃん「いいわよ、みせっこね。ねえ、てるちゃん、そっちがさきよ」
てるちゃん 「わかった。じゃん……。こんど、ひで子ちゃん」
と、その時である。一つ年上の兄貴が学校から運悪く帰って来た。
私たちは小さくなって隠れた。もう、空気ぶちこわしである。
ひで子ちゃん「にいちゃん、かえってきた」
てるちゃん 「(モヤモヤモヤモヤモヤモヤ……)」
ひで子ちゃんは、兄に続いて家の中に消えてった。もう、出て来なかった。
あー、兄が帰って来るのが、もう少し遅ければと思った。
今、思っても間が悪いとはこのこと、まあ、淡い思い出である。
こんな事があっての数年後、彼女のおかあさんが海で溺れて亡くなった。
あの人も美人だった。お母さん似の彼女は、影をまとうように。
成績が少し落ちるようになっていった。着てる服も、薄汚れてきた感じが。
私も母がいなかった。すさんだ目を。でも、ひで子ちゃんは綺麗な目をしてた。