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中国夜話 毛沢東異界漫遊記(十一話) スターリンに、また平伏の巻

2021-12-25 17:38:45 | 小説

 天界での毛沢東は、早くも霊力を得た。
 この前には、戦勝国イギリスのチャーチルと会い、お礼話をする事が出来た。
 彼は思ったのである。この際は、あの戦争中の各国指導者めぐりをしようと。
 当時聞いてみたかった事が、胸中を去来する。
 うん、あの人物が大いに気になる、と。モスクワで渋い顔を見せた男。
 あれほどの怖い男を知らない。でも、なんか似ている、そう、スターリンだ。
 この天界にても、金玉が縮むのを覚悟で。また、会おう、と……


スターリン「わしが、ヨシフ・ヴィサリオノヴィチ・スターリンだ」
     「毛沢東よ、モスクワ以来だな、何の用だ?」
毛沢東  「はっ、ヨシフ・ヴィサリオノヴィチ・ス……」
スターリン「スターリンで良い。して何だ?」
毛沢東  「貴殿に置かれましては、対日戦争のお礼が、まず致したくて」
     「土壇場での日ソ中立条約破棄、満州、樺太、南千島への急襲、お見事でした」
スターリン「ふん、中国の為ではない、我が国は南下が宿命なのだ、隙さえあればな」
     「お前の国も油断ならんぞ、すでにモンゴルは子飼いにした」
     「なにも南ばかりではない、ポーランドを西にずらしドイツを削った」
     「ドイツは、東プロイセンの都ばかりか、オーデル・ナイセ領を失った」
     「戦うたびにドイツは小さくなる、今度は四分の一をな」
     「ゲルマーニアは偉大なのか、ゲルマンスキーは優秀なのかい、ふふっ」
毛沢東  「それにしても、日本は南千島だけで済みましたな?」
スターリン「ルーズベルト亡き後、トルーマンになったからだ」     
     「精鋭のスメルシを先陣に、囚人部隊を送り込んだのにな」
     「あの反共野郎のせいで、北海道の北半分占領を諦めたのだ」
     「もう半年、ルーズベルトがおればな、日本はまだ運がいい」
毛沢東  「あの貴殿の、その強面の謂れ、その生い立ちに関心がありまして、その……」
スターリン「わしの事か、ああ、我らは同胞だ。長い国境を接している、腹を割ろう」
     「わしはグルジア系ロシア人だ。故国のカフカスは19世紀早々に併合された」
     「父は腕のいい靴職人だったが、飲んだくれでよく殴られた」
     「母と二人で10年流浪して、家を点々としてた時もあったな」
     「共に農奴の家系だ。地主、やって来たロシア、神までも憎かった」
     「神学校では、無神論どころかマルクス主義に目覚めた。当然の放校にな」
     「19才で革命運動に入った。ボリシェビキ派に属し、金集めに奔走した」
     「前科者と組み、売春宿を経営し、わしは用心棒をしとった」
     「あれが一番、金になる。取り分は女が1、わしが4、相棒が5だった」
     「まあ、わしは自分の店の常連でもあったがな。そこで女を知り尽くした」
     「合法、非合法を問わず、悪と組み政治資金を集めていたのよ」
毛沢東  「それで凄みが付いたんですな。私は、あなたほどの怖い男を知りませんでした」
     「捕まりはしませんでしたか?」
スターリン「逮捕、脱走を繰り返し、シベリア流刑にもなったわ」
     「それがロシア革命で放免だ。わしは、レーニンに救われた」
     「初めて会ったのは21の時だ、ずば抜けた知性の持ち主だったよ」
     「あの人の忠告で売春宿はやめた。搾取で得た金は、革命に反するとさ」
     「まあ、宿なしでも、用心棒をして上前をはねてたけどな、ふふっ」
毛沢東  「それも、レーニンは知っていたのですかな?」
スターリン「上納金には違いない、革命には金がいる、綺麗も汚いもない」
     「つまりな、レーニンは影を踏まれたのよ、党の金の出どころは……」
     「人を操るには、共に悪さをして弱みを握るに限る。やがて落ちる」
毛沢東  「あの、その信奉してたレーニンは脳卒中で倒れ、すぐ亡くなりました」
     「なにやら遺言を書いて残したとか、お聞かせ願いますか」
スターリン「ああ、あれね、困った下りがあってな、みんなの前でな……」
     「でも、その文の事はいいではないか。わしの就任に反対は誰もいなかった」
     「唯一の政敵、トロッキーは後にメキシコで暗殺させといたわ」
     「それから30年、わしはロシアを自分の物にした。グルジアもんがよ」
毛沢東  「どさくさ紛れではないにせよ、嘗ての敵、ロシアを牛耳りましたな」
     「まさに、貴殿なしでは国は大混乱のままでしたでしょう」
     「ドイツは、モスクワどころか、ウラル山脈を越えたやもしれません」
     「貴殿の名を配したスターリンラードでの甚大な犠牲、お悔やみ申します」
スターリン「ヒットラーの奴、余計に暴れてくれたわ」        
     「仕返しには、カチューシャをたっぷりぶち込んだわい」
       「ドイツ侵攻後は、町ごとに3日間は祭りにした、何をやってもいい」   
     「ベルリンまでその繰り返しよ、女は涙を流す間もなかった」
毛沢東  「東のホーネッカーは哀れでしたな。ワルシャワ条約機構に組み込まれて」
     「心を無くして、モスクワ通いをしてましたな、これも歴史ですな」
スターリン「毛沢東よ、もしもじゃ、レーニンがいなければ、わしはごろつきのままかもな」
     「グルジアの売春宿で終わってたかもしれん、歴史は怖いのう」
     「そもそも、ロシアが侵攻して来なければ、靴職人かもな、さて、な……」
     「さらばじゃ、お前もわからんぞ、じゃ、な……」
毛沢東  「はっ、痛み入ります……」





 毛沢東は先輩共産国の、15才年上のスターリンに頭が上がらないのである。
 戦後、長春鉄道の返還交渉でモスクワに、怖る怖ると向かったものの。
 肝心の話は切り出せず、スターリンの70才の誕生日を祝ってた。
 借りて来た猫みたいになり、彼の別荘に押し込まれ、盗聴されることに。
 ……早く、北京に戻りたい、怖いよ……
 私には、毛沢東の、オツな一面にも見えるのですが。

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中国夜話 毛沢東異界漫遊記(十話) チャーチルに、御礼の巻

2021-12-23 14:41:31 | 小説

 国家存亡の有事には、偉大な政治家が現れる。
 これは、時代が呼ぶのである。現れるべき人が、必ず出て来る、必然であろうか。
 イギリスのチャーチルが、そうではないか。
 前任のチェンバレンでは、平事では有能であろうとも、有事では温厚さが仇になる。
 もっと言うと弱腰外交では、ヒットラーのブリテン侵略の野望を防止出来ない。
 イギリスを救ったのは、スピットファイヤーの空軍と、チャーチルではないのか。

 日中戦争では、どうであろうか。
 国民党の蒋介石は、国共合作がやっとなり日本軍を挙国一致で迎え撃ってる時もである。
 中原の共産党支配地区は、共産党まかせ、裏では日本軍と極秘交渉をする始末。
 共産党も同様、ゲリラ戦を仕掛けるも、国民党が対峙してると横目に見る始末。
 毛沢東は国民党が疲弊するのを、実は待っていた。
 本当の敵は、蒋介石なのである。主戦を国民党軍に任せて、期を伺っていたのである。
 彼は大陸の人である、持久戦になれば必ず勝てる、時を待とうと。
 日本軍が突入して来たら、奥地へ奥地へと誘い込む消耗戦を計った。
 要は、日本敗戦の後の、国民党軍との戦いに備えて兵力を温存したのである。
 ただ、毛沢東の誤算は、日本の降伏が早かったことである。
 これで国民党との決戦が早まった、大動員して勝ちに勝ち、台湾へと追いやったが。
 はたして、一連の国家存亡の危機に対して、先のチャーチルとの違いは何か。
 毛沢東は蒋介石に勝ったが、日本軍に勝ったと言えるのか。

 ここから先は、天界でのお二人に語ってもらうしかあるまい。
 すでに霊力を付けた毛沢東は、先達の周恩来の手引きなしに、誰にでも会える。
 さあ、イギリスの救世主、ブルドックチャ―チルのお出ましなり……


毛沢東  「お初にお目に掛かります。中国の毛沢東です。御高名は兼ねて知っとります」
     「貴殿にどうしても、お会いしたくてまいりました」
     「まずは、お礼から言わせてくだされ。日本軍を打ち負かしてくれて感謝感激です」
チャ―チル「いや、何も、アメリカですよ、あとソ連がダメ押しをしたのです」
     「私らは、打倒ヒットラーで精一杯でした。アジアの事は、二の次でしたな」
毛沢東  「いやいやアメリカを参戦に導いた功績は、余りありますぞ」
     「アングロサクソン同士、ツーカーですな、羨ましい限りです」
チャ―チル「元々はこっちが親で、アメリカ、カナダ、オーストラリアは長男次男三男ですな」
     「かつての大英帝国は衰退の一途です。ヒットラーなんぞに攻め込まれるとは」
     「お互い、老大国です。新興国に押されてますな。昔は良かった」
毛沢東  「私が思うに、イギリス陸軍のヘルメット、あの形が現してるような気が」
     「どうも強さが出ませんな、戦闘用の筈がピクニック用に見えますな」
     「おそらくは、それを見た日本軍は、呑気な連中がいると思ったんでは」
     「その点、アメリカのは、見るだけで迫力を感じます、強い軍隊だと」
チャ―チル「ヘルメットの話ですか、まあヨーロッパ戦線に置いてもそうかも」
     「我が国のは、おっしゃる通りかも、あれは日よけ雨よけのつばが出てるのです」
     「兵隊に優しいのですけど、確かに迫力は出ませんわな」
     「ドイツ軍のは強そうに見えた、フランスのは笑えた、イタリア、ロシアもしかり」
     「じゃ、当時の敵国、日本のは如何か?」
毛沢東  「日本のは凄みがありました。軍服もそう、殺気があり我が国民は怖れました」
     「思うに、各国の軍服にその国が出てますな。国民党軍の青灰色、駄目ですな」
チャ―チル「今度は軍服ですか。我が国のは品がありますぞ。ドイツのは格好いい」
     「アメリカはナッパ服、フランス、イタリアはいまいち、ロシアは作業着でしたな」
     「俗に軍服に金を掛ける国は弱いと言います。アメリカ、ロシアの勝ちですな」
     「ドイツは軍服に凝り過ぎました、金掛け過ぎです、これじゃ負けます」
毛沢東  「銃はどうです、これも国民性が出ますな、日本は銃で負けました」
     「日露戦争後のを、後生大事にね。それも玉を惜しんでパン、パン、です」
     「三八銃は、五発式でたびたび弾倉を込めます、自動小銃の比ではありません」
チャ―チル「銃ですか? 銃と言えばロシアの短機関銃が優れてました。ドイツのよりもね」
     「ドラム型弾倉で、発射速度がすさまじいです。戦局が変わりました」
毛沢東  「結局の所、あの戦争は、頭と力と数と金で決まりましたな」
     「中国単独では、極めて不利でありました。重ねてお礼申し上げます」
     「もちろんの事、あなたがおればのイギリスです。貴殿は強い」
     「これは大英帝国の名残りですぞ、時代に選ばれましたな」
チャ―チル「いやいや、私は平事では、どうかと……」
毛沢東  「こっちは戦争後の平事に大失敗をしました。だんだんとわかって来ました」
     「平事、有事とは何ですかな、繰り返しですかな」
     「まあ、お互い有事向きかもですな。そこが似てるかも……」
チャ―チル「そうですな……」
毛沢東  「お会い出来て恐縮でした。嘗ての連合国、万歳ですわ。ありがとうごさいました」
チャーチル「これからは、中国の時代ですかな、大英帝国を教訓にしてくだされ」
     「ごきげんよう……」





 これにて、二人の天界にての会談が終わる。
 チャーチルは狡猾な人物である。歴史を予見する能力に長けていた。
 それも当たる。日本が開戦の火ぶたを切った時、国会でこう発言した。
 ……「高くつく事を、始めたもんだ」……
 議場には、うすら笑いがおこった。チャーチルはニヤッとした。
 ……後は、語るを待たずである。

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中国夜話 毛沢東異界漫遊記(九話) 田中角栄と再会の巻

2021-12-20 16:51:44 | 小説

 まず、ここで田中角栄の兵役について語らねばならない。
 故郷の新潟で徴兵検査を受け甲種合格となり、本当は海軍志望だったが陸軍へと。
 昭和14年4月、盛岡騎兵第3旅団第24連隊第1中隊に配属された。
 これは実家が牛馬商もやっていて、乗馬が得意だったからである。
 すぐさま、満洲は黒竜江省、ソ満国境の松花江のほとりに駐屯した。
 春とは名ばかり、零下30度まで下がる原野である、どこまでも続く。
 初年兵は、内務班の下士官からしこたま殴られる、田中は特にそうだった。

 早々に、5月にノモンハン事件が勃発した。
 殴り役の古兵達から出兵して行き、訃報が続々を入り中隊は壊滅へと。
 田中は演習をし、順番待ちであったが、事務などの腕を買われて中隊本部付きでいた。
 それが、9月にソ連との停戦成立、日本陸軍初の負け戦は極秘に伏せられた。
 田中は最前線で戦わずにすんだ、だが翌年11月肺炎で倒れ悪化の一途。
 年明け2月内地送還となるが、さらに悪化、高熱で死線をさ迷う事と。
 結局は10月、上等兵で除隊処分、その後は召集されずに済んだ。
 田中は生き残ったのである。あの中隊は昭和20年8月9日、ソ連侵攻で全滅した。
 私の言いたい事は、田中角栄は実戦で弾を打っていないのである。
 現地の娘子達にも、悪さはしてないのでは、そう思いたい。
 「戦争なんかで、死んでたまるか」、これが気概だった。
 さあ、毛沢東相手に誤解を解いてくだされ、まずはそこから……


毛沢東 「おお、これは田中先生、お久しぶりです、毛沢東です」
    「中南海以来ですな。あの時は大平先生、二階堂先生も御一緒でした」
    「田中先生は汗を拭きながら現れましたな、カチコチでしたぞ」
田中角栄「まぁそのー、中華人民共和国の主席とお会い出来るなんて、足が地に着きませぬ」
毛沢東 「私は、そこで冗談を言ったのです。大平先生と天下太平を掛けてね」
田中角栄「はい、あの笑いで気が楽になりましたです。当意即妙、さすがの人心把握ですな」
    「あのー、私が差し上げた色紙、七言絶句の漢詩は如何でしたか?」
毛沢東 「はっきりと申して、よう意味がわかりせませんでしたが、ありがたく」
    「漢詩は難しいもんです。政治や戦争よりもかもですな、ははっ」
    「田中先生、戦争の話いいですかな、お互いの喉の骨から取りませぬか」
田中角栄「はあ、そうしましょう」
毛沢東 「日本は欧米列強の真似をしたんですか、亜細亜同胞ではないですか」
    「昔、隋や唐のころから仲良くしてたではないですか、元は二千年の歴史ですぞ」
    「そんなに、土地が欲しいですか、南方への侵攻と訳が違うでしょう」
田中角栄「まぁそのー、当時の軍部は大陸問題を解決さるためにも、南方へと」
毛沢東 「中国を負かす為ですな。満州だけでなく、北支、中支が得たいですかな」
    「話を移します。田中先生は戦争中は、中国で何をしてましたか?」
田中角栄「あのー、そのー、まぁそのー、ソ満国境の中隊で後方支援をしとりました」
    「ノモンハン事件の時だけであります、2年ほどで肺炎になり内地送還」
    「帰国後さらに悪化し除隊。終戦までは、土建業をやっておりましたです」
    「誓って申します、私は銃口を誰にも向けたことはありませぬ」
    「中隊本部での明け暮れだけでした、幸い4か月で停戦成立したのでありまする」
毛沢東 「そう、それは良かった。話を田中先生訪日の時に戻しましょうか」
    「周恩来が怒っていましたぞ、数千万に被害を出しといて、御迷惑はないだろうと」
    「先生の真意を、お聞かせ願いたい」
田中角栄「あれは、大平外務が言ったように、中国の意にそう形に訂正しとります」
毛沢東 「それは、わたしも聞きました。あなたは、どう思うのですか?」
田中角栄「まぁそのー、日中は一衣帯水の関係であり、仲良くしなければなりませぬ」
    「まぁそのー、明治以来の国策の誤りを恥じ、連なる者として褌の緒を締め、えー」
毛沢東 「では、娘子達に悪さしましたか?」
田中角栄「はっ、それもございませぬ。私は内地でもて過ぎまして、充分でありました」
    「それに女は砥石です。あっ、いやいや何でもありませぬ」
毛沢東 「ん、砥石? 何やら深い意味がありそうですな、お聞かせくだされ」
田中角栄「はっ、固い話で疲れましたわ、やわらかい話といきますかな」
    「それはその、私の持論なんであります、研がれ方が肝心だと」
    「男は研がれねばならないが、研がれ過ぎもどうかと」
    「まして研ぎ方によっては、名刀正宗にも錆び刀にもなりよる」
    「下手に研がれまくると、今度は脇差みたいになりかねませぬ」
毛沢東 「あの、では先生の刀は、年々歳々と小さくなっていったのですかな?」
田中角栄「ご心配には及びませぬ。日本には、ええ芸者がたんとおりまする」
    「ゆくゆくは、小生、名刀正宗を目指しておりました」
    「中国こそ、秘技の国ではありませぬか、そんな国と戦をするなんて」
    「私が、ここで深く陳謝申し上げます。今後は、一路平安で」
毛沢東 「田中先生、その一路平安は中国語ですぞ」
    「では日本語で、温故知新で行きましょう、ああ、これも中国語だわ」
    「ともかく、我々は元は同じ穴のむじなですぞ、日本語でね」
    「本当は日本人の祖先は、中国人ではないですかな、はははははっ」
田中先生「仰せの通り、元は大陸ですな、はははっ」
毛沢東 「いや、どうも、お出で頂き、ありがとうございました」
田中先生「こちらこそ、天界でも会えて嬉しかったです。ありがとうございました」
    「毛先生、色では負けませぬぞ、はははっ……」





 昭和47年9月の初会談の時に、毛沢東は田中角栄に手みやげを渡した。
 中国の古詩集、楚辞集注である。これは紀元前後、漢の時代の物である。
 毛沢東は詩人でもある。この矛盾を孕んだ人物像は、いかなるものか。
 詩人がわかりにくい様に、この人物もそうなのか。大いなる詩、そのものか。
 私は反省を知らない毛沢東に、せめて天界では反省をしてほしいと。
 もちろん、いい意味での反省を。

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中国夜話 毛沢東異界漫遊記(八話) 周恩来と、田中角栄を肴にの巻

2021-12-18 18:55:18 | 小説

 へなへなと、毛沢東は老子に喝を入れられ、しょげ返ってしまった。
 まったくもって歯が立たん。新中国建国のわしでも、赤子の様じゃたわいと。
 鬱憤晴らしに誰かに当たりたい、そう思ったのである。
 誰がいい、大物がいいな、この際は外国のにしたろかいな。
 ここは総理、子飼いの周恩来に相談やな、ってな感じで……


毛沢東「おい、お前の手引きで老子様と謁見することは出来たがな、その……」
   「大恥を掻いたわい。陰陽二元論を教わったはいいが」
   「わしの色ボケが見抜かれて、喝を喰らったわい。主席に喝ぞ」
   「下界にいた頃は勿論、まさか天界でな、こいは青天の霹靂じゃて」
周恩来「毛大兄、諸氏百家の一人に会えただけで、充分ではありませぬか」
   「そもそも、若返りの術、素女経の奥義を聞こうとすることが、すでに」
   「あの性書は、やはり、まずかったんでは、まして、老子様にとなると」
毛沢東「うん、今は大いに恥ておるわい。穴があったら入りたい」
周恩来「天界に来てまでも、欲あり。まあ、そのうちに昇華されましょう」
   「その、まだしも老子様だったからいいものの、これが孔子様だったらと」
   「大恥では済みませんぞ、日本で言うところの、あれもんですぞ」
毛沢東「ん、何、日本。そかそか、いい事を思い付いわい」
   「我が国侵略の小日本めの、誰かに鬱憤晴らししたろかいや」
   「話はこうなったわいな。周恩来よ、誰がいい?」
周恩来「したらば田中角栄は如何かと。中日国交正常化の井戸掘りの恩人ですけど」
毛沢東「いや、あの男は農家の出じゃ。わしと同じで、土の味を知っておる」
   「米一粒の有難味をな、わしかて麦の落穂拾いに精出したもんや」
   「それに、わが中国の白酒をこよなく愛してくれておる」
周恩来「でも、大兄、あの男は中国侵略でやって来ましたぞ」
   「はたして人民に、いかなる所業をしでかしたか、この際、聞いてみては」
   「それに、まさか東条英機と喧嘩する訳にもいきますまいに」
毛沢東「田中先生には大恩がある。中南海での小一時間のやり取りが懐かしいわい」
   「いい四川のマオタイを呑ませてやったわ、75度のな」
   「今から思うと、泥酔いさせて戦時賠償するなんて、言わせれば良かったな、はははっ」
   「今のは冗談や。先生は苦労人だ。すぐ中国に飛んで来てくれた」
   「お互いにとっての、まさに大同小異についてくれたのう」
   「では、やんわりと、大陸での悪行、いやいや所業について聞いてみよかいな」
周恩来「私の思いのなかでは、国交正常化の調印式の時、思いっきりと握手されました」
   「ガンで病身でしたぞ。いやー、本当に嬉しかった、これで中日が始まると」
   「あの、ご迷惑をお掛けして発言には、怒り心頭でしたがな」
   「まあ百歩譲って、あれは日本政府の原稿の、そのまま読みとしましょう」
   「田中先生の真意を確かめてはくれませぬか。あの下りでガンが悪化しました」
毛沢東「わかったわい。三八銃が何人に命中したか、娘子どれだけ泣かせたか、聞くわいな」
   「周恩来よ、お前の為にも田中先生と会うこととする」
   「近いうちに手筈を頼むぞ。やんわりと、聞いてみるわい、待っておれ」
周恩来「はあ、お任せくだされ……」




 毛沢東は、一度だけ田中角栄と会っている。
 国交正常化交渉がまとまるとみて、田中ら三人を中南海の書斎に招いた。
 部屋の前で立って出迎え、開口一番、冗談で場を和ませた。
 愛用のタバコには手を触れず、終始、大布団の様に振る舞った。
 田中は会見の後、廊下で鼻血を出した、毛沢東の風圧にやられたのである。
 さて、今度は天界での会見となる、喧嘩にならなければよい。 
 まあ、二人は色好きである……       

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