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病は気から

2020-07-12 10:49:56 | 脳科学・心理学

じつは私、2つの手術を受けることになっています。その内容は、ここでは書きませんが、自分の免疫力がけっして高くはないんだと実感しています。もともと、低体温で風邪をひきやすく、胃腸も弱い体質です。そして、小さい頃からずっとネガティブ思考だったと思います。ここ数年、坐禅やマインドフルネス瞑想法をやってきたことで、ネガティブ・バイアスのかかった思考が多少は改善して風邪にもかかりにくくなったと思っていましたが、やはりかかるときはかかります。心理的なネガティブさが免疫の不調を誘導して病気になりやすくなること、つまり昔からよく言われている「病は気から」については、そのメカニズムについての研究が進んでいますので、そのあたりの報告を3つ紹介したいと思います。

 

1.よくストレスが慢性的に強くかかると交感神経が優位になって、病気になりやすいと言われています。そうしたストレスを低減するのにマインドフルネスが有効だということも知られています。しかし、リラックスしすぎて副交感神経が優位になると低体温になり、疲れやすい、体が痛い、うつ病などといった状態になりやすいとも言われています(「免疫力を高める生き方・食べ方・暮らし方」安保徹)。要はバランスが大切だということになります。今日紹介する「病は気から」の1つめの研究は、交感神経の作用を高めると、炎症性疾患の症状が軽くなるというものです。大阪大学の鈴木一博准教授らの研究グループによる報告です(2014年11月25日、The Journal of Experimental Medicine)。交感神経から分泌される神経伝達物質ノルアドレナリンが、リンパ球にあるアドレナリン受容体を刺激することで、リンパ球の移動を制御するケモカインレセプターの働きを高め、リンパ球はリンパ節の中に留まり、炎症が起きている組織にあまり行かなくなること、それによって炎症の症状が軽減することを示しました。アドレナリンと同じ働きをする薬剤、クレンブテロールをマウスに注射すると、多発性硬化症やアレルギー性皮膚炎の症状が緩和されることが下の図で示されています。

このように交感神経が活性化すると慢性の炎症性疾患の症状は軽くなるのですが、リンパ球が全身組織へ移動することが抑えられるので、感染が起きて病原体から身体を守るときには不利になるだろうとも考察されています。やはり、バランスが大切です。

 

2.2つめの「病は気から」の研究は、北海道大学の村上正晃教授らの研究グループによる報告です(2017 年8月15日、eLIFE)。こちらは前の報告とは逆に、慢性的なストレスや交感神経の活性化で脳に炎症が誘導されて、胃・十二指腸潰瘍や心機能低下が起きるというものです。下図のように、マウスに慢性的なストレスを与えると交感神経が活性化し、ケモカインが産生されることで、炎症性のリンパ球が脳血管に集まり微小炎症が起きます。そうすると、新たな神経回路が活性化して、迷走神経を通して胃・十二指腸に炎症が誘導され、心臓が機能不全になるということを示しました。

したがって、この場合は、ストレスが脳と臓器に炎症を起こすというストーリーを説明する研究になります。交感神経の活性化が炎症性疾患を良くするのか悪くするのかは、様々なシチュエーションで変わってくるのかもしれません。

 

3.3つめの「病は気から」の研究は、山梨大学の中尾篤人教授らの研究グループによる報告です(2020年6月20日、Allergy)。花粉症や気管支ぜんそく、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患は、精神的なストレスにより病気が悪化することが知られています。一方、“前向きな感情”は脳内では、ドーパミン報酬系という神経ネットワークが司っています。本研究では、マウスを用いてドーパミン報酬系をいくつかの方法で活性化し、そのアレルギー反応への影響について解析しました。ドーパミン報酬系を活性化させるために、遺伝子組換技術で脳内のドーパミン報酬系を人為的に活性化させる遺伝子を組み込む方法、ドーパミンの前駆体であるL-ドーパを脳内に直接注射する方法、人工甘味料のサッカリンを投与する(砂糖はアレルギーを増悪することがよく知られているので、人工甘味料を使ったのが本実験のミソです)方法の3つを試したところ、いずれの方法でも皮膚に惹起させたじんましん反応が減少することが示されました(下図)。

こうした研究はほんの一部ですが、自律神経系や前向きな感情といった精神的な働きが、様々なルートを通じて免疫系に作用し、炎症などの病態に影響することがわかってきています。交感神経と副交感神経のバランスを整え、ポジティブな感情を持てるようにすることが、病気になりにくくするのに大切のようです。



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