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看取り犬「文福」はもう看取らなくなったのか?

2024-04-20 07:14:24 | 猫・犬

以前このブログで、ある老人ホームで飼われている「文福」というイヌが看取りをするというネット記事と、それについて詳しく書かれた本を紹介しました。イヌという動物の持つ強い共感力、死を理解している可能性、看取り行動という特殊な能力、そして単純にその存在の愛らしさから、文福の行動に注目してきました。その文福の最近の様子がネットで紹介されていたので、紹介します。それによると最近の文福は看取りをしなくなったようだというのです。

引用元:「殺処分寸前から幸せをつかんだ奇跡の看取り犬「文福」・・・もう看取り活動をすることはないのか?(ヨミドクター/2024年4月1日)

 


 

【引用初め~】

 ペットと暮らせる特別養護老人ホーム「さくらの里山科」で暮らす 看取みとり犬の「 文福ぶんぷく 」は、2012年4月、ホームの開設と同時にやってきました。まだ人間の入居者は誰もおらず、文福が“入居者第1号”でした。

 それから12年が過ぎました。文福は、自分と同じユニット(区画)で暮らす入居者の逝去が近づくと、その方に寄り添って最期を“看取る”という行動を取るので、看取り犬と呼ぶようになりました。“看取った”入居者は20人以上になります。「さくらの里山科」で、文福は、とってもすばらしい、そして、とっても尊い活動をしてきたのです。それはその生い立ちを考えると、奇跡のように思えます。

 2011年秋、文福は、捨てられるなどの様々な理由で引き取られた保護犬として、保健所(動物愛護センター)にいました。その時は、朝になると、犬たちは、収容されている部屋の壁が自動的に動き、隣の部屋へと追い込まれます。そうやって、1日ごとに、隣の部屋へ、隣の部屋へと移動させられ、最後の部屋が殺処分する部屋なのです。文福はその「処分部屋」の手前の部屋にいました。壁1枚隔てた隣から、死にゆく犬たちの悲鳴を聞いていたのです。

 幸運なことに、文福は殺処分される寸前で、動物愛護団体「ちばわん」に引き取られました。しかし、そんな幸運に出会うことのない犬は現在でも多数います。環境省のデータによると、2022年度の1年間で、犬の殺処分数は2434匹でした。なお、猫の殺処分数は9472匹です。1990年代には数十万匹が殺処分されていたことを考えると大きく減りましたが、人間から不要と見なされ、まだまだ多くの命が失われています。

 文福も13年前、まさに人間から必要のない犬と見なされ、命を奪われる寸前にいたのです。それを考えると、文福のこの12年間の日々はとても感慨深く感じます。そして、文福に心から感謝したいという気持ちが湧き出ます。

 文福は保護犬ですので正確な年齢はわかりませんが、ホームに来た当時の推定年齢は2~3歳でした。それから12年がたちましたから、現在は、推定14~15歳となります。中型犬の平均寿命を超えており、高齢犬になります。犬の年齢を人間の年齢に換算する方法はいろいろあるのですが、文福は人間だとおおよそ83歳になります。オスですので、日本人男性の平均寿命81.05歳と比べると、上になりますから、83歳はおおむね妥当かもしれません。

 そんな高齢犬になった文福ですが、まだまだ元気です。散歩の準備を始めると、大喜びで1メートルぐらいの大ジャンプを繰り返します。散歩に行けば、たったか軽快に歩きます。ホームのドッグランで放せば、すばらしいスピードで疾走します。盛大に土をまき散らしながら大穴を掘ったりもします。ご飯は、ものすごい勢いで一瞬で平らげてしまいます。

 それでも、やはり寄る年波には勝てません。つややかだった茶色の毛は、だいぶ白っぽくなり、色あせてきました。寝ている時間も大幅に増えました。つい1年ほど前までは、私にタックルするようにじゃれついてきて、プロレスごっこのようになったものですが、最近はすっかり鳴りを潜めてしまいました。胸をなでると身を委ねてきて、目を細めて気持ちよさそうにしています。その穏やかさがうれしくもあり、寂しくもあります。

 文福の看取り活動も、もしかしたら、だんだんとできなくなってきているのかもしれません。実は、3か月前、文福と同じ部屋で暮らしているパートナーさんである入居者の方が逝去された時、いつもの看取り活動をしなかったのです。

 文福の看取り活動は、通常、三つの段階を踏みます。まず入居者が逝去される1~3日前に、その方の居室の扉の前に座ってうなだれます。次の段階では、部屋に入り、ベッドの脇に座って控え、入居者のことを見つめます。最後に、ベッドに上がって寄り添って看取るのです。

 ところが、今回していたのは、ベッドに上がって寄り添うことだけでした。看取り活動以外の普通の時、文福はいろいろな入居者のベッドに上がりこんで、一緒に寝たりしていますが、それと別段区別がつかないような状態だったのです。

 同じ部屋で寝起きしているパートナーさんなので、他の入居者の看取りの時とは行動が違っていたのかもしれません。しかし、もしかすると、パートナーさんが逝去するのを文福が予測できなかったのかもしれません。

 私たちは、文福が入居者の逝去を予測するのは、においによるものだと推測しています。この推測が正しければ、文福は高齢のため、あまり鼻が利かなくなり、予測できなかったのかもしれません。あるいは、これからはもう、文福が看取り活動をすることはないかもしれません。

 もちろん、それは全然構いません。私たちは看取り活動に感動させられてきましたが、文福の価値は看取り活動にあるわけではありません。文福はこの12年間に20人以上の入居者を“看取って”きましたが、その何倍もの入居者を癒やしてきました。入居者も職員も文福の存在によって、どれほど慰められ、力づけられてきたか。

 いいえ、この言い方も正しくはありませんね。私たちは、文福が何かの役に立つことを期待しているのではありません。文福はそこにいてくれるだけでいいのです。犬や猫を飼っている人は皆同じでしょう。願わくは、文福の最期の時がまだ先でありますように。その時まで、穏やかに幸せに暮らせるよう、しっかりと守っていきたいと思います。と言いながらも、守られているのは私たちかもしれませんが……。

(若山三千彦 特別養護老人ホーム「さくらの里山科」施設長)

【~引用終わり】


 

高齢になった文福は、看取り行動をしなくなったかもしれないという報告でした。その理由として、高齢で嗅覚が衰えたため、入居者が亡くなる前の匂いが分からなくなったのでは、と推測されていました。もしそうだとすると、文福の看取り行動は、やはり人間の死というものを先取りして、わかって自覚的に慰めるということを行っていた可能性が高くなりますね。

人間には知的障害を持ちながら非常に人懐っこい性格になるウィリアムズ症候群という遺伝病があります。イヌはオオカミからの進化の過程で、そのウィリアムズ症候群と同じ遺伝子変異を獲得したと言われています。イヌは知的障害にはまったく見えませんが。文福の遺伝子はどうなっているのでしょうか。ウィリアムズ症候群に関わる遺伝子の変異はさらに大きくなっているのか。



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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (おちゃ)
2024-04-20 20:11:33
においで逝去の時期を文福が推測して
いるというのはおおいにありそうなこと
ですね。

老犬になると、視覚、嗅覚、聴覚が
弱ってきますし、文福もその中の嗅覚
がダメになって来たのかな。
Unknown (wakaby)
2024-04-21 08:28:27
もともとイヌは嗅覚が優れていてそれに頼って世界を認識している部分が大きいから、その機能が低下すると認知や行動への影響は大きいですよね。
文福については、これからどうなっていくのかネットニュースでウォッチングしていきたいと思っています。

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