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僕の読書ノート「うつと発達障害(岩波明)」

2019-09-21 10:06:57 | 書評(自閉スペクトラム)


結婚して妻からあなたは普通じゃない、変わっている、だから私はつらい、と言われた。それから、自分は何者なのか?の探求が始まった。子供のころから生きにくいとは感じてきた。でも自分が普通じゃないという自覚はなかった。むしろ、いつもハッピーそうに見える他人のほうがおかしいんじゃないかと思っていた。
直感的に関係しそうな本を探してきて読むことで、自分は何者かの探索を始めた。「内向型人間の時代」(スーザン・ケイン)を読んで、自分はまさにこれだと思ったが、内向型というのはかなり大雑把な分類だ。次に、「いやな気分よさようなら」(デビッド・D・バーンズ)の「ベックうつ病調査票」でうつ病の自己診断をしたら、正常範囲だった。そして、「過敏で傷つきやすい人たち」(岡田尊司)の「過敏性チェックリスト」でテストしたら、過敏な傾向が中等度で、生活障害指数が中等度の支障という判定結果だった。これにより、自分は生活に障害を示すレベルの過敏な傾向があるということがわかった。さらに、発達障害や愛着障害が過敏性の原因になりうると書かれていた。発達障害の中でも、注意欠如・多動症(ADHD)より、自閉スペクトル症(ASD)のほうが過敏性と関係が深いらしい。自分は、もしかしたらASDかもしれないという気がしてきた。

そして、本書を見つけた。著者の岩波明氏は、医学部の精神医学講座主任教授だから、おそらく現在の精神医学の本流に沿った解説を書いてくれているだろうと考えた。この分野は、私流の論客が多いので、本流が知りたかったのである。そして、本書の特徴はなんといっても、ADHD(成人期のADHDの自己記入式症状チェックリスト(ASRS-v1.1))、ASD(成人期のASDの自己記入式症状チェックリスト(RAADS-14日本語版))、うつ(簡易抑うつ症状尺度(QIDS-J))のセルフチェックができることだ。このリストはあくまで目安で、正式な診断には必ず医療機関を受診するようにとされているが、これらのチェック表は医療でも使われている診断表であり、おおよその傾向が把握できることは間違いないだろう。このセルフチェックによって、私はやはりASDの可能性が大きいことが判明した。そして、ADHDではないこと、軽度のうつ病の可能性のあることも示された。以前やった「ベックうつ病調査票」では、うつに関して正常範囲であったが、テストの種類によって多少結果がずれることもあるのだろう。

さて、その他に本書で目に止まったポイントを下記に記す。

[発達障害]
・近年、大人の発達障害が注目されるようになってきた。まだ誤解も多いが、発達障害は、大人になったからといって、症状がなくなるわけではない。本人がうまく対応して目立たないだけである。
・発達障害における社会的な障害によって、学校や職場におけるいじめ、生活上の失敗、そこから生じるストレス、ネガティブな思考などが生じやすくなる。これらを原因として、うつ病をはじめとして、社会不安障害(対人恐怖)、パニック障害、躁うつ病など、さまざまな精神疾患が発症する。これらが二次障害である。
・発達障害の専門外来にやってくる人の95%以上は知的に正常か、それ以上の知能の持ち主であり、学歴もほとんどが大卒である。発達障害の中で、天才的といってもいいほどの特別な才能を持っている人の例もあり、サヴァン症候群と呼んでいる。そうした例はとくべつ多いわけではなく、発達障害の人の5%以下だと考えられている。
・発達障害の症状は「スペクトラム」であり、さまざまなグラデーションがみられる。そのため、発達障害という確定的な診断には至っていなくても、発達障害的な特性の「グレーゾーン」であり、日常生活にはさまざまな問題を抱えているケースはよくみられる。

[ADHD(注意欠如多動性障害)]
・ADHDでは、「マインドワンダリング(精神の徘徊)」が特徴としてみられる。これは、注意力が散漫であるということとともに、目の前の課題から離れて自由に想像力を広げることができる、創造性(クリエイティビティ)に結ぶつくという面もある。

[ASD(自閉症スペクトラム障害)]
・ASDは、かつて広汎性発達障害と呼ばれた疾患の総称で、自閉症やアスペルガー症候群が、このカテゴリに含まれる。スペクトラムとは、「連続体」という意味で、ごく軽症の人から重症の人まで、さまざまなレベルの状態の人が分布している。また、ASDは親の養育・愛情不足が原因という考えは、俗説に過ぎず、現在は完全に否定されている。
・遺伝的な要因が大きいことはわかっているが、まだ決定的な原因は解明されていない。フラジャイル(脆弱)X症候群、結節性硬化症、レット症候群、アンジェルマン症候群といった特定の遺伝性疾患を持つ人に、ASDの合併率が高いことが知られている。また、妊娠中の子宮出血、母親の糖尿病、周産期の低酸素状態なども子供のASDの危険因子と考えられている。
・ASDの精神療法には触れられていない。薬物療法については、ADHDに対しては認可された薬物があるが、ASDに対しては現在のところ認可された治療薬は、日本、海外含めて存在していない。オキシトシンが検討されたがはっきりした結果は得られていない。海外では、別の治療薬の臨床試験が進められている。

[うつ]
・「うつ状態」と「うつ病」は完全に一致するわけではない。うつ病ではないが、うつ状態がみられるものの一つに「気分変調症」がある。この疾患は、軽症のうつ状態が慢性的に、長期間持続するが、重症のうつ状態になることはない。
・「新型うつ病」という言葉が、近年マスコミで取り上げられるようになった。例えば、うつ病で休職中なのに、自分の趣味の活動には積極的な人などを呼ぶ。しかし、この言葉はもともと精神科医の香山リカ氏の著作から広まったもので、実際にはうつ病ではなく、医学的にも「新型うつ」という言葉はないという。こういういかにもありそうだが実体のない偽の病名が流布することがあり、「アダルトチルドレン」もその一つだ。(HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)もそうだろう)
・うつ病の人には、落ち込んだ気分を和らげるためにお酒を飲む人が多いが、逆にアルコールの作用として、うつ状態を誘発したり、悪化させたりすることがある。「お酒を飲んでストレス発散」は避けるべきである。
・うつ病の予防や治療に、運動が効果的であることは、さまざまなデータで示されている。ウォーキングなど適度な運動がすすめられる。しかし、うつ病の予防や治療において大切なのは、なによりも休養なので、運動のやり過ぎで逆にストレスにならないよう、注意が必要である。
・うつ病の治療法として、認知行動療法があり、保険適用されており、推奨する医師も多い。しかし、多くのマンパワーと時間を要する治療法であり、まだ十分に普及していないのが現状だ。
・きちんと精神科の治療を継続し十分な薬物療法を受けていても、長期間にわたり引きこもりに近い状態を続け、職場復帰を果たせず慢性化するうつ病患者が、かなりの数存在する。こうした慢性うつ病に対する治療方法は、確定したものはなく、現時点では手探りの状態が続いている。

[パニック障害]
・パニック障害の症状は、身体的な異常がないにもかかわらず、突然の動悸、呼吸困難、発汗、ふるえ、めまいなどのパニック発作を繰り返す、というものだ。出現頻度の高い一般的な疾患であり、患者数は人口の2~3%程度、また10人に1人の割合で一生に一度はパニック発作を起こすという。発達障害の人がパニック障害を起こす比率は非常に高く、発達障害のない人の倍だといわれている。また、うつ病とパニック障害を併発している例も非常に多く、パニック障害がうつ病の前駆症状として表れることもある。
・完全に症状が消える症例は、全体の3分の1から半分程度の割合で、1~2割は抗うつ薬、抗不安薬を服用して症状をコントロールしながら暮らしていくことになる。

最後に、発達障害は、「疾患」「障害」といった側面を持つ一方で、個性というべきケースも少なくない。また、発達障害の特性をうまく利用して、社会の中で成功している人もいる。従って、治療、日々の生活において、自らの特性を知り受け入れることが重要だとしている。


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