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日々の体験や思ったことを綴ります(by 涼風)。

繊細なケア 『第三の消費スタイル』

2006年01月09日 | Book
先日紹介した『第三の消費スタイル―日本人独自の“利便性消費”を解くマーケティング戦略』という本では、日本人の買い物における行動パターンを、

1. プレミアム消費
2. 徹底探索消費
3. 利便性消費
4. 安さ納得消費

の4つに分類していました。

そこでは、例えばプレミアム消費の例として、最近のドラッグストアの取り組みが紹介されています。その取り組みとは、顧客一人一人に対して、専門の栄養士や薬剤師が、その人に合った健康のための薬の摂取や食事などをきめ細かにアドバイスするというものです。

わたしは、ドラッグストアはある面では「利便性消費」を追及した業態だと思います。従来の薬局は個人商店で、狭い店舗に多くの薬が並べられていて、お店に入るなり店主の目が監視のようにお客に注がれます。そこに軽い圧迫を感じていた人は多いのではないかと思います。

ドラッグストアは、そんな薬局のイメージを一新しました。その多くは天井も高く、面積も広く、店内が明るく、歩くスペースも十分あり、お客がゆっくりと解放された気分で(つまり店主の監視を感じずに)、自分のペースで薬を選べるようになったのです。

さらにお菓子や飲料・化粧品や他の多くの日用品も並べられることで、薬に特化しないことによって、より気楽なイメージが店内に行き渡るようになりました。そうすることでドラッグストアは従来の薬局よりもお客の心理的負担を軽くし、買い物のついでに気軽に寄れるような場所に変化しました。

そこでは、従来の薬局の店主の個人的な圧迫が、チェーン店の開放的な雰囲気によってなくなったのです。チェーン店を経営するのはあくまで法人という非個人的な組織です。

しかし、同時にその非個人的な組織が運営するチェーン店が、今度はお客一人一人にその人に合った“個人的な”アドバイスをするようになったこと、またそのことをお客が求めていることというのは、興味深い事実に思えます。

本来は個人商店のパーソナルな、お節介で圧迫的な雰囲気を私たちは嫌っていたはずなのですが、非個人的な法人の社員である栄養士や薬剤師には、極めてパーソナルなケアを求めているのです。

三浦展さんは『これからの10年 団塊ジュニア1400万人がコア市場になる!―マーケティング戦略の狙い目はここだ!』という本の中で、「現在のマーケティングのキーワードは“ケア”だ」と述べています。つまり今の私たちは消費において、単なるモノやサーヴィスではなく、それらを提供される際に、個人的に自分の感情をやさしくケアされることを求めているということです。

ケアされるとは、つまり、モノを買うときでも、セールスマンに、それを買うことであなたの生活はよくなりますよ、あるいは今はそれを買わないほうがあなたの人生にとってはいいかもしれませんね、とカウンセリングをしてもらうことです。

私たちは、あるモノやサーヴィスを買うときに、それを買うことで自分の人生がよくなるかどうかということをひじょうに知りたがっており、そのことをセールスマンに優しく細かく説明してもらうことで、「安心」というものを貰いたがります。

一方では私たちは従来の個人店主のお節介で監視的なアドバイスを嫌います。しかし他方では、法人によって組織されたサーヴィスには、自分の感情をやさしくケアしてもらうことを欲しているのです。

例えばアマゾンでは、ある商品をクリックすることで、次にアマゾンを訪れた際には「あなたの関心のあるジャンルの商品」が自動的に提示されます。これなども、インターネットという非個人的な媒体を通じたお店でありながら、同時にひじょうにパーソナルな情報・アドバイスをお客に提供しようとしているのです。

(映画『マイノリティ・リポート』の未来都市では、主人公がお店に入ると、その人物のIDを察知したコンピュータが瞬時にその人に合った情報を提供していました。)

私たちはたしかに消費においてケアを求めています。英会話の教材を買うとき、セールスマンの人に「これで大丈夫ですよ!」とやさしく言って欲しい。量販店でコンポを買うときも、セールマンに「これ、すごいいい音ですよ」と安心させて欲しい。

私たちは、一方では自分の心にズカズカと売る人に入ってきて欲しくないのですが、もう一方では初対面にもかかわらず売る人に親身に自分のことを考えてもらいたがっているように思います。


涼風

参考: 考えない私たち 『第三の消費スタイル―日本人独自の“利便性消費”を解くマーケティング戦略』

    『これからの10年 団塊ジュニア1400万人がコア市場になる!―マーケティング戦略の狙い目はここだ!』