陽だまりの中のなか

前田勉・秋田や詩のことなど思いつくまま、感じたまま・・・。

市野みち詩集『風は笑って』

2024-06-02 | 詩関係・その他

    

 

   「一生」

  ラストシーンのないお芝居は
  いつまでも続くのでしょうか
  無意味に叫んだり 喚(わめ)きちらしたり
  なにしろ幕が下りないのですから
  それはそれはつらいことだと思います

  いつかは消えていく
  いつかは忘れ去られる
  ほんの一欠片(ひとかけら)の思い出が
  誰かの心に残れば
  それはそれで満足です

  近頃 こんな事を考えるのも
  それなりに充分生きて来たからかも
  知れません
  感謝の気持ちだけが丸い渦になって
  心の中程で回っています


 
 東京都小平市住の詩人、市野みちさんから第6詩集となる『風は笑って』をご恵投いただいた。
紹介した「一生」は当詩集の帯文にも使われている作品。
 自身の生き方を振り返りながら、誰かに語りかけるように、そして自身に語り聞かせるように、
平易な言葉で奥の深さを表現している。

 <それなりに充分生きて来たからかも/知れません>と表出しつつ、収録作品「教えて」では、
<どうにもしっくりしない人生です(以下略)/人はこの世に生まれ落ちた時から/心の片すみ
に/違和感を覚えつつ/年齢を重ねているのかも知れません>と吐露する揺れに共感した。

 市野さんの生き方がみえてくる詩句を、一部拾ってみた。
・<感謝の気持ちだけが丸い渦になって/心の中程で回っています>(「一生」)
・<春に椿の花が咲く/あたり前が嬉しい/いつも通りがいとおしい>(「椿」)
・<太陽は/沈む寸前でも/こんなにまぶしく輝いている>(「夕日」)
・<横切る風の/さわやかな笑い声が聞こえた/ほらね!>(「風」)
・<何のために/今まで汲汲と生きてきたのだろう/周りの人達に合わせて/
  ただ回っていただけ>(「春の日に」)
・<私は/これからも地べたを這いつくばって/生きて行くよ/
  探し物をしながら>(「これからも」)

 

著 者  市野みち(いちの みち)
発行日  2024年5月5日
発行所  土曜美術社出版販売
定 価  2,200円(本体2,000円+税)

著者略歴 1944年1月生まれ
     「マロニエ」同人
     日本現代詩人会、日本詩人クラブ 各会員


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