静岡県菊川市住の松下美和子さんから第一詩集『ら行の悲しみ』が届けられた。深謝。
詩集のタイトルとなった詩、「ら行の悲しみ」は次のように始まる。
時々透明人間になる/彼女の持ち物を調べると/ある部分に/ら行の悲しみがきちんと佇んでい
た//工場の煙突から真っすぐに煙が立つ/それを見ながら/多分明日は透明人間になれそうだ
なと/密かに目論む//そしてどうもその必然性がある//誰にも全く同じ形で分かってもらえ
ない/至福の悲しみが彼女の中に存在したのだ/だからその悲しみを迎えるように/少しだけ今
という時間軸から/泡のように消える//ららら/りりり/るるる/れれれ/ろろろ/メレンゲ
の様な呪文を説き消えてみる//この術を使い彼女は時々/ら行の悲しみを深い海に沈め/真珠
になんぞしてしまうらしいと/華やかなフリルの波たちが/物語を語るように教えてくれたのだ
った//そして/ら行の悲しみは/彼女のとても大切な持ち物だ/ということを/誰もがよく知
っていた/
ときどき透明人間になるという”彼女”に巣食っている「ら行の悲しみ」が、少しだけ今・現実の
時間軸から消えてしまう。どうもこれは”彼女”が習得していた”術”のようでもあり、悲しみを海に
沈めると真珠にしてしまうというから、これまたすごい。”彼女”の本源か。
読んでいてその語り切れない行間に残っている奇抜さ?や、ある意味読み取れない?ことも混交
していながら、それがまた雰囲気をつくっていて、思わずふふっと笑みながら楽しい世界観を感じ
ることが出来る。作者の感性の鋭さが成す世界が溢れている詩集だ。
著 者 松下美和子
発 行 2023年4月8日
発行所 土曜美術社出版販売
頒 価 2,000円