遠い時間を遡り、その当時の自身と出会うために詩を書く。そこに描かれているのは”美しい青春”とその翳り。感傷ではなく、その”時”あるいは”時代”に生きていたという自らの認証を自らに課すようにして。
連と連との間に細く白く在る”行”または”行間”は、心情や時間を感じさせながらも、どこかで作者の心象へ近づくことを拒んでいる。それなのに読み手はそれでもいいと思うこの詩世界はなんだろうか。著者作品が醸し出している誰にもある切ない時代への回帰的な近似作用なのだろうか。それぞれの美しかった時代への。
秋田県能代市の須合隆夫さんが第二詩集『新宿御苑より』を昨年12月に上梓された。私と年齢が近いことや彼が所属する詩誌との交流がずっと以前からあることなどから、ずいぶん昔から承知している人だ。こうして一冊の詩集になってみると、あらためてナイーブな世界をお持ちの詩人だと気づかされる。学生時代の東京、「二人だけの時間」「茶色のスカートが揺れてい」た「あなた」は、須合さんの世界観を変えた方なのかも知れない。
「井の頭公園にて」
午後からの講義は
休みの日だった。
二人は「井の頭公園」で
電車を下りる。
なにを話すでもなく
二人は二人で
いたかったのだ……。
片手に
講義のノートを挟み
ただ、黙って
歩いていた。
沼には橋が架かってる。
橋を渡り
お宮をめぐって
噴水が眩しく
光っている。
ことばなど、なにも
いらなかった。
あなたの笑顔と
茶色のスカートが
揺れていて……
さりげなく
手を結び合う
二人だった。
「井の頭公園」は
どこまでも
木々の
静寂の中にあった。
二人だけの時間だった。
著 者 須合隆夫(すごう たかお)
発行所 komayumiの会
発行日 2019年12月25日
定 価 2000円
制 作 書肆えん(秋田市新屋松美町-5-6)