「あなたがこの世に生まれたとき、世界は笑いあなたは泣く。あなたがこの世を去るとき、世界は泣きあなたは笑う」は、インドらしい含蓄のある諺である。
この諺を知ったのは、COTTON100%(杉山明AKIRA、現代書林)という本だが、なかなか痛快な世界漫遊記だった。
その中に、アメリカ先住民ホピ族の若者との次のような会話がある。
「君は今、高校生くらい?」
乾いた風が種を運ぶ。
「うん、来年の春卒業したら、アーミーにはいります」
若い潅木はハイウェイのよこに芽を出す。
「アメリカのために戦うのかい?」
排気ガスと砂ぼこりを吸ってのびていく。
「そりゃ、ぽくだってホピの伝統を踏みにじった白人が憎いです。でも、飼育係と仲良くしなきや、エサだってもらえないから」
車が通り過ぎるたび、潅木はひっこぬかれそうになびく。
「その檻だって、そろそろガタがきているぜ」
太陽に祝福されて、踊りはじめる。
「わかってますよ。アーミー終えたら大学へ行って、檻の鍵を盗んできますよ」
アメリカに徴兵制はないが、高校生対象に大学進学を条件に志願兵を募集し、貧困層の若者の多くが軍に志願する。しかし、貧困という檻の鍵を手に入れるどころか戦争で命を落としたり、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しむ若者も多い。アメリカの戦争に日本も参加する(集団的自衛)ことになれば、日本の若者も同様の苦境に陥る。教え子を戦場に送る教職員の苦悩は、すでに現実になっている。
(ネギボウズ)