蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

レヴィストロース神話学第3巻「食事作法の起源」を読む8

2018年11月10日 | 小説
(11月10日)
ブラジル北部および今のベネズエラに居住していたArawak、Warrau族などと、アマゾン上流のTukuna族は共通の符丁(code)に基づく神話群を伝承していた。南北アメリカを結ぶ軸を縦として、対する横軸はアマゾンの東西、この地域の広がりでの頻繁な神話交流をレヴィストロースは想定している。モンマネキ神話(M354、Tukuna族)を本書(食事作法の起源l’origines des manieres de table)の冒頭に引用した理由は、これが東西軸の神話群の基準と見なされるからである。
(南北大陸の縦軸のつながりは本書の後半でとり上げられる)

レヴィストロースは原点となる神話を特定し、伝播なり変容を探る進め方が神話学の方法論であるとし、M1火の起源(ボロロ族、居住はマトグロッソ)を四部作全神話の基準(le mythe de reference)とした。同じやり口を3巻の内部でも継続している。その論理構造を頭に置きさえすれば本巻読み取りに困難は生じない。さらにモンマネキ神話にしてM1との関連とは、M1ヒーロー(洪水後最初の男)がモンマネキに「垂迹」したごとく密着している。M1で天地開闢(破壊と火)を説いた続きにモンマネキ神話では洪水後の世界を描いている。獣婚や虫喰らいの食事などの試行錯誤は原初から文化に移行するための道程で、それが周期性priodicite成立への模索であると。

本書137頁のまとめ表を写真1とした。
写真1
モンマネキ神話と周辺神話から集めた数多いシーケンス(状況)をcode(符丁)として抽出し、その進展が各項目の横列となる。縦軸は先住民の世界観を羅列し、横軸は周期性を獲得するまでの進展(codage)となる。試行錯誤ぶりとも解釈できる。
第一項目はCode Astronomique天文の符丁と訳す。月、太陽、夜、昼が先住民思考の対象として選出されている。列の左lune absente, eclipse……と読める。月の不在、月蝕。原初世界には月は「創造」されていなかった。eclipsesとは創造されて後でも不気味な月蝕を起こす(近親姦のほのめかし)。月の創造神話は前回取り上げている(M392,393)。近親姦、その結果転がるがん首に果てた者が、生ける人への復讐から月への変身を選んだ。
月に対して太陽は初めから存在している。soleil fixe(右)とは太陽が動かない、年がら年中、天頂に座しまして、毎日が昼間だった。
2列目左にlongue nuit長すぎる夜。右にlong jour長すぎる昼とあって、それぞれが一列目の月不在と太陽固定に対応している。一列の中央にはpahses(月の相、満ち欠け)、2列中央は(夜と昼の規則ある交代alternance reguriere de la nuit et du jour)とある。ともに天文符丁における周期性を表す。
第6回投稿で社会符丁(code sociologique)での周期性を三角形で示したが(117頁の図を翻訳して)、こちらも中央が周期性、右も左も周期性からはずれた世界、自然である。

第2項はcode geographique地理的符丁である。一行目右がproche(近い)、左にlointain(遠い)。モンマネキ神話 では4例の獣婚譚が述べられる。地に住むカエルおよび地虫は近い(狩り行きの途中、近すぎる)。さらにカエルの「食い物(ムカデミミズなど)が悪い」、「草刈りのやり方が人と合わない」(地虫)。姑こと預言者に「この様では社会の周期性が形成できない」追い出されてしまう。別の2例は鳥、これらは形態的不完全で追い出される。遠すぎて同盟を結べないとの示唆も4例目(金剛インコ)に叙述される。アサワコ神話は頼もしい若者と麗しい娘の恋愛物語であるが、二人の居場所が遠すぎた。
この項の列中央にはカヌー、その行き交いが遠近地との仲介として文化の範疇となる。2列目中央にfleuve a double sens(上流も下流もない2方向で流れる川)とある。これが下流(aval)と上流(amont)を結ぶ文化の仕組みなとなるはずだが地霊は制作できなかった(Warrau族の言い伝え)。
以下code anatomique身体符丁, code sociologique社会符丁、code ethique倫理符丁とつづく。

6回目の社会の三角形ともあわせ見比べると自然とは両極の対立、その連続性の中間点に周期性を求めるモンマネキら人の活動。右に左に一歩を踏み外せば、自然に逆戻りの危うい文化、これらが読める。

一方でレヴィストロースは(野生の思考penses sauvagesの最終章で)サルトル批判を展開しているが、その中で無文字文化の人々にもdialectiques(弁証法思考)はあると言い切っている。そこで投稿子は137頁の表に弁証法思考を取り入れた「パラダイム展開」を試みた。小さい写真を貼っておきます。解説は次回に。
写真2

レヴィストロース神話学第3巻「食事作法の起源」を読む8の了
(次回投稿は11月13日予定)


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