蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

レヴィストロース神話学第3巻「食事作法の起源」を読む7

2018年11月08日 | 小説
(11月8日)
前回(11月6日)、次兄が兄嫁に迫られて末弟を殺す神話(M362)を紹介し、殺害理由として次兄と兄嫁の姦通(近親姦)にあるとした。その翌日(7日)に「なぜ長兄の姿が無いのか」でふと考え直し、別の理由を巡ると。polygamie多重婚(一妻多夫なのでpolyandrieが正しい)が背景にあるかと思いついた。長兄の嫁を2の弟も妻として共有する。しかし長兄嫁は「醜い」末弟を嫌ったのだ。
この風習をレヴィストロースは悲しき熱帯Nambikwara族で報告している。そう考えれば、筋立ての中で長兄の不在の理由に辻褄があう。Nambi…族も妻が訳を告げずに森に入る真意を夫は知るが、見て見ぬふりを保つ、こんな状景があった(出典頁はそのうちに)。この神話の語り手Mucushi族はかなり以前に消滅しているので、検証はできない。
太陽神がカヌーで天空を渡る神話(M405)は太陽と月のカヌー相乗りの伝承につながる。相乗り理由は舳先と艫に位置すれば互いに近すぎず遠すぎず、近親姦は起こさずかつ昼(あるいは夜)が長すぎず短すぎもない。天空の周期性を保つ寓意であるとされる。


写真はMaya文明Tikalで発見された墓に埋葬されていた人骨の線刻画である。舳先と艫の人物は装身具で神性と判断され、若い女神と中年神と思える。月太陽相乗り神話の中米への伝播であろうとレヴィストロースは引用した(本書118頁)
先住民神話の特徴として太陽はすでに存在している、しかし月は天地開闢の後の創生と語られる。すなわち太陽起源のそれはないが、月の起源神話は多いという非対称性にある。
2の神話を紹介する。

M392 転がるがん首と月の起源 Kuniba族 (75頁)
娘が毎晩、誰とは名乗らない男の訪問を受けた。娘はアカネ染料(genipa)で青の目印を男の顔に塗った。翌朝、名乗らぬ男とは兄と知った。村人は罪人(兄のみ、娘に咎はない)追いだした。対敵する族の縄張りに迷いこんで男は首を刈られた。もう一人の兄が男のがん首を見つけ抱えたが、首はその弟に食い物飲み物をしきりに求めたので、放り出して逃げてしまった。
<<La tete parvint en roulant jusqu’au village et voulu penetrer dans la hutte. Comme on lui refusait l’entrée, elle envisage l’une apres l’autre plusieurs metamorphoses : en eau, en pierre, etc. Finalement, elle choisit la lune=中略=Pour se venger de sa soeur qui l’avait denouncer, l’homme change en lune l’affiligea de la menstruation>>
拙訳:転がりながらも弟を追いかけ村までたどり着いたがん首、くだんの小屋に入らむと試みた。しかし内からは拒否の声。居場所もないがん首は物に変身せむとした。水、石などなど。最後に月を選び天に昇った。秘事をばらした妹には月経が起こる身体にして復讐した。

Incesteが月の起源とする神話は新大陸で多く伝承されている(とレヴィストロースは言う)。転がるがん首が月の起源とする地域はブラジル北部を東西にまたがるとも。M392はinsesteとがん首の両要素を起源に取り上げている。Kuniba族の居住地は不明ながらブラジル北部、首をinsesteの交差する地域であろう。変身候補を幾種選び、最後に首が月を選択するモチーフは別神話でも語られる。

M393 月の起源 origine de la lune Cashinawa族 (76頁)
隣接する部族が戦闘状態に陥った。ある男が敵戦士に出会って逃げようとした。相手の甘言に言いくるめられて、敵男宅の「よその男が好きな」妻を訪問するはめになった。男は結局、首を刈られ、同族の戦士に回収される。しがみつき迷惑かけて放り出され、人として居場所を失い、変身しようとするがその物を探りあぐねる(M392と同じ経緯)。同族者との対話ではまず果物、大地、樹木、水、魚、毒、蛇など。これら全てが利益を与える、あるいは殺されるなど人と関わるので、首は決断できない。そして太陽?の自問に、それはお前達に暖かさを与えてしまう、雨?川の水かさが増え魚が繁殖し、お前達がタラ腹になるから嫌だ…忌避したあげくに思い着いた先は
<<J’ai une idee. De mon sang, je ferai l’arc-en-ciel, chemin des ennemis ; de mes yeux , les etoiles; et de ma tete, la lune. Et alors vos femms et vos filles saigneront. Pourquoi donc? La tete repondit <pour rien>
訳;思いついたぞ、まず私の血が虹になるのだ。それは敵どもの通り道になる。目は星に変わる。この首は月となる。そしてお前らの妻、娘が血を垂らす。なぜそれを選ぶのかの問いに首は(月は人に)「何の役にも立たないから=pour rien=」と答えた。

レヴィストロース神話学第3巻「食事作法の起源」を読む7の了
(次回投稿は11月11日予定)

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