前回のブログで平成24年度の「国立大学改革推進補助金」138億円をめぐって、地方国立大学の将来について書きました。現時点の情報では、どうも各大学からは今回の138億円の趣旨にかなう提案は出されていないようです。
前回のブログに対しては、ツイッター上で何人かの皆さんから反応がありました。皆さんからのご意見を交えて、前回、言い足りなかったことを補わせていただこうと思うのですが、それは次回にまわして、今日はその前に、138億円の「国立大学改革推進補助金」についての資料をあげておくことにしましょう。そんなことで、今日は資料だけのブログになってしまいました。
事は平成22年の平成23年度予算の概算要求にさかのぼります。この時は、各省からの概算要求のうち、基本的な要求額については前年度の10%に当たる額を削減し、削減した分を「要望枠」(総額約3兆円)として要求し、政策コンテストで約1兆円強を選ぶということになって、パブコメ募集が行われました。文教・科学技術関係の要望について圧倒的多数のパブコメが集まったことは、皆さんのご記憶にあると思います。その結果、文教・科学予算はかなり復活していただいたのですが、今後、大学改革を進めることが条件とされました。
〇平成23年度文教・科学技術予算のポイント、平成22年12月、神田主計官
http://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/budget/fy2011/seifuan23/yosan009.pdf
「大学改革について
大学改革について文部科学省と以下の合意がされた。
時代の要請に応える人材育成及び限られた資源を効率的に活用し、全体として質の高い教育を実施するため、大学における機能別分化・連携の推進、教育の質保証、組織の見直しを含めた大学改革を強力に進めることとし、そのための方策を1年以内を目途として検討し、打ち出すこと。」
これに応える形で、国立大学協会が「国立大学の機能強化―国民への約束」を平成23年6月22日に公表しています。
http://www.janu.jp/other/pdf/kyoka_01_web.pdf
この中で、国大協は国立大学として強化すべき機能として以下をあげています。
「ナショナルセンター機能」と「リージョナルセンター機能」の強化
機能1 卓越した教育の実現と人材育成
機能2 学術研究の強力な推進
機能3 地域振興の中核拠点としての貢献
機能4 積極的な国際交流と国際貢献活動の推進
また、その方策として、以下の事項をあげています。
機能強化のための方策
方策1 各大学の個性・特色の明確化を図るとともに、不断の改革を推進する。
方策2 教育研究等に関する内部質保証システムの確立と質の向上を図る。
方策3 厳格な自己評価と大学情報の積極的開示、及び 学生、保護者、地域住民、行政担当者、産業界、海外大学・研究機関等、ステークホルダーに対する説明責任を果たす。
方策4 国内外の教育研究機関との連携を推進する。
方策5 大学運営の効率化・高度化を推進するとともに、多様な資金の獲得と有効活用を図る。
この方策の中に、大学間連合・連携や教育研究組織の再編成に関係するキーワードとしては以下のような文言があります。
「大学統治機能の強化」
「文理融合分野の教育研究体制の整備」
「ビジョンを確実に実現するための教育研究組織の構築」
「学部、大学院研究科の共同設置」
「地域の大学群の連合・連携による取組」
「設置形態を超えた大学間、大学共同利用機関との連携を強化」
「自治体等との連携による地域イノベーション」
「複数学位等、海外大学と連携した教育プログラムの構築」
「大学資源の共同利用」
「大学間の共同による教員力の向上プログラム、職員の資質向上プログラムの実施」
「事務処理等の共同化」
「大学情報の一元管理と適正な活用による運営体制の強化」
「海外はもとより、国籍や出身母体を問わない高度人材の役職員への登用など多様な人材交流の促進」
また、平成23年11月には提言型政策仕分けが行われ、大学関係については以下のようなとりまとめがなされています。
〇「提言型政策仕分け」提言集、平成23年11月20~23日、行政刷新会議
http://www.cao.go.jp/sasshin/kaigi/honkaigi/d23/pdf/ss1.pdf
提言(とりまとめ)
大学の国際通用力の向上の在り方については、「教育分野」における向上などその具体的な達成目標と達成時期並びにその評価基準について明確化を図る。まずは各大学による自己改革によってその実現を図る。少子化傾向の中での大学経営の在り方については、教育の質の確保と安定的な経営の確保に資するため、大学の教育の内容、例えば、生涯教育の拡充などへの転換を含む自律的な改革を促すとともに、寄付金税制の拡充等自主的な財源の安定に向けた取組を促す仕組みを整備する。法科大学院の需給のミスマッチの問題については、定員の適正化を計画的に進めるとともに、産業界・経済界との連携も取りながら、法科大学院制度の在り方そのものを抜本的に見直すことを検討する。
大学改革の全体の在り方については、国は大学教育において如何なる人材を育成するかといったビジョン及びその達成の時期を明示した上で、その実現のため第三者による評価などの外部性の強化に加え、運営費交付金などの算定基準の見直しなどの政策的誘導の在り方について検討する。加えて政策評価の仕組みの改善についても併せて検討する。
今回の138億円の予算についての説明は以下のようになっています。概ね国立大学協会が公表した「国立大学の機能強化―国民への約束」に書かれている改革案、特に、大学間連合・連携や教育研究組織の構造改革について、国民の目に見える形で、具体的かつ迅速に実行するよう求めていると感じられます。
〇「平成24年度文教・科学技術予算のポイント」平成23年12月、神田主計官
<参考資料>
平成24年度国立大学法人運営費交付金等について
国立大学法人運営費交付金等については、以下の基本的な方針に沿って扱うものとする。
1.国立大学法人運営費交付金については、対前年度△161億円減の1兆1,366億円とする。別途、復興特別会計に57億円を計上する。
2.今後の我が国の再生に向けて、大学改革を推進するため「国立大学改革強化推進事業」(138億円)を新設する。
3.具体的な国立大学改革の方針については、別紙の基本的な考え方に基づき、文部科学省内に設置するタスクフォースにおいて検討を行い、協議の上、速やかに改革に着手する。
今後の国立大学の改革について(基本的考え方)
今後の我が国の再生のため、大学改革の促進が強く求められており、中央教育審議会のみならず、政府の行政刷新会議の政策提言型事業仕分けや予算編成政府・与党会議における議論などにおいても、大学改革が大きなテーマの一つとなっている。
大学改革の課題は多様であり、大学における人材育成のビジョンづくり、グローバル人材の育成、入学から卒業までの学力の担保等の学生の質保証など、大競争時代における国際競争力の強化に加えて、少子化時代における持続可能な経営を目指した足腰の強化・合理化、財政危機における効率的な経営の努力など、国公私立大学を通じて検討すべき課題が少なからずある。
それとともに、文部科学大臣が定める中期目標に基づき、運営費交付金の措置を受けて運営される国立大学の機能を抜本的に強化することも、大学改革の最重要課題の一つである。
国立大学については、幅広い分野において欧米の主要大学に伍して教育研究活動を展開している大学も存在するが、それ以外にも、国際的に優れた教育研究水準にある専門分野を有する国立大学も少なからず存在しており、知の国際競争を勝ち抜くためには、これらについて重点的な強化策を講じる必要がある。また、国立大学の役割として、特化した分野・地域での卓越した人材育成の視点も必要である。
このため、大学の枠組みを超えてオール・ジャパンの視点から、有機的な連携協力を展開出来るよう、大学間のネットワークである「大学群」の創出など連携協力システムの構築に取り組むとともに、個々の大学においては、個性や使命の明確化を図り、学部など学内の教育研究組織の大規模な再編成、外国人や実務家等の教員や役員への登用拡大など人材交流の促進などにより、知の競争力の向上に努めることが重要である。
こうした施策を効果的に推進するためには、必要な財政措置の確保に加え、「大学群」のスケールや求められる機能、大学間の連携協力促進のための支援方策、それらを踏まえた多様な制度的選択肢の考え方(例えば、一法人複数大学方式(アンブレラ方式))、国立大学運営費交付金の配分基準などについての更なる整理が必要である。
こうした点に関して、文部科学省内に設けられるタスクフォースにおいて、これまでの関係者の議論も参考にしながら所要の整理を行い、すみやかに改革に着手したい。
国立大学改革強化推進事業 13,833,000千円(新規)
1.目的
国際的な知の競争が激化する中で、世界の大学と対等に伍していくためには、特に国立大学改革を強化推進することで、将来を支える人材の育成や我が国の国際競争力の強化にも寄与。
2.対象
国立大学改革を強化推進するため、例えば以下のような取組をこれまでにない深度と速度で行う国立大学法人に対し重点的支援を実施。
(取組例)
教育の質保証と個性・特色の明確化
◆教員審査を伴う学部・研究科の改組
◆外国人や実務家等の教員や役員への登用拡大
◆双方向の留学拡大のための抜本的制度改革
(支援のイメージ)
新たな教育研究組織の整備に必要となる基盤の整備と海外や産官学との人的連携強化を抜本的に推進する経費を総合的に支援。
大学間連携の推進
◆互いの強みを活かした学部・研究科の共同設置
◆地域の大学群の連合・連携
◆大学の枠を超えた大学間連携による教育研究の活性化
(支援のイメージ)
新たに大学間連携を行うために必要となる基盤の整備(遠隔教育システムなど)と連携による教育研究の展開に必要な経費(連携により必要となる学生・教職員への支援を含む)を総合的に支援。
大学運営の高度化
◆効率的な大学運営のための事務処理等の共同化
◆大学情報の一元管理と適性な活用による運営体制の強化
(支援のイメージ)
事務システムの統合等による改修、インターフェイス化など、連携による高度な大学運営に必要となる経費を総合的に支援。
3.本補助金の効果
・組織改組の構想段階からの支援が可能となることで大学改革のスピード感が加速。
・本事業の実施に当たり、中期目標・中期計画の変更を課すことで、大学改革の達成目標・達成時期が明確化。
4.補助率
定額